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戦間期から現代への架橋――歴史から得るべき教訓とは
ウィンストン・チャーチルと書斎、1939年2月25日。第二次世界大戦が勃発する約半年前の写真(写真提供:Getty Images)

戦間期から現代への架橋――歴史から得るべき教訓とは

April 28, 2022

R-2021-094

「ナチスを助長した保守派が彼らを権力から引きずり降ろす機会がありながら、それを見逃したのはなぜか」「それはデモクラシーを守ることと自分の権力維持を天秤にかけて、後者を取ったということ。この教訓は絶対に忘れてはなりません」――各報告後の質疑応答で明らかにされた人類が忘れてはならない戦間期欧州の歴史の教訓とは。

※本稿は、2022年3月9日に開催されたウェビナー「歴史から考えるポピュリズム―戦間期ヨーロッパの経験から」で報告した内容の一部である。

【登壇者】
ゲストスピーカー
水島治郎(千葉大学教授)
歴史分析プログラム ポピュリズム国際歴史比較研究会プログラムメンバー
細谷雄一(東京財団政策研究所研究主幹/慶應義塾大学教授)
高橋義彦(北海学園大学准教授)
長野晃(慶應義塾大学法学部専任講師)
板橋拓己(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

あらためて、ポピュリズムとは何か
歴史の連続性
マルクス主義運動とポピュリズムの関係
「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」

あらためて、ポピュリズムとは何か

細谷 ご登壇の先生方、貴重なご報告をありがとうございました。引き続き、会場から寄せられた質問に時間の許す限りお答えいただきます。

最初の質問です。「論者や学者によってポピュリズムの定義も、ファシズムの定義も極めて多様である。先生方はこの両概念、およびその背後にあるナショナリズム概念の同一性と異質性について、どのように理解されているのか」――重要な問題提起です。最初に水島さん、お願いします。

水島 即席で図(図1)に表してみましたので、参照ください。まさにポピュリズム、ファシズム、そしてデモクラシーには共通する面も異なる面もあります。ただし、ファシズムとデモクラシーは両立しません。一方、ポピュリズムは、デモクラシーともファシズムとも共通する面があります。

<図1:ポピュリズムとファシズム、デモクラシー、ナショナリズムの関係>
出所 水島治郎作成

水島 デモクラシーの原則の一つである多数派支配は、ポピュリズムの核心でもあります。しかし、デモクラシーの他の原則、すなわち法の支配、権力分立、自由の保障、少数派の権利保護などについては、ポピュリズムは排除の対象とします。つまり、デモクラシーとポピュリズムには共通する面と対立する面とがあります。

一方、ポピュリズムはファシズムとも共通する面を持ちます。それは多数派の意向を盾に、それが唯一の正しい解だという権威主義的な思考を持つ側面です。しかし、ファシズムとポピュリズムは同一ではありません。ポピュリズムはデモクラシーの装いをもちながら多数派支配を続けていくのに対し、ファシズムは、デモクラシー的な部分はすべてかなぐり捨てて独裁的な統治に移行します。

このように、ファシズムとデモクラシーの両方に架橋する微妙な立ち位置にあるところにポピュリズムの概念の難しさがあります。

高橋 ポピュリズムには「腐敗したエリート」と「正しい人民」を対置して、正しい一つの人民を根拠に選挙で勢力を拡大していくという側面があり、戦間期のファシズムにもそうした特徴を見て取ることができます。

一方、ポピュリズムとファシズムの違いにおいて、物理的な暴力は重要な要素だと感じます。先ほどの私の報告で、ファシズム研究者のロバート・パクストン氏がドナルド・トランプ前米大統領をファシストと批判したことを紹介しました。しかしパクストン氏はもともとトランプ前大統領を安易にファシストと呼ぶことに批判的な立場でした。彼に考えを変えさせたのが202116日の米連邦議会議事堂襲撃事件でした。つまり、民間の暴力を煽動するような行動をとったことで、トランプ前大統領はポピュリストではなくファシストとみなされるようになったわけです。

板橋 そうですね。最近のヴァイマル共和国研究では、いかにヴァイマルが政治的暴力に溢れた社会であったかが強調されています(日本語では原田昌博『政治的暴力の共和国』名古屋大学出版会、2021年)。

ポピュリズムとファシズムの違いとしては「指導者原理」も挙げられます。ファシズムの思想・運動・体制にとって「指導者」の役割は決定的です。ある強力な指導者を頂点として、支持者たちはその指導者の「意思に沿って」あるいは「忖度して」動くという構造があります。これはポピュリズムとは異なります。例えば、「ドイツのための選択肢(AfD)」をはじめヨーロッパの右翼ポピュリズム政党の多くは、「正しい人民」を代表すると主張していればよく、指導者の存在はそれほど大きな意味をもっていません。

もう一つ付け加えると、ファシズムはポピュリズムやデモクラシーと異なり、極めて扱いにくい概念です。それは、ファシズムが多くの場合、絶対悪のレッテルとして用いられるからです。「ファシスト」という呼称は、相容れない思想を持つ相手を悪し様に形容する目的で用いられがちです。当然、そう名指された相手との対話は不可能になります。ファシズム研究者の間でも、この概念の適用を戦間期に限るのか、それとも現代にも拡張可能かについては、意見が分かれるところです。

細谷 ナショナリズムについてはいかがでしょう。

水島 ナショナリズムはファシズムともポピュリズムともデモクラシーとも相いれるものであり、しかしどれとも一致しないものです(図を参照)。何らかのネーションを規定したうえで、そのネーションに強い価値を置いて、他のネーションと差別化するところで、ファシズムと親和性があります。ポピュリズムは極めてナショナリズム的です。先ほどの高橋さんの報告で、戦間期オーストリア国内では財政主権を譲ることになる借款の受け入れに反対する声が大きかったことが紹介されました。デモクラシーにもナショナリズムと親和的な部分があります。いまのウクライナのナショナリズムは否定されるべきものではありません。

歴史の連続性

細谷 2つ目の質問です。「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)6カ国(フランス、旧西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)による欧州統合の成立に、戦間期のポピュリズムの経験が何か関係しているのか」――欧州統合についての歴史研究者の意表をついた質問です。戦間期あるいは第二次世界大戦中から今日までの歴史の連続性についてはしばしば論じられるところですが、いかがでしょうか。

水島 ECSCの設立から始まる欧州統合の流れには、基本的にはキリスト教民主主義系の政治家、特に戦後大陸欧州のカトリック系の政治家のネットワークがベースにあることが指摘されています。のちに社会民主主義の政治家も加わったので、欧州統合はいわばキリスト教民主主義と社会民主主義の共同作業であった。それゆえ、英国は最後までそこに乗り切れなかったといえます。ポピュリスト側から見れば敵、つまり非ポピュリスト的な、どちらかといえば既成勢力にあたるキリスト教民主主義と社会民主主義が欧州統合の中核にいたということです。逆に、欧州統合に疑問を呈する勢力は、反キリスト教民主主義・反社会民主主義・反既成勢力であり、かつポピュリスト的な訴えを叫ぶ。そういう構図がいまに至るまで存在するのではないかと思います。

板橋 第二次大戦後の欧州では、戦間期は人民主権の危険性が噴出した時代ととらえられました。政治学者のヤン=ヴェルナー・ミュラー(米プリンストン大学教授)は、戦後欧州は「人民主権への根深い不信」に基づいた、「抑制されたデモクラシー」の時代であったといいます。そして彼は、欧州統合も人民主権を抑制する仕組みの一つであると位置づけます(ヤン=ヴェルナー・ミュラー『試される民主主義』岩波書店、2019年)。ECSCから欧州統合が拡大・深化して市民生活にまで権力を及ぼすようになり、いま、人民の名を借りたポピュリズム勢力に復讐されている状況です。欧州連合(EU)官僚はポピュリズム政党の格好の標的となっています。

マルクス主義運動とポピュリズムの関係

細谷 3つ目の質問です。「マルクス主義運動はポピュリズムの概念に収まるものなのか。前衛と大衆の区別をはっきりつけるところなどはポピュリズムと異なるが、共通性もある」――特に人民の概念、政治思想の重なる部分について、いかがでしょうか。

高橋 さきほど私はオーストリアの社会民主党を左派ポピュリズムの一つとして報告しました。しかし社会民主党をはたして左派ポピュリズムと分類できるかどうかについては慎重を要するところです。ただ、本日は1932年の借款問題に的を絞って、それが現代の左派ポピュリズムと共通点があると論じたわけです。必ずしも社会民主主義運動が左派ポピュリズムであるわけではないと思っています。

長野 マルクス主義をどうとらえるのかによるでしょう。どういう革命を思い描いているのか、プロレタリア独裁はどういうものなのか、などいろいろなバリエーションでとらえられます。いずれにせよ、マルクス主義はラディカルに社会を変革しようとする方向性があって、代表制デモクラシーを少なくとも否定的にみる。これに対して、ポピュリズムは代表制デモクラシー内部の現象としてとらえられます。社会を変革するというよりは、格差が拡大していることなどを養分としながら出来上がる歪みとしてポピュリズムはとらえられると思います。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

細谷 4つ目の質問です。「昨今エコーチェンバーが問題視されています。現在の分断化された情報網を俯瞰してみるために、われわれはどう振る舞うべきか」――似た考えの持ち主が意見を交換することで特定の思想や価値観が増幅されていく現象、「エコーチェンバー」は深刻な問題です。特殊な政治空間を生み出し、デモクラシーを蝕む要因にもなります。

板橋 日ごろから学生によく聞かれる問題です。もちろん、意識的に多様な情報に接しようとする努力が必要ですが、この場では、何よりもメディアと専門家の役割が重要だと強調しておきます。今日はメディアの方にも多数出席いただいています。われわれ専門家・研究者も協力しつつ、責任意識をもって、質の高いニュース報道をつくっていければと思います。

細谷 それでは、時間の制約により最後の質問です。「ナチスを助長した保守派が彼らを権力から引きずり降ろす機会がありながら、それを見逃した理由とは。また現在のアメリカで、共和党内にトランプ前大統領の明確な暴力(ファシスト)化を機に彼から距離を置く者と、依然として彼を支持する者がいる。当時のナチスとドイツ保守派の関係で相似点はあるか」――現代と連関性のある示唆に富む重要な論点です。

板橋 保守派はなぜナチスを助長し、彼らを許容したか。これはデモクラシーを守ることと自分の権力維持を天秤にかけて、後者を取ったということです。この教訓は絶対に忘れてはなりません。しばしば、ポピュリスト政党を連立政権に組み入れて、飼い馴らせばいいという議論があります。それは功を奏するときもあるのですが、そうした戦略の危険性を認識する必要があります。

ご質問の論点を含め、戦間期研究はいま、残念ながらアクチュアルになってしまったと感じています。そうしたなかで、歴史から学べることがあると思います。いま、ウクライナ情勢が緊迫するなかで、たとえばナチスの侵略拡大を許した宥和政策に再び注目が集まっています。また、現代ロシアの行動原理を知るうえで、小泉悠(東京大学専任講師)さんの著作『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、2019年)は必読かと思いますが、同書では戦間期ドイツの地政学がロシアに流れ込んでいることが指摘されています(「ワイマール・ロシア」と題した節があります)。そしてもちろん、先ほど私たちが報告したような事例からも、学べることがあるはずです。

細谷 最後に胸に響く重たいご指摘をいただきました。我々はつい最近まで、研究会などで「ポピュリズムの拡大、ナショナリズムの増強、政治の不安定化、社会の分断、デモクラシーの後退。現代社会は戦間期に酷似している」と指摘しながら、「でもさすがに欧州で戦争は起こらないだろう」と付け加えていたわけです。ところがいま、ロシアによるあからさまな侵略戦争が起きていて、しかもそれはサイバー空間や高度なハイテク兵器を使った新しいかたちの戦争ではなくて、古典的な戦争です。われわれはモノクロ映画でみてきたような無差別攻撃により建物が破壊され、廃墟となった欧州の街の景色を、スマホやソーシャルメディア(SNS)などを通じてリアルに目の当たりにしています。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」――独初代宰相オットー・フォン・ビスマルクの有名な言葉です。20世紀の経験がありながら、なぜ人類は凄惨な戦争の歴史を繰り返すのでしょうか。いまこそ歴史から示唆を得て、鑑識眼を養うべきときです。また、板橋さんが指摘したように、専門家やメディアの方々が現代的な問題意識を持って歴史を振り返るべき時代でしょう。まさに『危機の20―― 1919-1939年』を著した英国の歴史家、EH・カーが「歴史とは過去と現代とのいきいきとした対話である」と言い表したように、歴史を過去の事実の集積としてだけではなくて、現代の政治と結びつけながら考え、現代のアクチュアルな問題について何らかの示唆を得ていかなければなりません。今日は4人の先生方がそれらを見事につなげられて、示唆に富むご報告をいただきました。ありがとうございました。

    • 細谷 雄一/Yuichi Hosoya
    • 研究主幹
    • 政治外交検証研究会幹事 / ポピュリズム国際歴史比較研究会幹事
    • 細谷 雄一
    • 細谷 雄一
    研究分野・主な関心領域
    • 国際政治学
    • 国際政治史
    • 日本の安全保障政策
    • 現代イギリス外交史
    研究プログラム
    • 政治外交検証研究会メンバー/ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/東京大学大学院法学政治学研究科教授
    • 板橋 拓己
    • 板橋 拓己
    • ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/慶應義塾大学法学部専任講師
    • 長野 晃
    • 長野 晃
    • ポピュリズム国際歴史比較研究会メンバー/北海学園大学准教授
    • 高橋 義彦
    • 高橋 義彦
    • 千葉大学大学院社会科学研究院教授
    • 水島 治郎
    • 水島 治郎

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