2019年7月18日、議会で記者団に囲まれるペロシ下院議長(写真提供:共同通信イメージズ)

米議会:夏季休会前にひしめく財政問題

早稲田大学社会科学総合学術院教授
中林美恵子

 

2016年に選出されたトランプ大統領だが、早くも来年には再選の年を迎える。米中貿易戦争のみならず、同盟国にも厳しい要求をつきつけ続けている大統領だが、世界経済が不安定になればなるほど、金利低下への圧力や財政出動で対処しようとする傾向が見える。CBO(議会予算局)の初代局長だったアリス・リブリン氏[1]515日に他界したのを機に、党派を超えたプロフェッショナルな公僕の重要さが改めて見直される論調も見られた。しかしながら、大統領選挙と議会選挙を来年に控え、さらに民主党の大統領指名候補争いも始まった状況下では、米国議会と行政府の攻防のほうがより目立つようになってきている。連邦議会は間もなく夏の休会に入るというのに、財政を巡る攻防はギリギリの交渉となっている。下院は726日、上院は82日を最後に、96日まで長い休会に入る予定だ。 

CBOの分析によると

CBOは1974年議会予算法によって創設され、議会直属の機関として共和党と民主党の双方に奉仕する機関として、現在も大きな役割を果たしている。その原型を創る段階で絶大な貢献をしたのが前出のリブリン氏だった。

CBOは5月9日、リブリン氏が他界する直前のタイミングで大統領の予算教書[2]に関する分析を公表していた。今年は(政府機関一部閉鎖の影響を受けて)例年より遅い3月11日に大統領が議会に対して予算リクエストを提出した。議会ではそのリクエストを参考にしつつも、独自路線で予算編成を進めている。米国では予算編成の権限を握るのが議会であるため、野党民主党の合意が不可欠となる環境があり、中立的な分析を専門とするCBOの示す見解は与野党双方の議論に重要な論拠を提供する役割を果たす。またそのベースラインや見通しは、実際に議会が作成する予算編成の基本的な数字となる。

CBOによれば、トランプ大統領の予算リクエストは向こう10年で財政赤字および累積債務の増加を促すものとなっている。これは大統領の意向を反映するOMBが主張する財政均衡に向けた赤字縮小という主張と真っ向から相反する結果だ。CBOもOMBも専門的なエコノミストで構成される分析のプロ集団であるが、こうも見解が食い違うということは、OMBの党派性を抜きにして語れない。一方でCBOは議会付属であるために、民主党と共和党の両党に対して責任を負い、どちらか一方の政党に肩入れすることはできない[3]。そのCBOの分析[4]で目立ったトランプ政権とのギャップは以下のようなものである。

  • 大統領の予算教書の内容では、2022年までに兆ドル単位での財政赤字が発生することになる。これはOMBの推計では71%の赤字削減が見込まれているのと相反する結果である。
  • 累積債務でも、現在のGDP比78%から2029年には87%まで上昇すると予測する。この点においても、OMBのほうは逆に71%まで低下すると計算している。
  • 10年後の累積債務額についても、CBOでは9兆ドルと計算されているが、OMBではそれを2.7兆ドルも下回ると予測している。

こうした数字の乖離が生じる原因は、もっぱら経済成長見通しの違いである。OMBは将来10年にわたって平均で2.9%の成長を見込んでいる一方で、CBOは1.8%という慎重な見立てをしている。CBOの成長見通しは、他の機関の予測と近い。例えば、連邦準備理事会(Federal Reserve Board)では1.9%としており、民間のBlue Chip[5]では、1.8%に近い数字になっている。これらと比較しても、OMBは極端に楽観的であるという評価が成り立つ。 

債務上限問題

財政赤字問題と並行して、債務上限の問題が政治的カードとして予算編成プロセスの中に含まれる場合が多い。2018年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2018)では、2018会計年度と2019会計年度の2年間に限り、歳出上限を上積みすると同時に、政府の債務上限を2019年3月1日まで撤廃するという合意を含んだ[6]。つまり「2年予算ディール」と呼ばれる措置によって、暫く債務上限問題が先送りされたのだ。債務上限は22兆ドルに達した3月2日に凍結措置が無効になったが、その後も財務省は国債利払い費として予備資金を使うなどの特別措置で資金繰りをしてきた。

しかし、7月12日のムニューシン米財務長官から米議会に宛てた5行ばかりの短い書簡によれば、連邦政府の資金が9月上旬にも枯渇する可能性があるという。議会が9月6日に再開してから審議していたのでは間に合わないかもしれない。そこで、下院が休会に入る前に債務上限を引き上げるよう書簡は求めた。正確な政府資金枯渇の見通しを予測するのは困難であるが、元上院予算委員会スタッフディレクターや引退した上院院内総務らが運営するBipartisan Policy Centerによれば3つのシナリオがあり、以下の図のように最も悲観的な予測では9月上旬に枯渇するとされる。

 

出所:Bipartisan Policy Centerホームページより

 

今年度の予算編成も、実は「2年予算ディール」が目指されている。2018年超党派予算法と同様に、今年9月末までに決着するべき2020年度予算に向けて、債務上限の引き上げも含める形で、今後2年間の歳出枠(裁量的経費のキャップ)交渉をセットにしたい意向だ。債務上限に関しては、過去において政府が実際にデフォルトを起こした例はなく、金融市場の混乱を避けることが優先されてきた。しかしながら、歳出枠の問題のほうは両政党が常に対立する[7]ため、債務上限問題だけを先行して解決するのは非常に難しい。そんな中、7月20日から21日にかけての週末も、スティーブン・ムニューシン財務長官とナンシー・ペロシ下院議長は盛んに交渉を続け、ペロシ下院議長は7月25日に本会議で債務上限の採決をする用意があるとした[8]。民主党の交渉ポイントは、いかに民主党が望む歳出枠の拡大を共和党側に呑ませるか、になっている。

ペロシ下院議長は歳出権限として軍事費に7,330ドル、非軍事費に6,470億ドルが必要だとする一方で、トランプ政権は軍事費に7,500ドル、非軍事日に5,840ドルというように、ギャップが大きくなっている[9]。今年度は軍事費の歳出枠が6,470億ドル、非軍事費が5,970億ドルであるが、海外緊急対応作戦などの数字を入れれば、前者が7,160億ドル、後者が6,200億ドルとなっている[10]ため、それを双方さらに増額するとなると財政規律という点では脅威となる。

さらに、ペロシ下院議長は債務上限引き上げと引き換えに、退役軍人が政府の専用医療機関でなく民間医療を受けるために政府が費用を支払うプログラムの創設も要求している。この金額は、通常の歳出枠に縛られない特別会計措置として2020年度に90億ドル、そして2021年度に130億ドルとされ[11]、2年の合計で220億ドルとなる。これに対して共和党は、歳出枠内の予算で可能なプログラムだと主張しており、新しい義務的経費を創設する意思はない[12]

ただし今年は、共和党と民主党そして大統領の三者が2020年に選挙を控え、債務上限や歳出枠で揉め続けたくないという心情もある。したがって今年も「2年予算ディール」が成立する可能性は高い。しかしそうなると、連邦政府の財政赤字をどの程度までコントロールできるのかという懸念を残すことになる。

OMBのように経済成長見通しを高く見積もる場合はともかく、議会の予算編成にはCBOの見通しが使われる。その中でトランプ大統領も議会共和党も民主党も、誰もが満足できる歳出を確保するために財政支出拡大に頼ることになるならば、たとえ交渉がスムーズに決着したとしても、米国財政には暗雲が立ち込める事態が否定できなくなる。

 


[1] 米議会予算局(CBO)の初代局長や連邦準備制度理事会(FRB)副議長を歴任。クリントン政権では行政管理予算局(OMB)局長も務めた。財政赤字削減の必要性を一貫して主張したことで知られる。また党派を超えた働きでも有名である。

[2] “A Budget for a Better America – President’s Budget FY 2020.” Office of Management and Budget, March 11, 2019.

[3] このスタンスや伝統も1975年に初代局長に就いたリブリン氏の影響が大きかったといわれる。1981年にレーガン政権が「減税によって財政赤字が縮小する」との根拠で実施した大型減税に対して、彼女は「財政赤字はむしろ急増」するという分析を公表し、実際に彼女が正しかったことが後のデータで証明された。彼女の8年間にわたる局長としての仕事が、CBOの地位を確立したともいわれる。

[4] “An Analysis of the President’s 2020 Budget.” Congressional Budget Office, May 9, 2019.

[5] アメリカ民間エコノミストの経済予測が「ブルーチップ経済予測調査」として公表される。

[6] 東京財団政策研究所 中林美恵子「予算過程から見るアメリカ政治 ―CR編―」(https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=186)参照。

[7] 防衛費増額をしたい共和党と国内向け政策の予算を増額したい民主党の対立は根深い。

[8] New York Times, July 17, 2019.

[9] Washington Post, July 11, 2019.

[10] The Hill, July 17, 2019.

[11] Roll Call, July 17, 2019.

[12] 2019722日時点での交渉段階。

中林 美恵子

  • 早稲田大学社会科学総合学術院教授