2019年1月、ホワイトハウスでの会合に出席したヘリテージ財団のケイ・コールズ・ジェームズ氏所長(左から2人目)       写真提供 Getty Images

ネバー・トランプ派の現在

帝京大学法学部准教授
宮田智之

2016年大統領選挙では、共和党内でいわゆるネバー・トランプ派が台頭した[1]。当然、来年の大統領選挙に向けて共和党内で反対の声が再び盛り上がるかどうか注目されるが、現時点ではその可能性は非常に低いように思われる。

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ヘリテージ財団研究員のデヴィッド・アゼラドは、同財団のニュースサイトである『デイリー・シグナル』(4月30日付)において「ネバー・トランプ派の運動は生命維持装置に繋がれている状態」との論考を発表し、トランプに批判的な声を過度に取り上げようとする熱心なニュース・メディアのおかげで、かろうじて生きながらえてはいるものの、離脱者が続出するなど、ネバー・トランプ派は今やフリンジの運動に過ぎないと述べている。その理由として、アゼラドは以下の点を強調している[2]

ベン・シャピロ、リッチ・ローリー、エリック・エリクソンらのように、ネバー・トランプ派のコメンテーターの大半は、トランプを公正な態度で評価するようになった。反トランプの急先鋒であった共和党議員も、ジェフ・フレークやボブ・コーカーは引退し、ベン・サスの存在感は低下、ジョン・マケインは死去した。ネバー・トランプ派の代表誌であった『ウィークリー・スタンダード』は廃刊に追い込まれ、後継の『ブルワーク』は全く影響力がない。共和党有権者のトランプ支持率は89パーセントに達しており、そして何よりもトランプに反対する理由がない。トランプ政権は、減税、積極的な規制緩和、国防予算の増額、最高裁をはじめとする司法人事など数々の目覚ましい保守的な業績を上げている[3]

ヘリテージ財団は、トランプ政権寄りで知られる保守系シンクタンクである。2016年大統領選では、ほとんどの保守系シンクタンク関係者がトランプに反旗を翻した中で、保守系シンクタンクとしては唯一のトランプの「応援団」であった。そのため、元々ヘリテージ財団関係者がネバー・トランプ派に対して厳しい傾向があることは否めないものの、アゼラドの分析は彼らの現状を考える上で重要であり、なかでもトランプ政権発足以降、ネバー・トランプ派のインフラが弱体化してしまったことは事実である。

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そのことをもっとも端的に示しているのが、保守系メディアの状況である。『ウィークリー・スタンダード』が昨年末に廃刊に追い込まれただけでなく、同じくトランプに批判的であった他の保守系紙誌の多くは、その後トランプ寄りへと論調を変えた。伝統的な保守系雑誌である『ナショナル・レビュー』も一種の転向を遂げ、正に「保守系メディアの再編」と言っても良い事態が起きている[4]

言うまでもなく、このような保守系メディアの変化を最も体現しているのがFOXニュースである。予備選の段階ではトランプと激しく対立しながら、今日では「トランプ派」の中核的存在である。ショーン・ハニティー、ローラ・イングラハム、タッカー・カールソンらが連日連夜、政権寄りの発言を行い、ハニティーに至ってはトランプ自身のお気に入りで「非公式のアドバイザー」とも呼ばれている。さらに、FOXニュースは多くの関係者をトランプ政権に送り込み、同政権のための人材供給源であるとも言われている[5]

この保守系メディアほど劇的ではないにせよ、同じく2016年にネバー・トランプ派の拠点であった保守系シンクタンクの世界においても変化が観察できる。今日、保守系シンクタンク関係者から大々的なトランプ批判は聞こえてこない。もっとも、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のようにトランプ政権に一定の距離を置いているところもあるが、現在、それらシンクタンクの中でトランプ批判を活発に行っている者は極めて少ない。

ヘリテージ財団に続き、親トランプ路線に舵を切った保守系シンクタンクもいくつか現れている。ハドソン研究所はその典型であり、政権発足以降トランプ政権との関係強化を進め、特に対中強硬論を展開する場としてトランプ政権によって活用されるようになった。昨年10月のマイク・ペンス副大統領による包括的な対中演説は、ハドソン研究所で行われた[6]。また、民主主義防衛基金(FDD)も大統領選後トランプ寄りに変わった保守系シンクタンクの一つである。

こうした中で、反トランプを掲げているシンクタンクと言えるのは、ニスカネン・センターぐらいである。同センターは、2015年にケイトー研究所出身者によって設立されたシンクタンクで、一部で「トランプに反対する共和党員の本拠地」と評されている。昨年12月に開催したシンポジウムに、ビル・クリストル、デヴィッド・フラム、マイク・マーフィー、ジェニファー・ルービン、アン・アップルバウムといったトランプ批判の代表的な論客とともに、一時共和党予備選への出馬が噂されていたラリー・ホーガン・メリーランド州知事を招いたことで、現地メディアでも一定の注目を集めた。しかし、その後、ニスカネン・センターの活動がさらに盛り上がりを見せているとは言い難い[7]

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このように、ネバー・トランプ派のインフラは明らかに弱体化してしまったが、その要因としては、アゼラドも指摘しているように共和党員の圧倒的多くがトランプを支持している影響や、トランプ政権が保守派によって長年推進されてきた政策のいくつかを実現した影響は大きいであろう。いずれにせよ、以上の現状から、この先共和党内でトランプ反対の声が巻き起こる可能性は非常に低いように思われる。

なお、周知の通り、ネバー・トランプ派に参加した者達はトランプの怒りを買い政権人事において徹底的に排除されたが、最近それらの人々の中で政権入りを果たす事例がいくつか見られることは興味深い。一つは、エリオット・エイブラムスのケースである。エイブラムスは、選挙戦中に『ウィークリー・スタンダード』誌上でトランプを批判したことで、政権発足直後にほぼ決まりかけた国務副長官就任の話がトランプ自身により却下されてしまったが、本年1月にベネズエラ問題担当特使に任命されている。もう一つは、ジェームズ・ジェフリーのケースである。ジェフリーもネバー・トランパーの一人で、多くの共和党系外交専門家が署名した反対書簡にも名を連ねたものの、昨年8月以降シリア問題担当特使や対IS担当特使に任命されている[8]。ただし、トランプが忠誠心を特に重視していることを考えると、今後ネバー・トランプ派に参加した人々が続々と政権入りする状況は想像し難い。

 

 

[1] 宮田智之「『ネバー・トランプ派』外交専門家のその後」(2018102日) <https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=85>

[2] David Azerrad, “The NeverTrump Movement Is on Life Support,” The Daily Signal, April 30, 2019 <https://www.dailysignal.com/2019/04/30/the-nevertrump-movement-is-on-life-support/>

[3] Ibid.

[4] 会田弘継「日本人が知らない『トランプ派メディア』の本質:保守系メディアに吹き荒れる変革の嵐」『東洋経済オンライン』(2019年2月19日) <https://toyokeizai.net/articles/-/264661>

[5] Jason Schwartz, “Fox, facing new competitors, clings tighter to Trump,” Politico, November 9, 2017 <https://www.politico.com/story/2017/11/09/fox-news-trump-presidency-244712>; Jane Mayer, “The Making of the Fox News White House,” The New Yorker, March 11, 2019 <https://www.newyorker.com/magazine/2019/03/11/the-making-of-the-fox-news-white-house>

[6] 中国専門家のマイケル・ピルズベリーは、トランプ政権と同研究所を結ぶパイプ役の一人であり、スティーブン・バノンとの関係を通じてトランプ側近に対中政策に関する助言を提供するようになった。Alan Rappeport, “A China Hawk Gains Prominence as Trump Confronts Xi on Trade,” The New York Times, November 30, 2018 <https://www.nytimes.com/2018/11/30/us/politics/trump-china-trade-xi-michael-pillsbury.html>

[7] Alexander Burns, Jonathan Martin, and Maggie Haberman, “A Bruised Trump Faces Uncertain 2020 Prospects. His Team Fears a Primary Fight,” The New York Times, January 26, 2019 <https://www.nytimes.com/2019/01/26/us/politics/trump-rnc-2020.html> David M. Drucker, “Little-known DC think tank becomes brain trust of ‘Never Trumpism’,” Washington Examiner, February 1, 2019 <https://www.washingtonexaminer.com/news/campaigns/little-known-dc-think-tank-becomes-brain-trust-of-never-trumpism>

[8] Nahal Toosi, “Elliot Abrams, prominent D.C. neocon, named special envoy for Venezuela,” Politico, January 25, 2019 <https://www.politico.com/story/2019/01/25/elliott-abrams-envoy-venezuela-1128562>; Nahal Toosi, “Former Trump critic promoted to top anti-ISIS job,” Politico, January 4, 2019 <https://www.politico.com/story/2019/01/04/james-jeffrey-isis-envoy-1081890>

宮田 智之

  • 帝京大学法学部准教授