米中対立は大統領選挙後に解消するのか?

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米中対立は大統領選挙後に解消するのか?

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト 上席研究員


米中の対立が悪化の一途をたどる中、アメリカ大統領選挙が約4か月後に迫っている。トランプ政権の対中政策と、民主党の候補指名を確実にしたジョー・バイデン前副大統領の中国へのアプローチの違いを検証するには、絶好のタイミングと言えるだろう。両者を比較するうえで考慮すべき要素はいくつもあるが、中でも重要なのが「トランプ氏とバイデン氏の中国をめぐる発言」と「連邦議会、国防総省、エリート層が対中政策の形成に果たす役割」である。 

トランプ大統領の主な発言と対中政策

トランプ大統領の対中政策で目を引くのは、何と言っても貿易問題に対する強硬な姿勢だろう。2016年の大統領選挙期間中、トランプ氏は中国の貿易慣行を「世界史における最大の窃盗行為」だと批判した[1]。その後大統領に就任すると、習近平国家主席との初の首脳会談を前に関税引き上げなどを提起。会談では新たに通商協議を行うことで合意したものの、協議が不調に終わると、さまざまな中国製品に追加関税をかけることを決定した。これが追加関税に対して新たな追加関税で応酬するという報復の連鎖を招くことになる。2019年、米中は脅し合いを続けながらも協議を再開し、最終的には両国の対立を和らげて米国が懸念する課題に取り組むためんの「第一段階の合意」[2]に至るのだが、この合意について、トランプ大統領は最近になって不満を表明している[3]。 

中国と習主席に対するトランプ大統領の発言のトーンは、当初極めて好意的なものだった。中国との仲たがいを避け、貿易交渉を進めたいという目論見があったからだろう。今年1月にも、米中貿易協定の合意について、「習主席と仕事をするのは素晴らしい経験だった」とツイッター上でつぶやいた[4]。こうしたポジティブなトーンは米国内でたびたび批判されてきた。例えば、2018年に中国が国家主席の任期撤廃案を明らかにした際のトランプ大統領の反応[5]について、民主党の下院議員の一人は「米国の大統領による最も米国人らしからぬ発言」と述べている。 

だがトランプ氏の発言のトーンは、新型コロナウイルスの感染拡大やウイルスの起源の問題、さらに感染拡大防止に向けた中国の国内外での活動をめぐって米中間で非難の応酬が続くにつれ、次第に硬化していく。今年5月には中国の報道官について「自国が世界中に広めたウイルスが大勢の人を苦しめ死に追いやっているという事実から人々の目をそらそうとしている。中国を代表する者らしい、バカげた発言だ」とツイート。さらに「すべては上からの指示だ」と述べて、習主席を批判した[6]

 トランプ政権で国家安全保障問題を担当したジョン・ボルトン前大統領補佐官は、最近出版した回顧録の中で次のように述べている。「トランプ氏が習主席と交渉するのは、貿易問題を利用して再選を確実にしたいからだ 。彼にとっては米国の戦略目標など二の次なのだ[7]」 

バイデン前副大統領の主な発言

バイデン氏は副大統領としてオバマ前大統領の対中政策を支えた。前政権の対中政策は、「可能なら関与し、必要とあらば対決も辞さない」という、冷戦後の歴代政権とおおむね軌を一にするものだった。(ただしオバマ政権のリバランス政策は、構想の大きさに比較して軍事力の行使が十分でなかった。)バイデン氏は2011年の米中戦略経済対話において、1979年に中国を訪れたことに触れて次のように述べた。「あの時感じた思いは今も全く変わっていない。中国の発展は、中国のみならず米国、ひいては世界にとっても有益だ[8]」 

しかしこの発言から9年が経ち、米中関係は明らかに変化した。そして当時副大統領だったバイデン氏は、今や大統領候補だ。最近では香港への統制を強める「国家安全法」に関して、「中国を非難するよう世界に呼びかけるべきだ」と発言している[9]。 

また、自身の陣営のウェブサイトでも、特に気候変動問題に関して中国に圧力をかけることを示唆し、「中国を含む各国が、制度の抜け穴を利用して汚染者を利することを許さない」「中国が『一帯一路』構想において高い環境基準を設定し、環境汚染を他国に輸出しないよう、各国と協力して働きかける」と述べている[10]。バイデン陣営のアドバイザーは、トランプ氏の対中政策について、「強気な発言と弱腰な行動の大きなギャップ」を問うつもりだという[11]。 

連邦議会、国防総省、エリート層

トランプ大統領とバイデン前副大統領では、発言の内容も対中政策における優先事項も異なっている。だが現状を見る限り、選挙の結果にかかわらず、米中の緊張状態が大幅に緩和されることは期待できないだろう。加えて連邦議会が中国問題に費やす時間は増える一方だ。公式サイト[12]によれば、2019年1月に開会した第116議会(会期終了は2021年1月)で審議された法案のうち、400以上の法案で中国への言及が見られた。防衛・サイバーセキュリティ関連法案だけではない。中国に対する制裁措置の発動に始まり、米国での核エネルギー研究に対する支援案、重要鉱物の採掘、経済摩擦と経済安全保障に関する施策、中国の新型コロナウイルスへの対応やキリスト教徒の迫害、1989年6月に起きた天安門事件に対する非難決議も含まれる。トランプ大統領とバイデン前副大統領の発言が異なるように、共和党と民主党では重視する課題が異なっているが、中国および中国の国内外での行動に対する懸念という点では、両者はほとんど一致していると言えるだろう。 

防衛・外交担当の元政府高官についても、民主党政権または共和党政権のどちらで政策決定を担ったかにかかわらず、同様の傾向がみられる。トランプ政権が2017年に公表した国家安全保障戦略をめぐっては、通商政策と移民政策で意見の対立がみられたものの、中国(およびロシア)との競争の増大には一様に高い関心を示したのである。また、国防総省が2018年に国家防衛戦略で示した「国家間の戦略的競争(テロリズムではない)は、今や米国にとって安全保障上の最大の懸念である[13]」という姿勢は、安全保障と外交の専門家の間で広く支持された。国家防衛戦略は米国の軍事計画立案の基盤となるものだが、中国についてはさらに踏み込んで「米国の戦略的競争相手である中国は、略奪的な経済政策によって近隣諸国を威嚇する一方で、南シナ海で軍事的影響力を拡張している」と述べている。これは国防総省が「中国の対外拡張政策に対して米国として対処する必要がある」と考えていることを示す。 

米中は互いの違いを乗り越えられると期待する向きもあるが、そうした見方は米国のエスタブリッシュメント(主流派)の間では少数だ。世論の動向もエリート層と一致している。今年4月に行われた世論調査では、66%が中国に対して「好意的でない」と答え、62%が中国の影響力を「主要な脅威」だと考えていることが分かった [14]。中国に否定的な見方をする割合は民主党支持者よりも共和党支持者で高かったが、民主党支持者でも62%に上った。 

以上を考え合わせると、11月の大統領選挙は米中関係の今後を決定づけるうえではそれほど重要ではないと言えそうだ。むしろ重要なのは、選挙後に何が両国間の新たな火種となるのかだ。実際、トランプ大統領が再選してもバイデン新大統領が誕生しても、次期大統領が米中の緊張緩和に動けば、少なからぬ反発を受けるだろう。つまり大統領選挙後に米中関係が改善される見込みは少ない、ということだ。 

オリジナル原稿(英文)はこちら


[1] https://abcnews.go.com/Politics/donald-trump-calls-chinas-trade-practices-greatest-theft/story?id=38812125

[2] https://www.reuters.com/article/us-usa-trade-china-timeline/timeline-key-dates-in-the-u-s-china-trade-war-idUSKBN1ZE1AA%20

[3] https://www.washingtonpost.com/business/2020/05/15/trump-china-trade-deal-coronavirus/

[4] https://www.politico.com/news/2020/04/15/trump-china-coronavirus-188736

[5] https://www.reuters.com/article/us-trump-china/trump-praises-chinese-president-extending-tenure-for-life-idUSKCN1GG015

[6] https://www.hindustantimes.com/world-news/it-all-comes-from-the-top-trump-sharpens-attack-on-china-on-covid-19/story-kQ9QBV58y3jCMFHN0EZ4QO.html

[7] https://www.wsj.com/articles/john-bolton-the-scandal-of-trumps-china-policy-11592419564?mod=hp_lead_pos8

[8] https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2011/05/09/remarks-vice-president-joe-biden-opening-session-us-china-strategic-econ

[9] https://www.reuters.com/article/us-china-parliament-hongkong-biden/biden-says-us-should-lead-world-in-condemning-china-over-hong-kong-actions-idUSKBN22Y21U

[10] https://joebiden.com/climate/

[11] https://www.reuters.com/article/us-usa-election-biden-china-exclusive/exclusive-biden-to-hammer-trumps-tough-talk-weak-action-on-china-top-adviser-says-idUSKBN22P02B

[12] http://www.congress.gov/

[13] https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2018-National-Defense-Strategy-Summary.pdf

[14] https://www.pewresearch.org/global/2020/04/21/u-s-views-of-china-increasingly-negative-amid-coronavirus-outbreak/

ポール・J・ サンダース

  • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest

    President, Energy Innovation Reform Project