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ワシントンUPDATE  「核をめぐる米朝合意の真意」

March 30, 2012

ポール・J・サンダース
センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト常務理事
東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・海外メンバー


ウラン濃縮、核実験、長距離ミサイル発射のモラトリアム(一時停止)受け入れという予想外の動きに出た北朝鮮。さらには、同国内の疑わしい核施設への国際原子力機関(IAEA)査察官復帰にも前向きな姿勢を示している。今回の合意は、米国および同盟国が、北朝鮮という秘密主義的な専制国家との交渉において直面せざるを得ない、根本的ジレンマを浮かび上がらせることになった。こうした現実や、今後迫られる難しい選択を踏まえると、今回の合意は、一部メディアが主張している「歴史的」出来事になることはないだろう。オバマ政権も、今回の合意について慎重な姿勢を崩すべきではない。

多くの政府が歓迎の意を示している今回の米朝合意は、中国で先日行われた会談の場で交渉が行われたものとみられる。最も重要なポイントは、中国、ロシア、日本、韓国という6カ国協議参加各国が、今回の合意を支援する声明を出している点である。ただし、日本、韓国両政府は、北朝鮮政府が口先だけでなく具体的な一歩を踏み出すのか見定めたい、という強い意向である。両政府が懐疑的姿勢を示しているのも至極当然である。北朝鮮問題の持続可能な真の進展に向けては、3つの大きなジレンマに直面することになるからである。

第1のジレンマは、真の全体主義体制を維持している世界で唯一の国と言える北朝鮮について、その奇妙で抑圧的な政府の存続を支援すべきか否か、という問題である。北朝鮮国民には、より豊かな生活が与えられるべきであるが、一方、指導者たちは、何ひとつ評価に値するものがない。しかし、北朝鮮政府が突然崩壊するような事態になれば、北朝鮮国民、さらには地域の他の人々も、大きな苦難を味わうことになりかねない。

オバマ政権は、北朝鮮への食料支援を決めたものの、その配布状況については一定レベルの監視を求めるとしている。米国内では、北朝鮮の独裁体制及びその言動に当然ながら多くの人々が憂慮を示し、今回の決断に対して早くも批判の声を上げている。さらに、今回の米朝合意は到達点ではなく、今後の交渉プロセスの出発点と見られている。したがって、過去の米朝協議に照らしてみれば、オバマ政権は今後、幾度となく同様の選択を迫られることになるだろう。オバマ大統領はこの先どこまで進んでいく覚悟があるだろうか。

第2のジレンマは、北朝鮮指導者を信頼するべきか否か、という問題である。現在、この問いに答えるのは比較的簡単である―これまでの協議の過程、そして協議後の北朝鮮政府の行動を考えれば、米国、日本、韓国政府内で、北朝鮮政府に確たる信頼を寄せている者はごくわずかである。問題は、北朝鮮との交渉で何らかの進展が見られた場合、その後の各段階において、一層強い信頼が必要になるということである。これにより、北朝鮮側が交渉時に提示する約束の信頼性だけでなく、果たしてそれを実行できるのか、28才の新指導者、金正恩(あるいは国家運営に携わるその他の個人ないし組織)の能力に対しても疑問が生じることになる。北朝鮮という世界有数の不可解な政治体制の内部構造について、外部から情報に基づく正しい判断を行うことは―あるいは、推測を行うことすら―極めて困難であろう。

一方、金氏とその取り巻きも、米国政府に対して同類の疑念を抱いていると思われる―オバマ政権は、一連の支援を最後までやり通せるのか?米国は、北朝鮮政府打倒と映ってきた取り組みを、本当に断念したのだろうか?オバマ政権が、国内の批判沈静化のために、北朝鮮政府の指導力に批判を強めれば強めるほど、こうした北朝鮮政府側の疑念も深まることになる。

最後のジレンマは、北朝鮮との交渉を、米外交政策目標の大枠の中にどう組み込んでいくか、という問題である。イスラエル政府筋は、今回の米朝合意はイランとの相互関係モデルには成り得ないと指摘し、上記の問題がいかに困難かに言及している。米国としては、イランの大規模ウラン濃縮能力の維持を許す前例を作ることなく、あるいはイランが北朝鮮のように実際に核実験を行うというより深刻な事態に陥ることなく、北朝鮮のケースのような複雑な核不拡散問題を交渉力で見事に解決できるとアピールしたいところだが、そのハードルは高い。今回の米朝合意は、単に米国政府のイランに対する許容範囲を示すだけの問題にとどまらないのである。北朝鮮、イラン両国との交渉に関しては、中国およびロシアも6カ国協議、「P-5+1」協議(国連安保理5カ国+ドイツ)を通じて関与しているのだ。

上記のジレンマのうちひとつでも解決できれば、世界の主要大国にとって外交政策上の偉業となるだろう。3つすべてを克服できる望みは薄い。特に、アフガニスタンやイラクの情勢悪化、ロシアの不透明な方向性、そしてアジアにおける米国の長期的役割に関する疑問といった点を考慮するに、これまで外交面の成果が少ないオバマ政権では、その可能性は非常に低いだろう。北朝鮮のモラトリアムが今後も継続すれば、それは望ましいことに違いない。しかし、オバマ大統領および同政権高官は、サプライズではあるが結局のところ暫定的でしかない今回の合意について、あまり声高に自慢しない方がよろしいだろう。

■オリジナル原稿(英文)はこちら

    • Senior Fellow in US Foreign Policy at the Center for the National Interest President, Energy Innovation Reform Project
    • ポール・J・ サンダース
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