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【論考】早期解散は選挙にどう影響するか:党利党略としての解散の大義
画像提供:共同通信
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【論考】早期解散は選挙にどう影響するか:党利党略としての解散の大義

January 28, 2026

123日に衆議院が解散され、28日の投票日に向けた選挙戦が始まった。現憲法下における内閣(首相)主導の解散(憲法7条解散)としては、衆議院の残り任期から見て最短の解散である。また、解散から投票日までの日数も16日と、こちらも戦後最短である。

今回の高市早苗政権による解散には「大義がない」「党利党略」といった、解散権行使の度に出てくる道義的な批判がなされている。しかし、内閣は、自らの政権や与党が保有する全議席を賭して解散に打って出るのであり、党利党略に走るのは、ある意味やむを得ない面がある。憲法論的な批判はあるものの、実務的にも、解散権の行使は事実上の「首相の専管事項」として幅広い裁量が認められてきた。

本稿では、今回の異例な早期解散が有権者の行動に与える影響などについて、欧州各国との比較を踏まえつつ分析的に見ていきたい。なお、筆者は道義的な観点からの「大義がない」「党利党略」といった批判には与さないものの、分析的な視点から見れば、「解散の大義」は、まさに党利党略的な観点からも必要となることを確認していく。

解散権は政権が持つ強大な選挙ツール
早期解散に対する有権者の『勘ぐり』
党利党略としての「解散の大義」
早期解散のパラドックス?

解散権は政権が持つ強大な選挙ツール

内閣などに与えられた解散権は、選挙について行使権者に強大なアドバンテージを与える。行使権者は、内閣支持率が高いときや経済の調子の良いときなどに「波乗り」(猪口孝氏)して解散権を行使することもできる。準備不足の野党の不意を突くことも可能だ。

効果は強大だ。欧州諸国における実証研究では、機会主義的な解散権の行使により、与党政権は得票率で平均して5%程度のボーナスを得られるという結果も出ている(Schleiter & Tavits 2016)。さらに言えば、欧州諸国を含む議院内閣制国家の多くでは、解散権の行使に厳しい制約が課せられており、日本ほど自由に「波乗り」できる国は少ない(Goplerud & Schleiter 2016参照)。そのため、日本の政権が解散権行使によって得られる選挙でのボーナスは、他の議院内閣制国家以上に大きいはずだ。

実際、安倍晋三政権が仕掛けた2014年と2017年の早期解散で自民党は圧勝し、政権の長期化に大きく貢献した。今回の早期解散においても、高市首相らが、安倍政権時の戦略にならったという見方も示されてきた。

今回の解散は、高市政権の支持率が歴史的な高水準を達成する中で実施された。史上最短の憲法7条解散ということで、野党各党の準備不足も明らかだ。まさに記録的な「波」にうまく乗りつつ、野党の準備不足も突いた、政権戦略的には理想的なタイミングでの解散のようにも見える。

しかし、過去の政治学の研究は、予想外の早期解散は、必ずしも解散権者の当初の目論見通りの結果を生み出さない—当初思っていたほど勝てない—という実証結果も導き出している。あまりに早い時期に解散することで、「なぜ残りの長い任期を捨ててまで、今解散するのか」といった有権者の疑念を招くことなどがその要因だ。

早期解散に対する有権者の『勘ぐり』

時の政権が高支持率や良好な経済指標の波に乗って解散しても、思ったほどの議席を確保できない。この点を、日本と類似の解散権制度を持つ英国の例をベースに理論的・実証的に指摘したのが、数理的な政治学研究で知られる米ニューヨーク大学のアラスター・スミス教授(2003; 2009)である[1]

スミス教授は、解散権を行使する側の政権(内閣)が、有権者に対して情報面において優位に立つと想定する。たしかに、政権が今後、どういう経済政策を打ち出していくのか、財政を拡張させるのか緊縮するのか、政権内や与党内にどのような潜在的スキャンダルがあるのか、といった選挙の重要な争点で、政権は有権者に対して情報面で優位に立つ。

そして、そういう政権側しか知らない情報を基に、政権側が今後の支持率低下を予想すれば、情報が表に出る前に早期解散に打って出る可能性は高まる。むろん、有権者側も簡単にはだまされない。政権が予想外の早期解散に出たとき、有権者はそれが「政権のパフォーマンスが将来的に落ちる」というシグナル(兆候)ではないかと勘ぐる。「今後、政治や経済であまり良いことがないと政権内でわかっているから、残りの長い任期を放り投げて、今のうちに解散するのではないか」という疑念を抱くのだ。そしてそのことを織り込んで政治態度や投票行動を変化させる。つまり現政権への支持を低下させる。

スミス教授は英国の解散選挙データを検証し、解散時期が予想より早期であればあるほど、①解散発表後の内閣支持率の落ち込みが大きい、②選挙後の経済パフォーマンスの落ち込みが大きい、③解散決定時から選挙までの期間が短い、などを統計的に示した。

これは今回の高市政権下での解散に非常に示唆的であり、選挙後に明らかになっていく②を除けば、現時点(126日)までの動きをかなり正確に言い当てている。

①については、解散発表後に各社の世論調査で高市政権の支持率は軒並み低下した。高市首相の真意は不明だが、解散が言われるようになった後、メディア(コメント欄含む)やSNS上では「高市政権が異例の早期解散に踏み切るのは、今後、通常国会での野党の追及などに耐えられず、支持率が落ちると予想しているからではないか」といった主旨の勘ぐりがしばしば見られ、その種の受け止めが支持率低下に影響した可能性はある。

③については、今回の解散は史上最短である。高市首相は、その理由として2026年度予算案の早期成立などを挙げた。ただ、そこまで2026年度予算の早期成立を重視するのであれば、なぜせめて3月の予算成立まで解散を待てなかったのかという疑問は残る。他方、スミス教授の枠組みによれば、③は早期解散の効果を政権側で増幅させうる。すなわち、野党の準備不足を突くと同時に、支持率低下の時間的余地を与えないためである。

党利党略としての「解散の大義」

スミス教授の研究を突き詰めれば、「解散の大義」はその存在自体が、政権にとっての選挙を有利に導く面が見えてくる。今回のように非常に早期の解散を実施すると、有権者は「高市政権はパフォーマンスがこの先落ちると予想している」と勘ぐり、政権への支持を低下させる可能性がある。実際、高市政権の支持率は低下気味だ。そうなると自民党は、解散決定時にもくろんでいたほどの議席を確保することができないかもしれない。

こうした有権者の勘ぐりと支持率低下を防ぐためにも首相は、今回の早期解散は将来のパフォーマンス低下を予期してのものではなく、大義のためにどうしても必要だったと有権者を説得する必要がある。つまり「解散の大義」は、メディアなどで指摘されるような道義的な観点以上に、純粋に選挙を有利に運ぶ(=党利党略)のためにも重要となるのである。

たとえば2005年の小泉純一郎内閣による「郵政解散」は、憲法7条解散としては今回の解散に次ぐ早期解散だったが、解散の大義(郵政民営化の是非)を有権者に伝えることに成功した。それもあって、小泉内閣の支持率は解散表明後に下がるどころか跳ね上がり、自民党は選挙で圧勝した。郵政民営化の是非という明快な大義が有権者に受け入れられたため、有権者の早期解散に対する勘ぐりを払拭することができたのである。言い換えれば、「大義」は有権者の疑念を打ち消す「説明装置」として機能しうる。

早期解散のパラドックス?

1は、1960年以降の衆院選について、衆議院議員の解散日までの在職日数を横軸、解散総選挙における自民党議員の獲得議席比率を縦軸にとったものである。両者には負の相関関係が見られる—つまり、解散が早期であるほど自民党の獲得議席比率は高くなっている。この相関性が適切なコントロールの下でも残るとすれば、それはおそらく、早期解散が選挙の勝利確率を高める面よりも、勝利確率が高いときに早期解散が行われてきた面によるものが大きいだろう。


1 在職日数と解散総選挙における自民党議員の獲得議席比率

注:内閣による自主的な解散・任期満了の選挙に絞るため、内閣不信任案可決による憲法69条解散(1980年、1993年)は除いてある。また、1960年以降で唯一自民党以外の政党(民主党)が解散を決断した2009年選挙も除いてある。
出典:筆者作成

 

図を今回の解散選挙に機械的に当てはめれば、自民党の圧勝ということになる。ただ、現実はそう単純ではない。特に今回のような異例の早期解散には、本稿で述べてきたような、早期解散が政権与党にとって負に働く面が強く出てくる可能性がある。実際、現時点までの世論調査結果を見る限り、内閣支持率の低下など、スミス教授の枠組みに沿った傾向が見られている。また、ほぼすべての世論調査において、有権者の過半は今回の解散の必要性について否定的である。つまり現時点では、有権者は「解散の大義」を認めていない。

127日に衆院選は公示され、多党化時代の与野党入り乱れての選挙戦が繰り広げられる。選挙期間は、有権者の政治への関心が最も高まる時期であり、政権や政党と有権者との間の情報格差が一気に縮まる時期でもある。そこで政権与党の自民党が、今回の早期解散が「支持率低下前に勝っておこうの逃げ」ではなく、「政権の考える『日本のあるべきすがた』の実現のため必須の決断」であると有権者に納得させられるかが、選挙結果に影響を与える一つの大きな要因となるだろう。有権者の「勘ぐり」を払拭できる大義を、選挙戦の中で示すことができるか——それが、解散権者である高市首相に問われているのである。


[1] 英国は、日本と同様に首相の解散権の自由度が非常に高い。2011年に議会任期固定法が制定され、首相の解散権行使にいったん強い制約が設けられたが、2022年には再び2011年以前の状況に戻している。

<参考文献>
Goplerud, M. and P. Schleiter. 2016. “An index of assembly dissolution powers.” Comparative Political Studies. 49-4. Pp. 427-456. SAGE Publications.

Schleiter, P. and M. Tavits. 2016. “The electoral benefits of opportunistic election timing.” Journal of Politics. 78-3. Pp. 836-850. University of Chicago Press.

Smith, A. 2003. “Election Timing in Majoritarian Parliaments.” British Journal of Political Science. 33-3. Pp. 397-418. Cambridge University Press.

Smith, A. 2009. Election Timing. Cambridge: Cambridge University Press.

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