トランプ政権と「宗教の自由」

2018年7月、司法省でスピーチするセッションズ司法長官(当時)   写真提供 Getty Images

首都大学東京法学部教授

梅川 健

トランプ大統領を支える支持基盤のひとつに、白人福音派がある。2016年大統領選挙ではその80%がトランプに投票し、2018年中間選挙では70%が共和党候補に票を投じた。現在のトランプ政権を最も強固に支持している集団だといえる[1]。この集団とトランプ政権を結びつけている最も重要なアクターはマイク・ペンス副大統領だと目されている。白人福音派の特徴や2016年選挙での重要性については過去のコラムで述べたので、今回はトランプ政権が白人福音派に向けて発しているメッセージと政策について論じることにしたい。

トランプ政権は、「宗教の自由(religious libertyともreligious freedomとも書かれる)」を繰り返し主張しているが、この「宗教の自由」という言葉には注意が必要である。合衆国憲法修正第1条は、政府による国教樹立を禁止するとともに、宗教活動の自由を保障している。これは簡単に言えば、政府は特定の宗派に肩入れしても、抑圧してもいけない、ということを意味している。一見すると、「宗教の自由」と合衆国憲法の規定には齟齬はなく、トランプ政権が憲法的な価値にコミットしているようにさえ見える。

しかしながら、トランプ政権が使う「宗教の自由」という言葉の意味は大きく異なる。トランプ政権は、従来の連邦政府が福音派の宗教的実践を過度に抑圧してきたという立場から、「宗教の自由」という言葉を用いている。この文脈を福音派は的確に汲み取り、「宗教の自由」を、反トランスジェンダー、反同性婚、反中絶という視点から理解している[2]。すなわち、トランプ政権の「宗教の自由」政策は、宗派中立的なものではなく、福音派向けの政策だと認識する必要がある。 

トランプ政権と司法省の動き

トランプ大統領は2017年5月4日の行政命令13798号において「宗教の自由」の擁護を打ち出した。ここでは、宗教団体による政治活動を税法上抑制しないとする大きな政策変更が行われた(前回コラム参照)。加えて、この行政命令は連邦政府による「宗教の自由」促進のために必要なガイドラインの策定を司法長官に命じていた[3]。これに応え、ジェフ・セッションズ司法長官(当時)は、2017年10月6日付けで、各行政組織の長官宛てに1通[4]、司法省内向けに1通[5]のメモを送り、ガイドラインを定めている。

トランプ政権の対応はこの後も続き、2018年5月3日には再び行政命令によって、ホワイトハウスに「信仰と機会イニシアティブ(White House Faith and Opportunity Initiative)」の設置が発表された[6]。これは、ブッシュ政権にOffice of Faith-Based and Community Initiativesとして設置され、オバマ政権でOffice of Faith-Based and Neighborhood Partnershipsに再編された組織をさらに改組したものであり、組織の目的まで変更されている。ブッシュ政権とオバマ政権では、政府の支出する社会保障給付に、信仰に基づく団体が関われるよう環境を整えることが目的だったが、トランプ大統領は、信仰と機会イニシアティブに宗教団体とのリエゾンの役割を与えた。信仰と機会イニシアティブ室長は国内政策担当補佐官を通じて大統領に情報を上げることも義務づけられた。さらに、トランプ大統領は各行政組織に、信仰と機会イニシアティブのカウンターパートとなる機関の設置を命じ、宗教団体と行政組織との間の恒常的なチャンネル整備に乗り出した。11月には健康保険福祉省による設置がなされている[7]

セッションズ司法長官も行動を起こしていた。2018年7月31日には司法省内に「宗教自由タスクフォース(Religious Liberty Task Force)」が設置されている。このタスクフォースは、連邦行政組織に対して、管轄する政策領域における個人と組織の行為について規制が必要だと見なされる場合であっても、その規制が対象となる個人や組織の「宗教の自由」の妨げになる場合には、そういった行為を許容し、規制を差し控えるように指導している。この種の指導の結果、例えば、医療を管轄している健康保険福祉省が、医者や看護師が「宗教の自由」を理由にLGBTの患者の治療を拒むことを許容する、ということにつながりかねないと危惧されている[8]

トランプ政権の司法省は、同性婚結婚式にウェディングケーキを作成することを拒んだケーキ職人の訴訟では職人を擁護する立場をとったが、医療拒否でも同様の立場をとるようになるのかもしれない。 

司法省の「宗教の自由」ガイドライン

司法省はながらく、公民権法の規定する雇用差別禁止を促進するために活動をしてきたが、今後はその役割に変化が生じるかもしれない。セッションズ司法長官の名前で出されたガイドラインには、全部で20の項目とそれらの項目を導く法的解釈が補足として示されており、宗教に基づく雇用差別については、従来とは異なる点が強調されている。

第16項では、1964年公民権の宗教に基づく雇用差別の禁止を確認している。同法は、人種や性に基づく差別を禁じると同時に、宗教に基づく差別も禁じており、雇用者は、宗教的信念や所属する教会を理由にして、被用者を差別してはならないとする。ガイドラインはこのことを確認した後に、ただし、と続け、「この規定は宗教的雇用者(religious employer)には及ばない。宗教的雇用者に対しては、宗教に基づいた雇用の判断にあたり、憲法あるいは法律による保護が働く」とする。この例外規定は司法省による創作ではなく、公民権法第7編に確かに設けられている[9]。第19項では「宗教的雇用者は、宗教的信念と行為が雇用者のそれと一致するような者だけを雇用する権利を有する」ともされている。

それでは、「宗教的雇用者」とはどのような存在だろうか。公民権法が想定していたのは教会を始めとする宗教団体である。例えばカトリック教会では女性は司祭に叙任されないが、このような雇用慣行も公民権法第7編によって認められる。対してセッションズのメモの新規性は「宗教団体」の定義を拡張しようとしている点にある。メモによれば「組織が宗教的な目的のために設立されていたり、特定の目的のために活動している場合は、「宗教的」となる」。つまり、従来は「宗教団体」とは考えられていなかった団体にも、雇用差別に関する例外規定が適用される可能性が、今後はある。

このガイドラインの強調点は、司法省が従来重視してきた宗教を理由にした雇用差別ではなく、宗教に基づいた選択的雇用に置かれていると言えるだろう。トランプ政権は「宗教の自由」という一見するとアメリカの伝統的な価値を擁護しているかのような言葉を用いながら、従来の宗教政策の転換を図っている。セッションズは中間選挙後に政権を去ったが、彼の残したガイドラインは今後も効力を持ち続ける。

 


[1] Dylan Scott, "White Evangelicals Turned out for the GOP in Big Numbers Again," Vox, Nov 7, 2018 <https://www.vox.com/policy-and-politics/2018/10/29/18015400/2018-midterm-elect0ons-results-white-evangelical-christians-trump>.

[2] "New 'Religious Liberty Task Force' Highlights Sessions, DoJ Priorities," NPR, August 2, 2018 <https://www.npr.org/2018/08/02/635047680/new-religious-liberty-task-force-highlights-sessions-doj-priorities>.

[3] Donald Trump, “Presidential Executive Order Promoting Free Speech and Religious Liberty,” May 4, 2017 <https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-executive-order-promoting-free-speech-religious-liberty/>.

[4] Jeff Sessions, "Memorundum for All Executive Departments and Agencies, Federal Law Protections for Religious Liberty," October 6, 2017 <https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1001891/download>.

[5] Jeff Sessions, "Memorandum for All Component Heads and Unites States Attorneys," October 6, 2017 <https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1001886/download>.

[6] Donald Trump, “Executive Order on the Establishment of a White House Faith and Opportunity Initiative,” May 3, 2018 <https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-establishment-white-house-faith-opportunity-initiative/>.

[7] "About HHS Center for Faith and Opportunity Initiatives,"  (U.S. Department of Health & Human Services, 2018) <https://www.hhs.gov/about/agencies/iea/partnerships/about-the-partnership-center/index.html>.

[8] Jalal Baig, "Trump's Religious Liberty Push Is Hurting Patients as Doctors Take Sides in America's Culture War," NBC News, December 8, 2018 <https://www.nbcnews.com/think/opinion/trump-s-religious-liberty-push-hurting-patients-doctors-take-sides-ncna942996>. 

[9] Civil Rights Act of 1964, Section 702.

梅川 健

  • 首都大学東京法学部教授