「公共の利益」の担い手は誰か――戦間期オランダにおける政党と「非政党的政党」の角逐

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「公共の利益」の担い手は誰か――戦間期オランダにおける政党と「非政党的政党」の角逐

R-2021-096

※本稿は、2022年3月9日に開催されたウェビナー「歴史から考えるポピュリズム―戦間期ヨーロッパの経験から」で報告した内容の一部である。

本稿では、戦間期のオランダの政党政治を扱う。この時期において展開された政治的対抗関係について、「公共の利益」の担い手をめぐる政党と「非政党的政党」との角逐という観点から考察する。100年近く前の事象でありながら、これを振り返って検証することが今日のポピュリズムを考えるうえでも重要な意味を持つと考え、取り上げたい。

「理想の議員像」の模索
完全比例代表制と小党乱立
二大政党の凋落とポピュリスト政党の台頭
「公共の利益」をめぐる対抗関係

「理想の議員像」の模索

もともとオランダでは、1917年の憲法改正により比例代表制が導入されて以降、現在に至るまで1世紀以上、1議席まで議席を配分する、「完全比例代表制」が採られてきた。途中、総議席数が100から150に増加するなどの変更はあったものの、100年にわたって制度そのものはほぼ変わっていない。0.67%程度の得票率、約7万票で1議席を獲得できる極端な制度により、小党の議会進出は極めて容易である。実際2017年総選挙では、議席獲得した政党は132021年総選挙では17にのぼった。

ではなぜオランダでこのような完全比例代表制が導入されたのか。詳細は省くが、もともと19世紀後半のオランダでは、制限選挙制のもと、単純小選挙区制が採用され、財産と教養を持つ有産階級を母体に、自由主義派や保守派の議員が選ばれていたものの、政党としてまとまることはほとんどなかった。しかし産業化が進むにつれ、労働運動に支えられた社会主義勢力、そしてプロテスタント、カトリックなどの宗派勢力が、政治的に活発化する。しかもこれらの新興勢力は、イデオロギーや綱領を明示し、党員と組織を備える政党を結成していく。

1917年、各勢力の妥協として、普通選挙権と比例代表制の導入が決定される。自由主義、社会主義、カトリック、プロテスタントの4勢力が入り乱れる中で、一定の議席を確保できる比例代表制は、お互いに得策と思われた。しかし自由主義派や保守派からすると、比例代表制は政党の権力を強め、議員の自律性を損ない、議会のあり方を歪めるものと捉えられた。彼らにとって国会議員とは、有権者によって拘束されることなく、国民全体の利益を図るために働く存在である。しかし比例代表制により、政党が候補者選定から選挙運動、活動資金に至るまで支配下に置くことで、議員たちは政党に従属し、議員は単に「上官の命令を忠実にこなすだけの党兵(partijsoldaat)」に落ちぶれてしまうという。

ここで争点となったのは、議会政治の主役は自律性を持ち、「公共の利益」のために働く議員なのか、それとも特定のイデオロギーや理念を掲げ、支持者の利益・信条を実現するために活動する政党なのか、という問題である。政党は公共の利益に資する存在なのか、それともpart部分利益に資するのか、という対立でもある。

そこで自由主義派から提案されたのが、政党が議席を獲得できる得票率(阻止条項)をミニマムとし、獲得議席1で議会に進出できる完全比例代表制だった。すなわち、1人政党による議席獲得を可能とすれば、既成の政党の枠内にない人物が、単独で選挙に参加し、議席を獲得することができる。これにより、政党から自立した著名人、優れた能力を持つ人士、「野武士」(wilden)のような人々が議員となり、議会の活性化に貢献するだろう。個々人が「公共の利益」のために活動する、「理想の議員像」がその背景にあった。

完全比例代表制と小党乱立

ただ、現実は厳しいものだった。普通選挙と比例代表制の導入された1918年選挙では、労働者や民衆階層に支持の多い、社会主義、およびカトリック、プロテスタントのキリスト教系勢力が圧倒的地位を占め、それ以後、21世紀の初めまで、オランダ政治を中核として担ったのは、キリスト教民主主義と社会主義の二大勢力だった。

では、「優れた能力を持つ人士」は議会に送られたのか。実は1918年選挙では、雨後の筍のように新党が結成され、選挙に参加している。たとえば無党派系の元大臣の結成した経済同盟、飲食業界に支持された中間層党、エンターテインメント業界に支持された中立党、下士官団体に支持された国防軍民主化連盟、農民層に支持された農民同盟は、それぞれ1議席を得て議会に進出を果たした。彼らは既成政党を真っ向から批判して選挙運動を展開した。特に農民同盟の指導者アレント・ブラートは有名で、夏時間反対闘争の先頭に立つなど目立つ行動で知られている。しかしこれらの政党は、いずれも議会で冷遇された。そのほとんどは消滅・吸収の道をたどった。

1922年選挙では、無所属議員選出委員会なる政党が結成され、有権者の信頼に足る「能力と人格」を持つ人物を議会に送ることを掲げ、選挙運動が展開された。反政党の立場を明示したこの団体には、歴史家として名高いホイジンガをはじめとする文化人、芸術家らも多数、支持を寄せた。この団体は、候補者をアルファベット順に名簿に並べることで、政党組織による支配を拒否する姿勢を明示した。しかしこの新党は、議席獲得に失敗した。「反政党的な政党」が議席を得、継続的に議会で存在感を発揮することは、一種の自己矛盾を抱えていたといえようか。以後、小党の選挙参加じたい低調となる。1930年代、国民社会主義運動というファシズム政党が一定の支持を得て議会進出するが、得票率が1割に達することなく既存の政党群に跳ね返される。この政党は、1940年のドイツによる占領下で占領当局の手先として活動し、ユダヤ人狩りに手を貸すこととなった。 

二大政党の凋落とポピュリスト政党の台頭

こうして1920年代以降、オランダ政治はキリスト教民主主義・社会民主主義の二大勢力が多数を占める安定的な状況が続く。オーストリアやドイツも同様であり、いわば「教会と労組」をバックとした二大政党といえる。

しかしこの状況が大きく変化したのが1990年代以降である。世俗化、都市化、個人化、宗教やイデオロギーの凝集力が低下し、固定的な支持基盤が解体し、特に二大勢力への支持は低下の一途をたどった。特に2017年総選挙では、社会民主主義政党の得票率は6%に落ち込んでしまう。

21世紀に入ると、完全比例代表制をてこに、多様な政党が議会に進出した。イスラム移民系の政党、デンク。50歳以上の年齢層の利益擁護を掲げる50プラス党。最もユニークなのが動物党で、動物の権利を憲法に規定することを目指し、動物福祉(アニマル・ウェルフェア)を前面に掲げて支持を集めている。

他方、ポピュリスト政党の進出も著しい。まず右派ポピュリスト政党では、2002年フォルタインが設立したフォルタイン党、2006年にはウィルデルスが設立した自由党が、いずれも選挙初参加で議席を獲得し、それ以後、オランダは移民・難民政策の厳格化に舵を切っていく。左派では社会党という政党がある。オランダではすでに2000年代、近隣国より早くポピュリスト政党が進出したが、その背景にあったのが、完全比例代表制だった。これらの新党は、個性的な指導者たちがメディアやSNSを使って発信を行い、支持を獲得している。自由党のウィルデルスは、ツイッターのフォロワーが90万人に達している。以上のように見ると、宗教やイデオロギーを軸に結集した20世紀型社会が解体した21世紀になって初めて、既成政党の枠に拠らずに比例代表制の仕組みを用いて多様な主張や人物が議会に参入し、継続的に存在感を発揮することが可能になった面がある。1世紀前の完全比例代表制の「制度趣旨」が、ようやく実現されたようにも見える。 

「公共の利益」をめぐる対抗関係

それでは最後に、国際的な視点から、戦間期と現代を比べてみたい。戦間期と現代は、いずれも既存の体制が揺らぎ、多様で新たな政治勢力が「開花」し、新規参入していく時代という共通点がある。戦間期は第一次世界大戦、現代はグローバル化や情報革命という大きな衝撃を受けた、変動の時代という点で共通している。

そのような変動が、何をもたらすのか。3つのパターンがある。第一は、今見たように、戦間期のオランダなど、既存の勢力が「安定化」に成功するパターン。第二は、 新興勢力を包摂し、「再安定化」に持ち込むパターン。戦間期の各国では、反体制的だった社民政党が「体制内化」していく現象がみられた。そして第三は、新興勢力の台頭により、最終的に、既存の体制が「崩壊」するパターンで、戦間期のドイツ、イタリアなどがこれにあたる。

では現代のオランダはどうか。一方でポピュリストを含む新興の「非政党的政党」群が台頭する一方、既成政党は弱体化の一途をたどっており、の安定化パターンの再現は難しいようにも思える。いずれにせよ、既成政党と「非政党的政党」との「公共の利益」をめぐる対抗関係は、戦間期から100年を経て、再び私たちの目の前でダイナミックに展開しているといえよう。

*本報告で扱った内容に関し、より詳細を知りたい方がおられたら、水島治郎「オランダ:「完全比例代表制」の1世紀」日本政治学会編『年報政治学2021-12021年、40-61ページをご参照ください。


参考文献

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  • 作内由子、2016、「オランダにおける「政党」の成立―保守党の失敗とカルヴァン
  • 派政党の成功」水島治郎編『保守の比較政治学―欧州・日本の保守政党とポピュリズム』岩波書店、5778ページ。
  • 水島治郎、2016、『ポピュリズムとは何か―民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書。
  • 水島治郎、2017、「「ひとり政党」の一人舞台はならず―二〇一七年オランダ総選挙とポピュリズム政党」『世界』895号、203214ページ。
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  • Vossen, Koen, 2013, Rondom Wilders: Portret van de PVV, Amsterdam: Boom.

 

水島 治郎

  • 千葉大学大学院社会科学研究院教授