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アメリカ大統領選挙UPDATE 2:共和党予備選挙における外交安全保障問題 (中山俊宏)

December 12, 2011

まず2012年大統領選挙に向けての構図の中で特徴的なことは、外交安全保障政策分野に関して共和党が必ずしも優位に立っていないことだ。国民によるオバマ大統領の分野毎の評価を見ても、対テロが63%で不支持の31%を大きく上回り、イラク情勢についても52%と不支持の41%を10ポイント以上も上回っている。対外政策一般についても、支持が49%、不支持が44%である。これとは対称的に国内案件については、不支持が支持を大きく上回っている(11月9日発表のギャラップ社による調査)。

やや大袈裟にいえば、この構図はケネディ政権以来のものかもしれない。反共リベラルとして知られたケネディ政権は、その「タカ派性(hawkishness)」において、共和党に劣ることはなかったが、ケネディ政権以降、ベトナム戦争を経て、民主党は「ソフト路線」に転換していく。その頂点はいうまでもなく、72年に反戦派のジョージ・マクガヴァンを大統領候補として選出したことだ。やや単純化していえば、76年のカーターも、92年のクリントンも、その延長線上に定置できるだろう。

もちろん外交安全保障政策に関し、国民が民主党の路線により親和性を見出したケースはあった。例えば2008年、「ブッシュ・ドクトリン」に疲弊したアメリカ国民は、国際協調路線を志向したオバマ候補を選んだ。しかし、最高司令官(コマンダー・イン・チーフ)としての信頼度という点では、共和党のマケイン候補が一貫してオバマ候補を上回っていた。これと比較すると、今回は単にオバマ路線に親和性を見出しているのみならず、「最高司令官」としてもオバマの方が共和党候補たちを上回っているという構図が確立しつつある。このイメージを固めたのは、やはりビンラディンの殺害をめぐる決断だろう。たしかに、この作戦を成功させたことの直接的な政治的効果はもはや見られないが、共和党に攻め入る隙を与えていないという点においては、持続的な効果を発揮しているといえる。

さらに、今回の選挙で特徴的なのは、共和党側に、外交安全保障経験を前面に押し出せる主要候補が一人としていないことだ。唯一、十分な経験を有しているジョン・ハンツマン前中国大使のキャンペーンは鳴かず飛ばずの状態で、ニューハンプシャー州の予備選にすべてをかけている状態だ。一時的にロムニーを超える人気を博したケインは、外交問題に関する失言がきっかけとなり失速していった。ペリー候補もかなり危うい発言をしているし、ロン・ポールは原理主義的なリバタリアンとして、アメリカの対外関与そのものを最小化しようとしている。バックマンは、下院情報特別委員会委員として専門的な知識を振りかざしはするが、世界観があるとは到底思えない。勢いを増しつつあるギングリッチは、例によってこれからどのような失言をするかわからない。唯一失言をしていないのが、安定飛行を続けるロムニーで、彼は外交政策文書をすでに発表し、「大統領らしさ」をアピールしようとしている。

ロムニーの世界観は、アメリカに対する脅威という視点から構築されたものであり、それに対する解答は、「アメリカの力」である。ロムニーの外交政策文書は「アメリカの世紀」と題されているが、大きく変化する世界にアメリカがどうのように適応するかという視点は希薄で、アメリカが自ら国際情勢を形成していく能力があることが前提となっている。このコンテクストでいうと、オバマ大統領の「太平洋国家宣言」は、アメリカの衰退を容認した敗北主義ということになる。共和党の予備選対策とはいえ、あまりにナイーブに「アメリカの力」を前提にしているとの印象を禁じえない。

個別の政策を見ていくと、意外に対立がはっきりと浮かび上がってくる。対イラン政策、アフガニスタンからの米軍の撤退、開発援助の是非については、はっきりと温度差がある。今回は中国についても、これまでには見られなかった違いがある。ペリーやロムニーは、中国の台頭を脅威と認識し、対決姿勢をはっきりと打ち出しているのに対し、ハンツマンはむしろ中国を敵に仕立て上げていってしまうことに懸念を表明し、ポールはお決まりといえばそれまでだが、中国の国内事情にアメリカは立ち入るべきではないとの不干渉主義をはっきりと打ち出している。これらは対外政策について、共和党の中で大きな迷いがあることを象徴したものといえるだろう。

今回の選挙で、外交安全保障問題はマージナルな案件に過ぎない。国民の関心は完全に内を向いている。これまで2回、外交安全保障に特化したディベートがあるにはあったが、国民の間に関心を呼び覚ましたとは言い難い。しかし、一方で、本選挙に入れば、アメリカ国民の間には「最高司令官」を選択するという意識が生まれてくるだろう。その意味で、どんなにマージナルな扱われ方をしていても、潜在的には重要案件であり、オバマ大統領がここで失点しそうにないことは大きな意味をもってくる可能性がある。

冷戦後からポスト9.11の時代を経て、さらにポスト・ポスト9.11の時代に突入しつつある世界は複雑さの度合いを深め、もはや冷戦時代のようにわかりやすい対立の構図が見出しにくい世界となっている。これに対し、ポールの退却論にせよ、ロムニーの力の外交路線にしろ、新しい時代に適合的な世界観を共和党はいまのところ示せていないのが現実だ。

    • 慶應義塾大学総合政策学部教授
    • 中山 俊宏
    • 中山 俊宏

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