インターネットとアメリカ政治「政治参加の拡大に寄与する情報技術」(細野豊樹) | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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インターネットとアメリカ政治「政治参加の拡大に寄与する情報技術」(細野豊樹)

May 12, 2014

2004年以降、アメリカ合衆国では投票を始めとする様々なレベルの政治参加が広がりをみせている。以下では、こうした最近の投票行動のトレンドを、情報技術の浸透と関連付けたい。

1 様々なレベルでの政治参加の拡大

下表は、全米選挙調査(American National Election Studies)の要約にみる、政治参加の変化である。投票率だけでなく、投票の働きかけや政治献金といった、他の形態の政治参加を行った割合も、2004年以降高まっていることが分かる 1

表 様々な形の政治参加の拡大

次節で政治参加の拡大を情報技術と関連付けるため、有権者を2つの層に分けてみたい。第一のタイプは、選挙の運動員、政治集会への参加、政治献金等の、ある程度負担を伴う政治参加を厭わず、政党活動の中核となる有権者である。こうした政治活動が活発な有権者を、以下では基幹支持層と呼ぶ。基幹支持層は、総じて政治的関心が高いと考えられ、これまでattentive public、informed publicなどと呼ばれてきた有権者層と重なると言える。上の表では、2004年と2008年に特に伸びたのが政治献金であるが、それでも有権者全体の1割強にすぎない。そして残りの第二のタイプを一般有権者と呼ぶ。一般有権者の政治参加は、投票に行くこと、知り合いに対して投票の勧誘を行うなどにとどまる。投票率は、過大な自己申告を割り引く必要があるものの、上表では70%強で推移したのが、2004年と2008年にそれぞれ77%、78%に高まっている。投票の勧誘は、20-40%で推移してきたのが、2004年と2008年にそれぞれ48%、45%に増えている 2 。有権者の約1割が基幹支持層だとすれば、投票率からこれを引いた残りが、投票に行く一般有権者の割合となる。

2 基幹支持層の政治参加と情報技術

インターネット/WWWの爆発的普及により、政治的関心が高い基幹支持層は、政治家のウェブサイトが提供する大量の情報に直接アクセスできるようになった。また、政治ブログを通じて、政治に詳しい市民が情報を発信することも可能になった。さらに、新聞や雑誌のオンライン化により、様々な記事に手軽にアクセスし、内容を比べやすくなった。

情報技術により政治情報・政策情報の入手コストが下がったものの、それが直接的に投票行動を大きく変えたとは言えない。なぜなら、政治的関心が高い基幹支持層は総じて支持政党が定まっていて、投票する候補を決めるのも早いからである。ウェブサイトを通じて発信される情報は、投票する政党を変える効果よりも、補強する効果のほうがはるかに大きい。

政治献金の増加と情報技術の関連は、2008年および2012年の大統領選挙における民主党オバマ陣営の事例を見れば明らかである。関連性の要は、候補の公式ウェブページへのアクセスなどの際に登録されるメールアドレスである。メールアドレス登録者は、政治献金や選挙ボランティアの源となる。2012 年にオバマ陣営が集めた約6億9千万ドルのオンライン政治献金の大部分は、電子メールによるものであり、同選挙でオバマ陣営は約1700万人のメールアドレスを獲得したと報じられている 3 。公式ウェブページ等を参照した際に、ボタン一つで献金できる手軽さは、情報技術普及の産物である。

情報技術の浸透は、選挙ボランティアとも関連付けが可能である。第一には、自発的に電子メールのアドレスを登録した基幹支持層は、前述のとおり政治献金の源であるが、選挙ボランティアとも重なる場合が多い。第二には、電子メールなら多数の選挙ボランティアを対象に、選対本部等が情報を一斉に、しかも定期的に極めて低コストで送ることができる。選挙で大事なのは、上から下まで選対本部のラインで同じ発言を繰り返すメッセージの規律である。2012年の選挙で、オバマ陣営は約220万人のボランティアを動員したと伝えられている 1 。220万人を対象に、電話、ファクシミリ、ダイレクトメール等の前世代のアナログ通信技術でメッセージの規律を確保し士気の鼓舞を行うのは、通信コスト的に不可能に近い。オバマ陣営は、地区レベルでボランティア達の核となる約3万人を指名するとともに、これを有給の運動員が訓練・助言することで、現場に権限を委譲しつつ、活動状況を把握できる仕組みを構築した 5 。3万人規模でも、電話やファクシミリで定期的に連絡を取るのは現実的でない。

3 一般有権者の政治参加と情報技術

上述の基幹支持層は、政治的関心も投票率も以前から一貫して高いはずなので、2004年以降の投票率の上昇は、一般有権者の動員強化で説明されるべきである。長年にわたりアメリカにおける選挙戦術の主流はテレビ広告であったが、2004年の大統領選挙以降は、政治意識が低く棄権しがちな支持層を、地元住民のネットワークを活用し動員する「地上戦」の比重が高まっている。こうした支持基盤動員を支えるインフラが情報技術である。

動員型選挙の威力の源は、パーソナル・コミュニケーションを通じた説得である。近所の顔見知りからの投票勧誘のほうが、テレビ広告や外部からの有給運動員よりも説得力が高い。有権者には、帰属する社会集団等に起因する先有傾向があって、それを一時のマスメディア報道で変えることは容易でないことは、コミュニケーション研究において早くから知られていた。ラザーズフェルトが論じたように、メディアの影響は限定的であるのに対して、顔見知りからのコミュニケーションには投票行動を変える力がある 6

知り合いからのパーソナル・コミュニケーションの文脈で特筆されるのが、オバマ陣営によるフェイスブックの活用である。2012年の選挙におけるオバマ陣営の悩みの一つが、勝敗を左右する重点州に居住する29歳以下の若者のうち、約半数の電話番号が分からないことであった。この問題を解決したのが、今や全米人口の6割以上をカバーするフェイスブックである。オバマ陣営は、アプリのダウンロードにより同意した約100万人の支持者のフェイスブックのアカウントにアクセスし、接触したい若者等の知り合いを割り出した。そして、選挙終盤において、これらの知り合いに対し、ボタン一つでコンテンツの共有を通じた投票の勧誘を行えるようにした 7 。手軽だから、基幹支持層でない、政治的関心が必ずしも高くない有権者の政治参加をも得やすい。ここに大きな発展性、将来性が認められる。

情報技術と支持基盤動員の関連で見逃せないのが、他のコラムでも論じられているビッグデータの活用である。オバマ陣営では、個々の有権者の投票行動が、データ解析によりモデル化され、説得可能性や投票可能性のスコアによりランク付けされた。これによりボランティア運動員は、棄権しがちな、あるいはだれに投票するか迷っている有権者に、効率的に接触できるようになった。また、有権者モデルは、選対本部がボランティアや政治献金に協力してくれる支持者を効率よく割り出すことも可能にした。いずれも情報技術が投票率・得票率の向上に寄与している例である。

インターネット選挙の強みの一つが、メッセージの内容や様々な選挙活動の効果を検証しやすいことである。メッセージの内容をいろいろ試してみて、狙った有権者層の琴線に最も響くメッセージを、ウェブ広告や電子メールのリンクのクリック数などから、割り出すことができる。選挙活動の効果を、対照実験により厳密に検証しようという動きは、一部の政治学者から始まって、民主党と共和党の両陣営の中で支持を獲得して急速に広まった。こうした経緯は、Sasha Issenbergの著書に詳しく描かれている 8 。2012年におけるオバマ陣営の成功に触発され、本年の中間選挙を含めて、データ検証型の選挙は、一層広まると考えられる。こうした流れは、政治的関心があまり高くない市民の政治参加を、拡大する潜在力に満ちている。



1 "Guide to Public Opinion and Electoral Behavior" , The American National Election Studies, Table 6A.2. -6B.5.より作成。
2 投票率に関しては、罪悪感から棄権を正直に申告しない有権者が多く、実際の投票率(大統領選挙で60%前後)よりもかなり高く出ている。他の参加形態については、投票の棄権ほど罪悪感は無いはずなので、投票率ほど自己申告率は過大ではないと考えられる。自己申告は、必ずしも実際の行動と一致しないにせよ、様々な形態の政治参加が近年拡大しているという、傾向の存在を否定するものではない。
3 Joshua Green, "The Science Behind Those Obama Campaign E-Mails" , Business Week, November 29, 2012, online edition. Nicholas Confessore, "Obama's Backers Seek Big Donors to Press Agenda" , The New York Times, February 22, 2013, online edition.
4 Nicholas Confessore, "Obama's Backers Seek Big Donors to Press Agenda", op.cit.
5 The Institute of Politics, Kennedy School of Government, Harvard University, Campaign for President: The Managers Look at 2012, Kindle edition, Lanham: Rowman and Littlefield Publishers, Inc. 2013, Chapter 3.
6 Paul F. Lazarsfeld, "The Election Is Over", The Public Opinion Quarterly, Vol. 8, No. 3 (Autumn, 1944), pp. 317-330.
7 Michael Scherer, "Friended: How the Obama Campaign Connected with Young Voters" , TIME, online version, November 12, 2012.
8 Sasha Issenburg, The Victory Lab: The Secret Science of Winning Campaigns, New York: Crown Publishers, Kindle edition, 2012.

■細野豊樹:共立女子大学国際学部教授

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