タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/10/30

過去の国会審議に見る所有者不明土地問題

 

                                                                        写真提供 Kyodonews

 

山本健一

一般財団法人土地総合研究所研究理事

1.はじめに

所有者不明土地対策の必要性については、東日本大震災からの復興における用地取得の困難さが一つの契機となって認識されたものと考えられている。本稿では、それ以前の所有者不明土地問題に目を向けてみる。国立国会図書館の帝国議会会議録検索システムおよび国会会議録検索システムを利用して、戦後から東日本大震災までの会議録を「所有者不明」で検索すると、51件が確認された。そこから明らかに不動産に関わりのないものを除くと20件余りとなり、以下に示すテーマについて審議されてきている。

 

会議録からは、所有者不明土地問題に関して、これまでも国土のいたるところでさまざまな問題が表面化していたこと、国会において断片的にではあっても今に通じる問題提起がなされてきたこと、政府において問題解決に向けた取組を行ってきたことなどがわかる。

 

なお、会議録からの抜粋部分を下線で記載しているが、筆者が適宜要約をしており、実際の発言については文末に掲載する参考文献または会議録を参照されたい。 

2.国会審議に見る所有者不明土地問題

(1)所有者不明のボタ山

             ――「わけのわからないボタ山の生ずることをできうる限り防ぎたい」

1958(昭和33)年、参議院建設委員会の地すべり等防止法案審議においては、地すべりに加えて所有者不明ボタ山の崩壊も同法案の対象であったことから、ボタ山の所有権問題に関連した質疑応答に時間が割かれた。ボタ山とは、石炭等の採掘に伴い発生する捨石の集積場である。普通は動産として扱われるが、同年3月6日参議院建設委員会で野木法制局第二部長から「年を経てまったく不動産として地面と密着して、だれが見ても一体不可分の関係になってしまうと、これは民法の付合の原理により、不動産所有権者の所有になる」との見解が示されている。広い意味で捉えれば、国会審議における所有者不明土地問題の初期の事例が、ボタ山の崩壊であったといえよう。

 

地すべり等防止法の成立後、これに関連して鉱山保安法が改正された。改正案には、鉱業権者がボタ山を譲渡・放棄してもボタ山に関する義務を免れることができないこと、鉱業権移転に際して義務を承継すること等が規定されており、審議においては、次のような答弁がある。

 

 鉱業権者以外の者が所有するものと所有者不明のものが、保安法の適用を受けないものであり、地すべり防止法の適用を受けうる。鉱業権者がいかにも所有しているような状態でも、自分のものではないというような場合もある。放棄しているかのごとき状態でも、炭の値段が上がると「このボタ山はおれのもの」と主張する場合もある。このように非常に不分明であり、現在は所有権がはっきりしているボタ山については、鉱業権の譲渡とともにそれが一緒についていくという考え方により、わけのわからないボタ山の生ずることをできうる限り防ぎたいというのが法改正の目的です。(同年10月23日衆議院商工委員会・小岩井通商産業省鉱山保安局長)

 

(2)沖縄の終戦直後の所有権認定作業

             ――「米国海軍軍政本部指令が出たのが1946年2月28日。それから調査」

先の大戦で地上戦にさらされた沖縄は、本土とは異なる所有者不明土地問題を今も抱えている。戦後直ちに米軍下において所有権認定作業が行われたが、多くの所有者不明土地が生じた。本土復帰前年の1971(昭和46)年に制定された沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律には、それまで琉球政府が管理していた所有者不明土地を沖縄県または市町村が管理する規定も置かれている。次の答弁は、終戦直後の所有権認定作業の概要を示すものである。

 

地元の各字と市町村単位にそれぞれ土地所有権委員会が結成され、私有地は所有者からの申請に基づき、当該字委員会が調査、測量等を行い、その結果を市町村長に報告。国公有地および所有者不明土地は、市町村委員会が調査し、調書等を作成して市町村長に報告。調査を終えた土地について、各市町村委員会が土地所有権証明書を作成し、30日間一般の縦覧に供し、異議のないものについては市町村長が署名捺印して土地所有者に交付。署名された土地所有権証明書は、適法な土地所有権の証拠として認められ、以後その所有権の有効性を争おうとする者は、巡回裁判所に訴えを提起してこれを争うことができる。米国海軍軍政本部指令が出たのが1946年2月28日。それから調査をして、1951年4月1日付で土地所有権証明書が交付されています。(1977[昭和52]年5月13日参議院内閣委員会・吉岡大蔵省理財局次長)

 

(3)土地収用法の不明裁決の供託金

             ――「不存在を証明するということは、法律家の間ではお化けの証明」

本年6月に成立した所有者不明土地法には、所有者不明土地の収用手続において収用委員会の裁決に代わり知事が裁定する規定が置かれている。所有者不明土地について収用委員会が裁決するいわゆる不明裁決は1951(昭和26)年の土地収用法制定当初から措置されているものであるが、その後の国会審議では、不明裁決の供託金の還付問題に関連して、次に示すように不明者対応の難しさを物語る質疑応答も見られる。

 

 他の権利者の存在が不明として供託されている場合には、他の権利者の不存在を証明しなければ還付を受けられない。不存在を証明するということは、法律家の間ではお化けの証明、事実上不可能だと言われています。(1998[平成10]年3月20日衆議院予算委員会第二分科会・漆原良夫分科員)

地権者が錯綜していて不明者が出てしまったというところから始まっているので、そこに基づいての解決でないと真の解決にはならないという感じがしています。(同上・森脇法務省民事局長)

 

なお、供託に関しては、遡って1988(昭和63)年4月15日衆議院法務委員会での不動産登記法および商業登記法の一部を改正する法律案の審議において、渡部行雄委員からの、行方不明者を相手に供託しても供託金の還付請求がされることはないので実体と登記の表示の合致のため登記官の判断で処理できるようにすべきではないかとの指摘に対し、法務省から、登記官に実質的審査権を与えると登記法上の建前全般を見直すことになるが、今後なお検討はしたいという趣旨の答弁があった。

 

(4)地権者が海外にいる場合などの収用手続

             ――「できるだけの努力をした上で、なおかつ判明できない場合には供託」

所有者不明土地による具体的支障について、相続人が海外にいる場合の用地取得の例を挙げて説明されることが多い。国会の場でも、土地収用法改正の審議における次の答弁にあるように、以前から支障事例として扱われている。

 

海外に行って所在がつかめないケースも悩ましく、事業用地付近に適当な親族がいないと、海外の方と電話や手紙でやりとりをする。相続などで関係者が明らかでないケースでは、財産管理人の選任、あるいは失踪の宣告をしてもらい、土地調書、物件調書をつくるときには市町村長に代行署名をしていただき、裁決が出れば補償金の支払いは供託をする。いずれにせよ地権者がどこにお見えなのか起業者としてはできるだけの努力をした上で、なおかつ判明できない場合には供託等の措置をとらせていただきます。(2001[平成13]年6月26日参議院国土交通委員会・風岡国土交通省総合政策局長)

 

(5)不在所有者対策として区分所有関係の解消

             ――「区分所有関係の解消制度についてはそれ以上取り上げない」

2018(平成30)年5月31日参議院国土交通委員会の所有者不明土地法案についての参考人質疑において、吉原祥子参考人(東京財団政策研究所研究員兼政策オフィサー)から、都市部では所有者不明土地問題以上に集合住宅の不在所有者の合意形成問題が深刻であるとの指摘があった。この点に関連して、過去に次のような質疑応答がある。

 

不在所有者の多いマンション対策として、区分所有関係を解消するという方法も、一つの方法として考えられるのではないかと思います。(2002[平成14]年11月15日衆議院国土交通委員会・菅義偉委員)

 

区分所有者の多数決で、区分所有建物とその敷地権を一括して第三者に売却してしまうことによって区分所有関係を離脱して、売却した代金をそれぞれ持ち分に応じて配分するようなことが区分所有関係の解消の代表例。法制審議会でも、区分所有関係の解消も選択肢として検討すべきではないか議論したが、非常に複雑な権利関係が生ずる可能性がある。今回は、緊急性の高い建てかえ決議の検討を優先すべきではないかということから、区分所有関係の解消制度についてはそれ以上取り上げないということとしています。(同上・房村法務省民事局長)

 

その後、区分所有関係の解消制度については、2014(平成26)年のマンションの建替え等の円滑化に関する法律の改正により耐震性不足のマンションに限定して敷地売却を認める制度が創設されたが、同年6月17日参議院国土交通委員会において井上国土交通省住宅局長から「近い将来に耐震性不足マンション以外のものを(法の対象に)すぐ加えていくことは今は想定しておりません」との答弁があった。

 

(6)所有者不明の遊休農地・耕作放棄地対策

             ――「所有者不明の場合にもその措置がとれる、体系的な耕作放棄地対策」

1989(平成元)年の農用地利用増進法の改正により、遊休農地に関する措置が講じられた。同法の規定も引き継ぐ1993(平成5)年の農業経営基盤強化促進法の制定およびその後の改正により、さまざまな遊休農地・耕作放棄地対策が講じられていくこととなるが、次の答弁にあるように、2005(平成17)年の同法の改正では所有者不明の場合の規定も置かれた。

 

耕作放棄をして、周囲の営農に支障を及ぼす病害虫が飛ぶ、あるいは水利系の施設がつぶれるなど、周辺、周囲の営農に支障を及ぼしている場合には、市町村長が支障を除去しろという命令が出せ、命令に従わない場合には代執行ができ、所有者不明の場合にもその措置がとれる、体系的な耕作放棄地対策を盛り込むことにしています。(同年5月12日参議院農林水産委員会・須賀田農林水産省経営局長)

 

(7)所有者不明農地に対する利用権の設定

             ――「財産権の保障の観点から適当ではないということで、5年とした」

所有者不明農地については、平成20年代前半から農地法や農業経営基盤強化促進法などの改正によりさまざまな対策が講じられている。2009(平成21)年には、次の答弁にあるように所有者不明の遊休農地に対する利用権設定の措置を講じており、あわせて相続未登記等の共有農地について共有持分の過半を有する者の同意で利用権設定ができる措置を講じた。いずれも、利用権の期間は5年が上限であった。

 

所有者不明の遊休農地を利用する権利の存続期間は、知事の裁定という行政処分による強権的な権利設定なので、その期間が長期にわたるということについては財産権の保障の観点から適当ではないということで、5年としたところです。(同年4月22日衆議院農林水産委員会・高橋農林水産省経営局長)

 

その後、2013(平成25)年には農地中間管理機構の制度の創設にあわせて、共有持分の過半がわからない場合に公示・知事裁定によって同機構が利用権を取得し、担い手へ転貸できることとした。さらに本年は、農業委員会の探索・公示手続を経ることで共有者の1人でも同機構に貸付けできる措置を講ずるとともに、これまで5年であった利用権の期間の上限を20年に長期化する改正を行っている。

 

(8)森林所有者の把握

             ――「聞き取り調査などを行ってきたが、それでは不十分だ」

森林についても、平成20年代前半からさまざまな所有者不明対策が講じられている。その背景の一つとして、北海道などで外国資本による森林買収が進んでいるといわれながら実態が十分に把握できていなかったことがある。農林水産省においては、森林所有者の把握のために次の答弁にある取組を開始した。

 

所有者の把握は非常に重要であり、各都道府県からの情報を基に聞き取り調査などを行ってきたが、それでは不十分だということで、今年4月からは、面積にかかわらず売買が行われたときには届出をしてもらうということと併せて、国土交通省との連携、また登記簿の情報や地籍調査の情報ということも含めて把握に努めているところです。(2010[平成22]年11月11日参議院環境委員会・田名部農林水産大臣政務官)

 

その後、2011(平成23)年および2016(平成28)年の森林法改正により、森林所有者情報を把握するとともに、所有者が不明な場合でも必要な森林施業等を可能とする措置を講じた。さらに本年は、森林経営管理法の制定により、所有者の全部または一部が不明の森林について市町村に経営管理権を設定できる措置を講じている。

 

(9)所有者不明土地における生物多様性の保全

             ――「財産権は憲法に保障され、憲法上の権利との調整を図る必要」

所有者不明土地による具体的支障として、周辺環境への悪影響も指摘されている。2010(平成22)年の生物多様性地域連携促進法案の審議にあたり、所有者不明土地の生物多様性を保全するための制度の検討等が同法案の附則に盛り込まれていることに関し、次の質疑応答がある。

 

利用されなくなった森林や農地においては、相続や入会権の解消などによって土地の所有者がわからなくなってしまう。所有者不明地で保全活動を行うといっても、だれにその利用許可を求めればよいのかわからず、生物多様性保全活動ができないという問題が生じています。(同年11月30日衆議院環境委員会・江田康幸委員)

 

所有者が不明な場合に、立木の伐採が土地の財産権に与える影響を勘案する必要があり、財産権は憲法に保障され、憲法上の権利との調整を図る必要があります。(同上・鈴木環境省自然環境局長)

 

同法に関連したその後の所有者不明土地への対応状況としては、2013(平成25)年の外来種被害防止法の改正および2017(平成29)年の種の保存法の改正により、所有者不明土地において必要な限度で立ち入りや立木竹の伐採が可能となる措置が講じられている。

3.おわりに

以上に示すように、各省庁において過去からさまざまな取組を行っており、それが今日の所有者不明土地対策につながってきている。本年1月からは所有者不明土地対策の推進のための関係閣僚会議を開催し、関係行政機関の緊密な連携の下、喫緊の課題に対応する法の制定など総合的な対策を推進してきている。現在、所有者不明土地の発生抑制や解消に向けて制度の抜本的な見直しに踏み込んだところであるが、同閣僚会議を中心に政府一体となった検討がいっそう進むことを望みたい。

 

 

※参考文献:山本健一「国会審議における所有者不明土地問題(東日本大震災以前)」『土地総合研究』26巻3号(2018年夏号) 



山本健一(やまもと けんいち)

一般財団法人土地総合研究所研究理事。1959年北海道旭川市生まれ。1985年北海道大学大学院工学研究科(土木)修士課程修了。同年国土庁入庁後、人と防災未来センター副センター長、国土交通省水管理・国土保全局水資源政策課長、同局総務課長、四国地方整備局次長、国土地理院総務部長、北海道開発局開発監理部長などを経て、2017年7月から現職。

 

 

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