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所有者不明土地法の全面施行と今後の政策展開について

益本宇一郎
前・国土交通省土地・建設産業局企画課企画専門官

 

はじめに

所有者不明土地問題には2種類ある。一つは、現に所有者不明になっている土地を利用しようとする際に、所有者の探索や制度を利用するための手続きに多大な労力を要するという問題。そしてもう一つは、所有者不明であるために土地が適切に利用・管理されず周辺に悪影響を与えたり、相続を機に権利関係が複雑化し将来の利用・管理がさらに困難になったりするという問題である。

前者への対応である所有者不明土地の利用円滑化策については、所有者不明土地法(正式名称「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」)が61日に全面施行され、所有者不明土地を公共的目的に利用する新制度が利用可能となったことにより、制度的な対応は一区切りを迎えた。 

後者への対応である所有者不明土地の発生抑制・解消策については、614日に開催された「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」(以下「閣僚会議」)において基本方針と工程表が改定され、制度改正の具体的方向性と今後の進め方が示された。

本稿では、これらの所有者不明土地対策をめぐる動きについて、筆者が国土交通省において関わってきた部分を中心に紹介する。土地政策を担当する立場からは、土地の適切な利用・管理が実現することが重要であり、本稿による新制度や今後の政策展開の紹介がその一助となれば幸いである。

所有者不明土地法

土地を利用しようとする際には、まず不動産登記簿で所有者を確認することになるが、登記簿に記載されている登記名義人とその住所が最新でない場合(広い意味での所有者不明土地)、登記簿の記載を手がかりに実際の所有者(登記名義人の相続人など)やその住所を探索することとなる。探索を行ってもなお所有者の全ての所在が判明しなかった場合(狭い意味での所有者不明土地)には、私法上の契約を行うことができないため、所有者不明土地の利用を可能とする特別の制度を活用する必要がある。

所有者不明土地法成立以前にも土地収用法による不明裁決などの制度が存在している。しかし、それは所有者の探索に有益な情報(固定資産課税台帳情報など)にアクセスできない場合があること、どこまで探索を行えばよいか不明確であること、制度の対象が収用適格事業に限定されていること、また、手続きが煩雑であることなどの課題があった。

このため、所有者不明土地法では、所有者の探索の合理化のため、探索に有益な情報の請求を可能とした上で探索方法を明確化している。また、所有者不明土地を幅広い公共的目的に利用可能とするため、公共事業のための収用手続きを合理化する土地収用法の特例を設けるとともに、公園、広場など地域住民のための公共的事業のために一定期間の使用権を設定する地域福利増進事業を創設している。

以下、それぞれの制度の概要と活用のポイントを紹介する。

(1)所有者の探索の合理化

所有者不明土地法では、地域福利増進事業や収用適格事業、都市計画事業を実施しようとする者が、住民基本台帳、戸籍簿、固定資産課税台帳等に記載された土地所有者の探索に有益な情報(土地所有者等関連情報)の提供を、市町村長等に対して請求できることとしている。情報の種類によって請求方法は異なるが、民間主体であっても住民票、戸籍の情報を取得できることや、公的主体であっても原則取得できなかった固定資産課税台帳の情報を取得できる(民間主体の場合は本人の同意が得られた場合に取得可能)ことが特徴である。

土地所有者等関連情報の請求は所有者不明土地の利用の第一歩であり、事業の実施の準備のために必要な場合にそれが可能となる。請求の段階では所有者不明土地であるかどうかは確定しないため、請求が裁定等の申請につながるものではない。請求により所有者が判明した場合には、所有者との交渉によりその土地の利用を図っていくこととなる。他方、土地所有者等関連情報の請求を含め所有者不明法に基づく法令で定められた方法で探索を行ってもなお所有者が判明しない場合には、その土地は「所有者不明土地」となり地域福利増進事業等の対象となる。

請求の方法や要件については「地域福利増進事業ガイドライン」を公表し、周知に努めているところであり、国土交通省ホームページに各地方公共団体の担当窓口を記載している[1]

(2)所有者不明土地を利用する仕組み

所有者不明土地を利用する仕組みについては、対象を特定所有者不明土地(簡易なもの以外の建築物が存在せず現に利用されていない土地)に限定するとともに、判明している権利者に異議がないことを確認する公告手続を設けている。このような補償金の算定が容易で争いのない土地については、現行の土地収用法のように慎重な意見聴取手続きを経て、補償に関する高度な専門性と中立性を持つ収用委員会が裁決するのではなく、合理的な手続きで都道府県知事が裁定を行うことが可能と考えられるためである。

従来、土地収用をはじめとする財産権の制限になりうる制度については、訴訟になることも想定して慎重かつ抑制的な運用がされてきた傾向にあるが、所有者不明土地法では対象を公共的目的があり、争いが生じるおそれの低いものに限定しており、積極的な活用が望まれる。

①土地収用法の特例

特定所有者不明土地を収用適格事業のため収用しようとする場合、所有者不明土地法による都道府県知事の裁定により合理的な手続きで収用することが可能である。その前提となる土地収用法の事業認定についても「必要に応じて活用できる収用へ」との方針の下、「事業認定申請の手引き」が公表されており[2]、合理化が図られている。

たとえば、通学路となっている道路沿いに所有者不明土地があるために拡幅ができず、歩道が途切れているような場合には、事業認定・収用の両段階において、従前より大幅に合理的に行うことが可能である。

②地域福利増進事業

地域住民のための公共的な事業の実施のため、特定所有者不明土地に使用権を設定し、一定期間使用できることとする新制度「地域福利増進事業」が創設されている。実施できる事業は公園、広場、購買施設など、一時的・暫定的な土地利用が想定される事業を列挙するかたちで規定されており、どのようなものが該当するかについては地域福利増進事業ガイドラインにおいて詳細に紹介している。

地域住民のためになる事業であれば幅広く対象になり、事業主体が公共であるか民間であるかに限られず、また、営利性のあるものも排除されないことが特徴である。図1のように、NPOが主体となって市町村と連携して事業を行うことも、市町村が主体となって運営をNPOに委託するかたちをとることも可能であるなど、柔軟な事業形態による対応が可能になっている。新しい制度であるため運用にあたって判断に迷う点もあると思われるが、国土交通省としては、所有者不明土地を地域に役立つかたちで合理的に使えるようにという基本的な姿勢の下、相談に積極的に応じていくこととしている。モデル事業や税制措置も講じて利用促進を図っているところであり、所有者不明土地の利用を検討されている方は、お気軽にご相談いただきたい。

図1 管理不全の土地を広場やポケットパークに活用するケース

所有者不明土地の発生抑制・解消

所有者不明土地の発生抑制・解消に向けた対策については、現在政府をあげて検討が進められているところであり、閣僚会議の工程表において、大きく3つの対策が示されている。1つめは土地基本法等の改正により土地所有者の責務の明確化など、土地の適切な利用・管理のため必要な措置を明らかにすることである。2つめは、民法・不動産登記法等の改正により登記制度や土地所有権のあり方を見直すことである。3つめは、登記簿と戸籍等を連携させることにより、所有者情報を円滑に把握する仕組みを構築することである。

国土交通省としては、土地基本法の改正により具体的な制度改正・施策の根拠となる方向性を示すことが求められており、以下では国土審議会土地政策分科会特別部会において昨年9月から本年2月にかけて審議を行い、公表したとりまとめのポイントと今後の取り組みについて紹介する。

土地基本法の見直しの方向性

土地政策の基本となる現行の土地基本法は、全体として高い土地利用ニーズがあることを前提とした、1989(平成元)年の法制定当時のバブル対策を念頭においた規定ぶりとなっている。これに基づき、規制により土地利用ニーズを適正な利用へと誘導するための対策を中心に施策が講じられてきたのである。

近年、管理不全の土地が増加し、周辺の土地にまで悪影響を与える中では、利用を促進するとともに、積極的に利用されない場合にも適切に管理が行われることが必要である。特別部会とりまとめでは、土地基本法あるいはその解釈において、下記の方向性について明らかにすることが求められるとしている。

(1)土地に関する基本理念と責務

「基本理念」、「責務」、「基本的施策」のいずれにおいても、何らかの積極的な意義を見いだして行う「利用」に加え、悪影響が生じないように行う「管理」の観点を追加し、土地の利用・管理が公共の福祉の観点から必要であることを明確化することが必要であるとしている。

 その実現のためには、土地所有者をはじめとする関係主体の間で、適切な役割分担が必要であり、具体的には、

  • 所有者が第一次的な責務を負うこと(登記、境界の明確化を含む)
  • それが困難な場合に、近隣住民や地域コミュニティがそれを補完すること
  • 国、地方公共団体は、それを支援し、必要な場合には自ら対応すること

などを明確にする必要があるとしている(図2参照)。

図2 土地の利用・管理に関する責務と役割分担


近隣住民や地域コミュニティの役割については、所有者が責務を果たしていないことにより悪影響が生じている場合においては、近隣住民等が行う利用・管理が公共の福祉に適合する場合があり、そのような場合には所有権を乗り越えることを可能にすることを検討すべきということを意味している。近隣住民等に責務を負わせるということではなく、自らのため、あるいは地域のために行動しようとする取り組みを後押しようという趣旨である。

(2)土地が適切に利用・管理されていくために必要な措置(基本的施策)の方向性

上記の方向性を実現していくため、基本的施策として、

  • 土地の適切な利用・管理を促すため、所有者による利用・管理を促進し、あるいは、所有者以外の者による利用・管理に繋げるコーディネートや支援を行うための措置
  • 共有者や隣人による利用・管理を円滑化する措置
  • 土地の適切な利用・管理、円滑な土地取引を支える情報基盤整備に係る措置(登記の促進や地籍調査の推進)

など、人口減少社会に対応して土地政策を再構築していくべきとしている。

これらについては、土地基本法の改正を踏まえ、関係各省で制度構築や施策の推進を図っていくものであり、土地政策の全体像については、国土審議会土地政策分科会企画部会において、民法や不動産登記法等については法制審議会民法・不動産登記法部会において、検討が進められることとなっている。

今後に向けて

所有者不明土地法の成立や土地基本法、民法・不動産登記法の改正の方向性が公表されたことにより、制度改正についてはおおむねの方向性が示されたところであるが、所有者不明土地問題を解消していくためには、実際に土地を利用・管理していく取り組みが重要である。

今後、国土審議会の企画部会等において、それらの取り組みを応援する方策等について検討が進められる予定であるが、土地をめぐる状況はさまざまであるため、それぞれの地域での取り組みが重要となる。実際に取り組みが実現していくためには、住民、地域コミュニティ、地方公共団体の職員など土地の幅広い関係者が、土地の利用・管理に関する問題を自らの問題、そして地域の問題として意識し、行動していくことが必要であり、本稿がその一助となれば幸いである。

  

[1] http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000099.html

[2] http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/land_expropriation/sosei_land_fr_000476.html

 

益本宇一郎(ますもと ういちろう)
1983年生まれ。2005年東京大学卒業。同年国土交通省入省。2017年7月より、土地建設産業局企画課で所有者不明土地問題を担当。2017年度は所有者不明土地法の制定、2018年度は土地基本法の改正の方向性の検討等に従事。2019年6月から総合政策課において国土交通省所管の税制改正業務を担当。

 

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益本 宇一郎

  • 前・国土交通省土地・建設産業局企画課企画専門官