ボルトン氏の後任を託されたロバート・オブライエン新補佐官(右)(写真提供 Getty Images)

不透明感増す朝鮮半島外交


白鴎大学経営学部教授
高畑昭男

トランプ大統領が「超タカ派」で知られるボルトン国家安全保障担当補佐官の解任に踏み切ったことで、対北朝鮮外交、とりわけ非核化の行方に不透明感が高まっている。強硬派の外交・安保司令塔が去ったのを受けて、トランプ大統領やポンペオ国務長官が北朝鮮やイランなどに対して融和的な路線に軌道修正するのではないかとの観測も消えない。来年の大統領選をにらんで、派手な首脳外交による「ビッグ・ディール(大型合意)」をめざすトランプ流に一層の拍車がかかるかもしれない。 

「タカ派シフト」の終焉

ブッシュJr政権の国務次官や国連大使を歴任したボルトン氏が国家安全保障担当大統領補佐官に任命されたのは2018年3月。同じ時期にトランプ大統領は、ティラーソン国務長官を更迭して後任にポンペオ中央情報局(CIA)長官を指名した。前任の「マクマスター補佐官=ティラーソン長官」に代わる「ボルトン=ポンペオ」新コンビの起用によって、トランプ外交を「タカ派」路線にシフトするイメージを演出した。

当時は史上初の米朝首脳会談を数カ月後に控えた時期にあたる。ボルトン氏は「リビア方式」による北朝鮮の「完全かつ不可逆的な核放棄」を掲げる一方、先制攻撃に踏み切る際には「反撃能力を奪うために大規模空爆が必要」というのが持論で、新保守主義者(ネオコン)の中でも際立った「超強硬派」とされていた。また、ポンペオ氏も「必要なら限定的攻撃も辞さない」と語り、ティラーソン氏とは対照的なタカ派路線を売りにしていた。トランプ氏の狙いは、この強硬派コンビを先陣に押し立てることで金正恩政権を恫喝し、一気に譲歩を迫ることにあった。

しかし、その後の展開では、トランプ氏自身が金正恩氏に「いい顔」を見せようとしすぎたせいか、恫喝作戦は功を奏していない。非核化協議は一向に進まず、2回目(ハノイ、2019年2月)、3回目(板門店、同6月)の首脳会談を経る中で、米側では、主要核施設の廃棄や核・長距離ミサイル開発の現状凍結などの見返りに、人道支援、南北経済交流の限定的拡大、連絡事務所の相互設置などの譲歩的な提案(寧辺プラスα)も検討せざるを得ない事態に陥った[1]

こうした譲歩案の検討に追い込まれた最大の要因が、トランプ氏の再選戦略にあることは言うまでもない。当初は「最終的で完全に検証された非核化」(FFVD)を掲げたトランプ氏だが、1期目の外交的成果を誇示するには、北朝鮮やイランとの直接首脳対話を進めて、核・ミサイルをめぐる大型合意を実現してみせることが至上課題となったからだ。

だが、大統領の希望を最大限忖度するポンペオ長官に比べて、原則にこだわるボルトン補佐官は「寧辺プラスα」案にも強い反対を貫いた。トランプ、ポンペオ両氏との確執は高まる一方となり、3回目の板門店首脳会談でボルトン氏は同席すら許されなかった。

新チームで非核化は大丈夫か?

ボルトン氏の後任を託されたロバート・オブライエン新補佐官は、カリフォルニア州出身の弁護士で、人質問題担当大統領特使(北朝鮮を除く)を務めた。国連大使時代のボルトン氏の下で国連外交を担当した経験もあるが、「一言居士」のボルトン氏とは対照的に「穏健な調整型」とされ、「目立たない補佐官」の役割に徹するようだ[2]。ポンペオ長官がオブライエン氏の任命を強く後押ししたことと合わせると、大統領やポンペオ氏の意思に逆らうことなく、予定調和的な対応に終始するとみていい。2019年7月に就任したばかりのエスパー国防長官の力量は未知数だが、ポンペオ氏と陸軍士官学校同期で、互いに気心が知れているという。

その意味するところは、トランプ政権の外交・安全保障のかじ取りが大統領の意向に忠実なポンペオ長官に一本化されるということだろう。その場合に懸念されるのは、外交成果を急ぐ余りに実務者協議で、米国が中途半端な合意に引きずり込まれる可能性である。

10月5日にはハノイ会談以来初めての実務者協議がストックホルムで開かれたが、北朝鮮の金明吉首席代表は「米側の態度は旧態依然で、手ぶらでやってきた」と、一方的に「決裂」を宣言し、冒頭から揺さぶり戦術に出た。

ボルトン氏の解任について、北朝鮮は「面倒な厄介者が消えた」と歓迎し、トランプ氏が主張したとする「新たな方法」に期待を表明する談話を公表している[3]。「新たな方法」の内容は明らかにされていないが、5日の協議では北朝鮮が保有する全ての核兵器と核物質を米国に引き渡し、核施設と生物・化学兵器、弾道ミサイルなどの関連施設を完全に解体することなどを約束する見返りに、繊維製品、石炭についての制裁緩和を米側が提案したとの報道もある[4]

トランプ政権はこれまで「非核化達成まで対北制裁を解除しない」との原則を貫いてきた。金正恩政権はこれに強く抵抗し、「寧辺プラスα」に象徴されるような段階的合意を求め、実務者協議を開くことすら拒んで米側をじらせてきた。一方では、平壌での首脳会談開催を提案するなど、トランプ氏を北朝鮮ペースに取り込もうとする画策も進めている。今後は核・長距離ミサイルの現状凍結と引き換えに何らかの中間合意をめざす方向に協議が進む可能性もある。

だが、現状凍結で手を打つことは、北朝鮮が核保有国であることを事実上認めることになり、米国の核不拡散政策上、大きな後退を意味する。北朝鮮ばかりでなく、核保有の野心を放棄していないイランにとっても危うい先例となりかねず、対イラン問題に悪影響を残すのが心配だ。

日本にとっての不安も深刻だ。中間合意では、トランプ大統領が繰り返してきたように、短距離ミサイルの開発や発射が今後も野放しにされる恐れもある。短・中距離ミサイルが米国への直接的脅威ではなくとも、日本や韓国にとっては核搭載の有無にかかわらず重大な脅威である現実は変わらない。日韓の安全が置き去りにされないように、日本政府は実務者協議の動向をこれまで以上に注視すると共に、これらの懸念や問題が払拭されるよう、トランプ政権に強く念を押していく必要がある。

ストッパー不在に

トランプ大統領は解任の理由として「ボルトン氏がリビア方式を持ち出したせいで(米朝協議の機運が)著しく後退した。大惨事だ」[5]と説明したが、これ以外でも両者の見解は公然と対立を重ねてきた。北朝鮮が短距離ミサイルを繰り返し発射した問題では、大統領が一貫して「問題ない」と容認してきたのに対し、ボルトン氏は「短距離でも国連安保理決議に違反する」と明言してきた。対イラン政策でも、大統領が仕掛けたロウハニ大統領との直接対話に反対を唱えるなど、食い違いは中東、イラン、アフガニスタン問題などに広がっていた。

欧米メディアによれば、解任の最後の引き金となったのは、アフガン和平協議を進めるためにタリバン指導者らを大統領山荘「キャンプデービッド」へ招待するというトランプ氏の構想に真っ向から反対したことだという[6]。ボルトン氏の独善的な発言や行動スタイルが政権内に亀裂をもたらした側面は否定し難い。半面、米朝ハノイ会談では、ボルトン氏らが異を唱えたために安易な制裁解除の過ちに陥らずに済んだ。側近を「イエスマン」で固めたがるトランプ氏に対し、歯に衣を着せないボルトン氏の存在が外交的失敗を防ぐ「ストッパー役」を果たしてきたことは無視できない。

解任されたボルトン氏は、2019年6月にイランがホルムズ海峡上空で米軍の無人機を撃墜した事件で、ボルトン氏らが策定した報復攻撃計画をホワイトハウス当局者全員が賛成したにもかかわらず、大統領が土壇場で「誰にも相談せずに攻撃を中止した」という事実を暴露し、「あの時、攻撃に踏み切っていれば、サウジアラビアの油田攻撃事件は起きなかったかもしれない」と、大統領がひるんだことを批判している[7]

ストッパー不在となったトランプ外交が中途半端な妥協と融和に流されない保証はなくなったといってよい。トランプ政権はこれに加えて、急速に悪化する日韓関係も抱え込んでいる。日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄するなど、反日・対北傾斜を強める文在寅政権に、日米としてどう対処すべきか。日米韓の連携と結束が崩壊の危機にある中で、トランプ大統領と新たな外交・安保チームに課せられた課題は多い。

 


[1]  筆者の前回コラム「どうなる『寧辺プラスα』」(東京財団政策研究所)July 30, 2019参照。https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3185

[2]Trump realigns national security team with a low-profile adviser,” By John Hudson and John Wagner, The Washington Post, September 18, 2019.

https://www.washingtonpost.com/politics/trump-taps-robert-c-obrien-to-replace-john-bolton-as-national-security-adviser/2019/09/18/5e629724-da18-11e9-bfb1-849887369476_story.html

[3] 「ボルトン氏解任を歓迎 厄介者消えた」産経新聞朝刊2019年9月21日付など。

[4] 「米、北に制裁緩和案 5日実務者協議 非核化なら見返り提示」読売新聞2019年10月14日付朝刊。

[5] 「トランプ氏 強硬派排除…ボルトン氏解任 対北・イラン融和重視か」読売新聞2019年9月12日付朝刊など。

[6]John Bolton’s firing ends Donald Trump’s hawkish phase,” By Edward Luce, Financial Times, September 11, 2019.

https://www.ft.com/content/09430634-d3f1-11e9-8367-807ebd53ab77

[7]Bolton unloads on Trump’s foreign policy behind closed doors,” By Daniel Lippman, Politico, 09/18/2019 04:25 pm EDT

https://www.politico.com/story/2019/09/18/bolton-trump-foreign-policy-1501932

高畑 昭男

  • 白鴎大学経営学部教授