タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2017/12/15

「所有者不明土地」の問題構造と政策課題(上):19坪の土地に51人の相続人現る

※ 本稿は2017年9月7日に開催された第110回 東京財団フォーラム「『所有者不明土地』問題の構造と課題」をもとに東京財団が編集・構成したものです。
【登壇者】山野目章夫 早稲田大学大学院教授、国交省検討会委員長/仲村 孝二 元宮城県南三陸町管財課長/吉原 祥子 東京財団研究員/鈴木 高晴 NHK報道局社会部記者 ※モデレーター

 「所有者不明土地」問題とは

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鈴木 日本の私有地の約20%で、所有者がわからない――。災害復旧や空き家対策、さらには固定資産税の徴収など公益上の支障となる事例報告が各地で相次ぐ「所有者不明土地」問題。今、急速に社会的関心が高まっています。政府は「骨太方針2017」に、「所有者不明土地」の有効活用に向け必要な法案の次期国会提出を目指すと明記しました。しかし、実態に基づく論点整理はいまだ十分とはいえません。本フォーラムでは、この問題の全体構造と法的課題、さらには抜本的な制度改革の可能性や実効性について議論します。
 まず、吉原さん、所有者不明土地の何が問題なのでしょうか。

 

吉原 「所有者不明」とは、所有者の所在が直ちにはわからない状態を指します。例えば不動産登記簿などの行政情報はあるが、登記名義人が既に亡くなっていてその相続人の特定が直ちにはできない、あるいは所有者を特定できても転居先が追えず直ちには連絡がつかないといった状況です。そうしたことで、権利調整が難航しています。
 「所有者不明」が生じる制度的な要因は、相続登記です。相続発生時に登記が進まないことで、登記簿上の情報と実際にその土地を所有し利用する現状との間にギャップができる。それにより「所有者がよくわからない」状況が生まれています。
 「所有者不明」の現状については、さまざまな組織から調査・推計結果が公表されています。国土交通省の調査では「所有者の所在の把握が難しい土地は私有地の約2割を占める」、農水省の調査では「全農地の面積の約2割が相続未登記、すなわち不動産登記簿上の所有者名義が亡くなった方のままになっているおそれがある」、法務省の調査では「最後に登記簿上の権利の移転が行われた年から50年以上経過をしているものが、大都市では6.6%、中小都市・中山間地域では26.6%に上る」、さらに、元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める民間有識者会議「所有者土地問題研究会」の推計では「全国の私有地面積の約2割が所有者不明に該当する」ということです。
 この問題は、農林業や自治体など一部の関係者の間では20~30年前から認識されてきたけれども、広くは知られてきませんでした。それが2011年の東日本大震災の復興過程で、あるいは近年の空き家問題として顕在化したことで多くの人々の知るところとなり、政策課題として認識されるようになった。今まさに新しい法律や制度の検討が始まりつつある段階です。

南三陸町高台移転事業の事例

鈴木 東日本大震災の復興過程で大規模に表面化したこの問題ですが、実際に現場ではどのような困難があったのでしょうか。
 仲村さんは、長年、自治体職員として用地の分野で活躍されたスペシャリストです。震災後、2017年3月末までの5年間、前職の宝塚市役所から南三陸町役場に出向され、管財課長として復興の要となる高台移転事業の用地買収などに尽力されました。
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仲村 南三陸町では6割強の住宅が津波で流されました。私が主に担当した防災集団移転の促進事業は、2017年3月現在、20地区28団地すべてが完成しています。
 南三陸町で用地買収を進める中で「所有者不明土地」に直面した事例をご紹介します。畑と山林からなる約4ヘクタールの用地を買収し、53戸の宅地を造成する事業でした。事例地は、被相続人(A)が昭和22年3月に自作農創設法によって売り渡しを受けた63平方メートル(約19坪)の土地で、地目は畑。当時の畑の買収単価は1坪あたり約5,700円でしたので、買収価格は約10万7,000円です。
 さっそく、登記名義人の戸籍調査等を行ったところ、Aは昭和29年4月に死亡していることが判明しました。
 調査を進めていくと、次のような相続関係でした。
 Aが死亡し、相続が開始した時点の法定相続人は5人(妻と4人の子ども)でした。この時点では親子のみであり、容易に遺産分割や相続登記ができたと思われます。
 しかし、その後も相続登記がなされないまま妻が昭和33年2月に死亡しました。この時点で法定持分3分の1の相続分をもった妻が被相続人(B)となる相続が発生しました。当初、4人いた子どもも次々と亡くなり、孫、ひ孫に相続権が及ぶこととなりました。その結果、相続人は25人となります。
 一方、3分の1の法定持分をもったBはAとは再婚であり、前婚でも2人の子どもはいたが亡くなっており、再婚後の夫婦間に子どもはいなかった。その結果、相続の対象は直系尊属(父母)に上がります。しかし、その両親も既に亡くなっており、その持分はBの兄弟姉妹に移ります。兄弟姉妹の中には相続開始時点で既に亡くなっている者もいて、傍系代襲相続もあり、兄弟姉妹の直系卑属へと広がり、その結果、相続人は26人となった。結果、Aの相続人は51人に上りました。
 当初、地元に残っているAの孫に遺産分割を依頼しましたが、まったく面識のない相続人も多数いるので、すべての相続人との遺産協議は個人ではできないとのこと。この事案は公共事業にかかるので、町で進めることになりました。中には、郵便物が届かずなかなか連絡が取れなかったり、住民票が職権消除されていて所在不明のため、裁判所で相続財産管理人を選任してもらったりしたケースもありました。

 

鈴木 相続未登記をきっかけに膨大な数の所有者を調査しなければならなくなり、その分手間と時間を要したということですね。こうした事例はいくつもあったと聞いています。所有者不明土地がなければ、この事業はどのくらい前倒しで進んだと考えられますか。


仲村 規模からすると、通常なら数カ月で処理できる事業です。しかし、この事例は裁判所の手続きを含め1年近くかかったと記憶しています。時間を要したのは、先に触れた連絡がとれない相続人がいたことのほか、相続人の大半が町外在住であったこと、先祖から受け継いだ土地を管理していたAの思いとほかの相続人との間で墓地の継承や固定資産税の負担などに関する考え方の違いがあったこと、買収単価等に関して起業者への不満をもつ相続人がいたこと、相続人間でのつながりがなかったことなどによります。

自治体アンケート調査から見える実態

鈴木 吉原さん、こうした例は被災地特有のことなのでしょうか。全国レベルで見るとどの程度の規模の問題なのか。なぜこのような問題が起きるのでしょうか。
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吉原 東京財団では、「所有者不明化」の問題の実態を定量的に把握するため、2014年秋に全国1,718市町村および東京都(23区)の税務部局を対象にアンケート調査を行いました。相続未登記が固定資産税の納税義務者(土地所有者)の特定にどのような問題を生じさせているかを調べることで、間接的ではありますが、「所有者不明化」の実態把握を目指しました。全国888自治体より回答を得ました。回答率は52%です。
 まず、「これまで土地の所有者が特定できないことによって問題が生じたことはありますか」との質問に対しては、63%にあたる557自治体が「ある」と回答しました。具体的にどのような問題を生じたか選択式(複数回答)で尋ねたところ、「固定資産税の徴収が難しくなった」(486自治体)が最も多く、次いで、「老朽化した空き家の危険家屋化」(253自治体)、「土地が放置され、荒廃が進んだ」(238自治体)がほぼ同数でした。
 次に、「死亡者課税」について尋ねました。これは相続未登記の事案に対して税務部局による相続人調査が追いつかず、やむなく死亡者名義での課税を続けるもので、146自治体(16%)が「あり」と回答し、納税義務者に占める人数比率(土地、免税点以上)は6.5%でした。「なし」は7自治体(1%)。735自治体(83%)は「わからない」との答えでした。
 次に、こうした死亡者課税が今後増えていくと思うか尋ねました。その結果、「そう思う」もしくは「どちらかといえばそう思う」という回答が770自治体(87%)に上りました。その理由を記述式で尋ねたところ、まず、制度的な要因として、手続きの煩雑さや費用負担の大きさなどを理由とする相続未登記の増加を挙げた自治体が222に上りました。さらに、自治体外在住者の死亡把握が困難であることや、不在地主の増加による相続人調査の困難化を指摘する記述がありました。
 自治体内に住民登録のない納税義務者(不在地主)が死亡した場合、現行制度では、死亡届の情報が当該自治体に通知される仕組みがありません。そのため、相続登記が行われなければ、納税義務者の死亡事実を把握すること自体が難しいわけです。
 次に、社会的な要因として挙がったのは、土地の資産価値の低さや管理負担を理由とする相続放棄の増加、親族関係の希薄化に伴う遺産分割協議の困難化などです。具体的には、「土地の売買等も沈静化しており、正しく相続登記を行っていなくても当面実質的問題が発生しないケースが増えている」「相続人が地元に残っていない。山林・田畑について、所有する土地がどこにあるかわからない方が多い」といった記述がありました。
 さらに、寄せられた回答の中には、相続放棄によって所有者が不存在となった土地の扱いについて、相続財産管理制度などの制度はあるものの費用対効果が見込めず、放置せざるをえない事例が少なくないこと、また、その後の当該土地の管理責任や権利の帰属が、実態上、定かでない点があることなど、制度的、法的な課題を指摘するコメントもありました。
 こうした結果から、人口減少・高齢化といった社会の変化と、硬直化した現行制度によって、土地所有者(納税義務者)の把握困難化がもたらされている、という問題の全体構造が徐々に浮かび上がってきました。このような制度の問題は国で見直していかないことには、基礎自治体の現場の努力だけでは根本的な解決は困難です。


第110回東京財団フォーラムレポート「『所有者不明土地』の問題構造と政策課題(下)戦前も戦後も終わっていない――不動産登記法をめぐる課題」につづく