連邦議会選挙はどうなるか:共和党への逆風と今後

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連邦議会選挙はどうなるか:共和党への逆風と今後

上智大学総合グローバル学部教授
前嶋和弘


アメリカの大統領選挙が本格化する中、同日の2020113日に行われる連邦議会の選挙の動向にも大きな注目が集まっている。改選前の現在の状況を振り返り、共和・民主両党の対立による膠着状況に終わりがみえるか、今年の連邦議会選挙の特徴と意味を考えてみたい。 

「動かない政治」

現在の連邦議会の状況を一言で言えば、「動かない政治」ということに尽きる。

連邦議会のデータを公開している「Congress.gov」によると、現在の116議会[1]2019年1月3日から2113日)の会期終了5カ月を割った20814日段階で立法化され、公法となったのは158。この数字は近年では最低の数である[2]

秋から冬にかけて各種の予算法案が増えるため、公法の数は今後増えていくとはみられているが、それでも前115議会(17年1月3日から1913日)の同じ時期(18814日まで)で公法となったのは236(全期間では443)だった。その前の114議会(15年1月3日から1713日)でも16814日段階で219(全期間では329)と明らかに今議会の立法は滞っている。

コロナ禍で議会の動きが停滞しているためではないかと一瞬、思うが、実際はそうではない。逆に、コロナ対策のために提出される法案も数多くなっており、法案の数自体は目立って増えている。現在の116議会で814日までに提出された法案は18206。この数は、115議会、114議会のそれぞれ2年間の提出法案数(1873218746)とほぼ同数となっている。

法案数だけを見れば、現在の116議会は、年間2万の法案が提出された1970年代、1980年代に並ぶのではないかとみられている。「Congress.gov」でさかのぼることができる中で最大の法案数だった93議会(197313日から7513日)の26222の数を超える可能性すらある。ただ、93議会で公法となったのは772であり、現116議会の立法化のペースを考えると雲泥の差がある。

つまり、いろいろ法案は出しても議会内での議論が進まないのが、現116議会の特徴といえる。なぜまとまらないのか。それは共和党と民主党の激しい党派対立(政治的分極化)が際立っている中、18年中間選挙の結果、下院の多数派を民主党が奪還し、「分割政府(divided government)」になったことが大きく、両党での話し合いが全く進んでいないからだ。

分割政府とは、大統領の政党と上下両院あるいはどちらかの多数派政党が異なることだ。現116議会では上院が共和党53、民主党47(民主党と統一会派の無党派含む)と僅差で共和党が多数を占めているのに対し、下院の方は817日現在、共和党198、民主党232、リバタリアン党1、欠員4となっている。このうち、リバタリアン党所属議員は、共和党所属だったジャスティン・アマッシュ(ミシガン州選出)であり、20204月に共和党を離党し、リバタリアン党に移籍した。アマッシュは1970年代のリバタリアン党の結党以来、初めて同党に所属する連邦議員となった(州議会などではリバタリアン党の議員は存在する)。ただ、アマッシュは今年秋の選挙では再選を狙わず、引退を決めている。

かつては分割政府であっても党派を超えた妥協が一般的だった。正式な党議拘束がない連邦議会では、1970年代あたりには主要法案では党を大きく割って対立党と共同歩調で立法化を進めた。しかし、ここ20年で急速に進んでいる政治的分極化の中、法案についての党内での立場はほぼ全員が一致し、対立党との激しいやり取りの中、話し合いが進まないようになった。政治的分極化が進むと、分割政府になれば議会での立法が急激に膠着状況(グリッドロック)になる。過去16年間、大統領の政党と上下両院の政党が同じである「統一政府(unified government)」はわずか4年間しかなく、分割政府が常態化している。これは政治が機能不全に陥っていることを示している。

実際、現116議会では、トランプ政権や共和党側が主導するインフラ投資、「米墨国境の壁」、オバマケア廃止、減税、規制緩和などの法案の立法化はほとんど進んでいない。新型コロナウイルス対策の各種法案は2020年春の段階では緊急時対応として超党派で話し合って立法化されたが、夏に入り、追加経済対策を巡る共和党と民主党のそれぞれの案が大きく異なるようになり、対立が激化している。

この夏の新型コロナウイルス追加経済対策は「動かない政治」の典型例だろう。コロナ禍は深刻さを増しているため、両党は歩み寄る動機はあるはずだが、民主党は5月に下院で可決した3兆ドル規模のコロナ対策の一環として、失業給付特例加算の延長を求めたが、共和党は全体として対策の規模を1兆ドルにとどめるとして、全く議論がかみ合わなかった。特に焦点となっている失業保険の特例加算については、民主党案では上積み額はそれまでの週600ドルのままだが、財政赤字の額を考慮し、共和党側は200ドルへの減額を強く主張した。予算の権限は本来議会にあるのだが、両党が歩み寄れない中、トランプ大統領は88日、議会の承認を受けず、失業保険の給付延長や給与税の納税猶予などを命じる大統領令に署名し、議会の膠着状態の現状を顕在化させている。

連邦議会選挙の「3つの法則」

それでは113日の連邦議会選挙ではこの対立や膠着状態が変わってくるのだろうか。まだ、何とも言えないが、その可能性は大いにある。というのも、民主党側が優位な環境にあり、下院だけではなく、上院も多数派を奪還する可能性も出ているためである。

連邦議会選挙には独特の「法則」がある。まず第1の法則は現職が極めて有利であるという点である。過去の実績や知名度のために、上下両院の再選率は9割以上であり、現職がいるところで「風は吹く」ことは多くはない。しかし、現職なし(新人同士、新人対元職、元職対元職)は大きな変動がある。

この「現職有利」の原則から考えると、不利と言えるのが共和党側だ。

435議席の全てが改選となる下院で引退、もしくは上院選などへの転出は民主党の方は9人にとどまっているのに対し、共和党側は27人と3倍となっている。その中には、ピーター・キング(ニューヨーク州選出)、ジム・センセンブレナー(ウイスコンシン州選出)ら、長年共和党の顔的存在だった議員が含まれている。辞める共和党議員をみるとどちらかといえば穏健派が目立っているのは、トランプ大統領の政策に対する反発もあるのかもしれない。

これに、共和党側には、トランプ政権での公職就任のための辞職が2(マーク・メドウズ首席補佐官=ノースカロライナ州選出、ジョン・ラトクリフ国家情報長官=テキサス州選出)、選挙資金不正での辞職1(ダンカン・ハンター=カリフォルニア州選出)もある。

上院の引退議員も民主党が1、共和党が3と共和党が2議席多い。

ただ、上院の場合、引退議員の差よりも重要な法則がある。それは、100人の議員のうち3分の1の改選となる中、改選が多い党が不利になるという点だ(第2の法則)

今年の選挙の場合、35議席改選のうち民主党が12であるのに対し、共和党は23と倍近く多く、改選が偏っている。6年前の2014年選挙で共和党側の議席数が急伸した反動である。

上述の通り、現在、共和党と民主党の議席数は僅差であり、4つの議席が入れ替われば共和党は多数派を失う。50議席と同点になった場合、副大統領が議長を兼ねるため、大統領選挙の結果次第だが、3議席を失っただけで多数派を民主党に奪われる可能性がある。現有議席のほとんどを共和党は抑え取りこぼしがないようにしないといけない。

3の法則は、分極化の中、大統領選挙の動向が議会選挙にも大きく影響する点だ。

以前なら州ごとの政治風土なども大きく異なっていたため、かつては、大統領選挙とは別の論理で連邦議会選挙は行われるとみられていた。それもあって、「バランスを取る」ために、大統領と連邦議員の候補者と別々の政党に投票する「スプリット・ボート(split vote)」も70年から80年代にかけてはかなり目立っていた。

しかし、この現象は今ではすっかり過去のものとなってしまった。有権者も党派的になり、大統領選挙と議会選挙には大きな相関がある。例えば共和党支持者なら、トランプ大統領に投票する人は、上下両院では共和党の候補者を選ぶという投票行動が定着している。

「スプリット・ボート」がほとんどないということは、共和党の議会候補者たちはトランプ大統領と一蓮托生を迫られることになる。トランプ大統領に対する支持が延びれば、自分の選挙も安泰だが、逆の場合、一気に先行きは不透明になる。

8月中旬現在、トランプ大統領の支持率は、民主党のバイデン候補に水をあけられている。トランプ大統領の今後の支持が伸び悩めば、共和党支持者の投票意欲が失われる可能性も考えられる。特に激戦の選挙区の場合、決め手となるのが中道ということもあるため、共和党候補の苦悩は大きく、一部の共和党候補は既に大統領と距離を取り始めている。 

議会選挙の動向と今後:共和党への逆風と議会運営

以上の「3つの法則」を考えると、今年の議会選挙は共和党に明らかに逆風だ。

まず下院の方は、現在の議席数や引退議員の差などを考えると民主党有利であるといえるだろう。一方で上院の場合にはトランプ大統領の追い上げ次第という点はあるが、現時点では改選数の差や、各州の動向から共和党側が厳しい戦いを迫られている。共和党側が巻き返し、上院の多数派を死守した場合、下院は民主党が多数派となる可能性が高いため、膠着状態が続くことになる。

もし、共和党側が3議席を減らして50議席となった場合、ちょうど数的には拮抗するが、その場合には形の上の上院議長である副大統領が1票を投じることができるため、大統領がどちらの政党になるのかが議会での多数派を決めることになる。

もし、上院で民主党が多数派を奪還した場合、大統領次第では大統領から上下両院までの民主党の統一政府の可能性すら考えられている。もしそうなった場合、議会運営は民主党が主導で行い、リベラル色の強い政策の立法化が議論されていく可能性もあるだろう。

その中には、クリーンエネルギーの導入などの環境関連や、バイデン候補が掲げている「Build Back Better[3]」という一連の経済復興策に投じられる「米国製品の購入拡大と製造業雇用の創出に少なくとも7000億ドル」「福祉充実で10年間7750億ドル」などの大きな額の政府支出を基にした政策も含まれるであろう。富裕税なども検討されていくかもしれない。

上院には少数派が多数派を止めることができる合法的議事妨害の「フィリバスター」があるが、民主党側からオバマ前大統領が訴えているようなフィリバスターそのものを廃止してしまうような動きも出るかもしれない[4]

分極化そのものはまだ当分は変わらないだろう。その中で選挙結果次第では、民主党の統一政府で「動かない政治」は解消される可能性もある。ただ、話し合いができない中、数の論理で共和党側の意見を押さえつけるような動きになると、少数派となった共和党側の支持者の不満が高まるだけだろう。というのも、根本にある政治的分極化は当分、解消されるとは思えないためだ。

アメリカ政治の機能不全が解消されるには当分、時間がかかりそうだ。



[1] 憲法制定後の最初となる1789年が第1議会で、通算で番号が付けられている。2年間の議会期は、1年単位の2つの会期によって分けられており、奇数年が第1会期(First Session)、偶数年が第2会期(Second Session)である。

[2] https://www.congress.gov/

[3] https://joebiden.com/build-back-better

[4] https://www.nytimes.com/2020/07/30/us/obama-filibuster-senate-democrats.html 
仮に民主党が上院の過半数を奪還したとしても、フィリバスターの廃止は容易ではない。というのも、多数派による規則変更自体を少数派が止めることができるためだ。その少数派の意見を覆すためには、全体の5分の360議席が必要だが、その数まで民主党が獲得するのは難しいとみられている。ただ、極端なやり方であるため「核オプション」といわれる単純過半数で規則変更する手段もないわけではない。

前嶋 和弘

  • 上智大学総合グローバル学部教授