タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/10/15

トランプ政権の重要鉱物政策

写真提供 Getty Images

 

東京財団政策研究所上席研究員 久保文明

一般社団法人土地再生推進協会代表理事 光成美紀

はじめに

2017年12月20日、トランプ大統領は、重要鉱物の安全で信頼できる供給に向けた連邦政府戦略に関する大統領令13817号を発した[1]。宇宙、医療、エネルギー、防衛等の重要産業において必要な鉱物の多くを輸入に依存している現状を踏まえ、安全保障および経済成長の点からも米国内で生産する戦略を検討することを関係省庁に指示する内容だ。今年5月には対象となる重要鉱物35種類が国務省から公表され、年末に向けて今後の生産方針等が発表される見通しとなっている。

 

本稿では、本大統領令の概要とその背景、今後の動きについて紹介したい。 

大統領令の概要

本大統領令は5つのセクションに区分されている。セクション1では、現状認識として、米国は国家の安全保障や経済活動にきわめて重要な鉱物が国内に大量に埋蔵しているにもかかわらず、その大部分を輸入に依存していることが示されている。

 

セクション2では、この大統領令発令後、60日以内に重要鉱物の対象となる物質のリストを公表することとしており、実際、2018年2月16日に35物質のリスト案が公表された。そして、セクション3では、米国の現在の重要鉱物に関する脆弱性を改善するため、下記の政策を安全と環境配慮のもと実施する方針が示されている。

 

   (1) 新たな重要鉱物資源を発掘する。

   (2) サプライチェーンのあらゆるレベルの活動(掘削、採掘、回収、分離等)を推進

         する。

   (3) 鉱物事業者、生産者が、安全保障上のデータを除き、最新の地形・地質・地球物理

         データに確実に電子的にアクセスできるようにする。

   (4) 重要鉱物に関する探査、生産、加工、リサイクル、国内の精製に関するリース

         および許可手続きを円滑にする。

 

セクション4では、上記政策を実施するため、セクション2にしたがって内務省が重要鉱物リストを公表した日から180日以内に、商務省は、国防省、内務省、農務省、エネルギー省、米国通商代表(USTR)と協力して、下記の内容を含むレポートを提出することを命じている。

 

   ① 重要鉱物への依存を低減する戦略

   ② 重要鉱物のリサイクル、再加工技術、代替技術を開発するための進捗評価

   ③ パートナー国や同盟国との投資および貿易を通じた、重要鉱物の評価および開発に

        関するオプション

   ④ 米国内の地形、地質、地球物理地図とその電子データに関する改善計画

   ⑤ 重要鉱物源へのアクセスを強化し、発掘、生産、国内精製を強化するための許可

        およびリース手続きに関する推奨事項

 

これらの方針は、2017年3月28日発令のエネルギーの自立と経済成長を掲げる大統領令13783号や2017年8月15日発令のインフラプロジェクトに関する環境関連許認可手続きの円滑化を進める大統領令13807号 など、他の大統領令と整合することとしている。

 

内務省では、大統領令発令の同日、省令3359号を発し、重要鉱物の新たな資源探査、土地のリースや掘削産出までの許認可の手続きを円滑に行い、重要鉱物に関する資源情報に電子的にアクセスできるようにする計画等を策定することとしている[2]。 

“重要”鉱物の種類

対象となる重要鉱物のリストは、2018年2月のドラフト公表後、パブリックコメントを経て同年5月18日に正式に公表された。当初のドラフトと同じ35物質(表1を参照)であり、電池等に使用されるリチウム、コバルト、アンチモン、グラファイト、医療機器や計測に必要なヘリウム、キャパシタ(蓄電器)等に活用されるタンタルのほか、フラット・パネルディスプレイに使われるインジウム等が含まれる。

 

表1 国務省発表の重要鉱物リスト2018 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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(出所)米地質研究所報告書等

 

日常生活の基盤となる携帯電話やIT、インフラ、エネルギー等の製造に不可欠な鉱物である一方、これら35物質の多くは、その量や相対的な経済対価などから、単独の開発事業としては成り立たず、いわゆる“副産物(Byproducts, Coproducts)”という位置づけの鉱物であるといわれる。すなわち、多額の投資が必要な鉱山事業としては、その採算を確保するための主力となる銅や亜鉛、金、銀など、ベースメタルと呼ばれる鉱物とともに採取されることが必要になる。今回のリストにこれらのベースメタルが含まれていないのは、米国内で一定の生産が行われており、大半を輸入に依存している状態ではないためであるという[3]

 

米国内の鉱物産出規模(2016年時点)は、約746億ドル(8兆円)であり、ここから、アルミニウム、セメント、銅、鉄などの素材が約6,750億ドル(70兆円)生産されている[4]

 

大統領令13817号では、重要な(critical)鉱物の定義として、①非燃料鉱物であり、経済と安全保障上不可欠なもので、②そのサプライチェーンが脆弱であり、③製品の製造に必要であり、不足することによる経済または安全保障上の影響が甚大なものとしている[5]。同時に、最終的に決定された35物質は、現段階での最終リストではあるものの、永久的なものではなく、定期的に需給や生産状況などを踏まえて更新するようだ[6]。 

政策の背景と議論の経緯

この重要鉱物の大統領令は、トランプ大統領による突然の動きではなく、1970年代から米国内で問題提起されていた重要鉱物の調達リスクに関する懸念が、徐々に高まっていることが背景となっていると考えられる。

 

米国地質研究所は、1973年に65種類の重要鉱物に関する米国の長期的な状況に関する評価を実施している。その時点からすでに、米国内における鉱物需要の高まりに対して、国内生産が不足していることについて懸念を示している。その後も国外への依存状況は継続・拡大し、1980年には約20種類の非燃料鉱物について50パーセント(%)以上を輸入に依存しており、約20億ドルの輸入超過であるとして、議会予算局から、そのリスクと改善の提案が示された[7]。しかしながら、その状況は継続され、2010年には中国によるレアアースの輸出制限が発生する。米国の鉱物の輸入依存は続き、2014年には40種類以上の鉱物の過半を、重要鉱物の20種類については100%、輸入に依存する状況となっている。一方、この間中国では生産量を拡大し、2014年に約40種類の鉱物の約20%を生産し、レアアースをはじめ、タングステン、アンチモン、ゲルマニウムなど重要鉱物は70%以上を生産する状況となっている。

 

こうした状況の中、米会計検査院(U.S. Government Accounting Office, GAO)では、2016年に重要鉱物の供給リスクを低減するために、連邦政府としてどのような政策が必要であるかを報告書にまとめて公表している[8]。ここでは、国内の各省庁の役割を評価するとともに、米国内だけでなく、欧州連合(EU)、カナダおよび日本の状況もレビューし、米国における今後の重要鉱物政策の推奨事項をまとめている。省庁間の連携や鉱物資源の状況を定期的に共有する仕組みの整備、他国の政策を踏まえた国としての生産拡大方法の検討などが問題提起されている。

 

2018年2月には、国家科学技術会議(National Science and Technology Council)から、大統領令を踏まえた重要鉱物のスクリーニング方法の評価が公表されている。今後の重要鉱物産出の戦略策定に向けて省庁間の連携を促進し、海外との情報共有も進めることとしている。 

より広い政治的文脈において――イデオロギー的分極化・安全保障・環境保護

本テーマを理解するうえでは、米国の経済成長を国内外の環境から強化しようとするトランプ政権の方針だけでなく、米国の内政、とくに民主党と共和党のイデオロギー的対立という文脈も重要である。

 

本大統領令は国有地(連邦政府所有地)に限定されたものではないが、以下、国有地を例にとりながら、土地利用をめぐるイデオロギー対立の様相を紹介したい。

 

共和党は、従前より国有地の管理を州などが実施する方針を掲げており、開発に従事する企業の利益を代表して、少しでも容易かつ安価に開発できるように活動してきた。一方、民主党は、全般に、厳格な環境保護を求め、国有地の開発等に反対する環境保護団体の意向を代表してきた。少なくとも最近の米国政治は、政策から判断する限り、基本的に環境保護派の方が優勢であった。

 

すなわち、米国の国有地にはまだ大量の鉱物資源が埋蔵されていると推定されるものの、正確な探査は実施されず、これまで鉱山開発は行われてこなかった。その理由の一つは、米国内に厳しい環境規制が存在することにある。厳格な環境影響評価を実施し、浄化対策を課すことで、国有地の開発や利用を限定してきたのである。

 

米国では、鉱山開発の際に環境影響評価や廃水、大気汚染、廃棄物、閉山後の有害物質の浄化対策等、さまざまな許認可や環境対策が計画段階から閉山後まで求められる。

 

近年は南米やアフリカ等の新興国においても環境規制の整備や強化が続けられているとはいえ、米国では、そうした国々に比べて、現時点で包括的かつ厳格な環境規制がなされている。鉱山開発には多大な時間やコストを伴い、閉山後の処理にも多額の費用がかかるため、鉱山事業者の大きな負担となっている[9]

 

また、米国の環境規制は、連邦法と州法の二段階でなされている。さらにその運用等においては、一部の業界等に関する例外措置があったり、国有地のみにかかる規制もあったりする。

 

たとえば、米国で有害廃棄物等を管理する資源保護回復法(Resource Conservation and Recovery Act, RCRA)では、経済面での重要性の観点等から、石油およびガス関連の廃棄物に関する除外規定があり、シェールオイルに関する適用の考え方も比較的近年に示されている[10]。また、シェールガス産出の際の掘削井戸の手続きに関する規制は、2015年に内務省の土地管理局(Bureau of Land Management, BLM)が管轄する土地のみに対して課されていたが、この規制は、近年の技術革新と情報開示の拡充等により不要とみなされるようになり、2017年12月29日に撤回された[11]

 

トランプ政権では、これまでオバマ政権のもとで制定された環境規制について、エネルギー自立の方針と経済成長の観点から、手続きの円滑化や合理化を進めている。

 

米国の石炭火力発電所の温室効果ガス削減に対するオバマ政権の環境政策(Clean Power Plan)の撤回や環境規制の撤廃の動きは、ともすれば環境より経済を優先するというわかりやすい解釈につながる傾向がある。しかし、環境問題については複眼的な、あるいはより広い視点が求められる場合もある。

 

たとえば、今回の鉱物資源開発の推進方針については、鉱山事業に伴う環境汚染を適切に管理するとともに、燃料電池や再生可能エネルギーなどに不可欠な鉱物資源を確保するためとの解釈も可能である。将来的に重要性の高い環境保全技術や先端技術に資する事業の条件を米国内で確保できる可能性が高まるからだ。そのためには、過度に煩雑な環境規制に関する手続きを円滑化し、環境汚染等の影響を管理しながら鉱物生産を推進しやすくする制度等の整備が必要になる。

 

今回の重要鉱物に関する政策は、国有地利用の規制緩和という点で共和党的であるが、さらに中国との関連で安全保障を強く意識したきわめて戦略的なものであり、2017年12月に発表されたトランプ政権の国家安全保障戦略にも通じるところがある。内務省の2019年予算概要にも、エネルギーの優位性に加え、重要鉱物の自立という文言が「自国および同盟国に対して」という言葉とともに記載されている。上記大統領令13817号のセクション4の③に同盟国という言葉が入っていることとともに注目しておくべきであろう[12]。 

今後の動向

2018年7月には、重要鉱物リスト35種類のうち32種類について、中国産輸入鉱物への追加関税の提案が報道されている[13]

 

日常生活のインフラ、そして携帯電話などのさまざまな機器や設備に必要不可欠な鉱物は、需給や価格が比較的安定している平時にはその重要性が認識されにくいが、いざ不足や価格の急騰等があれば、大きな影響を及ぼす問題となる。それは日本の産業においても同様である。

 

米国内の国有地は、全土の約3分の1を占める。この広大な土地において鉱物生産が可能になれば、各鉱物の需給状況も変わる可能性がある。シェールの拡大に伴い、米国がエネルギー輸入国から輸出国に転じ、安全保障上の交渉力をより強固なものとしたように、鉱物が今後のパワーバランスに変化を与える可能性もある。

 

大統領令では、2018年11月末までに大統領に対する今後の重要鉱物産出戦略に関する報告書が提出される予定である。この報告書でどのような戦略が示されるのかを含め、トランプ政権の重要鉱物政策の動向はわが国としても重要なテーマであるといえよう。

 

 

 

謝辞:本稿の執筆にあたり、一般社団法人日本メタル経済研究所理事長 川口幸男様より鉱物に関する貴重なご示唆を頂きました。ここに感謝申し上げます。

 

 

(参考文献)

Klaus J. Schulz, John H. DeYoung, Jr., and Robert R. Seal II, et al. eds., Critical mineral resources of the United States—Economic and environmental geology and prospects for future supply: U.S. Geological Survey Professional Paper 1802, U.S. Geological Survey, 2017.

U.S. Department of the Interior, U.S. Geological Survey, Mineral commodity summaries 2017, U.S. Geological Survey, 2017.

U.S. Department of the Interior, U.S. Geological Survey, Mineral commodity summaries 2018, U.S. Geological Survey, 2018.

 

 


[1] Donald J. Trump, “Executive Order 13187: A Federal Strategy to Ensure Secure and Reliable Supplies of Critical Minerals,” 20 December 2017.

[2] U.S. Department of the Interior, "Secretarial Order 3359, Critical Mineral Independence and Security," 20 December 2017.

[3] 1998年の米地質研究所(U.S. Geological Survey)の報告書によると、金、銀、銅、鉛、亜鉛の5鉱物は、これまでの米国内での産出量の数倍の埋蔵量があると試算されている。U.S. Geological Survey, “1998 Assessment of Undiscovered Deposits of Gold, Silver, Copper, Lead, and Zinc in the United States,” 1999.

[4] U.S. Geological Survey and the U.S. Department of Commerce, The Role of Nonfuel Minerals in the U.S. Economy (Estimated values in 2016).

[5] Executive Order 13187.

[6] Department of the Interior, “Final List of Critical Minerals 2018,” 18 May 2018.

[7] Congress of the United States, Congressional Budget Office, Strategic and Critical Nonfuel Minerals: Problems and Policy Alternatives, August 1983.

[8] U.S. Government Accountability Office, "Advanced Technologies Strengthened Federal Approach Needed to Help Identify and Mitigate Supply Risks for Critical Raw Materials (GAO-16-699)," September 2016.

[9] 実際、多額の環境浄化負債を抱えて倒産した鉱山会社もあり、会計検査院(GAO)も事前の環境対策基金の積立を推奨している。U.S. GAO, “Environmental Liabilities, Hardrock Mining Cleanup Obligations (GAO-06-884T)," 14 June 2006.

[10] U.S. Environmental Protection Agency, EPA530-K-01-004, "Exemption of Oil and Gas Exploration and Production Wastes from Federal Hazardous Waste Regulations," 2002.

[11]シェールガス産出の際の掘削井戸の手続きに関する規制(Bureau of Land Management, “Oil and Gas: Hydraulic Fracturing on Federal and Indian Lands,” 26 March 2015)は、技術革新と情報開示の拡充により不要として、2017年12月29日に撤回されている(82 FR 61924)。https://www.blm.gov/press-release/blm-rescinds-rule-hydraulic-fracturing

[12] U.S. Department of the Interior, "FY2019 the Interior Budget in Brief: Departmental Overview," February 2018.

[13] Tom Daly, “How U.S. tariffs on China minerals could hurt industry, consumers,” Reuters, 31 July 2018.