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第16回東京財団フォーラム「オバマ大統領の誕生と新政権の方向性」

November 17, 2008

第16回東京財団フォーラムにおいて、久保文明上席研究員(東京大学法学部教授)は11月4日に投票が行われたアメリカ大統領選挙を総活し、オバマ政権の抱える政策課題を概観した上で、対日政策の方向性を分析した。その要旨をご紹介したい。

まず、オバマの勝因として、金融危機、経済低迷、長引くイラク戦争、低い大統領支持率、アメリカは悪い方向へ向かっているというムードなど、共和党への大きな逆風が吹いていた点が挙げられる。

一方、オバマは国民が失いかけていた国への誇り、アメリカ人であることの誇りを取り戻させた、少なくともその希望を国民に与えた。選挙戦略的にみても、連邦助成金をもらわず自力で選挙資金を調達したため、巨額の資金集めに成功した。

その豊富な資金を使って、オバマは空中戦を展開しただけでなく、全米に選挙事務所を設置して地上戦でもマケインを圧倒した。そして若者、黒人、高学歴・高所得の白人、ヒスパニックなど幅広い層から支持を取り付け、黒人の利益代表ではないことを印象付けた。

これに対してマケインは、中道か保守か立場を明確にできなかった点に加え、副大統領候補の人選でも失敗した。また、未曾有の金融危機に直面して、国民はマケインの経済運営能力に対する不安を抱いたことも敗因の一つとなった。

選挙では圧勝したオバマではあるが、新政権の船出は決して順風満帆とは言えず、大恐慌以来と危惧される金融危機をどのように乗り越えるか、国民の期待を一身に背負っているだけに、就任1年目に成果が問われることになる。

そもそもオバマの支持基盤は反戦左派であったが、大統領選挙中に次第に中道への転換を図った。オバマはイデオロギーにこだわるタイプではなく、プラグマティックであることから、よく言えばフレキシブルだが、態度が変わることを批判されるリスクもある。

オバマは、副大統領にバイデン上院議員、首席補佐官にエマニュエル下院議員、政権移行チームのトップにポデスタ元首席補佐官を指名したことから判断すると、閣僚人事は手堅いとみられる。

その際、閣僚に共和党員を任命するなど、超党派で政権運営に取り組む意向を示している。また議会運営においては、上下両院とも過半数を確保したことはオバマにプラスであるが、民主党多数派に依存するか、共和党穏健派を取り込むか、オバマの手腕が問われる。

日米関係については、アメリカの対アジア政策の基盤が日米同盟にあるという点において党派を超えたコンセンサスが存在し、政党間の争点ではない。しかし、対アフガニスタン政策を重視するオバマ政権ゆえに、日本は難しい課題を突き付けられることになるだろう。

すなわち、インド洋における給油活動は最低限の支援として期待されているが、日本が同盟国としてさらなる貢献を求められる可能性は十分ある。その際重要なのは、日本が何をするかであり、日本の主体的な取り組みがアメリカの対日政策に影響を及ぼすことになるという視点が重要である。

同様に、民主党政権になれば、アメリカの対アジア政策が中国寄りにシフトするのではないかと危惧するよりも、日本はアジアにおいてどのような地位を占めたいのか、日本自身が考えて行動する必要がある。

民主党は、共和党に比べて、環境、貧困、疾病などグローバルな課題に関心が高く、その手法も国際協調を重視する。これは国際機関との連携を重視する日本外交のアプローチに同調しやすい。

したがって、このような課題では、日本が主導権を取る余地が大きく、日本が貢献できる可能性が大きい。例えば、アフガニスタンにおける教育支援などは、貧困対策ともなりテロ対策にもなるという意味で、日本は積極的に乗り出すべき分野であろう。

久保教授のお話の中で、特に興味深かったのは、世論調査の結果から読み取れる選挙戦の分析であった。例えば、支持の程度を比較すると、オバマの場合、「熱狂的に支持する」と答えた有権者が50パーセント前後だったのに対し、マケインの場合は、「2人の内から選ぶならマケイン」という回答が「熱狂的支持」を上回った。

また、「オバマが好きだから支持する」という積極的支持の割合が「マケインに反対だからオバマを支持する」という消極的支持の割合を大幅に上回ったのに対し、マケインの場合は「オバマに反対だからマケインを支持する」有権者の割合が相対的に高かった。

また、投票する上で人種が最も重要な要素であるかという問いに対して、「人種は関係ない」と答えた有権者は82パーセントにも上った。これに対して、年齢に関する問いについては「年齢は関係ない」と答えた有権者は、52パーセントにとどまった。

さらに、マケイン候補に関する懸念は何かという問いには、「万一の場合、副大統領候補は大統領としての職務を果たせない」という回答が34パーセントで最も高く、次いで「マケインはブッシュの政策を継承する」、「マケインの経済政策は企業や金持ちを潤すだけ」という回答が多かった。

これらの調査結果は、オバマが個人的魅力により有権者を引き付けたのに対し、マケインは人間的にも政策的にも十分にアピールすることができなかったことを物語っていて興味深い。

最後に、黒人大統領の誕生は、1964年の公民権法の成立を超える次元で、アメリカ社会が人種差別を克服したことを全世界に示したものであり、その象徴的意味は大きい。さらに、「子供たちに夢を与えた」という意味でも、アメリカの将来に明るい展望が開けたと言える。

久保教授のプレゼンテーションに対して、会場からは質問やコメントが相次ぎ、日本人もアメリカ大統領選挙の結果と新政権の行方に、大きな関心を持っていることが確認できた。来年1月20日に大統領に就任するオバマ大統領の一挙手一投足に全世界の注目が集まっている。

(政策研究部 片山正一)

    • 元東京財団研究員兼政策プロデューサー
    • 片山 正一
    • 片山 正一
  • 研究分野・主な関心領域
    • アメリカ政治
    • アメリカ政治外交史
    • 現代アメリカの政党政治
    • 政策形成過程
    • 内政と外交の連関

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