日米韓連携に暗雲――GSOMIA問題で公然化した「韓国漂流」

2019年8月22日、ソウルの青瓦台(大統領府)にて日本とのGSOMIAについて報告を受ける文在寅大統領(写真提供 Getty Images)

日米韓連携に暗雲――GSOMIA問題で公然化した「韓国漂流」


白鴎大学経営学部教授
高畑昭男

トランプ大統領とポンペオ国務長官が待ち望んだ米朝実務協議は本年10月初めに開かれて以来、暗礁に乗り上げたまま越年しかねない情勢だ。対北朝鮮政策、とりわけ非核化の行方に不透明感が高まる中で、新たに「漂流する韓国」の問題が公然化し、日米韓3カ国の連携を重視するトランプ外交に重苦しい課題としてのしかかってきた。

連携に亀裂

「韓国漂流」が明白になったのは、韓国政府による日韓「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)の破棄決定をめぐって2カ月余も続いた内輪もめである。 

トランプ政権に限らず米国の対北朝鮮・中国外交では、「日米韓3カ国の連携と協調」が最も重要な基軸となっている。日米、米韓は互いに同盟関係にあり、軍事情報の共有が緊密に行われているものの、日韓両国に関しては歴史的事情や双方の複雑な国民感情などから同盟関係にない。このことは、北朝鮮や中国の軍事行動に関する軍事・機密情報を日米韓で共有する際に少なからぬ支障となっていると以前から指摘されてきた。

こうした日米韓の情報共有インフラ体制の穴をふさぐ目的で2014年に3カ国の情報共有に関する基本合意が生まれ、日韓のGSOMIAが2016年11月に結ばれた。日韓にGSOMIAがなければ、在韓米軍と韓国軍が収集した軍事情報を日本に伝えるには一つ一つに韓国の許可を得る煩わしさが伴う。また、在日米軍と自衛隊が収集した情報を韓国に伝える際にも、日本の許可が同様に必要となる[1]という。

2016年は北朝鮮が核実験を2回、長・短距離ミサイルの発射を35回繰り返しており、日本とのGSOMIA締結に踏み切った朴槿恵政権(当時)の決断は日米から評価された。ところが、同政権の後を継いだ文在寅大統領はかつて「GSOMIAは日本の軍事大国化を助ける」などと批判していたこともあり、そもそも日韓の軍事情報共有に前向きではなかった。

約3年後の今年7月、日本政府が安全保障の観点から韓国に対する半導体素材などの輸出管理を見直し、輸出手続き簡略化の優遇措置の対象となる「グループA(ホワイト国)」リストから韓国政府を除外した。これに反発した文在寅政権は8月22日、報復措置としてGSOMIAの破棄を決定した。さらに、決定を撤回する条件として「輸出管理厳格化の白紙撤回」を求めてきたため、日米韓の連携に亀裂が走り、日韓関係に加えて米韓関係も大きくこじれてしまった。

文在寅政権の「自傷行為」

日韓関係が急速に悪化してきた背景には、①慰安婦問題の最終的解決を念頭に朴槿恵政権と日本が結んだ日韓合意(2015年)の履行を韓国側が反故にした問題や、②韓国大法院(最高裁に相当)が第二次大戦中の徴用工や遺族らに下した判決によって在韓日本企業の資産が差し押さえられた問題(2018年10月)、③韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に火器管制レーダーを照射した事件(同年12月)――など、いずれも文在寅政権下で起きた問題が尾を引いている。この問題に対して、日本政府は「GSOMIAと輸出管理は次元の違う話」として文政権の条件闘争には乗らず、「賢明な対応」(菅義偉官房長官)を韓国側に促すと同時に、米国側には日本の立場をていねいに説明する対応をとった。

トランプ政権は日韓の個別問題で一方に肩入れするのは避けてきたが、GSOMIAの破棄は3カ国の安全保障に直結する重大問題である。軍事情報の共有体制を人質にするかのような韓国の姿勢に異例の厳しい対応に出たのは当然といえる。ポンペオ国務長官が「韓国の決定に失望している」と述べたほか、国務省、国防総省も「北東アジアで我々が直面する厳しい安全保障上の懸案を正しく理解していない」(2019年8月22日、国務省)、「文在寅政権の決定に強い懸念と失望を表明する」(同日、国防総省)などと、一斉に韓国を批判する声明を浴びせた。

トランプ政権が厳しい対処で臨んだのは、GSOMIAの意義を文在寅政権が認識していないと受け止めたためだ。3カ国のうちで日米は既に自前の情報衛星も保有し、GSOMIAを通じた共有情報そのものの価値は限定的だったとされる。にもかかわらず、3カ国の情報共有インフラの完成を意味するGSOMIAは、北朝鮮や中国を牽制する3カ国の連携と協調の強化を象徴する外交・軍事上のメッセージである。北朝鮮や中国がGSOMIAの締結時に警戒と反発を強めたのもそのためだった。加えて、米国は北朝鮮や中国の弾道ミサイルから米本土を守る上で在韓米軍に配備された最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」と在日米軍、米本土のレーダー等を一体運用することを至上課題としている。米国にとっても日韓GSOMIAは作戦運用の観点から不可欠の取り決めといえた。

だが、北朝鮮傾斜を強める文在寅大統領は、こうした認識が欠如していたとみられる。自ら任命した法相の疑惑と辞任問題で内政に関心を奪われていた事情もありそうだ。GSOMIA破棄の決定は、安全保障上の国益よりも自らの政権の利害にとらわれた末の「腹立ちまぎれの自傷行為」と批判する見方もある[2]。米専門家の間でも、GSOMIA破棄は「北朝鮮の短距離ミサイル発射が相次ぐ中で、日米韓3カ国の安全保障を損なうだけでなく、北朝鮮に安全保障上の譲歩を与え、中国やロシアの思うつぼに陥る行為であり、米韓同盟の結束と抑止力を揺るがせるものだ」という厳しい意見が少なくない[3]

これ以降、11月にかけてエスパー国防長官、スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)を筆頭にトランプ政権の外交、軍事関係の高官らが相次いで韓国を訪問し、集中的に韓国政府に圧力を加えたのは周知のとおりである。文在寅大統領を翻意させるために在韓米軍の駐留経費負担を5倍に増額する要求を突きつけるなど、財政面からも露骨な圧力が加えられた。トランプ政権がなりふり構わぬ真剣さでGSOMIA破棄の阻止に動いたこと自体に、米韓の認識の溝の深さがうかがえる。

さらに、GSOMIAの失効期限(2019年11月23日午前0時)を目前にした21日(米国時間)、米上院は「韓国政府にGSOMIA破棄決定の再考を強く求める(urge)」と明記した超党派の決議[4]を全会一致で採択した。この決議は上院外交委員会のリッシュ委員長とメネンデス筆頭理事、同軍事委員会のインホフ委員長とリード筆頭理事の4人が共同提案したものだ。行政府(トランプ政権)に加えて立法府も与野党の足並みを揃えて最強の外交圧力をもたらした結果、文在寅政権は翌11月22日、GSOMIAを破棄する決定の効力停止を発表し、文字通りの土壇場で失効を回避させられることになった[5]

埋まらぬ溝

GSOMIAの失効はかろうじて避けられたものの、文在寅政権は「執行停止はいつでも解除できる」(金有根・韓国国家安保室第1次長)としている。問題の発端についても「日本が先に始めた」との主張を改めておらず、日米両国との溝は深いままだ。文在寅大統領自身もテレビ番組で「韓国が防波堤の役割を果たし、日本は少ない防衛費で自分たちの安保を維持している」と批判するなど、日本が先に安全保障問題と輸出管理を絡めたとする見解に固執している[6]。こうした政府主導の「あおり効果」のせいか、韓国世論の反GSOMIA感情は高止まり状態にあり、日本政府が冷静な対応を続けたとしても、GSOMIA問題が将来蒸し返される恐れは消えていない。

文在寅政権が発足した2017年5月以降、韓国のいわゆる「386世代」(1980年代の民主化運動の中心的世代)に属する高官が多いことなどから、日米両国では「反米・北朝鮮傾斜色の濃厚な政権」として水面下で懸念をする向きが強かった。それにしても、日米韓連携を軽視する「韓国漂流」の傾向が今回ほど明白になったことはないといってよい。

大統領選を前に外交的成果を気にするトランプ大統領にとって、肝心の北朝鮮の非核化も先行きは明るくない。ハノイ米朝会談以来初の実務者協議が本年10月5日、ストックホルムで開かれたものの、北朝鮮側は「米側が手ぶらでやってきた」と決裂を宣言し、協議再開の見通しは立っていない。金正恩政権は米国側の譲歩を「2019年末まで待つ」と自ら期限を切っており、凍結中の長距離ミサイル発射や核実験を再開する脅しを加えてくる可能性もある。朝鮮半島の北に頑強な金正恩政権、南には漂流する文在寅政権を抱え込んでしまったトランプ政権にとって、例年にない重苦しい年末年始に直面せざるを得なくなった。

とりわけ文在寅政権下で顕在化した韓国外交の漂流は、現政権だけの現象にとどまるのか、それとも長期的な朝鮮半島政治の流れにつながるのか。その見通しによっては、米韓同盟そのものが空洞化していく心配もある。「日米韓連携」を基軸としてきた日米両国にとっても、重大な戦略的判断を求められる課題となりそうだ。




[1] 「韓国 対日圧力強化 軍事情報協定破棄」読売新聞2019年8月23日朝刊など。

[2] 高英起「アメリカから見たGSOMIA問題の本質」ニューズウィーク日本版、2019年11月19日。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/11/gsomia-11.php

[3] David Maxwell, Mathew Ha, “South Korea is playing into the hands of North Korea and its allies,” FDD (Foundation for Defense of Democracies), August 27, 2019.

https://www.fdd.org/analysis/2019/08/27/south-korea-is-playing-into-the-hands-of-north-korea-and-its-allies/

[4] 米上院決議“S.Res.435 - A resolution reaffirming the importance of the General Security of Military Information Agreement between the Republic of Korea and Japan, and for other purposes.” The U.S. Senate, 116th CONGRESS 1st Session, November 21, 2019.

https://www.congress.gov/bill/116th-congress/senate-resolution/435/text

[5] 「GSOMIA失効回避 韓国が方針転換、輸出管理で対話再開へ」読売新聞2019年11月23日朝刊など。

[6] 「韓国なお安保意識にずれ」産経新聞2019年11月23日朝刊。

高畑 昭男

  • 外交ジャーナリスト