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バイデン新政権人事の特徴
ホワイトハウスの会見室から新型コロナ感染症について話すバイデン次期大統領(写真提供 Getty Images)

帝京大学法学部准教授
宮田智之


バイデン米次期大統領は、閣僚やホワイトハウス高官人事を相次いで発表している。そこで、本稿では新政権人事の主な特徴について分析したい(*本稿は、2020123日に行われたショートウェビナー「バイデン新政権人事の分析」の内容に加筆修正を施したものである)。

身内ばかりのチーム?
「多様性」重視
安全運転
左派の反応
新政権人事とカマラ・ハリス氏

身内ばかりのチーム?

まず第一の特徴として、そのほとんどがオバマ政権の高官経験者であることであり、その中にはバイデン氏の長年の側近も少なくない。大統領首席補佐官に起用されたロン・クライン氏や国務長官に起用されたアントニー・ブリンケン氏はその最たる例であり、ホワイトハウスの要職に起用されたスティーブ・リケッティ、マイク・ドニロンの両氏も、バイデン氏の最側近である。 

明らかに、バイデン氏は自身がよく知る人物を積極的に起用している。国防長官人事もその一例である。ロイド・オースティン氏を指名した理由の一つに、米中央軍司令官であったときにイラク政策をめぐり関係を深めたことが大きかったと言われている。また、オースティン氏は、長男の故ボー・バイデン氏がイラクに派遣されたときの上官でもあった。対照的に、当初最有力とされたミシェル・フロノイ氏の国防長官指名が見送られたのは、左派の反発などに加え、バイデン氏との関係がさほど深くなかったことが一因であったとの見方もある。 

また、オバマ政権で国連大使や国家安全保障問題担当大統領補佐官を歴任し、新政権でも国務長官に名前が一時浮上したスーザン・ライス氏を、バイデン氏はあえて畑違いとも言える国内政策会議委員長に起用した。バイデン氏は、歴代民主党政権で培ったライス氏の行政能力を高く評価しているが、オバマ政権時代、二人はオフィスが隣同士であり、バイデン氏はしばしばアポなしで訪れていたという。 

一期目のオバマ政権は「ライバル達のチーム」と呼ばれたが、バイデン新政権については「身内ばかりのチーム」と表現できるかもしれない。無論、そのような傾向に対して懸念や批判は生じており、「同じ顔ぶればかりで新鮮味に欠ける」といった声もある。 

「多様性」重視

第二の特徴として、「アメリカ史上最も多様性のある政権を目指す」と公言している通り、バイデン氏は女性やマイノリティを多く起用している。本稿執筆時点(20201220日)までに発表された19の閣僚及び閣僚級人事のうち、女性は10名、マイノリティは11名であり、いずれも発足時のオバマ政権を上回っている。

女性では、ジャネット・イエレン氏(財務長官)、ニーラ・タンデン氏(行政管理予算局(OMB)局長)、セシリア・ラウズ氏(大統領経済諮問委員会(CEA)委員長)、ジェニファー・グランホルム氏(エネルギー長官)らが挙げられる。黒人では、オースティン氏(国防長官)、マーシャ・ファッジ氏(住宅都市開発長官)、リンダ・トーマス・グリーンフィールド氏(国連大使)が挙げられ、ヒスパニック系では、アレハンドロ・マヨルカス氏(国土安全保障長官)、ハビエル・べセラ氏(厚生長官)が挙げられる。通商代表に指名されたキャサリン・タイ氏は、両親が台湾生まれのアジア系であり、内務長官には下院民主党議員でネイティブ・アメリカンのデブ・ハーランド氏が指名された。同氏が就任すればネイティブ・アメリカンとしては初の閣僚の誕生である。 

もっとも、過去の民主党政権と同様、「多様性」の実現において黒人やヒスパニックなどからの「圧力」が少なからず影響を及ぼしていることも忘れてはならない。今回も、バイデン氏は相当な圧力を受けており、選挙戦での最大の支持者であるジム・クライバーン下院民主党議員は黒人が少ないと公然と不満を表明したこともあった。また、報道によると、ヒスパニック議員連盟は、マヨルカス、ベセラ両氏に加えて、教育長官人事などでヒスパニック系のさらなる起用を要求している。 

なお、LGBTコミュニティの間からは性的マイノリティが一人も入閣していないとの不満が生じつつあったが、民主党候補者争いのライバルであり、同党の若手有望株である同性愛者のピート・ブティジェッジ氏が運輸長官に指名されたことで、そうした不満は解消に向かうかもしれない。 

安全運転

第三に、バイデン氏は安全運転を試みている。すなわち、2021年1月のジョージア州での上院決選投票次第であるが、共和党が上院多数党の座を維持する可能性がある中で、共和党側の反応も考慮していると考えられる。国務長官人事はその典型である。有力視されていたライス氏の国務長官への指名が見送られたのは、2012年に発生したリビア・ベンガジ米総領事館襲撃事件への対応をめぐり、当時国連大使であった同氏が共和党の集中砲火を浴びたからであり、今回もリンジー・グラム上院共和党議員らが「上院での承認は困難だ」と反発していた。

こうした中で、20201130日に発表されたOMB局長人事は興味深い。トランプ政権や共和党批判を繰り返してきたタンデン氏がOMB局長に指名されたことに対して共和党が猛反発しているが、バイデン氏はそのような反発を覚悟の上で強行した可能性がある。ただし、その後上院共和党の反発を買うような人事は行われておらず、タンデン氏のケースは例外となるかもしれない。 

左派の反応

新政権人事の特徴とともに無視できないのは、やはり左派の反応である。左派が求めていたエリザベス・ウォーレン上院民主党議員の財務長官起用は消滅し、本人も強く望んでいるとされるバーニー・サンダース上院民主党議員の労働長官指名についての報道も最近では皆無である。ただし、左派の不満は一部にとどまる。その上、イエレン氏を筆頭とする経済チームや、1217日に発表された気候変動対策チームについては好意的な評価が多い模様である。このように、今のところ、左派との関係で大きな失点は見られない。

バイデン氏は、民主党大統領候補指名を確定させた直後から、4年前のクリントン、サンダース両グループの対立を踏まえ、左派との協議を幾度も重ね、サンダース陣営とは合同政策タスクフォースまで設置した。また、外交・安全保障チームの責任者であったブリンケン氏は、サンダース陣営外交顧問のマット・ダス氏との間で意見交換を定期的に行い、さらに政権移行チームでも、サンダース、ウォーレン両議員のアドバイザーや、左派系シンクタンク研究員も参加している。以上の取り組みから、バイデン氏の周辺と左派の間で一定の意思疎通が図られている可能性がある。

左派が絶対に受け入れないと主張してきた人物の起用をバイデン氏が避けているのは、意思疎通が図られている一つの証しであろう。左派が「タカ派で軍需産業との繋がりが強い人物」と非難していたフロノイ氏を国防長官に指名しなかっただけでなく、同じく左派のブラックリストに名前が掲載されていたラーム・エマニュエル氏(前シカゴ市長・元大統領首席補佐官)の運輸長官起用も見送った。また、クリントン、オバマ両政権で財務長官や国家経済会議委員長を務めたローレンス・サマーズ氏の名前も、一度も取り沙汰されていない。サマーズ氏は、一時バイデン陣営に政策的助言を提供するとともに、バイデン氏のシンクタンク(バイデン・インスティテュート)にも関わっていた。これほどバイデン氏と関係の深いサマーズ氏の名前が浮上しないのは、夏頃より同氏への反対運動を左派が展開してきた事情も、少なからず影響しているように思われる。

ただし、当然、多くの人材を新政権に送り込むことが左派にとっての最大の目標である。そのため、夏前より、プログレッシブ・チェンジ・インスティテュート、ローズヴェルト研究所、データー・フォー・プログレスといった、左派系のシンクタンクや団体は、数百名にも及ぶ詳細な政府高官候補者名簿を作成するなど入念に準備してきた。そして、以上の人事構想をめぐる動きを見ていると、左派は閣僚より下の人事こそ主戦場と捉えている可能性すらある。そのため、今後、左派からの「圧力」はますます強まっていくことが予想されるが、バイデン氏がいかに対応するか注目される。 

新政権人事とカマラ・ハリス氏

最後に、カマラ・ハリス次期副大統領が新政権人事にどの程度影響を及ぼしているかも気になるところである。この点に関連して、『ワシントン・ポスト』紙20201218日付)は、バイデン氏がハリス氏の考えを重視しており、同氏がほぼあらゆる議論に関与していると報じている。その一方で、ハリス氏の意向が強く反映されたと見られる人事がほとんど存在しないことも確かである。また、次期副大統領は自身の部下や支持者を引き連れてくるものだが、ハリス氏の以前からの部下で政権入りが確定しているのは2名にとどまる(ロヒニ・コソゴル国内政策担当副大統領補佐官、ジュリー・ロドリゲス・ホワイトハウス政府間問題室長)。ともかく、新政権人事におけるハリス氏の影響も注目される。

 (2020年1220日脱稿)

<参考資料(一部)>

    • 帝京大学法学部准教授
    • 宮田 智之
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