トランプ大統領と学校現場 いじめ問題を中心に

写真提供 共同通信イメージズ

トランプ大統領と学校現場 いじめ問題を中心に

朝日新聞編集委員
山脇岳志

 

2019年9月の論考「トランプ大統領と公民教育の行方」で、前回の大統領選におけるトランプ氏勝利の一因に、教育の問題もあるという見方について紹介した。「三権分立」や「言論の自由」の確立など米国の歴史の基本を教育現場できちんと教えなかったことが、独裁的な手法を好み報道の自由を軽視する大統領の誕生につながった遠因ではないか、との見立てである。本稿では、トランプ氏が大統領になったことで、実際の学校現場がどういう影響を受けたかについて取りあげてみたい。 

トランプ氏が大統領選で勝利したのは2016年。選挙戦では、トランプ氏が虚偽発言、人種差別的な発言を繰り返し、セクハラ問題も明るみに出た。ちょうど筆者の息子は小学校の高学年で、現地校でアメリカ人の父兄や教師と話す機会も多かった。首都ワシントン郊外のリベラルな地域だったこともあるが、父兄や教師の困惑は深かった。これまで、大統領選のテレビ討論などは、小学生や中学生が政治や経済の仕組みを勉強する上での格好の教材とされてきた。しかし、「今回は下品すぎてとても子供に見せられない」という親が多かった。 

また、学校で教師は、噓をつくことや友達へのいじめは「やってはいけないこと」と教えているわけだが、トランプ氏が大統領になってしまったことで、学校で注意しようとしても「大統領もやってるよ」という反論が可能になることへの懸念が生じていた。政敵にあだ名をつけて攻撃したり、身体に障害がある記者をあざけるような仕種をみせたりするようなトランプ氏の言動は、学校における「いじめっ子」的である。 

果たして、トランプ氏が大統領に就任したのちに、学校現場でいじめが増えたという報道が出てきた。たとえば、オンラインメディアのBuzzFeedは、20176月の記事で、トランプ氏の名前や発言を利用した人種的ないじめやいやがらせが広がっていると報道。過去1年で、26の州で50件以上を確認したとして実例を列挙した。[1]

またユタ州の地方紙であるDeseret Newsは、20184月、全米黒人地位向上協会(NAACP)のソルトレイク支部が、ユタ州内で、白人による黒人への人種的ないじめの増加を懸念しているとの記事を掲載した。同協会のソルトレイク支部長は、いじめをめぐる苦情の増加は2016年の大統領選に関連しているとしている。[2]

しかし、実際に、トランプ氏の当選後、学校現場にいじめが増えたのか、それとも、トランプ氏の当選をきっかけに、もともとあった学校のいじめがトランプ氏の言動を真似る形に変化しているだけなのか、判別は難しい。

この点を究明しようと、より学術的な調査も行われた。研究者が、バージニア州の中学12年生について、学区ごとにいじめの件数や種別を分析したところ、選挙後の2017年の調査では、クリントン氏を支持した地域よりもトランプ氏を支持した地域でいじめの件数が多くなったという。選挙前の2015年の調査では、そうした違いはみられなかった。調査結果は米国教育研究協会(The American Educational Research Association)の機関誌Educational Researcherに発表された。[3]

また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジョン・ロジャーズ教授(教育学)が2018年夏に全米の約500校の高校の校長を対象に行った調査も興味深い。この調査は、トランプ政権下で生じているさまざまな社会問題について、高校生や教育者たちがどのような影響を受けているかを探るために実施された。主に、①政治的分裂と敵意、②真実・事実や情報源の信頼性についての論争、③オピオイド(モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬)乱用と依存症、④移民法の執行をめぐる脅威、⑤学校内での銃犯罪の脅威、の5点について着目したという。

調査によれば、89%の校長が、「政治の世界における品性の欠如や好戦的な風潮が学校のコミュニティーに影響した」と回答した。また、68%の校長は、移民政策や移民をめぐる政治的なレトリックが、生徒やその家族に悪影響を与えていると回答した。[4]

このように、トランプ大統領になってからの教育現場では、さまざまな懸念が生じているが、一方で、名前がトランプであるがために学校でいじめられた少年も有名になった。2019年のトランプ大統領の一般教書演説に、この少年が招かれ、メラニア大統領夫人の近くに座ったからだ。

デラウエア州の小学校6年生、ジョシュア・トランプ少年は、トランプ氏と血縁関係はないが、名前が同じというだけで、学校でいじめられて悲しい思いをした。母親がフェイスブックに投稿し、このことを知ったホワイトハウスが、ジョシュア君を特別ゲストとして招いた。一般教書演説は、大統領自らが議会で演説を行う、年に一度の大きなイベントである。国のために奉仕したり特に活躍したりした人たちを呼ぶ慣行があり、ジョシュア君は、その一人に選ばれた。だが、会場のスタンディングオベーションの際にジョシュア君が立ち上がることはなく、トランプ氏が演説している間に居眠りをしてしまったと地元メディアは紹介している。[5]

今年秋に行われる大統領選は佳境を迎えつつあるが、トランプ氏が大統領である限り、「学校で教えるべきこと」との矛盾、価値観の対立をめぐる混乱など、学校現場は困惑を抱え続けることになりそうである。

 


[1] https://www.buzzfeednews.com/article/albertsamaha/kids-are-quoting-trump-to-bully-their-classmates#.mdPM8Er23v

[2] https://www.deseretnews.com/article/900016017/naacp-calls-for-utah-schools-to-address-rise-in-racial-bullying.html

[3] https://www.aera.net/Portals/38/School%20Teasing%20and%20Bullying%20after%20the%20Presidential%20Election.pdf

[4] https://idea.gseis.ucla.edu/publications/school-and-society-in-age-of-trump

[5] https://www.delawareonline.com/story/news/local/2019/02/05/delaware-boy-bullied-trump-name-guest-state-union/2775627002/

山脇 岳志

  • 朝日新聞編集委員