ポピュリズム研究の動向

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ポピュリズム研究の動向

※本稿は、2020227日に開催されたポピュリズム国際歴史比較研究会の第一回会合で報告した内容の一部である。

板橋拓己(成蹊大学法学部教授)

近年、政治学におけるポピュリズム研究の増加は凄まじい。それは何よりも、現実政治の動きを反映している。画期はやはり2016年であろう。この年、欧州連合(EU)離脱を問うイギリスの国民投票で離脱派が勝利し、またアメリカの大統領選で当初誰もがキワモノと思っていたドナルド・トランプが勝利した。そして、この大西洋の両岸で起きた「事件」を説明するキーワードとして脚光を浴びたのが、ポピュリズムである。たとえば『ニューヨーク・タイムズ』で「ポピュリズム(populism)」および「ポピュリスト(populist)」という語が用いられた回数は、2015年の671回から、2016年には1,399回と飛躍的に伸び、さらに2017年には2,537回となった。アカデミズムにおいても、「ポピュリズム」をタイトルに含む論文・書籍の数は一挙に膨大なものとなった。こうして、2019年にポピュリズム研究の動向をまとめたアムステルダム大学の政治社会学者Matthijs Rooduijnは、いまや「政治学においてポピュリズム研究はひとつのインダストリーになった」と結論している[1]

以下では、近年のレビュー論文を参照しながら[2]、ポピュリズムの代表的な定義と説明を簡単に紹介する。本研究会は主に歴史学的な手法からポピュリズムに接近することになるが、領域横断的な対話を可能にするためにも、さしあたり政治学の「主流」の議論をおさえておく必要があると考えるからである。

ポピュリズムの定義

まずはポピュリズムの定義を確認しよう。第一線のポピュリズム研究者が集った『オックスフォード・ハンドブック・オブ・ポピュリズム』は、代表的なポピュリズムの捉え方について、①理念的(ideational)、②政治戦略的(political-strategic)、③社会文化的(socio-cultural)という3つのアプローチを紹介している[3]

第一の理念的アプローチによる定義は、現在の学界で最も優勢なものと言える。このアプローチは、ポピュリズムを「一組の理念(a set of ideas)」と捉える。典型的には、日本語にも訳されたカス・ミュデ(およびクリストバル・ロビラ・カルトワッセル)の次の定義が挙げられよう。

社会が究極的に「汚れなき人民」対「腐敗したエリート」という敵対する二つの同質的な陣営に分かれると考え、政治とは人民の一般意志(ヴォロンテ・ジェネラール)の表現であるべきだと論じる、中心の薄弱なイデオロギー[4]

あるいは、拙訳でやはり日本語版が刊行されたヤン=ヴェルナー・ミュラーの定義もこの範疇に属する。

ポピュリズムとは、ある特定の政治の道徳主義的な想像(moralistic imagination of politics)であり、道徳的に純粋で完全に統一された人民[……]と、腐敗しているか、何らかのかたちで道徳的に劣っているとされたエリートとを対置するように政治世界を認識する方法である[5]

両者の定義から明らかなように、ポピュリズムという理念の根底には、「人民」と「エリート」の二元論があり、さらに「人民」はひとつの「一般意志」を有しているという前提がある。また、そこで「人民」と「エリート」の区別が道徳的なものであることは重要である。なぜなら、ポピュリストが政権を握ったとしても(すなわち、一見「エリート」になったとしても)、「腐敗したエリート」を再定義することで、反エリートの主張を維持することができるからである。

また、「薄い」イデオロギーであるポピュリズムは、他のイデオロギーに寄生する。たとえば、ポピュリズムは、ナショナリズムとも新自由主義とも社会主義とも結びつくことができる。ポピュリズムは社会のある特定の不満を背景に出現するが、その不満の内容が寄生先のイデオロギーを規定し、それがまたポピュリストによる「人民」と「エリート」の区別のあり方にも影響を与えるのである。

このようにポピュリズムは変幻自在で、それ自体では中身に乏しいイデオロギーである。しかしそれはまた、二つの明白な敵をもつ。ひとつは、当然ながらエリート主義である。政治は人民の一般意志を表現すればよいのだから、エリート主義は悪に他ならない。

もうひとつの敵は、多元主義である。多元主義とは、政治は妥協や合意によってできるだけ多くの集団の利害や価値観を反映すべきだという考え方であり、人民/エリート、善/悪の二元論的なポピュリズムとはまさに対極にある。

以上のような理念的・イデオロギー的なポピュリズムの捉え方は、簡潔かつ明晰というだけでなく、理論的研究や質的研究はもちろん、量的研究でも扱いやすく(とりわけ内容分析)、比較研究に適しているという利点もある[6]

とはいえ、一口に理念的アプローチと言っても、ポピュリズムの見方については、論者によって相当な立場の違いがあることは注意されたい。たとえばミュラーは、ポピュリズムが政治的諸権利を掘り崩すことによってデモクラシーそれ自体を毀損していることを強調する。他方でミュデは、「ポピュリズムは本質的には民主的」だが、「リベラルなデモクラシーとは相性が悪い」と主張するのである。

さて、第二の政治戦略的アプローチとは、カリスマ的リーダーによって利用される政治戦略としてポピュリズムを定義するものである。その代表的な研究者であるカート・ウェイランドは、次のようにポピュリズムを定義している。

〔ポピュリズムとは〕ひとつの政治戦略であり、それを通して個性的な指導者(a personalistic leader)は、大部分組織化されていない多数の支持者からの、媒介も制度化もされていない直接的な支持に基づき、統治権力を求めたり行使したりする[7]

第三の社会文化的アプローチも、政治戦略的アプローチと近く、とりわけポピュリストの政治スタイルに着目したものと言える。このアプローチを代表する研究者ピエール・オスティギュイは、政治空間における「上層」と「下層」の次元(high-low dimension)に着目し、ポピュリズムを「『下層』の誇示(flaunting of the low”)」だと定義した[8]。たとえば、意図的に無作法に振舞ったり、タブーを破ったりする政治スタイルをポピュリズムとするのである。

他にもポピュリズムの定義はさまざまであり(たとえば比較政治学者タキス・S・パパスは20通りの定義を挙げ、6類型に整理している[9])、いずれにも長所と短所がある。とはいえ、繰り返しになるが、最も標準的なアプローチはミュデらに代表される理念的な捉え方であり、本稿の後段もそれを前提として話を進める。

ポピュリズムはなぜ台頭したのか

ポピュリズムが発生する原因は何か。なぜある国・地域ではポピュリズムが台頭し、他のところではそうでないのか。現在の政治学はこの問いにさまざまな角度から取り組んでいるが、大雑把に言えば、経済的な説明と文化的な説明の二つの流れがある[10]

第一の経済的な説明だが、典型的には、経済的不平等の存在、あるいは貧富の差の拡大こそがポピュリズム台頭の原因だという議論である。いわゆる「グローバル化の敗者」テーゼもこれに属する。とはいえ、それほど不平等ではない国(たとえば北欧諸国)でもポピュリズムが台頭していることに鑑みると、格差や不平等の存在がそのままポピュリズムの原因になるわけではない。

ここで注目すべきは、客観的な格差・不平等に加えて、人びとが抱く経済的な「不安」である。つまり、経済的要因が重要だとしても、客観的な指標以上に、主観的な指標(たとえば「相対的剥奪感」)の方が、ポピュリズムの台頭を説明するには有益であることが多い。

また、関連して福祉国家のあり方も、ポピュリズムの台頭を左右する。田中拓道が指摘するように、福祉制度が(普遍主義的ではなく)選別的であればあるほど、「我々」と「彼ら」という線引きが生じやすく、排外主義的なポピュリズムが台頭しやすくなるのである[11]

第二の文化的説明については、ロナルド・イングルハートとピッパ・ノリスの分析が有名である[12]。それによれば、「権威主義的ポピュリズム」の台頭は、社会の価値観の変化、すなわち脱物質主義的な価値観の主流化に対する「文化的な反動(cultural backlash)」が原因である(もともと2016年の論文ではポピュリズムそのものが権威主義的性格を有するとされていたが、ミュデらの批判を受け、2019年の著作では「権威主義的ポピュリズム」に議論が限定された)。

つまり、個人の自由や自己決定、男女平等、人種的ないし性的マイノリティの尊重などの動きの拡大に対する反発として、ポピュリズムを説明したのである(とはいえ、古賀光生が指摘するように、西欧の右翼ポピュリスト政党は、移民への態度などで「権威主義的」姿勢を示すものの、社会的な争点については特段「反動的」と呼べない[13])。

もちろん、経済的説明と文化的説明は相互排他的ではない。むしろ、両者を組み合わせて説明する方が妥当だろう。また、ポピュリズム(とりわけ右翼のそれ)の台頭を考える際に「移民」が重要となってくるのは、それが経済的要因にも文化的要因にも関わる存在だからだと言えよう。

加えて、晩年のピーター・メアが指摘した、現代の代表制民主主義における「応答(responsiveness)」と「責任(responsibility)」のあいだの緊張関係は、ポピュリズムの台頭を考えるにあたって重要である[14]。たとえば、グローバル市場や国際制度の影響力の増大は、国家レベルの政治アクターの行動の余地を限定する。そして、その反動がポピュリズムとなって現れるのである(欧州通貨同盟が強いる緊縮政策の反発としての左派ポピュリズムなど)。

これと親和性のある説明として、左右の主流政党の収斂が、ポピュリズムの台頭をもたらしたという議論もある。関連して、エルネスト・ラクラウやシャンタル・ムフは、非政治化ないし脱政治化された自由民主主義に対するラディカルな民主主義的オルタナティブとして、積極的に「左派ポピュリズム」を唱道している[15]

以上からもわかるように、ポピュリズムの台頭を理解するには、ポピュリスト政治家(「供給」側)だけでなく、支持者(「需要」側)も分析する必要があろう。また、ポピュリズムを取り巻く環境、すなわち国際制度や国内の政治構造、あるいは保守政党など「主流」のアクターにも注目する必要がある。

◇さらに読み進めたい読者のための参考資料

 


[1] Matthijs Rooduijn, State of the field: How to study populism and adjacent topics? A plea for both more and less focus, European Journal of Political Research, Vol. 58, Issue 1, 2019, pp. 362-372. 引用はp. 362.

[2] 註1の文献に加え、とりわけ以下を参照した。Cas Mudde and Cristóbal Rovira Kaltwasser, Studying Populism in Comparative Perspective: Reflections on the Contemporary and Future Research Agenda,Comparative Political Studies, Vol. 51, Issue 13, 2018, pp. 1667-1693; Jean-Paul Gagnon, Emily Beausoleil, Kyong-Min Son, Cleve Arguelles, Pierrick Chalave, and Callum N. Johnston, What is populism? Who is the populist? A state of the field review (2008-2018),Democratic Theory, Vol. 5, Issue 2, 2018, pp. vixxvi; Abdul Noury and Gerard Roland, Identity Politics and Populism in Europe,Annual Review of Political Science, Vol. 23, 2020, pp. 421-439.

[3] Cristóbal Rovira Kaltwasser, Paul A. Taggart, Paulina Ochoa Espejo, and Pierre Ostiguy (eds.), The Oxford Handbook of Populism, Oxford: Oxford University Press, 2017. 【以下、The Oxford Handbook of Populismと略】 モフィットによる最新の入門書は「理念的」「戦略的」「ディスカーシヴ=パフォーマティヴ」という3つのアプローチを紹介しているが、これも概ね上記ハンドブックの3つの分類に対応している。Cf. Benjamin Moffitt, Populism, Cambridge: Polity (Key Concepts in Political Theory), 2020, Ch. 1.

[4] カス・ミュデ+クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム――デモクラシーの友と敵』永井大輔・高山裕二訳、白水社、2018年、14頁(原著Cas Mudde and Cristóbal Rovira Kaltwasser, Populism: A Very Short Introduction, New York: Oxford University Press, 2017)。

[5] ヤン=ヴェルナー・ミュラー『ポピュリズムとは何か』板橋拓己訳、岩波書店、2017年、27頁(原著Jan-Werner Müller, What Is Populism? Philadelphia: University of Pennsylvania Press, 2016)。

[6] Cf. Cas Mudde, Populism: An Ideational Approach, in: The Oxford Handbook of Populism, pp. 27-47; Kirk A. Hawkins, Ryan E. Carlin, Levente Littvay, and Cristóbal Rovira Kaltwasser (eds.), The Ideational Approach to Populism: Concept, Theory, and Analysis, London: Routledge, 2018.

[7] Kurt Weyland, Populism: A Political-Strategic Approach, in: The Oxford Handbook of Populism, pp. 48-72. 引用はp. 50. この定義の初出は以下。Id., Clarifying a Contested Concept: Populism in the Study of Latin American Politics,Comparative Politics, Vol. 34, No. 1, 2001, pp. 1-22. 定義はp. 14.

[8] Pierre Ostiguy, Populism: A Socio-Cultural Approach, in: The Oxford Handbook of Populism, pp. 73-97. 引用はp. 73.

[9] Takis S. Pappas, Modern Populism: Research Advances, Conceptual and Methodological Pitfalls, and the Minimal Definition,Oxford Research Encyclopedias, 2016 (https://bit.ly/2lk32Ak).

[10] Noury and Roland, Identity Politics and Populism in Europe, pp. 429-434. 邦語では、池本大輔「ポピュリズムの挑戦とEU」佐々木毅(編)『民主政とポピュリズム――ヨーロッパ・アメリカ・日本の比較政治学』筑摩書房、2018年、16-29頁。

[11] 田中拓道『リベラルとは何か――17世紀の自由主義から現代日本まで』中公新書、2020年、第5章。

[12] Ronald Inglehart and Pippa Norris, Trump, Brexit, and the Rise of Populism: Economic Have-Nots and Cultural Backlash, HKS Working Paper No. RWP16-026, August 2016; Pippa Norris and Ronald Inglehart, Cultural Backlash: Trump, Brexit, and Authoritarian Populism, Cambridge: Cambridge University Press, 2019.

[13] 古賀光生「西欧の右翼ポピュリスト政党の台頭は、『文化的な反動』によるものであるのか?――政策の比較分析から検討する」『年報政治学』2019-Ⅱ号、2019年、84-108頁。

[14] Peter Mair, Representative versus Responsible Government, MPIfG Working Paper 09 /8, 2009; id., Ruling the Void: The Hollowing of Western Democracy, London / New York: Verso, 2013.

[15] シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』山本圭・塩田潤訳、明石書店、2019年(原著Chantal Mouffe, For a Left Populism, London: Verso, 2018)。

板橋 拓己

  • 政治外交検証研究会メンバー/ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/成蹊大学法学部教授