タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/6/18

ワシントンUPDATE  「ロシアはシリア危機に終止符を打てるのか?」

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー



 欧米諸国は現在、シリアで続く暴動の鎮圧に向け努力を重ねているが、ここにきてロシア政府の動きに大きな注目を寄せている。しかし、ヒラリー・クリントン米国務長官らが公の場でロシア政府高官への圧力を強めているものの、今のところロシアに変化の兆しは見られず、交渉による解決の可能性も依然低いようだ。ここで、2つの大きな疑問が浮上する。まず、西側諸国の指導者がなぜそこまでロシアに注目するのかという点。もうひとつは、シリア危機への現実的な解決策をとるにあたり、ロシア政府からの協力を得られるのか、という点である。

 最初の問いに対する答えは比較的シンプルだ。欧米諸国の政府高官がロシア政府に注目を寄せているのは、その多くが、ロシアならばシリアの指導者を説得し、交渉を受け入れさせることが可能だと考えているからである。さらにいえば、実際のところそれ以外に打つ手がないという事情もある。

 米国以外の関係者の中には、米軍のシリア介入が現実となると考えている向きもあるようだが、実情は異なる。FOXニュースが3月に実施した世論調査では、シリアへの軍隊派遣に反対する声は78%に上った。ジョン・マケインやジョー・リーバーマンらタカ派を代表する面々も、米軍派遣ではなく、シリア反政府派への軍事援助を説いている―実際、米国がすでにそうした動きに出ているのでは、という声もささやかれている。こうした武器供与は反体制派が身を守る一助となるだろうが、シリアで行われている殺りくの沈静化につながる可能性は低い。むしろ、火に油を注ぐ結果となり、シリアが全面的内戦に突入してしまうのではないかという懸念も大きい。また、反体制派への武器供与は、バッシャール・アル=アサド大統領の排除に成功するや否や米国および同盟国に銃口を向けるかもしれない過激派に武器を与える、ということでもある。

 経済制裁も足元のシリア政府の行動に変化を与える程の効力は望めないだろう。実際のところ、シリアの政治体制、さらには自身の生存すら危ぶまれるかもしれないと考えている指導者やエリート層にとって、経済制裁がどれほどの意味を持つだろうか。その答えが出るまでには時間がかかるだろう。その間、シリア国内の騒乱は続くことになる。

 これに対して、2つ目の問い―西側諸国の指導者は、ロシアと協力してシリア騒乱を終結させられるか―は、はるかに複雑な問題を孕んでいる。実際のところ、この問いは2つの要素を含んでいる。ロシア政府の協力を確実に取り付けること、そして、シリアにおけるロシアの影響力を行使してアサド大統領を説得すること、である。これまでのところ、ロシア政府高官は「アナン・プラン」を支持している。これは、元国連事務総長、現国連特使であるコフィー・アナン氏による6項目の提案からなるもので、暴力の即時停止やシリア主導による改革プロセスを要請するものである。

 米国政府高官は、シリア暴動への対応にロシアの支援を求めているようであるが、オバマ政権の現在のやり方で良い結果がでるかは疑問である。ひとつの大きな足かせは、西側諸国とロシアとの間でシリアの現状認識に隔たりがあり、また事態の鎮静化にむけた最善の方法についても異なる見解を持っているという点だ。欧米諸国の指導者の見解は、シリア政府という野蛮な政権(brutal regime)が、政治的反対派に容赦ない弾圧を行なっている、という構図であるが、ロシア政府高官の見方は異なる。シリア政府は欠点もあるが容認し得るレベルの政権であり、反対派こそ、西側諸国のみならずサウジアラビア―ロシアが中東、コーカサス地方、そして南アジアにわたりテロリズムを支援しているのではないかと疑っている国である―およびイスラム原理主義を標榜する非国家組織から武器資金供与等の支援を受けているではないかというのだ。そのような反体制派に対して厳しい態度で臨んでいるのが現在のシリア政府である、というのがロシア側の見解である。従って、米国政府高官が、一刻も早くアサド大統領を権力の座から排除する決断を下すことが事態の解決につながると論じているのに対して、ロシア政府高官は、同政権の突然の崩壊が引き起こしかねない状況を懸念している。
 
 こうした見解の相違は深刻ではあるが、外交官筋では理論上、米国、欧州の主要国政府、そしてロシアが容認できる妥協点を模索することになるだろう。特に、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣の最近の発言にも明らかなように、ロシア政府がアサド大統領の行動に対する苛立ちを募らせている状況では当然の動きであり。これには、「アナン・プラン」修正案を策定し、期限を設けた上でアサド大統領が徐々に政権の座から退いていく下地を作っていく必要がある。ロシアは同プランを受け入れるだろう。先日、ゲンナジー・ガティロフ外務副大臣は「政治的プロセスを進めた末に、アサド大統領が権力の座に留まらなければならないと発言したことはなく、そうした条件を提示したこともない」とコメントしている。米国政府も、この段階的プロセスを望むはずである。米国は、かつてイラクにおいて政府と軍隊を解体した結果、長年に渡る血みどろの争いを招いた。そうした政情不安定化の二の舞は避けたいところだ。そして、米国がロシアから同プランへの協力を得ることができれば、中国も追随するだろう。

 しかし残念なことに、オバマ政権は、ロシアを担ぎ出すために必要な、一貫した信頼性のある戦略を練りあげてこなかった。米外交政策上、シリア問題が優先事項であるならば、一貫性のある戦略をとるとはすなわち、一時的にせよ他の懸案事項の優先順位を下げることである。しかし、6月初旬、オバマ政権はヒラリー・クリントン国務長官をグルジアに派遣し、ロシアのアブハジアおよび南オセチア占領への反対の姿勢を改めて表明した。これは、同政権の手法がいかに一貫性を欠いているかの一例であろう。国務長官がグルジアに関する発言を行うことで、その場で何か変化が生じるわけではないことを踏まえれば、そうした「形式上の」発言をなぜ今行う必要があったのだろうか。さらに言えば、クリントン国務長官およびスーザン・ライス米国連大使がロシアの指導者に対して厳しい言葉で圧力をかけようとしているが、ウラジミール・プーチン大統領にはおそらく通じない。同大統領はこれまで、他の問題に関してより強烈な発言を浴びせられても、動じることはなかった。こうした発言は、プーチンをせいぜい苛立たせるだけで、何の成果も生まないだろう。

 しかし仮に、米国、欧州、ロシアがプランに同意したとしても、ロシア政府は、軍事行動や厳格な制裁措置をちらつかせ、アダド大統領にプランの順守を強いるようなやり方には同意しないはずである。この点を踏まえると、実際のところ、ロシア政府はシリア政府に対してどの程度の影響力があるのだろうか。一点、ほぼ確実に言えることは、ロシアがシリアのエリート層全てに対して、権力の座から身を引くよう説得するのは不可能ということだ-彼らの利害はあまりに大きい。さらに言えば、ロシアはシリア最大の武器供給国であるものの、貿易相手国としての順位は大きく下がる―EU、イラク、サウジアラビア、トルコ、中国などの後塵を拝している。従って、ロシアの強みが最も効果的に発揮されるのは、シリアの軍上層部およびその他エリート層に対して、アサド大統領への支援を続けた場合の代償や先行きの不透明さを説明し、もし自らが問題の対象となるのではなく、問題解決の一旦を担えば、重要な役割を維持することが可能であると説得する場面においてだろう。

 すべての当事者たちにとって不幸なことは、闘争が長引けば長引くほど、こうした折り合いをつけるのが難しくなるということである。西側諸国の政府とシリアの反対派どちらも、こうした解決策に必要な継続性という要素を受け入れがたくなる。しかし、そうした要素なしには、交渉による闘争終結は望めない。その代わり、シリア国民は激化する内乱に巻き込まれ、西側の大国と複数のアラブ諸国は、反対派を支援するものの直接的かつ断固たる介入は望まない、という状態に陥っていくだろう。シリアはゆっくりと、そして熾烈な闘争に向けて突き進むほかなくなる。これは、シリア国民はもちろん、また他のすべての関係者にとっても、最悪の結果でしかない。

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