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2020年アメリカ大統領選挙におけるサンダース票の行方
(写真提供 Getty Images)

2020年アメリカ大統領選挙におけるサンダース票の行方

June 26, 2020

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

数か月後に迫った今年の大統領選挙は、新型コロナウイルスや景気の悪化、そして黒人の人権デモなど、想定外の様々な問題を抱えるに至っている。そのコロナ禍の真最中、民主党の予備選挙で注目されたサンダース上院議員が本年4月8日に選挙戦撤退を表明した。

これで民主党は、党内分裂という2016年の二の舞を避けることに成功したことになる。最近の世論調査では、トランプ大統領よりもバイデン氏に有利な数字が出ているが、11月の本選挙までの展開を見通すのは、時期尚早だ。4年前の選挙の時は、予備選挙で善戦したサンダース氏支持の票が共和党のトランプ氏に流れたことも話題をさらった。今年の選挙では、このサンダース票はどのように動く可能性があるのだろうか。その全容は必ずしも単純明快ではない。ただ、世論調査や過去のデータから推測する試みは存在しており、今年の選挙と米国政治を読み解く一つの視点になる。

2016年を振り返る

4年前、ヒラリー・クリントン氏が民主党の候補者指名を勝ち取った予備選挙では、サンダース氏が大きな波乱要因となった。候補者指名が遅れて党内がまとまりを欠いたという指摘もある。オクラホマ州やネブラスカ州など、どちらかというと中道から保守に近いとされる州でも、自称民主社会主義者のサンダース氏が善戦し、民主党支持者の3分の1の得票を集めた。無党派層からの支持は、クリントン氏の倍に上った。

5万人を対象にハーバード大学とYouGov[1]が実施した共同調査の調査報告(CCES)[2]を参照すると、サンダース票がどのように流れたかがある程度見えてくる。表1は、予備選挙でサンダース氏に票を投じた有権者が、本選挙では誰に投票したかを聞いた結果である。

 

表1. 2016年大統領選挙でサンダース票はどう動いたか

クリントン氏に投票

74.3%

トランプ氏に投票

12.0%

ギャリー・ジャクソン氏に投票

3.2%

ジル・ステイン氏に投票

4.5%

その他の候補に投票、または誰に投票したか覚えていない

2.5%

投票には行かなかったが、行っていたらクリントン氏に投票していたろう

1.6%

投票に行かなかったが、行ってもクリントン氏には投票しなかったろう

1.9%

出所:“2017 Cooperative Congressional Election study”(CCES)[3]

 

サンダース票の約74%はクリントン氏に流れ、クリントン支持者の1.6%は投票に行かなかった。またサンダース票の24%は、クリントン不支持だった模様だ。そして、その票の半分である12%は、トランプ氏への投票に流れた。

2016年の予備選挙では、表2のとおり、サンダース氏が民主党票の43%余を獲得しており、民主党が一つにまとまれない状況をつくる原因にもなったと考えられる。

 

表2. 民主党予備選挙での得票数(候補者名30人余のうち2人のみ抜粋)

候補者

一般得票数

%

ヒラリー・クリントン

16,917,853

55.23%

バーニー・サンダース

13,210,550

43.13%

出所: Green Papers. “Nationwide Popular Vote”[4]

 

また、2016年本選挙で最も接戦だった3州では、サンダース支持票が2016年のトランプ氏当選に影響を与えた可能性を指摘する声もある。米タフツ大学のBrian Schaffner教授によれば、トランプ氏が44,300票差でクリントン氏に勝利したペンシルベニア州では、サンダース支持の117,000票がトランプ氏に投じられ、トランプ氏が10,700票差で勝利したミシガン州では48,000のサンダース票がトランプ氏に流れ、トランプ氏が22,750票差で勝ったウィスコンシン州では、51,300のサンダース票がトランプ氏に回ったとされる[5]

2016年は、ワシントン政治のエスタブリッシュメントかつ長年のインサイダーであるヒラリー・クリントン氏が民主党指名候補になった構図もあり、トランプ氏やサンダース氏のような「アウトサイダー」を旗印にする候補が注目を集める年ともなった。その両者ともに共通するのは、既存の二大政党に必ずしも忠誠を誓うタイプの候補者ではないことであり、ワシントン政治に変革をもたらすことができるという期待である。トランプ氏とサンダース氏は、政策的には相いれないものの、有権者に向けたイメージでは表面的に似ている部分がある。例えば、反エリート主義(トランプ氏はワシントンを汚い沼に例えた)や反エスタブリッシュメント、そして大衆の怒りや憤りを代弁する姿勢などである。したがって、そのようなスローガンに共鳴したサンダース支持者の一部が、2016年当時トランプ氏を好ましいと感じたとしても不思議ではない。 

サンダース支持者はどんな人たちか

サンダース支持層の全容をつかむのは、簡単な作業ではない。ただ、様々な組織や団体が調査を行い、何とか実像に近づこうとする試みは存在する。いったいどのような有権者にサンダース氏を支持する傾向があるのだろうか。前出のCCES調査によれば、2016年のクリントン氏と比較すると、表3のように、サンダース氏を支持する層には民主党の中でもよりリベラルな有権者が多いことがうかがえる。

 

表3. 有権者の政治的な立ち位置と支持候補(2016年民主党予備選)

グループ(自己申告)

クリントン

サンダース

非常にリベラル

45.2%

54.6%

リベラル

55.6%

43.7%

どちらかというとリベラル

59.4%

40.2%

中道

60.2%

38.7%

自分では保守的と思う

66.5%

31.3%

民主党支持

66.2%

32.9%

無党派または共和党支持

33.6%

65.0%

“2017 Cooperative Congressional Election study”(CCES)[6]

 

また、サンダース支持者は、民主党支持または無党派層かつ35歳以下の有権者に多いという指摘[7]もある。他にも、タフツ大学が18歳から29歳の若者を対象に2020年のニューハンプシャー州予備選挙での出口調査の分析[8]を行ったところ、その年齢層の51%がサンダース氏に投票し、続いてブティジェッジ氏20%、その他は一桁台という割合だったという知見が得られた。

さらに、FiveThirtyEight[9]による考察のように、2020年2月時点での世論調査を踏まえれば、特に45歳以下にサンダース支持層が多いという指摘もある。当時の予備選出口調査では、どちらかというとリベラルと答えた層は45歳以下の有権者が多く、支持する候補者のトップはサンダース氏である。それより高齢になるとリベラル派ではウォーレン候補に票を投じる傾向が増すようだ。例えばニューハンプシャー州予備選の場合、45歳以下の有権者の29%が自分は非常にリベラルだと答えているが、45歳以上に聞くとその割合が16%に下がる。非常にリベラルな45歳以下の層というグループに限ると、サンダース支持が高まると、FiveThirtyEightは指摘している。これはニューハンプシャー州に限らず、アイオワ州でも同様の傾向が示された。また、45歳以下の有権者は、その36%が非常にリベラルという分類を自らしており、45歳以上の有権者になるとその割合が17%に下がることも指摘されている。

またFiveThirtyEightによれば、年齢およびリベラル度合いの強さがサンダース支持に回りやすいという特徴の他に、ラテン系移民の支持の強さも指摘されている。ネバダ州予備選挙での調査によれば、サンダース氏だけでラテン系住民の50%の票を得ていた。これは同州のラテン系住民のバイデンへの投票(17%)と比較して、遥かに高い得票となっている。ただこれが人種をひとくくりとすべきなのか、それとも年齢やイデオロギーとも関係があるのかは判定しにくい側面があるし、ラテン系の有権者は若い層が多いということもあるので、サンダース支持層の把握をするのはなかなか単純にはいかない。

さらにFiveThirtyEightは、大学教育を受けた有権者と受けていない有権者によるサンダース支持を比較している。ネバダ州では大学教育以上が28%、大学教育なしが40%という割合でサンダース氏を支持している。FiveThirtyEight and Ipsos調査[10]では、ニューハンプシャー州での予備選挙直前の世論調査を見ると23%と31%、アイオワ州では16%と30%という具合に、どの州でも大学教育を受けていない層からの支持のほうが高い。特にそれが30歳から64歳の年齢になると顕著に表れるようである。そして30歳以下と65歳以上はというと、教育レベルにおける差異は見いだせないようだ。

サンダース支持者の年収については、FiveThirtyEight and Ipsos調査[11]および ABC News/Washington Post世論調査[12]を通して様子がうかがえる。年収5万ドル以下の世帯では、サンダース氏の支持が最も高かったことがわかっている。1万ドル以上の世帯になると、サンダース氏への支持は低くなった(年齢や学歴、人種をコントロールしても同様の結果となった)とされる。 

2020年のバイデン氏とサンダース票

2020年大統領選挙では、2016年との違いがすでに現れている。3月22日から25日にかけてのABC News/Washington Post世論調査[13]では、83%の民主党あるいは民主党寄りの有権者がサンダース氏よりもバイデン氏を好ましいとし、予備選挙が始まったばかりの2月から翌月までに63ポイントもの上昇があった。また黒人層も3分の2がバイデン支持となり、2月と比較すると34ポイント上昇だった。ただし、同調査によれば、11月の選挙でバイデン氏に積極的に投票すると答えたサンダース支持者はたったの9%であり、比較的投票の可能性があると答えた人も49%に留まっており、バイデン氏の応援に回る熱量は総じて低そうである。

熱量という点から見ると、予備選挙でバイデン氏を支持した層でも、積極的にバイデン氏を支持したのは39%、そしてどちらかといえば積極的にと答えたのは50%だった。たとえばトランプ氏支持者の81%が積極的に支持と答えたのと比較すると、バイデン氏への熱狂度は低い。そうした中、サンダース支持層の獲得は、戦略的に行っていく必要がありそうだ。

4月8日から12日にかけては、ピュー・リサーチセンターが有権者登録済みの民主党支持者に世論調査を行っている[14]。数ある質問の中でも、2020年1月時点での支持候補によって民主党有権者のバイデン支持に濃淡がみられている。1月の時点でバイデン氏を支持した有権者は、94%が11月の大統領選挙でバイデン氏に投票すると答えたが、それがサンダースを支持していた有権者の間では、83%に留まった。この二人以外を支持していた有権者では、その92%がバイデン氏に投票すると答えている。特に、サンダース支持層の16%は、民主党と共和党の候補者のどちらをも支持しないと回答し、さらに1%はトランプ氏に投票すると回答している。バイデン氏支持者でどちらの二大政党にも投票しないと答えたのは5%だった。これを見る限り、サンダース支持者には、既存の二大政党に満足していない者が他の候補支持者よりも多いとも言いえる。また民主党を支持する有権者の36%が、党内には異論が残るため、投票先としては単純にバイデン氏支持に票が行かない可能性があると答えている。 

取り込み努力は続く

バイデン氏も、サンダース支持者を繋ぎとめることを重要な課題に据えている模様である。実際にサンダース氏の元支援部隊と連携して大統領選に向けての政策立案のための複数のワーキンググループを仕切り、人選なども行っている[15]USA TODAY/Suffolk世論調査[16]によれば、サンダース支持者の34%は、国民皆保険やグリーン・ニューディール等の政策を掲げることは、トランプ大統領を敗北させること以上に大事だと答えている。

こうして、様々な世論調査を通して見えてくるのは、サンダース支持者は他の民主党候補支持者に比べて、バイデン氏支持のために熱心になる傾向が低そうだということだ。こうした層を取り込む努力を続けていくことは、バイデン氏にとって重要である。本選挙が接戦となった場合には、大きな意味を持つことになる可能性があるからである。



[1] 英国のインターネットベースの市場調査およびデータ分析会社

[2] Harvard University. “2017 Cooperative Congressional Election study.” June 21, 2017.

[3] Harvard University. “2017 Cooperative Congressional Election study.” June 21, 2017.

[4] The Green Papers. “2016 Presidential Primaries, Caucuses, and Conventions.” https://www.thegreenpapers.com/P16/D

[5] Tyler, George R. “How Will Disgruntled Sanders Supporters Vote in 2020?” the Globalist. April 10, 2020. https://www.theglobalist.com/united-states-2020-presidential-elections-bernie-sanders-joe-biden-hillary-clinton/

[6] Harvard University. “2017 Cooperative Congressional Election study.” June 21, 2017.

[7] Broockman, David, and Joshua Kalla. “Candidate Ideology and Vote Choice in the 2020 US Presidential Election.” OSF Preprints, February 25, 2020. https://doi.org/10.31219/osf.io/25wm9

[8] Tufts University Tisch College – CIRCLE. “Half of Young Voters Back Sanders, Propel Him to New Hampshire Victory.” February 12, 2020. https://circle.tufts.edu/latest-research/half-young-voters-back-sanders-propel-him-new-hampshire-victory

[9] FiveThirtyEight. “What Defines The Sanders Coalition?” February 26, 2020. https://fivethirtyeight.com/features/what-defines-the-sanders-coalition/

[10] FiveThirtyEight and Ipsos “Who Won The New Hampshire Democratic Primary Debate?” February 8, 2020. https://projects.fivethirtyeight.com/democratic-debate-first-february-poll/

[11] FiveThirtyEight and Ipsos “Who Won The New Hampshire Democratic Primary Debate?” February 8, 2020.

[12] ABC News. “Biden consolidates support, but trails badly in enthusiasm: Poll.” March 29, 2020. https://abcnews.go.com/Politics/biden-consolidates-support-trails-badly-enthusiasm-poll/story?id=69812092

[13] ABC News. “Biden consolidates support, but trails badly in enthusiasm: Poll.” March 29, 2020.

[14] Pew Research Center. “Most Americans Say Trump Was Too Slow in Initial Response to Coronavirus Threat. ” April 16, 2020. https://www.people-press.org/2020/04/16/most-americans-say-trump-was-too-slow-in-initial-response-to-coronavirus-threat/

[15] USA TODAY. “AOC and other Bernie Sanders allies are helping shape policy for Joe Biden. Here's who else is helping.” May 13, 2020. https://www.usatoday.com/story/news/politics/elections/2020/05/13/joe-biden-aoc-other-sanders-allies-help-shape-former-vps-policy/5181962002/

[16] USA TODAY. “Poll: Nearly 1 in 4 Sanders supporters not on board yet with voting for Biden.” April 29, 2020. https://www.usatoday.com/story/news/politics/elections/2020/04/29/bernie-sanders-supporters-not-yet-board-voting-joe-biden/3047485001/

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