年の瀬の攻防:2020会計年度予算編成

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年の瀬の攻防:2020会計年度予算編成

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

201911月から12月は、下院でのウクライナ疑惑関連公聴会や大統領弾劾訴追に向けた活動が大きくクローズアップされた[1]。しかしトランプ大統領の支持率は大きく下がることもなく[2]、共和党議員たちはそれなりに結束を保っている。また下院民主党の支持率は必ずしも大きく上がっていない。どちらかというとトランプ大統領の支持率が殆ど下がらないことに気付かされる。また共和党支援者の約9割は、相変わらずトランプ大統領を支持し続けている[3]。こうした政治状況下、ともすると米国議会と民主党は本来の職務を放棄して弾劾調査に奔走しているかのようにも見えるが、その裏で予算編成終了期限(2019930日)を過ぎた年の瀬にも、2020年度予算の編成作業が続いている。前年度に起こったような政府機能一部閉鎖(ガバメント・シャットダウン)を回避すべく、現行のCRContinuing Resolution、継続予算)が切れる1220日に間に合わせようと、必死に努力をしているのである。

今年の予算編成を振り返る

予算編成は、議会にとって毎年欠くことのできない仕事であり責務だ。それが2020年度予算の成立が大幅に遅れ、930日の年度末を過ぎた1214日時点においても、まだ1本も歳出法が成立していない状態なのである。現在は、前年度(2019年度)の歳出レベルを保つCRで政府活動を維持している。

201811月に行われた中間選挙結果を受け、議会下院の多数を民主党が占めた状態となり、2019年度の前回予算成立は難航を極めた。トランプ大統領にとって、下院の多数を民主党が占める環境はこれが初めてであり、中間選挙後の年末年始(20181222日から2019125日まで)には、35日間の政府機能一部閉鎖が起こった。その後も、本来20192月の第一月曜日に議会に送付すべき大統領予算教書は311日までずれ込んだ。また2020年度の予算決議(予算委員会が所轄する)も暗礁に乗り上げたままである。共和党が多数を占める上院では、41日に予算決議が通過し本会議に付託されたのだが、結局のところ下院民主党に予算決議案をつくる意欲さえなく、棚ざらし状態である。

それでも夏には大きな進展があった。725日に下院で2019年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2019)が通過し、81日に上院でも可決、82日にトランプ大統領が署名し成立したのである。この法律には、2019会計年度と2020会計年度の2年分の裁量的経費を引き上げること、また債務上限を201981日から2021731日まで撤廃することという、2つの重要な決定が含まれていた。裁量的経費の上限枠は、現行の枠に3,200億ドルを上載せすることになり、2011年の予算制御法(Budget Control Act of 2011)に基づく一律カット(sequestration)を回避できる見通しとなったため、その意義は大きい。

トランプ大統領は当然この法案を大歓迎したのだが、実は共和党内には財政保守派がいて意見が割れていた。共和党議員の不満は、2019年超党派予算法の採決結果からも見て取れる。下院で725日に行われた投票では284票対149票で通過したのだが、民主党からの造反は16人だったのに対し、共和党からの造反者は132人に上った。歳出拡大へ懸念を示す共和党議員が主に反対に回ったのである。また上院の採決は81日に行われ、67票対28票で通過したものの、多数党の共和党からは23人もの造反者が出た(民主党からは5人のみだった)。これは必ずしも共和党の議員が皆、トランプ政権と意見を同じにしていないことを示すものだ。

恒例のCRContinuing Resolution、継続予算、つなぎ予算)

20191214日時点においては、101日から続くCRの存在が現在の政府活動を支えている。喜ばしいことではないものの、CRによってガバメント・シャットダウン(政府機能一部閉鎖)が回避できているという事実は、来年に選挙を控える議員たちにとって朗報だ。

今回のCRは、Continuing Appropriations Act, 2020, and Health Extenders Act of 2019と命名され、最初は1121日の期限付き[4]、そして期限切れ当日になってもう一度CR延長が議会を通過し[5]大統領が署名した[6]。その期限が1220日にやってくる。このような状態が続けば、2020年の大統領選挙と議会選挙が終わるまで、ひょっとしたらCRをつなぎながら政府予算を継続させる手段が続くのではないかとの不安の声もあったし、トランプ大統領のことだから3度目のCR延長には拒否権を発動してガバメント・シャットダウンを引き起こすのではないか、そして弾劾裁判に血道を挙げている民主党に国民の非難が集中するように仕向けるのではないか、という疑心暗鬼の噂も巻き起こったりした。ただ逆に民主党はそうなることを恐れるので、歳出法成立に向けた妥協の余地が生まれる可能性もある。予算編成の駆け引きは、この時期トランプ大統領の弾劾問題とリンクしながら考える必要がある。

歳出委員会の党派を超えた合意

予算編成プロセスの中で、歳出委員会による歳出法の作成は、政府が支出を行うのに必須のものである。11月末になり、ようやく上院と下院の歳出委員会でそれぞれの小委員会が得る支出枠組みの合意が成立した[7]。権限を持つ12の小委員会に歳出額の枠を割り振ることを「302(b)の分配」と表現する。歳出委員会は合計約1.37兆ドルの予算を、通常であれば12本の歳出法に分けて立法する。2020年度予算(12本の歳出法)は、本来であれば2019930日に成立していなければならなかったのだが、上下両院の歳出委員会は11月末になってようやくスタートラインに立ったことになる。この12本の歳出法は歳出委員会の小委員会がそれぞれ所轄する。

今回の上下両院の超党派による歳出枠に関する合意には、メキシコとの間の壁建設費用が(党派を超えた合意に至れなかったため)302(b)に含まれなかった。昨年度の35日間にわたるガバメント・シャットダウンの原因がこの壁建設費用であったことからも理解できるとおり、今年も相変わらず政治的合意が困難な案件であることは間違いない。たとえ302(b)に含まれなかったとしても、それで終わりではない。壁建設に必要な国土安全保障省の歳出内容を細かく決める権限のある小委員会のほうで、更なる議論が続くことになる。壁建設費のみならず、トランプ政権としてすでに軍事施設建設費から流用してしまった36億ドルの予算を、今年度の歳出法で埋戻すのかという議論も残っている。

政治家主導特定プロジェクトの数々

そのような予算編成でも、現在のアメリカで、もしかしたらトランプ大統領以上に権力があるかも知れないと言われているのが、ミッチ・マコネル上院院内総務(共和党)である。大統領が上院で弾劾裁判にかけられるとしたら、その行方やさじ加減を決めることができるのはマコネル上院院内総務ということになる。トランプ大統領の場合、もし上院院内総務に反旗を翻されたらその地位が危うくなる可能性さえある。

2020年度予算編成に遅れが生じている最中でも、マコネル上院院内総務はいくつかの政治家主導特定プロジェクトを熱心に推進している。特に来年2020年は自身の選挙サイクルに当たるため、より念入りになっている様子である。例えば、サラブレッドの競馬業者やバーボン蒸留器への減税措置、引退して年金や健康保険を失いそうになっている炭鉱労働者への補助金、さらにはケンタッキー州の水を荒らしているアジア鯉を排除するための資金供給、地元タバコ農家の衰退を補う麻栽培(大麻と成分の見分けがつきにくいと言われる)農家への規制緩和および活性化措置など、数限りないペットプロジェクトがあるのだ[8]

1031日、アジア鯉に関するものや麻栽培に関するものを含めた4本の法律がパッケージ(HR3055)として成立した際の本会議場で、マコネル院内総務は歳出委員会の委員としての自身の存在意義に触れ、ケンタッキー州の人々のために働いていると演説した。もちろん民主党議員もこれらのペットプロジェクトは承知の上だ。議会ではそうしたものを他者に許す代わりに、自らの選挙区にも有利な法律や歳出案件を通そうとする議員が数多くいるため、時には取引の材料としての効用がある。こうした動きの積み重ねを含め、締め切りに間に合わなくなる傾向が強い近頃の予算編成プロセスでは特に、歳出委員会等での協調や妥協が必要となる。

直近の進展

12月13日、CR期限の20日を一週間後に控え、議会共和党と民主党(つまり上院と下院)の歳出委員会委員長をはじめとした議会リーダーたちが、ようやく歳出法案で原則的な折り合いを付けるに至ったことがアナウンスされた[9]。1.37兆ドルに上る政府支出を、12月20日の期日までに上下両院の本会議で通過させ大統領が署名することができれば、今年のガバメント・シャットダウンは避けられる。

13日の会合に出席したのは、ペロシ下院議長、ムニューシン財務長官、ローリー下院歳出委員長、シェルビー上院歳出委員長などである。これまで党派対立の種となってきたメキシコとの間の壁建設予算もこの最終段階まで持ちこされていた。協議の結果をローリー下院歳出委員長がメディアに語ったところによれば、13日の会合で12本の歳出法全てについての合意ができ、その中には13.75億ドル(大統領が望んだ50億ドルから大きく後退)の国境の(壁ではなく)バリアの建設費用が国土安全保障省予算に含まれ、壁建設への資金付け替えのため36億ドルの穴が開いていた軍事施設建設費も補填しないと決めたとのことである。トランプ大統領はツイッターで、歳出法成立の見通しを喜ぶコメントを出したが、実のところ妥協を余儀なくされていた。

そして今年度も12本の歳出法は、パッケージで審議を行いスピーディーな成立を目指すことになる。おそらく前年度同様に、12本の歳出法を少なくとも2つ以上のグループに分けた「ミニバス」方式となろう。

仮に12月17日の本会議で審議や採決が行われるとすれば、CR期限の20日に間に合うし、2020年9月30日の年度末まで政府支出は安泰となる。そして来年はいよいよ大統領選挙の年であることを鑑みれば、2021年度予算の成立期限である2020年9月30日までに予算編成の決着が付かないことも大いに考えられ、ともすると次の大統領が決まる2021年冒頭まで、またもやCRで繋ぐ日々が来るのではないか、という予想も成り立つのである。

 


[1] 下院法務委員会のナドラー委員長は、12月10日にペロシ下院議長同席のもと弾劾訴追をすることを発表し、弾劾決議案(H.Res.755)の起草を行った。12日には、民主・共和両党議員による討議が行われた。本稿執筆の2019年12月13日時点では同日に採決が行われ、下院本会議に上程の運びである。同決議案の下院審議は12月16日の週に行われ、可決されると上院に上程される見込み。

[2] RealClearPoliticsによる各種世論調査の平均値では、トランプ大統領支持は2019年12月12日時点で43.9%、不支持が53.5%であり、これまでのトレンドと大きな変化は見せていない。

[3] https://news.gallup.com/poll/203198/presidential-approval-ratings-donald-trump.aspxギャラップ社による2019年11月1日から14日に行われた調査によれば、共和党支持者の90%がトランプ大統領を支持すると回答した。

[4] 下院では9月19日に301票対123票で通過、上院では9月26日に81票対16票で通過。

[5] 下院では11月19日に231票対192票で通過、上院では11月21日に74票対20票で通過。

[6] "Trump signs stopgap bill, fending off shutdown for now" 2019年11月21日、CQ Roll Call

[7] "House, Senate reach agreement on subcommittee spending levels" 2019年11月23日、CQ Roll Call

[8] "Democrats prepare to duel McConnell over year-end wish list" 2019年11月20日、CQ Roll Call

[9] "Agreement reached on spending bills; votes as early as Tuesday" 2019年12月12日、CQ Roll Call

中林 美恵子

  • 早稲田大学社会科学総合学術院教授