中ロの情報操作に米国はどう対応すべきか

2020年7月23日、リチャード・ニクソン大統領図書館・博物館で中国と中国共産党について演説するポンペオ国務長官(写真提供 Getty Images)

ワシントンUPDATE 中ロの情報操作に米国はどう対応すべきか

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、米国、中国、ロシアの情報戦を著しく加速させた。当初は主に新型コロナウイルスの起源やパンデミックに対する各国の対応の有効性をめぐる発言の応酬だったが、やがてコロナ以外の問題、例えば中国による香港支配の強化や米国での人種間の緊張の高まり、さらには米国の衰退といったより広い問題にまで及ぶようになった。トランプ政権は、国内で政治的な議論が起きた時と同様に、高官レベルの声明を定期的に出すなど、中国に対して攻撃的な態度を示してきた。一方、ロシアのディスインフォメーション(偽情報の意図的な流布)等の情報操作に対しては、中国への批判に比べると控えめだ。これはおそらくトランプ大統領がロシアとは交渉の余地があると考えているからだろう。どちらのやり方がうまくいくのか、今のところ予測はつかない。 

ロシアによるディスインフォメーションの問題は、冷戦終結とともにあまり話題に上らなくなっていたが、2016年の米大統領選挙期間中および選挙後に、再び重大な政治・政策課題として浮上した。2017年1月に国家情報機関がまとめたロシアの選挙干渉に関する報告書では、報告書本体よりもロシアの政府系放送局であるRTに関する付属文書に多くのページが割かれたほどだ[1]。そして今やRTは米国内での社会的緊張や経済問題に焦点を当てた報道を頻繁に行い、米国を「危機的状況にある国家」として描こうとしている。例えば2020年7月には、たった一人の研究者(しかも所属組織は明かされていない)へのインタビューをもとに、「トランプ政権の強硬な対中政策」は「米国経済に想像を超える負担をもたらしている」と断定するレポートを放送した[2]。主張を裏付ける分析や数値を一切示さずにである。 

一方、中国が控えめなパブリック・ディプロマシー(広報文化外交:メディアなどによる広報や文化交流を通じて、外国の国民や世論に直接働きかける外交活動のこと)の道を捨て、明らかに米国を標的とした活発なアプローチを取り始めたのは比較的最近のことだ。一部の専門家はロシアのディスインフォメーションの手法に倣ったケースが増えていると指摘する。例えば、政府の公式SNSアカウントと偽アカウントの両方を通じて、誤った情報や誇張した情報を流す、といったやり方がそうだ[3]。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた時期には「ウイルスの起源は中国ではなく米国だ」という陰謀論も盛んに流された[4]。興味深いことに、ロシアで制作された番組、特に中国を賞賛する内容の番組は、ロシア国内のみならず中国でも放送されている。米国務省によると、ロシアの政府系通信社であるスプートニクは、中国の複数のメディアとの間で、コンテンツの相互利用や人材交流を行う契約を正式に交わしているそうだ[5]。 

米国務省の役割 

国際社会での米国のイメージ形成に重要な役割を果たす国務省は、中国とロシアによるディスインフォメーションに対して積極的に異議を唱えてきた。国務省のグローバル・エンゲージメント・センター(過激派組織「イスラム国」によるインターネットを使ったリクルートとプロパガンダに対抗することを目的に、2016年にオバマ政権下で発足した組織[6]。略称GEC)は、ディスインフォメーション対策を担う組織の一つとして、インターネット上のデータやツールを使ったディスインフォメーション・キャンペーンの検出・共有・撲滅に取り組むとともに[7]、他の政府機関のディスインフォメーション対策を支援している。ロシアによる選挙干渉問題に巻き込まれ、トランプ政権下では当初それほど重視されていなかったが、後に議会とポンペオ国務長官から大きな支持を得るようになった[8]。 

トランプ大統領は新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」あるいは「中国ウイルス」と呼び[9]、感染拡大の責任は中国にあると強調してきたが、感染拡大が始まってからの数か月間、国務省も同様の呼び名を使ってトランプ政権の主張を後押ししてきた[10]。また国務省は、各国政府および国際機関への財政支援リストなど、新型コロナウイルス対応における米国のリーダーシップをたたえるようなファクトシートをたびたび公表している[11]。一方、ロシアに対しては、1940年のソビエト連邦(当時)によるバルト三国併合の承認を拒否してから80年が経ったことを記念する声明をポンペオ国務長官の名で発表。声明では、米国はロシアによるウクライナ東部への干渉を認めないこと、そしてクリミアの併合およびジョージアのアブハジア自治共和国と南オセチア自治州の併合を認めないことを強調した[12]。 

ポンペオ国務長官は、中国という国の性格と振る舞いについても積極的に発言してきた。注目すべきは、中国に言及する際に「中国」あるいは「中華人民共和国」と言わずに、一貫して「中国共産党」と呼んでいる点だ。7月にリチャード・ニクソン大統領図書館・博物館で行った演説[13]の中で「中国国民に神の祝福あれ」と発言したように、ポンペオ国務長官は中国人をことのほか賞賛しているが、おそらく国家と国民を分けて考えるという冷戦時代のやり方で中国に対応しようとしているのだろう。 

米国はメッセージをどう伝えるべきか 

こうしたやり方の成否を考えるにあたっては、特に以下の2点を考慮する必要がある。第一に、誰に向けてメッセージを発信しているのか、という点だ。ポンペオ国務長官の中国に対する強硬な発言は、時として、中国や米国の同盟国、世界の他の国々に向けてというよりは、米国民に向けて発信しているように思える。そうしたメッセージは、トランプ政権の対中政策、ひいてはポンペオ国務長官自身に対する共和党からの支持を得るという意味では、多かれ少なかれ成功するかもしれないが、行動を変えるよう中国を説得したり、国際社会から支持を得たりするには言葉が強すぎる。米中の対立が長期化し、多くの国が米国への明確な支持や恒久的な支持の表明をためらう中、強硬な発言は各国に「米国は極端な方向を目指している」という印象を与え、米国への支持―特に目に見える形での支持―に二の足を踏ませかねない。また、米中貿易や中国の領土問題といった、中国にとって重要な問題に対する米国の政策に中国の人々が納得しない限り、国民と政府とを分けて考えるやり方は成功しないだろう。中国人の支持を得ようとする一方で、貿易戦争を続け、多くの中国人が歴史的に権利を有すると考える土地の領有権を認めない立場を取るなら、成果は得られようもない。 

第二に、メッセージを伝える者としての米国の信頼性である。米国が最も力を発揮できるのは、国民が経済的・社会的におおむね結束し、十分な能力を持ち、成功を収めている時だ。言い換えれば、情報空間やその他の領域で中ロと戦うためには、多くの人が指摘するように、まずは国内の状態を整える必要がある。現在抱えているさまざまな国内問題は、米国が能力を発揮することを妨げているというわけだ。ただしそれは当面のことであって、永久に続くわけではない。実際、中国の行動が積極性を増す中、エリートたちは長期的な戦いに向けて結束を高めており、米国は中国にとって、よりタフな競争相手になる可能性がある。 

「行動は言葉よりも雄弁だ」と言うように、人は概して高官のスピーチや公式な声明よりも米国の行動そのものを重視する。ということは、米国が最も効果的に国際社会でのイメージアップを図り、メッセージを伝えることができるのは、発言と政策とが一致している場合、そして他国から共感を得ることを目指すなら、政策が国際社会、特に米国にとって重要な国・地域にいくらかでも訴えるところがある場合と言えるだろう。よりよい(またはより強硬な)声明をせっせと出すだけでは、望ましい結果は得られない。最新のギャラップ社の世論調査によると、米国のリーダーシップに対する各国・地域の支持率は33%、不支持率は42%で、不支持率が支持率を9ポイント上回った[14]。中ロのディスインフォメーションに対抗していくにあたって、米国は決して有利な立場にあるとは言えない。  

オリジナル原稿(英文)はこちら 


[1] https://www.dni.gov/files/documents/ICA_2017_01.pdf

[2] https://www.rt.com/business/495586-us-china-tensions-economic-consequences/

[3] https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2020/05/19/the-kremlins-disinformation-playbook-goes-to-beijing/

[4] https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/04/chinas-covid-19-conspiracy-theories/609772/

[5] https://www.state.gov/briefing-with-special-envoy-lea-gabrielle-global-engagement-center-update-on-prc-efforts-to-push-disinformation-and-propaganda-around-covid/

[6] https://2009-2017.state.gov/r/gec//index.htm

[7] https://www.state.gov/bureaus-offices/under-secretary-for-public-diplomacy-and-public-affairs/global-engagement-center/technology-engagement-team

[8] https://foreignpolicy.com/2019/02/07/with-new-appointment-state-department-ramps-up-war-against-foreign-propaganda/

[9] https://www.nytimes.com/2020/03/18/us/politics/china-virus.html

[10] https://www.state.gov/briefing-with-senior-state-department-officials-on-chinas-expulsion-of-u-s-journalists/

[11] https://www.state.gov/update-the-united-states-continues-to-lead-the-global-response-to-covid-19-4/

[12] https://www.state.gov/message-on-the-80th-anniversary-of-the-welles-declaration/

[13] https://www.state.gov/communist-china-and-the-free-worlds-future/

[14] https://news.gallup.com/poll/316133/leadership-remains-unpopular-worldwide.aspx

ポール・J・ サンダース

  • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest

    President, Energy Innovation Reform Project