タイプ
論考
日付
2018/10/2

「ネバー・トランプ派」外交専門家のその後

 

  

帝京大学法学部専任講師

宮田智之

 

2016年大統領選挙では、共和党内からトランプに反対する「ネバー・トランプ派」が台頭し注目を集めたが、その中核を占めたのはシンクタンクなどに在籍する外交の専門家であった。すなわち、彼らは「トランプは大統領に適さない」、「トランプはアメリカの安全を損なう」などと主張し、大々的に反対運動を展開したのである。本稿では、当時の「ネバー・トランプ派」の活動に加え、彼らのその後について紹介したい。 

反対書簡をめぐる動き

共和党系の外交専門家は、二度にわたってトランプへの反対を表明する書簡を発表した。一つは、共和党候補争いでトランプの勢いが一層増していた2016年3月上旬に発表され、122名の署名を集めた。もう一つは、共和党大会後の8月に発表され、50名の署名を集めた。これら書簡には歴代共和党政権関係者の多くも署名し、その中には、ロバート・ゼーリック元国務副長官、ジョン・ネグロポンテ元国務副長官、トム・リッジ元国土安全保障長官、マイケル・チャートフ元国土安全保障長官、マイケル・ヘイデン元CIA長官、エリック・エーデルマン元国防次官らの名も含まれていた。また、ロバート・ケーガン、マックス・ブートといった著名な専門家らの名前もあった[1]。当然、このような動きは前代未聞のことであり、メディアによって大きく報じられた[2]

 

以上の反対書簡をめぐる動きは、2015年11月頃に、ハドソン研究所のブライアン・マクグラスによって開始された。ただし、その時点では賛同者は現れなかった。予備選が始まれば、トランプは共和党候補争いからすぐに脱落するとの見方が支配的であったからであり、マクグラスによれば、「そのようなことをする価値がない」と批判されたという。しかし、予備選が始まってもトランプの勢いが全く衰えない状況を見て、一層危機感を強めたマクグラスは、エリオット・コーエン元国務長官顧問の協力を得て、反対運動を本格的に開始し、最初の反対書簡を取り纏めた。一方、8月の反対書簡ではジョン・ベリンジャー元国務省法律顧問が中心となった。ベリンジャーは、トランプ反対の声をあげれば、誰に投票するか決めていない有権者の目に留まり、選挙情勢に少しでも影響を与えることができるかもしれないと期待したのであった[3]

トランプの怒り

トランプは、何よりも忠誠心を大事にする。そのため、反対書簡への賛同者リストは、そのままトランプ政権の「ブラックリスト」になった。すなわち、トランプは、反対書簡に名を連ねた者、また名を連ねていなくてもトランプに批判的な発言を行った者が政権入りすることを悉く拒んだのである。

 

国務副長官人事は、その最たる例であった。政権発足直後、国務副長官には政府での経験が豊富なエリオット・エイブラムスが有力視されていた。レックス・ティラーソン国務長官が推薦していたことに加え、エイブラムスは反対書簡に署名していなかった。トランプとのインタビューも無事終わり、内定間近と報じられた。しかしその直後に、トランプはエイブラムスが2016年5月に『ウィークリー・スタンダード』誌上で批判的な発言を行なっていた事実を知り、即座にこの人事案を却下してしまった。ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問らが再考を求めたものの、トランプは頑なに拒否したという[4]

 

「ネバー・トランプ派」の中には、その後トランプ支持に態度を変えた者もいる。しかし、トランプはそうした者たちも決して許さなかった。たとえば、メアリー・ベス・ロング元国防次官補は3月の反対書簡に名を連ねたものの、大統領選終盤にトランプ支持に態度を変え、トランプ陣営の集会に駆け付けるほどであった。また、政権発足直後はジェームズ・マティス国防長官の意向により、国防次官という話もあった。しかし、結局ロングもトランプ政権に入ることはできなかった[5]。同じく、ジョージタウン大学准教授のマシュー・クローニグのケースもある。クローニグは、CIAや国防総省等で勤務した経歴をもち、現在共和党内で注目されている若手専門家の一人である。昨年の春には、『フォーリン・アファーズ』誌においてトランプ政権の外交政策を支持する論文まで発表している。しかし、このクローニグも政権入りを果たせずにいる。最初の反対書簡に署名したからである[6]

 

トランプの怒りは未だに収まっていない。本年春にも次のような出来事があった。4月上旬、ペンス副大統領は、ニッキー・ヘイリー国連大使の側近であるジョン・ラーナーを、自身の国家安全保障問題担当補佐官に任命する案を検討したが、すぐに断念してしまった。トランプが激怒していることを知ったからである。大統領選で、ラーナーはマルコ・ルビオを応援するスーパーPACなどで活動し、反トランプの選挙広告の制作に深く関与していた[7] 

「ネバー・トランプ派」の今

トランプ政権に近い共和党関係者によると、マイク・ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、このような状況を問題であると認識しており、多くの優秀な人材を政権に迎え入れたいと考えてはいるが、トランプの説得を試みることには消極的であるという[8]

 

ところで、反対書簡に署名した人々は、現在どのような考えをもっているのか。多くは今も「正しい行動」であったと考えているようである。また、コーエンやブートらのように、引き続き新聞紙上などでトランプ批判を活発に展開している者もいる。その一方で、中には政権入りする貴重な機会を失ったからか、後悔している者もいるようである[9]。1年目のトランプ政権が安全保障の分野において大統領選での孤立主義的な主張を離れ、同盟関係重視や「力による平和」を打ち出すなど共和党主流派の立場をほぼ採用したことを考えれば、そうした思いは尚更強いかもしれない。

 

11月の中間選挙が終われば、アメリカ政治の話題は自ずと2020年大統領選へと移っていく。トランプが2期目への強い意欲を表明する中で、来年以降「ネバー・トランプ派」の中核であった共和党系外交専門家がどのような動きを示すのかも注目される。

 

 

 


[1] Open Letter on Donald Trump from GOP National Security Leaders (https://warontherocks.com/2016/03/open-letter-on-donald-trump-from-gop-national-security-leaders/); Statement By Former National Security Officials (https://www.globalsecurity.org/military/library/report/2016/2016-08-08-national-security-letter.pdf)

[2] David E. Sanger, “G.O.P. Foreign Policy Figures Denounce Donald Trump’s Worldview,” The New York Times, March 3, 2016; David E. Sanger and Maggie Haberman, “50 G.O.P. Officials Warn Donald Trump Would Nation’s Security ‘at Risk’,” The New York Times, August 8, 2016.

[3] Dan De Luce and Robbie Gramer, “Two Years Later, No Amnesty for the GOP’s Never Trump Camp,” Foreign Policy, June 8, 2018.

[4] CNN, “Trump nixes Elliott Abrams for State Department job,” February 10, 2017 (https://edition.cnn.com/2017/02/10/politics/elliott-abrams-trump-state-department-tillerson/index.html); 宮田智之「トランプ政権とシンクタンク」『UP』539号、2017年9月5日、7-11頁。

[5] David Nakamura, “’Never Trump’ national-security Republicans fear they have been blacklisted,” The Washington Post, January 16, 2017; Business Insider, “Mattis is reportedly ‘not happy’ the White House is blocking his choice for a key staff position,” February 7, 2017 (https://www.businessinsider.com/mattis-staffing-pentagon-2017-2)

[6] Luce and Gramer, “Two Years Later, No Amnesty for the GOP’s Never Trump Camp.”

[7] Maggie Haberman, “G.O.P. Pollster Withdraws From Role Advising Both Pence and Haley,” The New York Times, April 16, 2018.

[8] Luce and Gramer, “Two Years Later, No Amnesty for the GOP’s Never Trump Camp.”

[9] Ibid.