2019年6月末、民主党の大統領候補者討論会が2日間かけて行われた(写真は6月26日、写真提供 GettyImages)

「混沌状態」を当面抜け出せそうにない民主党の「影の予備選」

上智大学総合グローバル学部教授
前嶋和弘

2020年大統領選挙の民主党指名候補争いの一大イベントである候補者討論会が6月末から始まったが、まだ、何とも混沌とした状態だ。来年2月からの予備選開始までの「影の予備選」は今後も続いていく。ただ、どの候補が主導権を握ることができるのか、先が見えない。

1.混沌とした今後

「影の予備選(シャドー・プライマリー)」とは、立候補から本格的な予備選が開始される半年程度の戦いのことを意味する。世論調査の支持率と勢い、さらには献金額の多寡が「影の予備選」の雌雄を決める。

それでは、今年の6月末に2日間かけて行われた候補者討論会で何が変わったのか――。はっきり言ってほとんど何も変わっていない。

討論会直後は「バイデンに陰り」「ハリス、ウォーレンが急伸」といった瞬間的な支持率の変化はあったが、その後の流れを見ると、討論会前とさほど変わっていない。7月下旬の段階の各社世論調査では、バイデンが25-30%後半と頭一つ抜け出しトップ。ウォーレン、サンダース、ハリスがバイデンの半分程度の支持率の15%程度で横並び、ブーティジャッジが約5%、オルーク、ブッカーがいずれも3%程度となっている。

献金については、連総選挙委員会(FEC)への報告をまとめた「オープンシークレット」によると[1]、これまでにサンダースが4,615万ドル、ウォーレンが3,552万ドル、ブーティジャッジが3,203万ドル、ハリスが2,483万ドル、バイデンが2,143万ドルとなっている。ただ、3月から6月末までの第2四半期に限っては、遅れて出馬したブーティジャッジとバイデンが他の候補を抑えてトップ2となっている。これに対して現職のトランプ大統領は12,484万ドルと民主党候補に対して圧倒的なリードを保っており、その差は大きい。

予想通りとはいえ、最初の討論会はあくまでも「顔見世」程度であった。6月26日が1,530万人、トップのバイデンが登場した27日の場合、1,810万人がテレビ(NBCと同じ系列のMSNBCとテレムンド)の生放送を見たといわれており、後者は民主党の予備選討論会では過去最大であったとNBCが発表している。それなりに記録を作った数字とは言え、筆者は2つの討論会を見たが、実行不可能な政策を連呼する大言壮語のPRイベントに過ぎなかった。国民全員を対象とする無料の健康保険制度の導入(サンダース)など、財源がまったく示されていなかった。

予備選討論会の最初は今回に限らず、大言壮語のオンパレードが一般的だ。例えば、2016年大統領選挙の共和党指名候補争いの最初のイベントとなった2015年8月の最初の討論会も全く同じだった。ただ、アウトサイダーだが世論調査ではトップだったトランプが登場したため状況は異なっていた。10人の候補の中でトランプが実際に並び、移民規制などの論戦を繰り返しただけで、「もしかしたらトランプは本気かも」と世界中が気付いた歴史的な瞬間だった。当時、中継したのはケーブルニュース局のフォックスニュースだけだが、2,400万人という視聴者数に達していた。地上波も中継した今回の民主党討論会に比べて、この数はけた違いに大きいといっても過言ではない。その後も支持率は堅調で、討論会は指名獲得までの大きなきっかけとなった。

今回の民主党討論会では、注目が高まらない中、バイデンも支持固めを行えなかったし、他の候補者も抜け出せなかった。さらに、討論会の直後にトランプ大統領の米朝会談があり、メディアの注目度も一気に奪われてしまった。

2.候補者たちの3つの戦い

混沌の中であっても、今後、振り落とし段階に入りつつある民主党内の戦いは熾烈である。

まず第1の戦いは、前回の論考で予想した通り、支持率トップを走るバイデンを引きずり降ろそうという動きが目立っている。民主党指導部は中道のバイデン氏は本選挙でもトランプ氏に勝利できるとみているかもしれない。気さくなバイデンなら「トランプにとられた白人ブルーカラーを奪い返すことができる」という見方もある。

しかし、各候補は生き残りのためにバイデン氏に対する攻撃を強めている。予備選討論会前後ではアフリカ系のハリスとコーカーがバイデンの人種観にしつこいまでにかみついている。バイデンが新人議員の時に南部出身の民主党保守派(サザンデモクラット)の先輩上院議員と「うまく付き合っていた」と発言したことに対して、コーカーは「人種差別主義者と協力した。謝れ」とカメラの前で訴えた。バイデンが議員になった70年代にサザンデモクラットはまだ力を持っており、党内でうまく接することは不可欠だった。バイデンは「人種差別的な意図は全くない」と主張したが、結局謝罪をせざるを得なかった。

また、討論会では「バスイング(busing)」にバイデンがかつて否定的だったことに対して、ハリスが総攻撃している。バスイングとは、1970年から80年代を中心に人種隔離がみられる効率の学区設定を改革する為に、特定の人種(多くはアフリカ系)を郊外に、郊外の白人の児童をアフリカ系が多数住む地域の学校に入学させ、バスで通学させる制度である。バスイングは、人種隔離改善を狙ったが、強制的であったため、かなりの反発があった政策でもある。現在は明らかな人種隔離が目立たなくなっているため、廃止しているところがほとんどである。ハリスが「私が(白人の地域に行った)一人」と詰め寄った。

バスイングに対してかつて否定的な意見を持っていたことや、サザンデモクラットと交流していたことだけで非難するのは、誤解を恐れずに言えば、かなりの難癖に近いかもしれない。難癖をつけてでもバイデンを引きずり落とそうという2人の候補の意図が見える。

第2の戦いは、左派(革新)陣営の生き残りの戦いがある。具体的には、ウォーレン(「体制内改革」)とサンダース(「革命」)の左派生き残りの戦いだ。

党内で競う予備選の場合、投票率が低いこともあり、そもそも投票所に行くのはイデオロギー的に極端な層が少なくない。民主党の場合、左派のサンダースやウォーレンがバイデンらの票を奪う可能性も大いにある。

討論会前後に明らかにした、プライベートエクイティの投資会社に新たな規制を課す政策や、GAFA規制など、具体的な分だけ、政策面ではウォーレンが先行するようにみえる。ただ、サンダースに何となくみえる人間的魅力(ライカビリティ)は政策以上に大きな強みになるかもしれない。

左派の代表格、オカシオコルテスが今後、どちらの候補を支持するかも大きく注目されている。オカシオコルテスの場合、出馬前にレストランでバーテンダーやウエートレスとして働いていたほか、スクールバスの運転手など複数の仕事をこなし、その合間に、2016年の大統領選挙で民主党から立候補し、若者からの熱烈な人気を得てサンダースの選挙運動にも加わった経緯がある。ただ。いまのところ、サンダース支持を明言していない。もし、ウォーレン支持を明確にした場合、左派の支持者がどう動くか、大いに注目される。

3つ目の戦いは、全くそこにいないトランプ氏への総攻撃だ。個々の政策よりも「トランプ的なもの」をいかにして否定するかが各候補の大きなポイントとなっている。そこにいない相手を非難するのは簡単だ。

それもあって、各種世論調査ではトランプ大統領と民主党の各候補の比較は民主党候補の方が有利に出るものが多い。しかし、「まだ成長しきっていない」段階の民主党側の各候補の数字は期待や未知の部分を含めると「参考程度」に過ぎない。

3.見えない民主党の方向性

ただ、もう一つの見えない戦いがある。それは民主党の方向性といってもいいのかもしれない。

複数の候補者が乱立した場合、2016年選挙でサンダース氏を応援したような熱狂的な若者をどう引き寄せるかがポイントかもしれない。もちろん若々しいし、魅力がある。一方で決して左派路線が歓迎されているばかりではない。左派の勢力伸長に対して「党を割るものだ」「本選挙ではトランプ氏に負けてしまう」と危機感を持つ主流派は同氏の台頭を素直に喜んでいない層もある。そもそも民主党が強い選挙区で勝利した左派議員が目立ってはいるものの、昨年の中間選挙での下院の民主党の議席増は、中道の政策を打ち出した候補が勝ち取った議席が躍進につながっている。つまり、「左派路線では先細り」「大統領選挙ではトランプに有利」という見方である。ただ、「民主党内に亀裂を生む」という指摘そのものが「エスタブリッシュメントの既得権益を守る動き」とみる見方もあり、新陳代謝の必要性を訴える声もある。

7月14日に、下院の左派の4人の非白人下院議員を念頭にしたトランプ大統領の差別的な指摘に対して、強い非難をしながらも大統領弾劾の動きは踏みとどまっているペロシ下院議長の難しい判断もそこにある。ツイッターで「完全に破滅して犯罪がまん延する、元にいた国に帰り、建て直しを手伝ったらどうか」というトランプ大統領のツイートは、最も活きのよい4人の議員に「よそ者」のレッテルを張り、「4人組と同じように民主党全体が極端に左」というレッテルを張ろうとするトランプ氏の思惑(罠)である。

4.第2回討論会、そしてその後

第2回討論会は7月30、31日に開かれるが、その後は9月半ばまで討論会は間があく。この期間に大人数の中でどう生き残りを狙うのか。例えば支持率で伸び悩むオルークやブーティジャッジがどうなるのか。勢いがここから回復すれば一気に有力になるが逆も大いにあり得る。スワルウエル下院議員が脱落したように、これからは消える候補が続出していくだろう。

この各候補者の戦いとともに、さらに大きな民主党の方向性が少しずつみえてくるのかどうか、これにも注目したい。ただ、「候補中心選挙」の伝統で党の主導部の選挙戦への介入が極めて限られる中、こちらの方は候補者争いよりもさらに混沌とした状態が続くかもしれない。

  

[1] https://www.opensecrets.org/2020-presidential-race

前嶋 和弘

  • 上智大学総合グローバル学部教授