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【特集】2026年の課題と展望―メディアのジェンダー改革、問われる「オンスクリーン」
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【特集】2026年の課題と展望―メディアのジェンダー改革、問われる「オンスクリーン」

January 20, 2026

2025年は日本初の女性首相が誕生し、日本政治史の大きな転換点を迎えました。2026年の日本はどのような課題と向き合っていかなければならないのでしょうか。東京財団で昨年10月より新しい研究プロジェクトを開始した上席フェローが、各専門分野から「2026年の課題と展望」を論じます。

この記事のポイント
 ・「オフ」から「オン」へ、改革の本丸はコンテンツ
 ・登場人物の偏りが報道の質と信頼を損なう
 ・現場主導の測定・公表が成功の鍵                                                                                     

1. 2025年、改革へ動き出したメディア業界
2. なぜ「オンスクリーン」のジェンダーバランス改善が重要なのか
3. BBC「50:50プロジェクト」の成功から学ぶ
4. 2026年、求められる「コンテンツの健康診断」

1. 2025年、改革へ動き出したメディア業界

2026年は、日本のメディア組織によるジェンダーと多様性を切り口にした改革の進展が試されている。2025年に業界団体レベルで象徴的な動きが重なったからである。

日本民間放送連盟(民放連)は、人権尊重・コンプライアンス強化の取り組みの一環として、「ジェンダー平等推進プロジェクト」を発足させた[1]。フジテレビをめぐる一連の問題で、同質性の高いガバナンス体制が指摘されたことを受けたもので、民放各社の意思決定層に女性が少ないことなど、業界全体のジェンダーギャップ解消に向けて議論を始めた。

日本新聞協会も同年、「ジェンダー・多様性」に関する協議会を立ち上げた[2]。このテーマに特化した会議体の設置は、1946年の設立以来初めてとされる。2025年度調査では、記者に占める女性の割合は26.6%、管理職に占める女性割合は10.8%で、女性管理職が1割を超えたのは初めてだった[3]。中村史郎会長(朝日新聞社)は「典型的な男性社会と言ってもいい新聞業界の意識改革を進めたい」と明言し、協議会は今後、加盟社で働く若い世代の意識調査も行う予定だ。 

現場発の動きも始まった。新聞や通信社、テレビ局で働く女性有志6人が、日本女性記者協会を設立し、202511月に設立記念フォーラムを開いた[4]。同協会は、「ニュースルームに多様性を」を理念に掲げ、女性記者が会社の枠を超えてつながり、育児との両立やキャリア形成といった、現場の記者が直面する課題解決に向けた学びの場やネットワークを作る見通しだ。60年の歴史をもつ韓国の女性記者協会とも相互交流していくという。

このように2025年になって、民放連や新聞協会といった業界団体が重い腰をあげ、ジェンダーと多様性を業界の課題として正面から扱い始めたことは歓迎したい。現場からのボトムアップの動きも重なっている。しかし改革は、組織内の女性管理職比率向上といった「オフスクリーン(組織の内側)」だけでは完結しない。メディアの公共的役割を考えれば、自分たちが生み出し、社会に提供する番組や記事、コンテンツといった「オンスクリーン(画面に映るもの)」における多様性こそが問われている。ニュースに登場する専門家、解説者、インタビュー対象者、特集の主人公は誰なのか。むしろ、視聴者や読者が直接目にする「オンスクリーン」の点検こそが、改革の本丸といえるだろう。では、この偏りはどの程度深刻で、なぜ是正が急務なのか。

2. なぜ「オンスクリーン」のジェンダーバランス改善が重要なのか

ニュースにおけるジェンダーバランスの改善は、世界共通の課題である。グローバル・メディア・モニタリング・プロジェクト(GMMP)の2020年調査によると、新聞、テレビ、ラジオを含む世界のニュース報道に登場する女性の割合は25%にとどまっている[5]。日本においても例外ではない。NHK放送文化研究所の国内調査では、ニュース番組に登場する人物の男女比は6対4、夜の報道番組に限れば7対3であった[6]

深刻なのは、質的な偏りである。同調査によると、年齢層別で女性は男性に比べて若年層に集中し、テレビは「中高年の男性と若い女性」という構図が顕著であった。また男性は専門性や権威をもつニュースの当事者として登場するのに対し、女性は名前も肩書もない形で登場することが多かった。これらは単なる倫理的な問題ではなく、報道の根幹である正確性に関わる。社会の半分を占める女性の視点や経験が欠落すれば、メディアが伝える現実が歪み、見落とされがちな課題は議題に上らない。結果として、視聴者・読者が判断するための材料は不十分なものとなる。また、「見えないものにはなれない」という言葉が示すように、目に見えるロールモデルがなければ、人は自分の未来を描けない。ニュースで専門家や解説者として登場する女性の過少代表が続けば、とりわけ子どもたちや若年層の職業選択の幅を狭めることになる。

さらに問題は、こうしたジェンダーバランスの欠如がメディアへの信頼と無関係ではない点にある。英ロイター・ジャーナリズム研究所の国際比較調査では、信頼できる報道機関を判断する際に、「自分のような人の立場を公平に代弁しているか」を重視する回答が世界平均で65%を占めている[7]。同調査の日本の数値でも、この項目は62%と高く[8]、「偏見がない」「高い報道基準」「透明性」と並ぶ重要な要素として認識されている(図1)。つまり、「オンスクリーン」のジェンダーバランスは、今やニュースの信頼を支える喫緊の課題なのである。

図1 ニュースメディアを信頼するうえで重要な要素(日本・世界平均、単位:%

(出所)Reuters Institute for the Study of Journalism, Digital News Report 2024(世界平均)およびNHK放送文化研究所(『放送研究と調査』、税所2024)より筆者作成

3.  BBC50:50プロジェクト」の成功から学ぶ

では、この「オンスクリーン」の偏りを是正する具体的な方法は存在するのか。その答えが、英国の公共放送BBCの「50:50 The Equality Project(以下50:50プロジェクト)[9]」にある。50:50プロジェクトは、番組に登場する人物の男女比をカウントし、女性比率を50%に近づける取り組みである。たった1つの番組から始まった草の根の取り組みが、5年後にはBBC内で750チームに広がり、世界30カ国、145の外部組織に導入された。BBC公式報告書によると、参加チームの6割が目標を達成している。BBCはこのプロジェクトによって、報道のみならず、スポーツや音楽番組に至るまで、自社のあらゆるコンテンツにおける女性の代表性を劇的に向上させた。

成功の背景には、現場目線に立った制度設計があった[10]50:50プロジェクトは以下の3つの基本原則で運用されている。(1)データ収集による変化の促進=現場が自ら番組の登場人物を計測し、社内でデータを共有する。(2)コントロール可能な範囲の測定=専門家や解説者、企画の主人公など、現場が選定できる出演者に絞って計測する。代替不可能な人物(例:首相の演説や事件の目撃者)は測定対象から外す。(3)質には決して妥協しない=男女比を50:50にするために番組の質を落とすことは決してしない。常に最適な人物を選ぶ。これらは、突発事案や締め切りに追われるジャーナリズムの組織文化や編集の独立性を守ることを優先しており、現場発のボトムアップの施策ならではの特徴があった。

図2 BBC 50:50プロジェクト 公式ウェブサイト(スクリーンショット)

(出所)https://www.bbc.com/5050/impact2024/ (2026年1月5日最終アクセス)


しかしながら、当初は現場の反発もあった。部外からの一律の数値目標は、「編集の自由への介入」と映ったからだ。特に、出演者を男性に大きく依存していたビジネス・経済部門の番組では、開始後1年半以上、強い拒否感が続いた。なかには、「男性を絶滅危惧種にするつもりか」「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の暴走」といった辛辣な批判も噴出した。プロジェクト創設者で、キャスターのロス・アトキンスは繰り返し、「このプロジェクトは50:50であって100:0ではない」と説明し、男女の対立を煽る仕組みではないことを丁寧に共有した。 

転機になったのは、現場が自らの番組を数え、予想以上の偏りに気づいたことだった。アトキンスは、ラジオで1時間、男性の声しか聞こえず違和感を抱いたことが、50:50プロジェクト立ち上げの動機となった。また、ある番組では、スタッフが実際に数えてみると、女性が半分以上との予想に反し、4割にも満たず、自らのジェンダーバランスのデータを持っていなかったことにショックを受けた。現場の創意工夫も生まれた。女性専門家を探すのに時間がかかるという課題に対し、出演依頼のタイミングを午後ではなく朝に変更するなど、運用を見直した。「すでに最良の(男性)専門家を起用している」という反発には、事務局のリーダーが「本当に最良だと言い切れるのか。長年探してこなかっただけではないか」と問い返し、専門家選定に潜む無意識のバイアスを露わにした。初めて起用した女性専門家が、従来起用していた男性専門家より深い知識を持っていたこともあった。こうして「より良い報道のために、見落としていた専門家を発掘しよう」という前向きでクリエイティブな運動へと進化した。

4. 2026年、求められる「コンテンツの健康診断」

2026年、日本のメディアには、動き始めたジェンダー・多様性改革を「宣言」だけに終わらせないために、進捗を積極的に公表していくことを求めたい。具体的には、自分たちのコンテンツがどのような人々を映し出しているのか、定期的に点検し、社会に開示することだ。年に一度でもよい。番組や編集部の単位で測定し、簡潔な形でウェブ等に公表するだけで、改善の起点になる。番組の「解説者・専門家」の男女比や、新聞紙面の「識者コメント」「ひと欄」の男女比など、現場で把握できる項目から始められる。いわば「コンテンツの健康診断」として、自分たちの状況を知り、改善の方向性を示すことが信頼の土台となる。この自己診断は、組織内の意思決定層の多様化といった「オフスクリーン」改革にも接続するだろう。成功の鍵は、外部から押しつけられた「ノルマ」ではなく、現場自らが問題意識を持ち、試行錯誤しながら運用を工夫していくプロセスにある。

メディアの信頼回復には、「自分のような人の立場を公平に代弁しているか」が鍵となることは前述した。データの開示は、この問いへの誠実な応答である。若い世代がメディアを選ぶ基準も変わってきている。ジェンダーや多様性への取り組みや課題が可視化されない組織は、優秀な人材から選ばれなくなっている。広告主も「ビジネスと人権」の観点から取引先の多様性を注視する時代になった。

もちろん、日本特有の障壁は存在する。年功序列による意思決定層の固定化、数値目標への抵抗感、そして「いつもの専門家」に頼る慣習などである。50:50プロジェクトには日本からNHK2021年から参加しており、すでに12番組が取り組んでいる[11]。出演依頼の手法改善など、独自の工夫が進んでいるとされる。こうした実例の進捗状況をより広く公開し、他の放送局や新聞社も横展開していくことが、全体の改革を加速させるだろう。同時に、「日本では無理だ」とする思い込みを打破するためにも、成功事例や課題を共有することが重要だ。 

最も大切なのは、これは「女性のため」だけの改革ではないという認識である。多様な視点を報道に取り込むことは、結果として報道の質を高め、より多くの人々に届くコンテンツにつながる。新春のいまこそ、「どんな社会を、どんな鏡で映すのか」を問い直したい。

 

[1] 日本民間放送連盟(2025年5月22)「人権尊重・コンプライアンスの徹底に関する理事会決議と『民放連・緊急人権アクション』について」https://www.j-ba.or.jp/category/topics/jba106539 (2026年1月5日最終アクセス)

[2] 日本新聞協会(2025年6月11)「ジェンダー・多様性に関する協議会、第1回会合開催 業界意識改革へ」https://www.pressnet.or.jp/news/headline/250611_15926.html (2026年1月5日最終アクセス)

[3] 日本新聞協会(2025年9月23)「<従業員数・労務構成調査> 従業員数の減少続く 女性管理職、1割超に」https://www.pressnet.or.jp/news/headline/250923_15996.html (2026年1月5日最終アクセス)

[4] 一般社団法人日本女性記者協会 https://jwja.jp/ (2026年1月5日最終アクセス)

[5] Global Media Monitoring Project (2020) Who Makes the News? 6th Global Media Monitoring Project. https://whomakesthenews.org/wp-content/uploads/2021/11/GMMP2020.ENG_.FINAL_.pdf

[6] 青木紀美子・小笠原晶子(2025)「メディアは社会の多様性を反映しているか―調査報告(2023年度)テレビ番組におけるダイバーシティ」『放送研究と調査』75(2)22-53

[7] Reuters Institute for the Study of Journalism (2024) Digital News Report 2024. https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/digital-news-report/2024/

[8] 税所玲子(2024)「デジタル化の中でのニュースの読まれ方 2024①―国際比較調査『ロイター・デジタルニュースリポート』から」『放送研究と調査』74(11)2-25

[9] BBC 50:50 The Equality Project, https://www.bbc.com/5050/

[10] 小西美穂(2025)BBC50:50プロジェクトにみる報道現場のジェンダー改革現場主導の組織変革はなぜ成功したのか」『総合政策研究』(71)89-101

[11] NHK広報局(2024年1月17)「“多様性”を意識した番組制作が拡大中!~12番組が国際的プロジェクトへ参加~」 https://www.nhk.or.jp/info/pr/toptalk/assets/pdf/soukyoku/2024/01/003.pdf (2026年1月5日最終アクセス)

  • 研究分野・主な関心領域
    ジャーナリズム研究/放送メディア研究/メディアとジェンダー/ジェンダーと政治
    研究プロジェクト

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