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ワシントンUPDATE AI民主主義の到来か

ポール・J・サンダース
米センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト上席研究員


G20大阪サミットでの会談前に行われたロシアのウラジーミル・プーチン大統領との共同記者会見で、「会談では米大統領選挙介入問題について取り上げるのか」という記者からの質問を受けたアメリカのドナルド・トランプ大統領は、隣にいたプーチン大統領に「選挙には介入しないでくれ」と冗談交じりで話しかけ、米国内で新たな物議をかもした。

トランプ大統領がロシアによる選挙介入を真剣に取り上げるのを拒否し続けていることには理由がある。2016年の大統領選挙での自身の勝利の正当性を失うことを避けたいからだ。ただ、介入は実際に行われたことが判明している。これを否定し続けることは、反対勢力からの不必要な怒りを招き、他にも当惑する人たちがたくさんいるだけに、逆効果になる。とはいえ、ロシアによる介入だけが21世紀の民主主義諸国にとっての脅威というわけではない。新しいテクノロジーが外国政府の介入を可能にしているだけでなく、国内候補者の政治運動や政党、そして、特にアメリカでは資金力のある権利擁護団体に新たに強力なツールを与えつつある。この状況はもっと真剣に議論されるべきであり、民主主義を守るための行動も必要だ。

ロシア政府のフェイスブック広告への支出は数年間でわずか16万ドルだ、とトランプ大統領擁護派は主張する。2016年選挙では、米国内でデジタル広告に6億5,000万ドルが使われたことを引き合いに出し、ロシアの活動はさほど大きな影響を与えていないという。この金額の差は確かに歴然としているが、サンクトペテルブルクに本社を置くインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)の活動範囲は、フェイスブック広告に限ったことではない。実際の選挙介入の規模やその影響の大きさは計り知れない。 

予算とデジタル政治広告費の膨張

フェイスブック広告などに関する上記の統計は、ロシアの支出が限定的であったということよりも、アメリカの政治広告市場がいかに巨大かということを表している。大手のメディア・広告分析会社であるカンター・メディアの推計によると、アメリカの政治広告市場は2019年から2020年にかけての大統領選挙期間中に60億ドルに達するとされている。アナリストたちは、デジタル政治広告に2016年の大統領選挙期間中の約2倍である12億ドルが使われるだろうと予想している。この広告費は空前の規模であり、今も増え続けている。

そうはいっても、2018年には約1,075億ドルに達したアメリカのオンライン広告費全体に占める政治広告の割合は小さい。この事実は重要な意味を持っている。アメリカだけで1,000億ドルを超える広告費が投入され、広告会社が顧客にベストなメッセージを発信しようと精力的な競争を展開しているからだ。この場合の「ベスト」とは、商品やサービスの購入、特定の候補者への投票など、視聴者や読者を説得して行動を起こさせる上で最も効果的、という意味だ。そして、ここには、特定の集団だけでなく個人も対象としたメッセージを継続的に開発・テストし、そのメッセージに磨きをかける人工知能(AI)のアルゴリズムの開発競争が、次第に加わるようになってきた。

2016年の大統領選挙の時、このようなAIの機能はすでに十分なレベルまで進んでおり、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏は100人規模のデータ分析・メッセージ発信チームを率いて、トランプ氏の勝利に貢献した、と多くの評論家たちは考えている。選挙後のインタビューの中で、クシュナー氏は、この選挙対策はオンラインのマーケティング技術を応用したものだったと言い、この技術とは、特定の有権者に接触し、説得するための「メッセージの最適化、心情操作、機械学習」と説明している。同記事によると、このチームはグーグルマップを使って「約20種類に類型化された投票者の位置密度を図式化した位置特定ツール」をカスタマイズ設計し、高い得票率が期待できる地域に資金を集中させた、という。

こうしたこともあり、トランプ陣営は対抗候補のヒラリー・クリントン陣営が使った費用の半分で選挙キャンペーンを賄うことができ、トランプ候補は全国的には人気が低かったにもかかわらず、重要視した州で辛勝をおさめ、過半数の大統領選挙人団による投票を獲得し、大統領になることができた。 

ベストな政策か、ベストなAIか?

おそらく政治制度としての民主主義の未来を考える上でさらに重要なのは、このようなAIの機能はまだまだ新しいものであり、広告に投入される巨額な資金や、当選すれば手に入る大きな権力を考慮すれば、今後は極めて急速に拡大・進化していくだろうということだ。さらに、コンピュータチップに搭載されるトランジスタ数は2年ごとに2倍になり、処理能力も2倍になるというムーアの法則に従って成長が続いているということは、政治におけるAIの機能と影響力が指数関数的に増大する可能性のあることを示しており、多くの国で実施される新しい国政選挙は新しいデジタルツールの実験場になりつつある。

神経学者や実験心理学者、経済学者などの研究者たちが人間の意思決定についてすでに研究している内容や、機械学習を過去のデータに応用して選挙モデルを構築・改善することで導き出されるであろうさらなる教訓を考えると、ベストなAI戦略を持つ者が選挙や国民投票などに勝利することが常態化する未来が想像できる。有権者が、候補者や争点に関する詳細な情報よりも、もっぱらアルゴリズムに基づいたオンラインのニュースや情報サービスに依存するとなれば、これらのシステムがどこまで濫用されるのか気がかりだ。

こうした世界において、民主主義国家のせめてもの救いは、有権者が二つ以上の選択肢を持ち、それぞれの陣営が自身の政治AIシステムを持つことかもしれない。これは国家が一党制システム下で、競争することなく政治的な影響力を行使することよりは確かに望ましい。しかし、一方で、複数の政治AIシステムとアルゴリズムの中で繰り広げられるメッセージ戦争にフラストレーションが増大し、疎外感が深まることも考えられる。すでにポピュリズムのあおりを受け、緊張が生じている民主主義社会において、民主的ガバナンスに対する新たな脅威が加わることになる。民主主義諸国はこのような課題について早急に検討し、対処する責任があるだろう。

 

オリジナル原稿(英文)はこちら

ポール・J・ サンダース

  • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest

    President, Energy Innovation Reform Project