民主党大統領候補者の労働法改革公約と「労働権法」をめぐる状況

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民主党大統領候補者の労働法改革公約と「労働権法」をめぐる状況

杏林大学総合政策学部専任講師
松井孝太

 

202011月の大統領選挙に向けた民主党の候補者指名争いがいよいよ本格化した。23日のアイオワ州の党員集会では、全国世論調査では4番手につけていたブティジェッジが首位に立ったが、2位のサンダースとの差は1ポイント以下という極めて僅差の結果であった。次いで211日のニューハンプシャー州予備選挙では、サンダースがブティジェッジにやはり僅差で勝利を収めた。過去6回(1996-2016年)の大統領選挙では、アイオワ州の党員集会の勝者が最終的な民主党候補者指名を勝ち取っている。しかし現時点では全国世論調査でなおバイデンとサンダースの両氏がトップを争っており、最終的な指名候補がアイオワ州の結果とずれる可能性も決して小さくない。2州の結果を受けたヤンらの撤退により候補者の絞り込みは進んだものの、ウォーレンやクロバッシャーは健闘を続けており、またマイケル・ブルームバーグ(実業家・元ニューヨーク市長)の予備選挙参入が予定されるなど、民主党内の熾烈な指名獲得競争はまだ続きそうである。

そこで本論考では、現時点で有力視されている4人の候補者(バイデン、サンダース、ウォーレン、ブティジェッジ)による労働政策公約とその背景事情について検討したい[1]。左派候補(サンダース、ウォーレン)と穏健派候補(バイデン、ブティジェッジ)の間で明確な対立が見られる医療保険政策や富裕税構想などと比較すると、労働法改革に関しては候補者間に相当の共通性が見られる。ただし、いずれも従来の労働法の枠組みに大きな修正を加えるものであり、共和党や経済界からの強い反発が予想される政策が並んでいる。以下、注目される政策案について簡単に見ていきたい。 

1.民主党候補者に共通する労働政策公約

①労働権法(right-to-work laws)の廃止

現在、アメリカの民間部門を規律する連邦労働法の下では、労働組合と使用者の間で、組合員たることを雇用条件とする協定(ユニオン・ショップ協定)を締結することが認められている。そのような協定が結ばれている場合、労働組合は、組合による団体交渉成果が及ぶ非組合員からも組合費相当額を徴収することができる。しかし2020年現在、27の州では、ユニオン・ショップ協定を禁止する州法(これを一般的に労働権法と呼ぶ)が存在している。民主党候補者の4人は、いずれも労働権法の廃止を公約としている。

ところでなぜ、連邦政府の大統領が、州議会が制定する州法の廃止を公約に掲げることができるのだろうか。その理由については、労働権法の現状と併せて次節で改めて解説したい。

②労働者の誤分類(misclassification)に対する規制強化(ギグ・ワーカー保護)

ある労働者が被用者(employee)として分類されると、全国労働関係法(NLRA)や公正労働基準法(FLSA)、労働安全衛生法(OSHA)といった各種の連邦労働法上の権利が保障される。しかし近年、UberLyftなどのライドシェア企業の運転手に代表されるような多様な働き方(特にインターネットを通して単発の仕事を受注するギグ・ワーカーなど)が広がっており、どの範囲の労働者が被用者としての保護を受けるのかという問題が改めて注目されている。労働者が実際には被用者と同様の働き方をしているのに、個人事業主(独立請負業者)として分類することによって、使用者としての義務を免れようとする企業が存在することも指摘されている。個人事業主とみなされた場合、被用者としての権利が欠如していることに加えて、組合化や団体交渉の試みが反トラスト法違反となる可能性もある。

2019年9月、カリフォルニア州政府は、個人事業主として分類されるための要件を厳しくすることによって、ギグ・ワーカーの権利保護を強化する州法AB5を成立させた[2]。多くの新興企業を擁するカリフォルニア州でのAB5制定への注目は高く、一州の立法に過ぎないにもかかわらず、ウォーレンを筆頭に、民主党大統領候補者は昨夏続々とAB5への支持を表明した[3]4人の有力候補者はいずれも、カリフォルニア州法と同様に、連邦レベルでも労働者の誤分類を防ぎ、ギグ・ワーカーの保護を拡大する立法を行なうとしている。

③労働組合組織化の容易化と権利強化

4人の候補者はいずれも、労働組合の弱体化が労働者層の経済状況悪化の要因であるとした上で、労働組合の再強化策として、組合組織化を妨げる労働法規定の修正を掲げている。具体的には、次のような公約が示されている。

  • 「カード・チェック」制度の導入。現在、労働組合が過半数被用者から組合支持の授権カード署名を獲得しても、使用者は組合の承認要求を自由に拒否することができる。その場合、労働組合は全国労働関係委員会(NLRB)の下での選挙を実施する必要があり、多大な時間と労力を要することが組合組織化の障壁となってきた。カード・チェック制度は選挙実施を不要とすることで、交渉代表組合の認証を迅速化することが期待されている。
  • 組合認証選挙への使用者介入の制限
  • 2次的ボイコットの解禁とストライキ中の恒久的代替者(permanent replacement)雇用の禁止
  • 連邦政府労働者による組合組織化の容易化と現在認められていないストライキ権の保障
  • 在宅ケア労働者の権利保護強化(組合への加入権を含む)

④その他
  • 連邦最低賃金の時給15ドルへの引き上げ
  • 共同使用者(joint employer)基準の拡大。巨大企業のフランチャイジーで働く労働者に対して、直接の使用者だけでなく、フランチャイザー企業にも使用者としての義務を負わせる。「使用者」定義を狭めるルールを設定したトランプ政権の政策を転換する。
  • 現在NLRAの適用対象外となっている農業労働者や家内労働者への保護拡大
  • 雇用契約における競業避止条項の禁止
  • 所得保障付き傷病休業・家族休業制度(paid sick leave/family leave)の導入


労働組合の強化を目的とする①や③の労働法改革案は、昨年5月にボビー・スコット下院議員(民主党・バージニア州)とパティ・マレー上院議員(民主党・ワシントン州)によって提案され、昨年下院で審議が進められた「団結権保護法(Protecting the Right to Organize Act; PRO法)」案にも盛り込まれている内容である。4人の候補者はいずれも、PRO法の制定を公約としている。ただし、組合認証におけるカード・チェック制度の導入などは、ブッシュ政権期やオバマ政権期でも議論されてきた政策案であり、「被用者自由選択法(Employee Free Choice Act)」案として下院を通過しながら成立には至らなかった。現在議論されているPRO法案も、現状では実現の見通しは低いと思われる。 

2.労働権法の現状と政策効果をめぐる議論

現在のアメリカで民間部門労働者の労働組合を規律する最も基本的な法律は、ローズベルト民主党政権の下で1935年に制定された全国労働関係法(NLRA)である。NLRAでは、労働組合と使用者の間で、組合員たることを雇用条件とする協定(ユニオン・ショップ協定)を締結することが認められている。これは、非組合員が労働組合の交渉努力にフリー・ライドすることを防ぐことを目的としており、労働組合の組織力維持にとって重要な仕組みであると考えられている[4]。これに批判的な立場が「労働組合による支配を受けることなく働く権利」を意味する「労働権(right-to-work)」である。つまり、労働権法とは反・労働組合立法である点に注意が必要である。

ニューディール期の労働組合の拡大を可能としたNLRAであったが、1946年中間選挙で共和党が大勝したことを受けて制定された1947年タフト・ハートレー法によって修正を受けた。その際に盛り込まれた条項の一つが、NLRA14条(b)である。連邦法であるNLRAには、州法に対する先占的効果(preemption)が認められており、NLRAの枠組みに抵触する州法は排除されるのが原則である。しかしNLRA14条(b)は、NLRAの先占原則の例外として、特にユニオン・ショップ協定を禁止する労働権法の制定を州に認める条項である[5]

民主党の有力候補者らによる労働権法の廃止公約とは、連邦法であるNLRA14条(b)を削除することによって、州による労働権法の制定を認めないということを意味している。

2020年現在、図1で示されている27の州で労働権法が存在しており、共和党が勢力を伸ばした州を中心に、近年でも労働権法制定の動きが見られる[6]2010年以降に労働権法が制定された州としては、図1で濃色で示されているミシガン州(2012年)、インディアナ州(2012年)、ウィスコンシン州(2015年)、ウェスト・バージニア州(2016年)、ケンタッキー州(2017年)がある。ミズーリ州でも2017年に共和党多数の州議会が労働権法を制定したが、2018年に州民投票によって廃止された。 

図 1:労働権法が存在する州(2020年現在)

 

2016年大統領選挙でのトランプ当選を決定付けた中西部州で近年続々と労働権法が制定された背景としては、2010年選挙における州レベルでの共和党の躍進や、共和党保守派の州議会議員や企業・財団等によって構成される米国立法交流協議会(American Legislative Exchange Council; ALEC)のモデル法案作成が重要な役割を果たしたとする研究がある[7]

州と連邦の両レベルで党派的な対立争点となっている労働権法であるが、その政策効果については不明な点も多く、現在でも研究が進められている。賃金や雇用者数、組合組織率など労働市場に対する効果に関する研究が多いが、労働組合の政治活動の弱体化を通した選挙結果への影響等も分析されている。労働権法制定州と非制定州の境界自治体を用いた分析を行ったジェームズ・フェイゲンバウム(ボストン大学)らの最近の研究では、大統領選挙での民主党得票率を3.5ポイント低下させる労働権法効果が検出された[8]。さらに州知事、連邦上院・下院のいずれの選挙においても同様に民主党への打撃が見出されることに加えて、投票率にも2-3ポイントの低下効果が見られるという。同研究はその因果メカニズムとして、労働組合の資源が組織力維持に割かれることによる民主党への選挙献金の減少や、組合による有権者接触の減少を指摘している。

ただし、労働権法が労働組合や民主党に打撃を与える一方で、個々の労働者にとってはプラスの効果を持つ政策であるという主張も保守派を中心に強く、それをサポートする実証研究も存在する。個人レベルの意識調査データを分析したクリストス・マクリディス(マサチューセッツ工科大学)の最近の研究によれば、労働権法の制定は個々の労働者の生活満足感や景況感を改善する効果があるという[9]。同氏はその因果メカニズムとして、労働権法が労働組合間の競争を促すという可能性を指摘している。つまり、非組合員からのフィー徴収が不可能になることで、労働組合は組合員を維持獲得するためにより高い価値を提供することが求められるようになるという。

アメリカの労働組合は特に民間部門において長期的な組織率低下に苦しんでおり、組織力回復を助ける労働法改革を長年要求してきた。2020年大統領選挙の民主党候補者はいずれもその要請に応える公約を掲げているものの、過去の民主党政権のように空手形に終わる可能性も小さくない。伝統的な支持基盤である労働組合の更なる弱体化は、民主党の性格にも重大な影響を与え得る現象であり、州政治と連邦政治の両レベルで今後の動向に注目したい。

 


[1] バイデン: “The Biden Plan for Strengthening Worker Organizing, Collective Barganing, and Unions” (https://joebiden.com/empowerworkers/), サンダース: “The Workplace Democracy Plan” (https://berniesanders.com/en/issues/workplace-democracy/), ウォーレン: “Empowering American Workers and Raising Wages” (https://elizabethwarren.com/plans/empowering-american-workers), ブティジェッジ: “Empowering Workers in the Changing Economy” (https://peteforamerica.com/policies/empower-workers/)

[2] 具体的には、個人事業主と分類するためには、ABCテストと呼ばれる3要件を企業が証明することが要求される。A.当該労働者が当該企業の支配管理下にない、B. 当該労働者の業務は当該企業の中核的業務ではない、C. 当該労働者は同一業界内において、当該企業とは独立した取引関係を有している。

[3] Alexia Fernández Campbell. “How a controversial gig economy bill became a test for 2020 candidates.” Vox. August 27, 2019. (https://www.vox.com/2019/8/27/20833233/ab-5-california-bill-candidates-vote)

[4] 2018年8月の論考で紹介したように、公共部門においても複数の州でユニオン・ショップ協定が州法によって認められてきたが、合衆国最高裁は、20186月に下したJanus v. AFSCME事件判決において、それらの州法が非組合員の権利を侵害しており違憲であると判断した。詳しくは松井孝太「判例紹介:州の被用者を組織する労働組合に対して,非組合員からのエージェンシー・フィー徴収を認めるイリノイ州法は,非組合員の言論の自由を侵害するとされた事例」『アメリカ法』2019-1号。

[5]1からも明らかなようにタフト・ハートレー法以前からいくつかの州では労働権法が制定されていたが、その適法性は不確実な状態であった。

[6] 州議会立法に加えて、州憲法改正によって労働権法が法制化されている州もある。

[7] Alexander Hertel-Fernandez. (2019). State Capture: How Conservative Activists, Big Businesses, and Wealthy Donors Reshaped the American States--and the Nation. Oxford University Press.

[8] James Feigenbaum, Alexander Hertel-Fernandez, and Vanessa Williamson. (2018). “From the Bargaining Table to the Ballot Box: Political Effects of Right to Work Laws.” Working Paper 24259. National Bureau of Economic Research.

[9] Christos Andreas Makridis. (2019). “Do Right-to-Work Laws Work? Evidence on Individual Well-being and Economic Sentiment.” Journal of Law and Economics. Forthcoming.

松井 孝太

  • 杏林大学総合政策学部専任講師