タイプ
論考
日付
2016/9/5

アフガニスタン・イランにおける日印協力

 東京財団研究員

宮原 信孝

 

アフガニスタン及びイランにおける日印協力は、協力の実質化にとって必須だ。

「真珠の首飾り構想」に楔を打つ

 アフガニスタン及びイランにおける日印協力は、中国の「真珠の首飾り構想」に楔を打つものになり得、同協力の実質化にとって必須である。中国の西インド洋(アラビア海)における真珠の首飾り構想に対抗するインドのこの地域の努力を支援することになるからである。

 周知のとおり、「真珠の首飾り構想」において中国は、アラビア海沿岸地域では、パキスタンのグアダル港開発に深くかかわっており、将来的には軍民の中国艦船が同港に停泊することが予想されている。また、中国は、パキスタンへの影響力を見込まれ、アフガニスタンの和平交渉に深く関わっている。更に、中国は、オマーンへの財政支援及び同国ドクム港湾開発を通じて、オマーン政府を自国に引きつけようとしている。最近、オマーン政府は、中国との関係強化の方針を決定した模様である(*1)。

 これにインドが効果的に対抗する上で大きな布石となるのは、イランのホルムズ海峡外の東海岸にあり、パキスタンのグアダル港の西にあるチャーバハール港の開発である。同港開発には、中国も関心を示しているが、モディ・インド首相は、本年5月イランを訪問し、イラン・インド・アフガニスタン首脳間でチャーバハール・トランジット3ヵ国合意(cha3ヵ国合意)文書に署名するとともに、インド・イラン間で、チャーバハール港第1フェーズ開発に関し12の合意文書を結び、先んじている。

 日本が、チャーバハール港開発にインドと連携して乗り出すことは、安倍総理のセキュリティ・ダイヤモンド構想(*2)を実体のあるものにしていく上で大きな意味がある。インドが「真珠の首飾り構想」に対抗努力していることに貢献することになり、ダイヤモンドの2点の結びつきを強化するからである。また、アラビア海沿岸地域への中国の進出を警戒している米国への支援ともなり、合わせればダイヤモンド3点の結びつき強化にもなる。日本は、このような戦略的観点から、チャーバハール港開発に積極的に関与していくべきである。

ザランジ回廊を利用した経済開発

 アフガニスタン和平(AP)は、同国との国境に近いパキスタンに本拠を置くアフガニスタン・タリバーン(AT)とアフガニスタン政府(AG)の間で進められてきたが、ATを交渉の方向に向けるには、パキスタン政府(PG)の力が必要である。そのPGに最も影響力を持つのが中国であり、現在APの仲介役を中国が務めている。

 AP自体は、ATへのISISの影響及びアル・カーイダのアフガニスタン国内への拠点移動、結果としてのATの同国内での攻勢が進み、停滞状況である。しかし、中国としては、「真珠の首飾り構想」と並行する「一帯一路」構想の観点から言えば、パキスタンに加え、経済のみならず政治分野にまでアフガニスタンに対する影響力を行使できる立場に立ったことは間違いない。

 インドは、アフガニスタンの復興開発においては、カブール・カンダハール・ヘラート幹線道路復旧工事の下請けや同幹線道路のカンダハール・ヘラート間にあるデラーラムとイラン国境のザランジとの間の道路建設を行った他、鉄鉱山開発の権利をAGから得るなど、大きな貢献を行っている。中国がAPの仲介役になったからと言って、完全にAGを中国の影響下に置かせるわけにはいかない。

 この点は日本も同じで、2002年1月のアフガニスタン復興支援東京国際会議を開催して以来、同国の復興開発に日本が投じた支援額は約60億ドルにのぼる(*3)。AGとATとの和平は極めて重要であるが、それは、アフガニスタン国民の支持があってのことであり、その支持は国民生活の向上によってもたらされる。このことは、ガーニ・アフガニスタン大統領も承知のことであり、同国産農鉱工業品の輸出拡大を目指してcha3ヵ国合意文書に署名したのである。

 以上の観点から、アフガニスタン国民の生活向上を目標に、同国の産物の輸出拡大に向けて日印間の協力関係を構築していくことは大きな意味がある。デラーラムからザランジ経由でチャーバハールに向かう同国産品の生産地ないし集積地はヘラートとカンダハールであるが、日本は、カンダハールを中心とする第1次、第2次道路を整備し、カンダハールからデラーラム100km手前にあるゲレシュクまでの幹線道路復旧を行うとともに、カンダハール市周辺地域に包括的地域開発支援を試みていた。よって、ザランジ回廊を利用した経済開発に日印間での協力の可能性は高く、これを日印協力の柱の一つとすべきである。

チャーバハール開発がイランの未来を支える

 イランは、昨年7月の核合意により、本年1月からは、国連安保理決議でなされた制裁が解除された。イランはこれを機に経済開発を積極的に進めようとしている。

 その核となるのが、チャーバハールに加え、イランの近隣諸国との国境やカスピ海、ペルシャ湾に置かれた7つのフリーゾーン(FZ)の活用である。これらFZの中でチャーバハールは、ホルムズ海峡の外にあり、かつ海の向こうには、インド他の南アジア諸国はもとより、アフリカ、東南アジア、更には北東アジア、オセアニアという大規模な市場がある一方、北には道路・鉄道・パイプライン等で繋げば中央アジア諸国及びアフガニスタンがあり、中・長期的には7つのFZの中で最も大きく発展する可能性を秘めいている。

 このような中、前述のように、インドは、いち早くcha3ヵ国合意及びイランとの2国間の12の合意文書に署名している。しかし、100億円に満たない額の資金協力(*4)が実質的な協力で、合意文書を実質的なものするにはまだ長い道のりがある。

 日本は、最大100億米ドル規模のファイナンス・ファシリティの設定に関する協力覚書や「日・イラン投資協定」に署名し、邦人企業等の活動の側面支援を行っているが、具体化は進んでいるとは言えない。チャーバハールについては、日本の企業数社がFZ進出に興味を示し、日本国際協力機構(JICA)が同地開発のマスタープラン(MP)づくりを検討中である。しかし、これについても、これら企業に続く企業がまだ出てきていないこと、MPづくり後のプロジェクトが決まっていないなどの問題を抱えている。

 以上に鑑みれば、日印間でチャーバハール港開発についてそれぞれのイランとの合意を持ち寄り、同港開発の青写真を共有するとともに、日印間の協力或は連携プロジェクトを形成していくべきである。

 アフガニスタン及びイランに関する日印協力ハイレベル会議の開催(提案)

 アフガニスタンとイランに関する日印協力ハイレベル会議の開催を提案する。その際、アジェンダは、アフガニスタンにおけるザランジ回廊を利用した経済開発及びチャーバハール港開発とする。その際、両国は、それぞれが、アフガニスタン、イランと結んだ合意等を持ち寄り、開発の全体像を共有するとともに、具体的な日印協力乃至連携プロジェクト形成につながる議論を行う。(2016年8月24日執筆)

 

*1:筆者のオマーンでの取材による。

*2:安倍晋三総理が、2012年12月の総選挙で政権を奪取する前に書き、同年12月27日国際NGO「プロジェクトシンジケート」ウエッブサイトに掲載された英語論文で展開された構想。民主主義の価値を共有する日本、米国(ハワイ)、豪州、インドが協力して中国のアジア海洋進出に対抗するという構想。上記4カ国を結んでできる形がダイヤモンド状になる。

*3:2015年4月までに57.91億ドル。外務省ホームページ・日本のアフガニスタンへの支援(15年4月、http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000019265.pdf)より。

*4:インドは供与資金でインド製の鉄鋼をイランが購入することを求めている模様。