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【論考】AIの壮大な社会実験となる2026年FIFAワールドカップ大会
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【論考】AIの壮大な社会実験となる2026年FIFAワールドカップ大会

May 22, 2026

※このたび、研究プロジェクト「AIデータ利活用社会の実現」(研究代表:藤田卓仙主席研究員)では、クラウド分野のGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)に精通する一般社団法人日本クラウドセキュリティアライアンス代表理事の笹原英司氏にご寄稿いただきました。


米国内では、2026年ワールドカップ大会が連邦政府主導の「国家特別安全保障イベント(NSSE)」に指定され、テロ対策から公衆衛生までを網羅する統合的な管理体制が敷かれます。州ごとに異なるパッチワーク状態の法規制を大統領令やAI立法フレームワークで調整し、大会全体をAIガバナンスの実証フィールドと位置づけています。AI技術が大会運営の中核を担う中、COPPAChildren's Online Privacy Protection Act/児童オンラインプライバシー保護法)改正規則に基づく「子どものデータ保護」とプラットフォームの責任が重要テーマとなっています。日本代表チームの初戦が予定されるテキサス州でも、リアルタイムベースの最新AI技術と公衆衛生、国家安全保障を融合させた新たな米国型ガバナンスのモデルケースの検証にむけた対応準備が進んでいます。

この記事のポイント
・米国内では2026年FIFAワールドカップが連邦政府主導の「国家特別安全保障イベント(NSSE)」に
・連邦法と州法のガバナンスを調整する「AIサンドボックス」としての大会に
・子どものデータ保護を強化したCOPPA規則改正後のプラットフォームに注目

1.はじめに
2.米国連邦政府の支援:国家安全保障としての2026年ワールドカップ大会
3.AIガバナンスの主導権争い:連邦法 vs. 州法
4.最重要課題:「子どもの保護」とプラットフォームの責任
5.おわりに

1.はじめに

2026611日から719日にかけて、国際サッカー連盟(FIFA)主催の第23回ワールドカップ大会(FIFA World Cup 26)が、米国、カナダ、メキシコの北米3か国で共同開催される[1] 。史上最多の48チームが参加し、3か国16競技会場で全104試合が実施される大型大会となる。今回の大会運営における役割分担は、以下のようになっている。

・統括(主催者):FIFAが大会全体の規則策定、チケット販売、放送権の管理、スポンサー契約などを主導する。
・共同開催国:米国(11都市)、メキシコ(3都市)、カナダ(2都市)の3カ国が会場を提供し、政府レベルでのサポートを行う。
・現地運営組織:各会場のホストシティごとに設置されたホスト委員会(Host Committee)が、スタジアム運営やファンの受け入れを担当する。

 各国の開催会場およびホストシティは、以下の通りである。

 [カナダ] ホストシティ:2都市
BMOフィールド(オンタリオ州トロント)
BCプレイス(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)

[メキシコ] ホストシティ:3都市
・エスタディオ・アステカ(メキシコシティ)
・エスタディオ・アクロン(ハリスコ州グアダラハラ)
・エスタディオ・BBVAエスタディオ(ヌエボ・レオン州モンテレイ)

[米国ホストシティ:11都市
・メルセデス・ベンツ・スタジアム(ジョージア州アトランタ)
・ジレット・スタジアム(マサチューセッツ州ボストン)
AT&Tスタジアム(テキサス州ダラス)
NRGスタジアム(テキサス州ヒューストン)
・アローヘッド・スタジアム(ミズーリ州カンザスシティ)
SoFiスタジアム(カリフォルニア州ロサンゼルス)
・ハードロック・スタジアム(フロリダ州マイアミ)
・メットライフ・スタジアム(ニューヨーク/ニュージャージー)
・リンカーン・フィナンシャル・フィールド(ペンシルベニア州フィラデルフィア)
・リーバイス・スタジアム(カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリア)
・ルーメン・フィールド(ワシントン州シアトル)

 2026FIFAワールドカップ大会は、北米3か国の国境を越えた広域開催大会となるため、不可欠なインフラとして、人工知能(AI)の活用が期待されている。FIFAとその公式技術パートナーであるレノボ(Lenovo)は、AIを活用した新しい判定・分析システムとして、「AI 3Dアバター」や「レフリービュー」を導入するほか、チーム運営の民主化のために、生成AIツールである「Football AI Pro」を全出場チームに提供して、データに基づいた高度な戦術立案を可能にするとしている[2]

また、実際に大量のファンを受け入れるスタジアムおよびその周辺地域では、群衆管理やテロ対策を目的としたAI監視カメラやリアルタイムデータ解析システムの導入・運用に向けた準備が進んでいるほか、ドローン禁止区域(No Drone Zone)の設定、ドローンを無力化する最新技術(C-UAS)の導入など、危機対応への取り組みも行われている[3]

 反面、AIやデータ保護に係る法規制は、開催3カ国および参加選手の出身国の間でまちまちである。このような「パッチワーク」の法規制状況の下で、国境を越えたAIガバナンスをどのように維持していくのか、世界から注目されている。

 ここからは、AIやプライバシー・データ保護に関する法規制が全国レベルおよび州レベルで複雑に絡み合っている米国に焦点を当てていくことにする。

2.米国連邦政府の支援:国家安全保障としての2026年ワールドカップ大会

202537日、米国のドナルド・トランプ大統領は、大統領令14234号「2026 FIFAワールドカップに関するホワイトハウス・タスクフォースの設立」に署名した。この大統領令は、2026年に米国、カナダ、メキシコで共同開催されるFIFAワールドカップの成功に向け、連邦政府内の調整を統括する「FIFAワールドカップ2026ホワイトハウス・タスクフォース」の設置を規定するものである[4]

 このタスクフォースは、トランプ大統領を議長、JD・ヴァンス副大統領を副議長、ルドルフ・ジュリアーニ氏を執行責任者とする体制で構成され、以下の通り、ホワイトハウスおよび各省庁・機関が参画している[5] 

・国家安全保障担当大統領補佐官
・大統領副補佐官(戦略実施担当)
・国土安全保障アドバイザー
・議会・政治・広報担当の副補佐官
・国務省: ビザ発給、外交、国際協力
・財務省: 経済的影響、金融制裁確認
・国防省: 安全保障、対テロ支援
・司法省: 法執行、セキュリティ調整
・商務省: 観光・経済促進、放映権管理サポート
・運輸省: 都市間・空港交通、インフラ調整
・国土安全保障省: タスクフォースの事務局。 税関、警備、サイバーセキュリティ
・連邦捜査局: 国内セキュリティ・情報収集 

タスクフォースは、11の米国内ホストシティ、各国政府、およびFIFAとの連携を深め、セキュリティ、入国管理、交通インフラ、公衆衛生などの多岐にわたる分野で万全の準備を整えることを責務としている。特に、2026年が米国の独立250周年にあたることから、大会を国家的な祝祭と位置づけ、米国の経済的利益の最大化と国家安全保障の両立を目指している。

 このタスクフォースは、単なる諮問機関にとどまらず、国土安全保障省内に予算と管理部門が置かれ、各省庁が具体的な準備状況を報告する義務を負っている。特に国土安全保障省は、大会の安全確保のために「ワールドカップ委員会(World Cup Commission)」という諮問団体を別途設置し、民間セクターとも緊密に連携して、ドローン対策やスタジアムのセキュリティ強化に連邦予算を投じている[6]

 なお、米国連邦政府には、「国家特別安全保障イベント(NSSENational Special Security Event)」という仕組みがあり、その規模や性質から「テロ攻撃の標的となる可能性が極めて高く、国家的・国際的に重大な影響を及ぼす」と判断された大規模な行事が指定の対象となる。指定に際しては、国土安全保障省(DHS)長官が、出席者の重要性(大統領や外国首脳が出席するかどうか)、規模(観客数や参加国数)、象徴性(そのイベントが持つ歴史的、政治的、文化的な意義)を考慮して判断することになっている。2026FIFAワールドカップ大会は、このNSSEの指定を受けている。

 通常、イベントの警備は地元の警察が担当するが、NSSEに指定されると、米国連邦政府が全責任を持って直接指揮を執る。米国連邦政府では、米国シークレットサービス(USSS)が全体の警備計画と実施の主導権を握り、以下のような形で役割を分担する。 

・米国シークレットサービス (USSS):警備計画の策定と実施
・連邦捜査局(FBI):情報収集、捜査、テロ対策
・連邦緊急事態管理庁 (FEMA):災害発生時の応急処置や復旧支援 

NSSE(国家特別安全保障イベント)の指定を受けたイベント期間中、感染症の流入や集団発生等の公衆衛生リスクへの対応において、医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)の「公衆衛生例外」規定に基づき、医療機関等は患者の個別の同意(許可)を得ることなく、公衆衛生当局に対して必要な保健情報を開示することが認められている。 これにより、当局による迅速な症候群監視や接触者追跡が可能となる。 

加えて、軍の特殊部隊、バイオテロ対策チーム、高度な対ドローンシステムなど、地元の警察では用意できないレベルの装備と人員が連邦予算で投入される。 

これらの連邦政府機関のうちFEMAは、2026FIFAワールドカップの安全な開催に向け、以下の通り、連邦・州・地方自治体および民間セクターとの強力な連携体制を構築している[7]

 ・全方位的な協力体制:FEMAは国土安全保障省やFBI、米国シークレットサービスと協力し、自然災害から人為的な脅威まで、あらゆる緊急事態に対応するための準備を進めている。
・地域社会のレジリエンス強化:米国内の開催11都市に対し、技術支援やトレーニング、資金提供を行い、大会期間中のインフラ保護と公共安全を確保する。
・民間セクターとの連携:スタジアム運営者や交通・通信事業者などの民間パートナーとも情報を共有し、大会の円滑な運営と、万が一の際の迅速な復旧・支援体制を整えている。 

FEMAは、2026318日、セキュリティ対策強化費として、62500万米ドルを州・地方自治体に交付している[8]。さらに、災害対応準備に含まれる公衆衛生・健康危機管理の観点からみると、FEMAは、以下のような支援策を提供している[7] 

・多数傷病者発生事態への対応訓練:
FEMAは、ホストシティの緊急管理担当者や初動対応要員に対し、テロや事故、群衆事故などの際に、迅速かつ効率的に医療支援を行い、被害を最小限に抑えるための「多数傷病者発生事態(Mass Casualty Events)」などのトレーニングプログラムを提供している。
・熱中症などの健康被害への対策と指導:
公衆衛生上の大きなリスクとして、以下の通り、「猛暑(Heat)」への対策を推進している。
-水分補給と服装:来場者に対し、十分な水分の摂取と、軽量で明るい色の衣服の着用を推奨している。
-熱中症のサインの周知:赤く乾いた肌(汗をかかない)、めまい、混乱、高熱など、熱中症の具体的な症状を周知し、異常を感じた際の対応を求める。
-医療拠点の把握: スタジアム内や周辺における「医療テント(Medical Tents)」の位置を事前に確認しておくよう、来場者に促している。
・コミュニティ・レジリエンスの確保:
FEMAは、民間セクターや地方自治体と協力し、大会期間中の「コミュニティ・レジリエンス」を維持する役割を担っている。これには、大規模なイベントによって地元の医療機関や救急サービスが過負荷にならないよう、リソースの調整や事前の演習を行うことが含まれる。
・リアルタイムの情報提供(FEMAアプリ):
公衆衛生上の緊急事態や気象警報が発生した際、来場者がリアルタイムで通知を受け取れるよう、FEMAアプリの活用を推奨している。これにより、避難勧告や健康被害に関する警告を迅速に伝達する役割を担っている。 

加えて、国防総省傘下の国防保健局(DHA)軍保健監視部門(AFHSD)は、2026FIFAワールドカップに向けて、主に公衆衛生上の監視と感染症リスクの分析を通じた支援策を提供している[9]。その一環として、AFHSDの統合バイオサーベイランス分科会は、以下のような公衆衛生監視・準備リソースを提供している。 

・疾病輸入リスクの評価:参加国に常在するデング熱やマラリアなどの蚊媒介性疾患、および季節性インフルエンザや麻疹(はしか)などの呼吸器系疾患のリソースを開発・提供する。
・監視ブリーフィング: 世界各国の公衆衛生上のイベントや脅威を、開催都市の保健当局が把握できるよう情報をまとめて提供する。
・状況認識(Situational Awareness)の向上:感染症だけでなく、その他の健康上の脅威に対する早期警告を提供し、国防総省や関係機関の意思決定を支援する。また、部隊保健保護(FHPForce Health Protection)のガイドライン策定を支援し、特定の地域や国における優先順位の調整を行っているほか、以下のように、大規模イベント特有のリスクを特定し、対策を促している。
・呼吸器系病原体:ヒトが密集するエリアや、国によるワクチンの接種状況の違いを考慮したリスク管理。
・食中毒・腸管系病原体:混雑による食品インフラへの負荷増大に伴う、サルモネラ菌やノロウイルスの監視。 

さらにAFHSDは、国土安全保障省、米国疾病予防管理センター(CDC)、国務省などの国内機関、そして開催都市の地元保健当局と協力し、監視情報を共有している。

 このように2026FIFAワールドカップ大会に向けた米国の取組は、単なるスポーツイベント支援を超え、国家安全保障、公衆衛生、インフラ保護を組み合わせた総合的ガバナンス体制の構築を特徴としている。NSSE指定の下、連邦政府が主導して省庁・自治体・民間を結集し、テロ対策から感染症監視まで多層的な対応準備を進めている点は、現代の大規模国際イベント運営の新たな標準を示すものである。こうした包括的アプローチは、国際協力と安全保障を両立させつつ、国家的利益を最大化する米国モデルとして位置づけられる。日本代表チームの初戦が予定されるテキサス州でも、新たなガバナンスのモデルケースの検証にむけた対応準備が進んでいる。 

3.AIガバナンスの主導権争い:連邦法 vs. 州法

 20251211日、米国のドナルド・J・トランプ大統領は、大統領令第14179号「人工知能に関する国家的な政策フレームワークの確立」に署名した[10]。トランプ大統領は、米国がAI分野で世界をリードし続けるためには、全米で統一された政策枠組みが必要であると表明した上で、州や地方自治体が独自にAI規制を設けることは、イノベーションを妨げ、国家安全保障を損なう「断片化された規制環境」を生むとして、これを排除する方針を打ち出した。

 この大統領令の主な内容は以下の通りである。 

・連邦政府への権限集約:AIの安全性や開発に関する規制権限は連邦政府に属することを明確にし、州法が連邦の政策と矛盾、または重複することを禁じた。
・既存の州規制の無効化:AI開発者の法的責任やアルゴリズムの透明性など、州独自の厳しい規制を「国家の利益に対する障害」と見なし、事実上無効化する措置を求めている。
・開発の加速: 過剰な規制を排除することで、米国内でのAI研究開発と投資を促進し、中国などの競合国に対する優位性を確保する。
 本大統領令は、AIを国家戦略の核と位置づけ、民間企業の開発自由度を最大限に高めるために規制の統一化を強硬に推し進めるものと言える。 

さらに2026320日、トランプ大統領は、大統領令第14365号に基づく「国家AI立法フレームワーク」を発表した[11]
このフレームワークの主な目標は表1の通りである。

 表1.米国連邦政府の国家AI立法フレームワークの主要目標出典:The White House, “A National Policy Framework for Artificial Intelligence”, March 20, 2026. https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/03/03.20.26-National-Policy-Framework-for-Artificial-Intelligence-Legislative-Recommendations.pdfを基に筆者作成

 

そこで、AIガバナンス、特にプライバシー・データ保護の観点から、この全米レベルのAIフレームワークの目標を見た時に、FIFAワールドカップ2026の大会運営を担う各州レベルのホストシティの現場に、どのような影響を及ぼす可能性があるだろうか。 

最初に注目されるのは、「7. 煩雑な州AI法に優先適用される連邦政策フレームワークの確立」である。カリフォルニア州(ロサンゼルス、サンフランシスコ)、マサチューセッツ州(ボストン)、ニューヨーク州(ニューヨーク/ニュージャージー)など、独自の厳格なAI・プライバシー規制を設けている州のホストシティが現場運営に関わる場合、連邦政府レベルと州レベルの間の調整が必要になる。 

しかしながら、今回のように、2026FIFAワールドカップ大会が、国家特別安全保障イベント(NSSE)に指定され、AI立法フレームワークに基づいて連邦政府と各州間のコンフリクトが解消されれば、セキュリティ監視に代表されるAI利用の基準が全米で統一されることになる。たとえば、スタジアムでの顔認証や行動分析AIシステムの導入に際し、ホストシティごとに異なるプライバシー同意手続きを求める必要がなくなり、全米一貫したデータ保護ポリシーで運営できるようになる。 

大会期間中、米国内11のホストシティは、AIやプライバシー/データ保護に関する規制サンドボックスとしての役割を果たすことになる。そこで実証されるテクノロジーやアウトカムは、2026FIFAワールドカップ大会の「レガシー」として、2028年に控えるロサンゼルス夏季オリンピック・パラリンピック大会や、2034年ソルトレイクシティ冬季オリンピック・パラリンピック大会へと継承できる可能性がある。 

4.最重要課題:「子どもの保護」とプラットフォームの責任

 国家AI立法フレームワークの主要目標の中で、次に注目されるのが、「1. 子どもの保護と親の権限強化」である。連邦政府レベルでは、連邦取引委員会(FTC)が所管する「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」において、13歳未満の子どもを保護対象としている。その中で、デジタルマーケティング市場の拡大とともに動画配信プラットフォームが急成長してきたが、FTCCOPPA違反に関連した法執行措置も顕在化している。 

たとえば、以下のようなケースが公表されている。 

YouTubeのケース[12]

201994日、FTCとニューヨーク州司法長官は、YouTubeCOPPAに違反したとして、Googleに対し17,000万米ドルの制裁金を科すことで和解した。YouTubeは、子ども向けチャンネルの視聴者から保護者の同意なくクッキー等の個人情報を収集し、ターゲティング広告に利用していた。同社は広告主には「子どもが多く視聴している」と宣伝しつつ、法的には「子ども向けコンテンツは存在しない」と矛盾した主張を行っていた。和解条件として、制裁金の支払いに加え、子ども向けコンテンツを明確に特定し、児童データの収集を制限する厳格な遵守体制の構築が義務付けられた。 

TikTokのケース[13]

202482日、FTCの調査を受けて、米司法省はTikTokとその親会社ByteDanceを提訴したことを発表した。TikTokCOPPAの重大な違反を犯したことがその理由である。具体的には、13歳未満の児童が保護者の同意なくアカウントを作成し、動画視聴や投稿を行うことを許容した点である。さらに、同社は児童のメールアドレス等の個人情報を違法に収集・保持し、保護者からの削除請求も拒否し続けた。FTCは、2019年の和解合意後も同社が違反を繰り返していると指摘し、数百万人の児童のプライバシーを危険に晒したとして、数百億米ドル規模の制裁金と再発防止を求めている。 

このような事案を通じて、子ども向けコンテンツか一般向けコンテンツかの判断基準の曖昧さ、子どもの識別子の行動ターゲティング広告への無断利用、デバイスIDなど持続的識別子(Persistent Identifiers)の収集・利用といった問題点が指摘され、FTCCOPPA規則の改正作業に着手した。そして2025623日にCOPPA改正最終規則が施行され、2026年ワールドカップ大会直前の2026422日に適用開始となった[14]
2は、改正COPPA規則(2026422日適用開始)のポイントを整理したものである。

表2.改正COPPA規則(2026年4月22日適用開始)のポイントFederal Register, “Children's Online Privacy Protection Rule”, April 22, 2025
https://www.federalregister.gov/documents/2025/04/22/2025-05904/childrens-online-privacy-protection-rule
を基に筆者作成

2026FIFAワールドカップは、新たな改正COPPA規則が適用される開催イベントとなる。 

他方FIFA側でも、メディアマーケティングの大変革期を迎えている。2022年カタールワールドカップ大会までは、テレビ放送局が主役であり、ソーシャルメディアはあくまで宣伝ツールの位置付けだったが、2026年大会ではソーシャルメディア・プラットフォームを「視聴・エクスペリエンスの中心地」として位置づけており、スポンサー企業や広告主のマーケティング戦略・手法も大きく変化している。そしてこのエクスペリエンスを最適化するために、様々なAI技術を駆使した手法の開発・実装が進んでいる。 

FIFAは、2026年ワールドカップ大会に合わせて、公式なデジタル配信・ファンエンゲージメントのためのパートナーシップとして、「推奨プラットフォーム(Preferred Platform)」という新たなプログラムを導入した。この推奨プラットフォームに指定されたのが、前述のYouTubeTikTokである[15] [16] 。この推奨プラットフォームのCOPPA遵守におけるガードレールの役割を担うのが、保護者による制限機能となる「ペアレンタルコントロール(Parental Controls)」である。YouTubeTikTokも、ペアレンタルコントロール機能の強化・拡充策を進めており、その影響は米国以外のユーザーにも及んでいる。 

トランプ政権下では、前述の20251211日の大統領令第14179号を受けて同年1219日、米国共和党のマーシャ・ブラックバーン上院議員が、「トランプ・アメリカAI法(TRUMP AMERICA AI Act)」の基本骨子を公表している[17]。その後2026318日、同議員は、大統領令の内容を正式に法制化するための包括的な法案として、トランプ・アメリカAI法の具体的な討議用草案を議会上院に提出・公開している[18]

この討議用草案は、子どもの保護(Children)、クリエイターの保護(Creators)、保守派の保護(Conservatives)、地域社会・労働者の保護(Communities)、AIイノベーションの強力な推進(Empowering AI Innovation)を主な柱としている。その中で表3は、2026318日に公開されたトランプ・アメリカAI法討議用草案の子どもの保護に関する要点を整理したものである。

 

3.2026318日付トランプ・アメリカAI法討議用草案の子どもの保護に関する要点

出典:U.S. Senator Marsha Blackburn, “Blackburn Releases Discussion Draft of National Policy Framework for Artificial Intelligence”, March 18, 2026 https://www.blackburn.senate.gov/2026/3/technology/blackburn-releases-discussion-draft-of-national-policy-framework-for-artificial-intelligence/3b3b6458-b6c7-478b-9859-374949586765を基に筆者作成

 このように共和党が主導するトランプ・アメリカAI法の草案でも、オンライン・プラットフォーム(ソーシャルメディア・プラットフォームを含む)に対しては厳しい姿勢をとっており、性売買、自殺、およびその他の虐待から子どもを守ることを目的として、17歳未満の利用者および訪問者を保護するためのツールや安全保護措置の実装義務化を提案している。 

なお、2026年ワールドカップ大会期間中、各ホストシティには「FIFAファンゾーン」が設置され、サッカーのライブビューイングやフェスティバルが計画されている[19]。米国の場合、成人年齢が州によって18歳~21歳とばらつきがある。米国内のスタジアムやファンゾーンでは、21歳以上の人々を対象にアルコール飲料が販売されるが、年齢確認手段としては、原則として物理的なパスポート、運転免許証、米軍身分証明書の提示が求められる。 

米国内の州レベルで子どもの保護について見ていくと、ロサンゼルスとサンフランシスコ・ベイエリアを抱えるカリフォルニア州では、「カリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA)」および「カリフォルニア州プライバシー権利法(CPRA)」で、13歳未満の子どもだけでなく13歳以上16歳未満の子どもについても保護対象としている[20]。さらに同州では、保護対象年齢を18歳未満に統一する「子どものデータ保護法」提案が上程されたが、成立・施行まで至っていない。 

また、2026年ワールドカップ大会決勝戦のホストシティを担うニューヨーク州では、親の同意がない限り、アルゴリズムによってパーソナライズされた「中毒性のあるフィード」の提供を禁止する「子どものための依存性フィード搾取停止法 (Stop Addictive Feeds ExploitationSAFE) for Kids Act)」が可決・成立し、適用開始に向けた準備作業が進んでいる[21] 

一方、共和党が主導するフロリダ州では、14歳未満の子どもがソーシャルメディアのアカウントを持つことを禁止し、1415歳には親の同意を義務付ける「未成年者のためのオンライン安全法(House Bill 3: Online Safety for Minors)」が202511日より適用されている[22] 

同じく共和党主導のテキサス州では、厳格な年齢確認と親の同意を求める「親の権限強化を通じた子どものオンライン安全確保法(SCOPE法)が202491日より適用されているが、一部の条項については、連邦地裁が執行停止命令を出している[23] 

なお、トランプ政権は、前述の大統領令第14179号「人工知能に関する国家的な政策フレームワークの確立」の中で、子どもの安全保護については、連邦法で州法を無効化してはならないとして、州独自の子ども保護規制を尊重する姿勢をとっているので、各州レベルの対応状況を注視する必要がある。 

2026年ワールドカップ大会直前の時点で、全米11のホストシティのうち、州レベルで子どものプライバシー・データ保護に関わる独自の州法がないのは、ジョージア州アトランタ、ミズーリ州カンザスシティ、ペンシルベニア州フィラデルフィアの3都市のみである。このような状況下で、2026FIFAワールドカップ大会におけるAI技術を駆使した壮大な社会実験がどのような結果をもたらすのか、米国のみならず世界中が注目している。 

5.おわりに

2026FIFAワールドカップは、単なるスポーツイベントを超え、AI、データ保護、国家安全保障、公衆衛生といった多層的な政策領域が交差する「巨大な社会実験」の舞台となる。特に米国では、国家特別安全保障イベント(NSSE)指定の下で連邦政府が主導権を握り、AI監視、感染症対策、ドローン防御、群衆管理など、従来の州・自治体レベルでは対応しきれない領域まで統合的に管理する体制が構築されている。さらに、連邦レベルのAI政策フレームワークや共和党主導のトランプ・アメリカAI法草案が示すように、AIガバナンスの統一化と子どもの保護強化は、今後のデジタル社会における重要な基準となる。 

一方で、州ごとに異なるプライバシー法制や年齢確認ルール、プラットフォーム規制が混在する現状は、依然として大規模イベント運営の複雑性を高めている。このような2026年大会で得られる知見は、2028年ロサンゼルス五輪や2034年ソルトレイクシティ五輪へと継承され、国際イベントにおけるAI活用とデータガバナンスの新たな標準を形づくるだろう。今回の大会は、AI時代の公共空間のあり方を世界に問いかける契機となる。 


参考文献 

[1] 国際サッカー連盟(FIFA)「FIFAワールドカップ2026:開催国、開催都市、日程、その他」(2026330日)https://www.fifa.com/ja/tournaments/mens/worldcup/canadamexicousa2026/articles/fifa-world-cup-2026-hosts-cities-dates-usa-mexico-canada-ja
[2] FIFA, “FIFA and Lenovo unveil multiple AI-powered innovations ahead of FIFA World Cup 2026™, January 7, 2026
https://inside.fifa.com/organisation/media-releases/lenovo-tech-world-ai-powered-innovations-world-cup-2026
[3] Federal Aviation Administration (FAA), “FAA's Safety Plan for FIFA World Cup 2026™”, as of April 2, 2026
https://www.faa.gov/fifaworldcup2026
[4] The White House, “Establishing the White House Task Force on the FIFA World Cup 2026”, March 7, 2025
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/establishing-the-white-house-task-force-on-the-fifa-world-cup-2026/
[5] The White House, “FIFA World Cup 2026 Task Force”, as of May 15https://www.whitehouse.gov/fifa-2026-task-force/
[6]
U.S. Department of Homeland Security, “White House Task Force World Cup 2026 Commission”, as of November 26, 2025
https://www.dhs.gov/world-cup-commission
[7] Federal Emergency Management Agency (FEMA), “FEMA is Actively Coordinating with Federal, State, Local and Private-Sector Partners to Ensure Safety During FIFA World Cup 2026”, May 6, 2026
https://www.fema.gov/press-release/20260506/fema-actively-coordinating-federal-state-local-and-private-sector-partners
[8] Federal Emergency Management Agency (FEMA), “FEMA Awards Historic $625 Million for States and Cities to Secure This Year’s FIFA World Cup Matches”, March 18, 2026
https://www.fema.gov/press-release/20260318/fema-awards-historic-625-million-states-and-cities-secure-years-fifa-world
[9] Greater New York Hospital Association(GNYHA), “DHA World Cup Health Surveillance Resources”, May 5, 2026
https://www.gnyha.org/news/dha-world-cup-health-surveillance-resources/
[10] The White House, “ENSURING A NATIONAL POLICY FRAMEWORK FOR ARTIFICIAL INTELLIGENCE”, December 11, 2025
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/12/eliminating-state-law-obstruction-of-national-artificial-intelligence-policy/
[11] The White House, “A National Policy Framework for Artificial Intelligence”, March 20, 2026
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/03/03.20.26-National-Policy-Framework-for-Artificial-Intelligence-Legislative-Recommendations.pdf
[12] Federal Trade Commission (FTC), “Google and YouTube Will Pay Record $170 Million for Alleged Violations of Children’s Privacy Law”, September 4, 2019
https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2019/09/google-youtube-will-pay-record-170-million-alleged-violations-childrens-privacy-law
[13]
Federal Trade Commission (FTC), “FTC Investigation Leads to Lawsuit Against TikTok and ByteDance for Flagrantly Violating Children’s Privacy Law”, August 2, 2024
https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2024/08/ftc-investigation-leads-lawsuit-against-tiktok-bytedance-flagrantly-violating-childrens-privacy-law
[14] Federal Register, “Children's Online Privacy Protection Rule”, April 22, 2025
https://www.federalregister.gov/documents/2025/04/22/2025-05904/childrens-online-privacy-protection-rule
[15] FIFA, “FIFA and TikTok reach first-of-its-kind Preferred Platform agreement to enhance coverage of FIFA World Cup 2026™08January 8, 2026,
https://inside.fifa.com/organisation/media-releases/tiktok-preferred-platform-enhance-coverage-world-cup-2026
[16]
FIFA, “FIFA and YouTube team up in game-changing FIFA World Cup 2026™ Preferred Platform agreement”, March 17, 2026
https://inside.fifa.com/organisation/media-releases/fifa-youtube-agreement-fifa-world-cup-2026-preferred-platform
[17]
U.S. Senator Marsha Blackburn, “Blackburn Unveils National Policy Framework for Artificial Intelligence”, December 19, 2025
https://www.blackburn.senate.gov/2025/12/technology/blackburn-unveils-national-policy-framework-for-artificial-intelligence
[18]
U.S. Senator Marsha Blackburn, “Blackburn Releases Discussion Draft of National Policy Framework for Artificial Intelligence”, March 18, 2026
https://www.blackburn.senate.gov/2026/3/technology/blackburn-releases-discussion-draft-of-national-policy-framework-for-artificial-intelligence/3b3b6458-b6c7-478b-9859-374949586765
[19] FIFA, “FIFA Fan Festival™ 2026”, As of May 15, 2026
https://www.fifa.com/en/tournaments/mens/worldcup/canadamexicousa2026/fifa-fan-festival
[20] State of California Department of Justice - Office of the Attorney General, “California Consumer Privacy Act of 2018 (CCPA)”, March 13, 2024https://oag.ca.gov/privacy/ccpa
[21]
New York Attorney General, “Attorney General James Releases Proposed Rules for SAFE for Kids Act to Restrict Addictive Social Media Features and Protect Children Online”, September 15, 2025
https://ag.ny.gov/press-release/2025/attorney-general-james-releases-proposed-rules-safe-kids-act-restrict-addictive
[22] The Florida State, “CS/CS/HB 3: Online Protections for Minors”, January 1, 2025
https://www.flsenate.gov/Session/Bill/2024/3
[23] Attorney General of Texas, “Securing Children Online Through Parental Empowerment”, September 1, 2024.
https://www.texasattorneygeneral.gov/consumer-protection/file-consumer-complaint/consumer-privacy-rights/securing-children-online-through-parental-empowerment

[笹原英司プロフィール]
一般社団法人日本クラウドセキュリティアライアンス・代表理事/関西支部担当
在日米国商工会議所ヘルスケア委員会・副委員長
LinkedInhttps://www.linkedin.com/in/esasahara
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(博士・医薬学)。デジタルマーケティング全般(B2BB2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、HealthtechMedtechスタートアップ向けにクラウドネイティブセキュリティに関する啓発活動を行っている。 


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【論考】第2次トランプ政権下のデジタルヘルス改革とデータ保護
AIデータ利活用社会の実現 | 研究プロジェクト | 東京財団
地域に根ざした医療DXの実装に向けた人材開発に関する政策研究

 

    • 一般社団法人日本クラウドセキュリティアライアンス・代表理事/関西支部担当 在日米国商工会議所ヘルスケア委員会・副委員長
    • 笹原 英司
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