タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/10/1

地籍調査と境界不明問題――六本木ヒルズの開発事例から

六本木ヒルズ全景  写真提供=森ビル株式会社

藤巻慎一

森ビル株式会社執行役員

都市部では所有者不明より境界不明が問題

六本木ヒルズは1986(昭和61)年の地元への呼びかけ開始から17年後の2003(平成15)年に完成を迎えた。その間、土地の境界確定作業に4年を要した。11ヘクタールの事業区域内に366筆の土地(宅地318筆、道路等48筆)があり、所有者単位に164の区画に分け、1区画ごとに境界を確定していった。

 

この境界画定作業の中で、所有者不明の土地は1筆のみだった。確定後の面積は4.73平方メートルの空き地。登記住所に所有者は居住しておらず、固定資産税の課税免税点以下で非課税であったため、本人も所有者であることの認識が低かったものと思われる。弁護士に依頼して戸籍の附票をたどり、親族を探し出して連絡したところ、アメリカ在住であることがわかった。海外在住者との境界画定手続きは困難を伴う。そもそも1坪強の土地の境界立ち会いのために来日してもらうことなど考えにくい。結果として、所有者のご兄弟にいったんその土地を買い取っていただき、それを事業者で購入してから境界確定作業を行った。

 

都市部における土地の問題は所有者不明より境界不明にある。それは地籍調査が進んでいないことによる。

 

地籍調査とは、土地の区画ごとに所有者、地番、地目と呼ばれる用途区分、面積、隣接地との境界などを調べ、所有者の合意を得て確定し、正確な地籍図、地籍簿を作成する調査である。1951年に制定された国土調査法に基づいて、おもに市町村等地方公共団体が進めるものだが、制度開始から60年以上が過ぎたものの、進捗率は52パーセントにとどまり、近年の進捗率から推計すると完了まで100年以上かかると言われている。

 

再開発事業の場合、土地調書、物件調書を作成し、それに基づいて権利変換の手続きを行う。土地調書作成のためには実測測量図の作成が不可欠である。地籍調査がなされていない土地の状況を調べるには、まず、公図と住宅地図や現地の状況を突き合わせるところから始めなければならない。公図は法務局で管理されている戦前の土地台帳付属地図で、中には明治時代の地租改正時に描かれたものがベースになっているものもある。長期にわたって手書きで転写が繰り返されてきたこともあり、現地の寸法を正確に反映しているとは限らない。六本木ヒルズの対象エリアの土地は公図6枚にまたがっており、それらを貼り合わせて現況の住宅地図と比較すると、いろいろな問題が浮かび上がってきた。公図上に現況にはない道路の曲がりや水路があったり、意味不明の線があったり、現況ではつながっている道路が公図上ではつながっていなかったり、中には隣同士で地番が逆転している例まであった(図1)。 

 

 図1 公図そのものの問題点 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

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 こうして開発前の土地、建物などの財産の状況をきちんと調べて、すべての土地の所有者から土地境界の確認をとる。民々同士の隣接地の境界確定はさまざまな思惑と思いが重なり、簡単には進まない。一方、道路や公園等の公共用地と民間私有地の境界確定、つまり官民境界確定も必要で、それにも多くの時間を要する。六本木ヒルズ開発の際の境界画定作業4年のうち、官民境界確定には3年を費やした。民間からの申請方式であり、協議先の官庁は大蔵省(当時)関東財務局、東京都財務局、東京都建設局、東京都管財担当課、港区道路担当課、港区管財担当課等多岐にわたる(図2)。役所への申請から確定まで数カ月の時間を要した。

 

図2 官民測量対象 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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これらの問題を解決していくにあたり、有効なのは、もちろん地籍調査を進めることである。地籍調査がなされていなければ、土地の測量、民々あるいは官民の立ち会い、官庁への申請、境界確定などに要するコストは再開発事業を実施する民間側が負担しなければならない。六本木ヒルズの場合、境界確定におよそ2億円かかった。地籍調査が完了していれば、こうしたコストをかけずにすむ。新設道路設計等の公共施設設計の協議も早く開始できるし、何より権利者の資産評価を正確な数字に基づいて計算することができる。しかし、地籍調査事業の進展は残念ながらはかばかしくない。そこで、以下では今後、地籍調査をどのように推進していくかということについて私見を述べたい。

地籍調査に先立ち行政主導の官民境界確定を

地籍調査は、住民説明会から始まり、土地所有者の立ち会いのもとでの一筆調査、地籍測量、地籍図等作成、成果の確認、登記所への送付と進む。しかし、はじめの所有者の立ち会いによる一筆地調査の段階で、相続未登記を含む所有者不明土地が2割存在していたら、その地域の面的な地籍確定はほぼ不可能である。簡単な例で示せば、碁盤の目状に区画された宅地において、道路に面した1区画の所有者が不明の場合、その区画と両隣および背後の3区画、合計6区画の境界確定が不可能となる。わずか6分の1の区画が所有者不明でも、その配置によっては全域の境界確定ができない。このような国土の状況下において、一筆地面積の確定にこだわり続けることは国土保全のために好ましくない。

 

国土交通省 土地・建設産業局 地籍整備課作成のパンフレット「地籍調査はなぜ必要か」で、地籍調査の効果9項目が説明されている。地籍調査が完了していれば、すべての効用が享受される。しかし、今の日本の状況、つまり、高齢化、相続の多発化、度重なる大規模自然災害からの復旧事業の緊急性などを考慮すると、9項目の効果すべてを狙って地籍調査の完了に多く時間をかけるより、急を要するいくつかの効果に目的を絞って進めるべきである。それは以下の3項目である。

 

効果5 各種公共事業の効率化・コスト縮減

効果6 公共物管理の適正化

効果7 災害復旧の迅速化

 

これら3つの効果を発揮するためには、必ずしも一筆地面積が確定している必要はない。そこで、地籍調査作業を2段階で実施することを提案したい。

 

第一段階は、官民境界確定の推進。

 

官民境界確定は通常、民間側から地方自治体などに境界確定を申請する。それを繰り返したところで、部分的に点線のようにしか確定せず、線状にはならない。そこで、地方自治体等から公有地の隣地所有者に対して確定を呼びかけ、線状に確定するのである。対象物は国、都道府県、市町村など公共団体が保有する全土地、および道路、公園、公共建物の敷地、庁舎、学校、法定外公共物等。隣接所有者の立ち会いのもとで所有者間の境界が確定できれば、所有者単位で確定書を作成する。確定できなければ、数人が連続する範囲で確定書を出す。

 

官民境界確定を優先して行う効果は大きく3つある。

 

一つは、この境界確定によって、少なくとも公共物によって囲まれた街区の正確な合計面積が割り出せること。市街地において公共土地の比率は高く、相当密度で存在している。各民有地の土地境界が確定していなくても、再開発事業で従前土地面積を確定する場合や、災害復旧で民有地を区画整理する場合に、従前の公簿面積割合で民有地の土地面積を割り振る等の使い勝手はあるであろう。

 

二つめは、災害復旧に際して、公共施設の位置を迅速に再現できること。復旧過程において、区画再編のための道路拡幅等の収用事業にも着手しやすくなる。

 

三つめは、官民境界画定作業の中で、所有者不明土地があぶり出されてくること。所有者不明土地の所有者探索の契機となる。とはいえ、すべての所有者が判明して初めて官民境界確定を行うのではなく、所有者不明土地部分を残しても前に進める。すべての土地所有者を確定することより、官民境界線の全体像を把握することを優先する。

 

この官民境界確定調査が完了したところから、第二段階として、一筆地ごとの地籍調査に入っていく。とはいえ、この段階に入っても、先の所有者不明土地問題を並行して解決していかなければ事業の進展は難しい。

 

当然、この方法をとるためには、法律の改正や補助事業の見直し、現在進んでいる地籍調査事業との整合性など、解決すべき点が多々ある。しかし、現行の制度・手法のままでは今直面する問題に対応しきれない。全国一律の実施が難しいとなれば、災害想定地域、緊急性の高い地域において、優先的に実施していく方法を考えるべきである。例えば、河川の浸水想定区域や、東海地震や南海トラフ地震で震度6強が想定されるエリアなどである。特定地域に絞って優先的に施策を実施することには通常は批判が出やすいが、昨今の自然災害の多発による復旧事業の早期化の重要性が認識されつつある今なら、国民の理解は得られやすいのではないだろうか。

 

 

 

藤巻慎一(ふじまき しんいち)

森ビル株式会社執行役員。1958年新潟県生まれ。1984年東京工業大学大学院修了。同年森ビル株式会社入社。1986年の地元呼びかけ時から2004年の再開発組合解散まで六本木ヒルズの開発計画に携わる。その後、複数の再開発案件に携わり、現在、都市開発本部開発事業部開発4部部長として港区内の再開発プロジェクトを担当。

 

 

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