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【論考】2026年衆議院総選挙とメディア SNS時代の選挙と報道
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【論考】2026年衆議院総選挙とメディア SNS時代の選挙と報道

February 13, 2026

元テレビ朝日 報道局プロデューサー 江野夏平

SNSや動画配信サービスを通じて政治情報に触れることは、すでに多くの有権者にとって日常となっている。こうした情報環境の変化を背景に、今回の衆議院総選挙では、各党の公約や政策実現の具体策を整理する報道に加え、それらがSNSや動画を通じてどのように拡散し、有権者にどのように受け止められたのかという点が、選挙報道における重要な論点となった。

一方でマスメディアは、公示後の選挙期間中は平時以上に政治的公平を強く求められるため、制約の下での報道とならざるを得ない。中でもテレビは、放送法に基づく政治的公平、いわゆる「不偏不党」を強く意識せざるを得ない立場にある。放送法第4条は、番組編集の準則として、政治的公平性や事実に基づく報道を求めるとともに、意見が対立する問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすることを定めている。

特定の立場や政党に偏らないことと、対立する意見や背景を幅広く示すことが、求められてきた。

こうした公平性への配慮が強く意識されるなかで、番組制作の現場では、各政党の扱いを時間や分量の面で均衡させることが重要な判断基準となり、特定の評価に傾いていると受け取られないよう、対立する見解を並列的に構成する編集が重視されてきた。さらに、政党や支持者からの問い合わせや抗議への配慮も重なり、報道姿勢が全体として慎重になりやすい状況も生まれていた。

その結果、候補者や政党の政策や公約について、必要な財源規模、制度変更の有無、実現までに要する時間といった具体的な条件が十分に整理されないまま伝えられる場面も見られた。

こうした報道のあり方が改めて問題視されたのが、前回の衆議院総選挙(20241027日投開票)だ。外国人政策や対中問題など社会的関心が高まりやすいテーマでは、正確なニュースよりも、過激な情報の方が拡散しやすい。実際、特定の地域における、恣意的に切り取られた外国人犯罪をめぐる噂や、根拠を欠く外国人への誹謗中傷が、裏付けもないまま視聴者の関心に迎合する形で拡散していた。にもかかわらず、メディアによる検証は十分に行われていたとは言い難い。放送においても、扱うリスクの高さを理由に踏み込んだ検証を控え、距離を置く傾向がみられた。その結果、SNS上で拡散する情報は、客観的な事実関係の検証が不十分なままさらに拡散し、偏った認識が広がる結果となった。

今回の衆院選では、こうした反省を背景に、SNS上の情報を検証しようとする動きが各メディアで見られた。

たとえば、選挙情勢を分析する報道では、SNS上で政党名や各党の公約がどれだけ話題になっているかを投稿数として数え、数値やグラフで示しながらスタジオで解説する形が取られた。SNSで何が話題になっているのかを感覚的に伝えるのではなく、どの政党や政策がどの程度言及されているのかを数字として示すことで、SNS利用者の関心がどこに集まっているかを比較して把握しやすくする工夫である。

さらに、YouTube上の選挙関連動画について、再生数上位の多くが候補者や政党の公式発信ではなく、第三者によって制作された動画であることを示す報道もあった。情報の内容だけでなく、「誰が発信しているのか」という情報源の所在に注意を向けることで、受け手が情報の信頼性を判断する手がかりを示した。

もっとも、テレビでの選挙報道の難しさは、不偏不党という制度面の制約だけでなく、テレビ特有の表現方法にも起因している。映像と音声は短時間で強い印象を与えるため、編集の仕方によっては事実関係の説明より印象が先行し、意図せず誘導と受け取られる可能性がある。放送倫理・番組向上機構(BPO)が、番組編集における切り取りや強調表現の危うさを繰り返し指摘してきたのも、こうしたテレビ特有のリスクによるものである。 

前回の衆院選では、新興勢力がSNS上で強い存在感を示した。これに対し今回は、主要政党もSNSを全体戦略に組み込んだが、その訴求力には大きな差があった。自民党は党首発信を軸にオンラインでの情報発信を継続し、テレビ出演や演説と連動させながら関心を維持した。SNSは新たな支持を生み出したというより、既にある支持や関心をさらに広げる役割を果たしたのではないか。いわゆる「高市旋風」と報じられた現象も、個人の人気に加え、SNS上での拡散と既存メディア露出が相互に作用することで形成された側面が大きい。

もっとも、選挙結果をSNS戦略のみで説明することはできない。経済状況や外交・安全保障への評価、野党側の戦い方など複数の要因が重なった結果と見るのが妥当だろう。

そのような状況下で、中道改革連合が選挙後になって「SNS対策が不十分だった」と総括する姿勢には、より踏み込んだ自己反省が求められる。SNSや動画プラットフォームが主要な政治情報源となっている現実を前に、有権者に届く形での発信や対話の手段を構築できなかったことは、単に選挙戦術で後れを取ったという問題にとどまらず、有権者の選択肢を狭めたことにほかならない。

マスメディアだけがメディアではなくなったこの時代に、従来型の発信に安住し、情報環境の変化への対応を怠ったのであれば、それは時代錯誤と言わざるを得ない。

民主主義は、複数の現実的な選択肢が提示されてこそ機能する。中道改革連合の発信力の低下は、政権批判の弱さ以前に、政治的競争の土台を痩せ細らせる。2026年の衆議院総選挙は、政党自らが、どのメディア、どのプラットフォームで、どのように有権者と向き合うのかという責任から逃れられない時代に入ったことを示している。ネットと既存メディアのどちらが正しいかを競うのではなく、有権者に選択肢を提示する努力を尽くしているのか。その自覚の有無こそが、今後の選挙と民主主義の質を左右していく。

  • 研究分野・主な関心領域
    • メディア論(映像表現論)
    • 放送法(危機管理)
    • 政策広報戦略
    • 社会実装プロセス

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