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【経済論文レビュー】研究は政策担当者をどう変えるか?ブラジルの2150の自治体における実験結果

要約

  • ブラジルの自治体連盟と協力して、政策に関する研究結果を伝えることで政策にどのような結果が起きるかの実験を行った
  • 就学前教育の効果について研究の結果を伝える第一の実験では、自治体の長の政策効果の予想を変えることが明らかになった
  • 納税に関するリマインダーレターを送る政策研究の結果を伝える第二の実験では、研究を伝えることで実際に政策を実施する確率が上昇した

この「経済論文レビュー」シリーズでは、最新の経済学の論文で、現代の政策的課題の理解の手助けとなるような実証分析を行っているものを中心に紹介していきます。 第一回である今回は

Hjort, J., Moreira, D., Rao, G., & Santini, J. F. (2019). How Research Affects Policy: Experimental Evidence from 2,150 Brazilian Municipalities. NBER working paper No. 25941.

を取り上げます。 経済学では近年実証を重視し、政策の効果を推定する論文が数多く出版されていますが、こういった研究が存在することで実際の政策にどのような影響があるのでしょうか? この論文ではこの問いに対し、ブラジルの国立自治体連盟(CNM)と協力し、自治体の長に対し二つの実験を行うことで答えています。

第一の実験:就学前教育プログラムの効果測定についての研究結果を伝えることで政策担当者の政策効果の予測が変わるか?

第一の実験では、自治体の長に対し、就学前教育(ECD)プログラムの認知的能力への効果の研究を紹介することが政策効果の予測値にどう影響を与えるかを見ています。 具体的には、

  1. CNMの会合にて計657名の自治体の長に対し、まずECDプログラムの効果を事前に予測してもらう。
  2. 各参加者にランダムに選ばれたECDプログラムの効果測定についての研究を紹介する
  3. 研究を紹介された人に再度政策効果の予測をしてもらう。

というような手順を取っています。研究を紹介したことの効果は、事後の政策効果の予測値を(1)事前の政策効果の予測値と(2)紹介された研究での政策効果の二つの変数を使った回帰分析により推定しています。回帰分析の結果では、(1), (2)どちらの係数も1%水準で統計的に有意であり、かつ係数は両者とも意味のある大きさです。つまり、研究結果を紹介することで、自治体の長の政策効果の予測を確かに変えることができたのです。

第二の実験:納税リマインドレターの政策効果についての研究結果を伝えることでその政策の採択確率を向上させられるか?

たとえ研究を紹介したことで自治体の長の政策効果に関する予測を変えられたとしても、それが実際に政策の導入に繋がらなくては意味がありません。そこで、第二の実験では、 納税者に税金納付期限やそれに遅れた場合の罰などを記載したリマインダーレターを送ると税を期日内に収める割合を向上するという研究を紹介し、自治体がどれくらいその政策を取り入れるかを実験により調べています。

この実験では、CNMの4年に一回の大会合に参加した自治体の長を介入群と対照群に分け、45分の研究紹介セッションを行い、その後リマインダーレターが取り入れられたかどうかを15~24か月後に電話インタビューを行うことで調査しています。この実験では、研究紹介セッションを受けたことでリマインダーレターの利用が10%ポイント増えたと結論付けています。

研究から政策への壁

研究が政策を変えるのであれば、なぜ研究結果に基づいた政策が既に行われていないのでしょうか。 著者らは、発展途上国ではシンクタンクなどの政治家へ研究成果を伝える組織が不足しており、それが研究結果に基づいた政策が採用されないことに繋がっているのではないかと指摘しています。これは、日本においてもシンクタンクのような研究と政策のかけ渡しになる存在が重要であるということに繋がるのではないでしょうか。

日本にそのまま当てはめるには注意が必要ですが、これまで経済学は政策効果の研究に注力しがちだったのに対し、政策効果の研究が実際に政策形成に繋がっていくのかを大規模な実験により明らかにした、重要な論文であるといえるでしょう。

猪野明生

猪野 明生

  • リサーチアシスタント

研究分野・主な関心領域

  • マクロ経済学
  • 財政政策
  • 銀行論
  • 定量的マクロ経済学(異質的エージェントモデル)

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット