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海外自治体調査報告:「スウェーデンの基礎的自治体(コミューン)の実態(1)」

April 9, 2008

基礎的自治体(コミューン)の姿?

「地方自治体のガバナンス研究」の一員として、高福祉高負担の政策と徹底した地方分権で自治制度の国スウェーデンを訪問した。この国の基礎的自治体(コミューン:市)の市長や議長、政党幹部などからヒアリングを行った。

質素な市庁舎

市庁舎を訪ねて、まず驚かされることは、その簡素な外観と実務的な部屋である。歴史と伝統がありノーベル賞授与の関連式典を開催する首都ストックホルムを除いて、訪問した基礎的自治体の市庁舎や議場は、わが国のそれと比べていたって簡素である。

人口約8万人のソデルタリア(Sodertalje)の市庁舎は、街中の普通のビルを間借りしている。家主から建物が古すぎて安全性が保障できないから撤去して欲しいと申し出があり近々引っ越すらしいが、議員や職員、住民は不便を感じていない。

住民の平均所得が高いことを誇る人口約3万人のダンドリード(Danderyd)の市庁舎は、郊外にある16世紀に建築された古城を改築した建築物である。その中にある議場は北欧のモダンなデザインの椅子と白い3人がけのテーブルだけである。市長以下13名の議員による執行役員会が開催される部屋も落ち着いた木目の楕円テーブルと黒い椅子に議案説明用に設備されスクリーンがあるだけである。

南部の環境都市として有名なヴェクショー(Vaxjo)の議場は、市民コンサートホールと兼用されている。演壇には「市民コンサートホール」とくっきり書かれている。市長室も例外ではない。青い木目の家具で統一され清潔感のある部屋には、パソコンに向かえる机と数名が打ち合わせできるテーブルがあるだけだ。また、執行役員、議会委員会の正副長や政党幹部の議員には個室が与えられてものの、その他の議員に部屋はない。もちろん議員控え室のような余計な部屋は存在しない。ただ、議場の入口に談笑できるスペースが確保されている。廊下にも面しているため、議員の交流だけでなく、住民と会話を楽しむことができる場としても活用されている。実際、我々の突然の訪問にもジーンズにスニーカー姿の議員が自らコーヒーを片手に快く挨拶に応じてくれた。

行政の管理職職員にも議員と同様に部屋があてがわれている。しかし、彼らの部下の部屋はない。それどころか一般職員さえ見かけることは少ない。企画立案機能と実施機能が分離されており、現場に十分な権限が下ろされていることが伺える。庁舎や議会は政治決定を行う場であることが体感できる。

真の議員報酬とは

訪問した市の議員は非常勤であり無報酬である。執行役員や議会委員会の正副長になると報酬が発生する。然るべき役職に対しての文字通りの報酬である。それ以外の議員で将来有望な政治家には、政党がそれなりの給与を支払い、生活を安定させ政治活動にも支障がないように制度を整えている。政党への助成金は国や党中央からではなく、コミューンの予算から拠出される。すなわち住民の税金で賄われているのである。それ以外のほとんどの議員は無償で議会活動に参加し、月2、3度開催される政党の会議に参加し、選挙準備の意味合いのある日常的な政治活動に従事している。それは全てフルタイムの仕事の合間をぬって行われている。議員が尊敬される職業である理由が納得できる。

わが国の自治体の姿

市庁舎や議会のハコモノや議員報酬は必要最低限に抑え、教育や福祉の事業に特化して予算を配分している。必要なもの、不要なもの、贅沢なものの峻別、予算配分と人員配置について、日本の自治体が学ぶべき点が多いのではないだろうか。

文責:赤川貴大

本稿を簡潔にまとめたレポートが、4月9日付『埼玉新聞』に掲載されました。

    • 元東京財団研究員・政策プロデューサー
    • 赤川 貴大
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