タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/10/26

ワシントンUPDATE 「ロシアのシリア支援の背後にある政治的意図」

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー



 シリアへ軍事的支援を強めているロシアの意図についての疑問が増してきている。はたしてそれは「イスラム国」との戦いに対して助けとなるのか、それとも阻害要因となるのか。 著者ポール・サンダースによれば、その答えは、終わりのない戦闘に疲れてきている米国政府とロシア政府が相互に満足できるプロセスを見つけることができるかにかかっている。
 
 ロシアによる最近のシリアへの軍事支援の劇的な強化は、ロシア政府の意図についての大きな疑念を生み出している。ロシア軍は直接「イスラム国」との戦闘を行うつもりなのか? ロシアはシリアへの軍事支援により、シリア軍の(欧米が支援する)「穏健な」反政府勢力への攻撃をも激化させようとしているのか? または、シリアでの米ロの偶発的な軍事衝突を招くことになってしまうのか? ロシアの次の一手はどのようなものなのか? しかし、ロシア政府にはかなりの現実的な制約要因があり、それが今後の行動を制限していくだろう。おそらく今後、ロシアの行動というものは軍事上よりは、政治的な要素に左右されていくと思われる。

相互補完的な目的

 シリアに新たな基地を設置するための、プーチン大統領による戦闘機、装甲車、海軍歩兵連隊の派遣決定の背景には、それぞれが相互に補完的なロシアなりの目的がいくつかある。まず軍事的にはシリアの領域を支配し、何より2000人以上のチェチェン系戦闘員(シリアで戦闘経験を積み、ロシアへ帰還する恐れがある)も参加する過激組織「イスラム国」の支配を防ぐことが目的である。しかし米国や他の中東の親米国と違い、ロシアは穏健派の反政府組織が、イスラム国と対決して最後には勝利できる有効な軍事力とは捉えていない。米国を含めどの国も地上軍を派遣しようとせず、空爆だけでは「イスラム国」に勝利できない状況で、ロシアはアサド政権のシリア軍を、イスラム国を弱体化させるために必要不可欠なパートナーだと考えている。

 同時に、政治的には、ロシアの指導者たちはメッセージを送り続けている。例えば米国やその同盟国に対しては、ロシアが対イスラム国への国際的な軍事協力において主要な役割を果たすということや、シリアの平和構築に向けた政治プロセスなどについて話を持ちかけた。しかしその中には、ロシアのクリミア併合以降止まっている偶発的な衝突や誤算を回避するための米ロの軍同士の対話を持たせるようとするロシアの計算された戦略が見える。

 そしてこのイスラム国問題を利用したロシアによる米国への働きかけは、アシュトン・カーター国防長官とセルゲイ・ショイグ国防相との電話会談に繋がったが、9月28日の国連総会出席のため米国を訪問するプーチン大統領とオバマ大統領との会談まで実現するかは分からない。(本稿執筆後、会談は実現された)
 
 そして同時に、このようなロシアの行動は、欧米から退陣を求められているアサド大統領とロシアと深い関係を持つシリア軍の指導者たちへのメッセージとなっており、少なくとも、アサド政権の崩壊を防止する上で一定の役割を担っている。これはシリアの指導者たちにロシアとの関係を重視させる大きな理由を与え、いかなる国際的な交渉においてもロシアがアサド政権を支持するという確信をアサド大統領たちに与えることに寄与している。

政治的な制限

 しかしシリアへ軍事的展開を進めてはいるものの、ロシアには血で血を洗うシリア内戦を好転させるに十分な兵力数を展開し、それを維持する能力はない。ロシアが租借しているタルタスの海軍基地も、修理や補給のための施設で、大型の船舶は収容できない。

 ロシアは最近、海軍のアクセス強化としてキプロスとの交渉を行ったが、シリアへの兵員や補給物資を運搬する際には海路と空路の両方を使用せざるを得ない。例えばシリアへ空路から意味のある支援を行う場合、莫大な費用が掛かり、ロジスティクスも非常に難しい作戦となる。そしてシリアの反政府軍などが保有する可動式の地対空ミサイルの数を考えると、空路で支援する輸送機のパイロットにとっても大きなリスクがある。

 またロシアには政治的な制約がある。最も重要なこととして、ロシアの世論の中には、ソ連のアフガン侵攻、2度にわたるチェチェン紛争による後遺症がいまだに深い傷として残っている。ベトナムとイラクでの血まみれの戦争を経験した米国と同じように、アフガン侵攻やチェチェン紛争の結果、ロシアも遠い地での戦闘に兵力を展開して戦うことに非常に消極的になっている。そして仮にイスラム国がロシア軍兵士を人質に捕り、これまでに他国民に行ったように、公に処刑するようなことがあれば、プーチン大統領は実効的な措置を講ずる前に、国民からの怒りに直面するだろう。

 今回のシリア情勢におけるロシアの突然のエスカレーションにおいて、最も重要な点は今後ロシアがどの程度本気でイスラム国対策を行い、シリアの安定を取り戻すことに取り組むかであるが、それはロシアと米国が二国間での協力、また新たな有志連合の設立などにおいて相互に納得できるプロセスを見つけることができるかどうかである。

 これまでのところ、そのような米ロの相互理解に対して最も障害となっているのがアサド大統領の処遇についての意見の相違である。ロシアはアサド大統領の指導力が、反政府軍を鎮圧させる地上戦を継続させ、シリア全体の統一を維持するために必要な存在と考えているが、米国はアサド政権の行動自体が、イスラム国が世界から戦闘員を集める格好の宣伝ポスターになっていると見ている。オバマ大統領はアサド大統領の退陣を対話の前提としているが、ロシアはそれを拒んでいる。

 ワシントンの一部からは、少なくともしばらくは、アサド政権、そしてプーチン大統領に対しても、これまでの嫌悪を我慢して柔軟な対応を準備すべきだとする声が高まるだろう。しかし、2016年の米大統領選がヒートアップするにつれて、オバマ政権にとって、この問題における決断はどちらにしても容易ではないだろう。ホワイトハウスの次の一手が注目される。

 
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