全世代型社会保障検討会議中間報告を検証する その3:「中間報告」の評価

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全世代型社会保障検討会議中間報告を検証する その3:「中間報告」の評価

 201912月、政府の全世代型社会保障検討会議の中間報告が公表された。今夏の最終報告公表に向け、さらなる議論が予定されている。以下では、「中間報告」の評価と今後期待される議論について整理した。

 社会保障といえば、年金、医療、介護、子育ての4つがすぐに想起されるが、「中間報告」では、働き方改革、とりわけ高齢者就労の促進に力点が置かれている(図表1)。これが「中間報告」最大の特徴といえる。高齢者就労が促されることで、本人にとって所得の底上げ効果があることはもちろん、社会保障制度においても支えられる側から支える側へ回る人が増えることを通じ、持続可能性が高まる。よって、社会保障のスコープを働き方改革に拡げることは重要な視点である。

 ただし、「中間報告」で掲げられている次のような諸施策は、企業と雇用者の判断に委ねられる部分が多い。方向性が示されたのち、政府としての出番はそれほど多くないと考えられる。(a)定年廃止、(b70歳までの定年延長、(c)定年後又は65歳までの継続雇用終了後も70歳まで引き続いての雇用、(d)定年後又は65歳までの継続雇用終了後、再就職の実現、(e)定年後又は65歳までの継続雇用終了後、創業した場合、業務委託契約を締結するなど雇用以外の措置。
 その上、「中間報告」は、政府でなければ成しえない課題への取り組みについての記述は相対的に希薄である。社会保障が直面する課題は大きく2つに整理できる。1つは、将来世代への負担先送り回避である。社会保障給付費の約3割が社会保障関係費(2020年度予算ベースで35.9兆円)として一般会計から歳出されているが、税収では賄いきれず、赤字国債に依存し続けている。それは将来世代の負担であり、こうした状況を食い止めるため、歳入および歳出両面からの取り組みが欠かせないはずだが、歳入確保については「中間報告」ではその意識に乏しい。
 20126月の民主・自民・公明3党による3党合意を起点とする社会保障・税一体改革は、歳入面においては2015年における消費税率10%への引き上げまでを視野としており、その後、2020年におけるプライマリー・バランス(基礎的財政収支)黒字化目標実現に向け、もう一段の歳入・歳出両面にわたる改革が求められていたはずである。
 歳出抑制についても、「後期高齢者の自己負担割合のあり方」が目を引く程度である(図表2)。現在、医療機関窓口での自己負担は、年齢によって異なっており、後期高齢者(75歳以上の高齢者)は原則1割、現役並み所得者に限り3割となっている。後期高齢者医療制度の被保険者1,700万人のうち現役並み所得者は6.8%の115万人にとどまる。現役並み所得者とは、世帯内に課税所得が145万円以上の被保険者がいる場合の被保険者である。「中間報告」では、一定の所得を超えたものについては自己負担割合を2割へ引き上げ、その一定所得については、最終報告に向け引き続き検討さすることとなっている。
 もっとも、70歳未満の窓口負担が3割であることとの公平性を徹底するのであれば、2割ではなく3割という選択肢が優先的に検討されるべきであるし、最終報告に向けた議論のなかで「一定の所得」が仮に高く設定されれば、2割負担の対象者も限定的となる。すると、「後期高齢者の自己負担割合のあり方」も看板倒れになりかねない。しかも、75歳以上の自己負担は、所得によって1割、2割、3割の3段階の複雑な仕組みとなる。制度は極力簡素であるべきであろう。

(図表2)全世代型社会保障検討会議「中間報告」の主要項目

年金

受給開始可能年齢70歳から75歳への引き上げ

被用者年金適用拡大

在職老齢年金の見直し

労働

70歳までの就業機会確保

中途採用・経験者採用の促進

兼業・副業の拡大

フリーランスなど雇用によらない働き方保護

医療

医療提供体制の改革

後期高齢者の自己負担割合のあり方

定額負担を大病院から200床以上一般病院に拡大

保険者努力支援制度の抜本強化

(資料)日本総合研究所作成

 歳出抑制が求められているのは、一般会計だけではない。年金財政においても、給付抑制は喫緊の課題である。2004年、100年安心のキャッチフレーズとともに、大きな年金改正が行われた。年金財政の持続可能性確保に向け、保険料率の2017年までの段階的引き上げと基礎年金財源における国庫負担割合の引き上げ(1/3から1/2へ)によって財源を確保しつつ、他方、マクロ経済スライドという新たな仕組みを導入することで段階的な給付抑制が図られることとなった。
 もっとも、マクロ経済スライドについては、デフレ下では十分に機能しない仕組み(名目下限措置)であったことから、今日までの間、ほとんど発動されてこなかった。そのため、年金給付水準を測る代表的指標である所得代替率は、2004年改正時の目論見では足元の59.3%から2019年には51.6%まで引き下げられているはずであったが、実際には61.7%へとむしろ上昇している。61.7%と51.6%の差10.1%はいわば過剰給付であり、将来世代のために温存しておくべき積立金の前倒しでの取り崩しで賄われている。それは、赤字国債発行と同じである。
 「中間報告」は、次のような所得代替率の改善を強調する記載からうかがえるように、そうした危機感に乏しい。「この夏の年金財政検証では、少子高齢化が進む中でも、アベノミクスによる就業者の拡大によって厚生年金の加入者が500万人増えた結果、将来の年金給付に係る所得代替率が改善した」
 確かに、厚生年金(第1号)加入者数は、第2次安倍政権発足前の2011年度末は3,452万人であったが、2018年度末には529万人増の3,981万人になっている。しかし、そもそも厚生年金の加入者数が増えたのは、就業者の拡大のみによるものではなく、日本年金機構の業務改善が大きく寄与してきたはずである(西沢(2019)。日本年金機構は、社会保険庁の後継組織として2010年に発足し、発足当初こそ、4,000万件の未統合年金記録問題の事後対応に追われ、厚生年金の適用業務に十分な力を注ぐことが出来なかった。そのためもあり、厚生年金適用事業所数は、2010年度と2011年度の2年間は前年度比減少していた。
 分岐点となったのは2015年である。日本年金機構は、給与支払の実態が確実な源泉徴収義務者の情報を国税庁から得て、それをもとに厚生年金の適用を進め、適用実績が大きく改善した。2015年度以降は前年度比平均約12万事業所ずつ増加してきている。
将来の所得代替率の改善とは、2014年、2019年それぞれの財政検証における将来推計結果を比較しているものと考えられるが、結果はそれほど変わらない。2014年財政検証では、経済の好不調別に8ケースが想定され、8ケースのうち上位5ケースで所得代替率が50%を上回り(50.6%~51.0%)、2ケースでは50%を下回り、経済の最も悪い残り1ケースでは、財政検証の射程である100年間の途中で積立金が枯渇してしまうため計算不能という結果であった。
 2019年財政検証では、6ケース中3ケースで50%を上回り(50.851.9%)、2ケースでは50%を下回り、経済の最も悪い残り1ケースではやはり計算不能という結果であった。このように、2014年財政検証と2019年財政検証とでは、結果はほとんど変わらない。それよりも、何れの財政検証もマクロ経済スライドが順調に発動されていくような3%近辺の賃金上昇率と12%の物価上昇率を想定しているからこそ、過半あるいは半分のケースで所得代替率が50%を上回るという楽観的な結果が示されており、その妥当性が問われていることに留意すべきである。

 社会保障が直面している課題のもう1つは、経済・社会の環境変化に対応し制度をデザインし直すことである。雇用形態の多様化、専業主婦世帯の減少と共働き世帯の増加、および、平均寿命の伸長など社会保障を取り巻く環境変化への対応が不可欠である。「中間報告」では、年金受給開始時期の選択肢の拡大、被用者年金適用拡大、在職老齢年金の見直しなどがそれに相当する(図表2)。これらは、いずれも方向性としては正しいと思われる。「中間報告」に欠けるのは網羅性だ。
 例えば、女性の就労阻害要因としてかねてより指摘される130万円のかべ(従業員規模によっては106万円のかべ)については、「中間報告」では触れられていない。130万円のかべ(106万円のかべ)を解消するためには、年金制度そのもの、とりわけ基礎年金のあり方の根本的見直しが避けて通れない。
 あるいは、副業・兼業の拡大がうたわれつつ、1つの事業所に毎日通うことを想定した現行の社会保険制度の見直しまで踏み込まれていない。例えば、副業が広く認められるようになると、副業収入は、社会保険料の賦課対象から外れることになり、その分、年金財政にとっても、医療保険財政にとっても、収入面でマイナスが懸念される。それを防ぐには、社会保険行政の見直しが必要となる。従業員の副業先での健康管理など、企業や健康保険組合がこれまであまり考えてこなかった問題も生じる。

 最終報告に向けての議論では、会議体の名称に「全世代」と銘打たれているように、将来世代への負担先送り回避を明確に俎上に載せ、加えて、「中間報告」では取り上げられていない課題の抽出作業が求められる。

参考文献

西沢和彦(2019)「発足10年を迎える日本年金機構」
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3224

西沢 和彦

  • 日本総合研究所調査部主席研究員