バイデン新政権でも多用される大統領令

2021年1月28日、医療アクセスに関する大統領令に署名するバイデン大統領(写真提供:GettyImages)

バイデン新政権でも多用される大統領令

東京都立大学法学部教授
梅川健

 

2021120日水曜日、ジョセフ・バイデンが第46代アメリカ大統領に就任した。就任式には新型コロナのためにいつもよりも招待客が少なく、2週間前となる16日の議事堂乱入事件により一般の人々が集まることもなく、過去の式と比べて祝祭の日という雰囲気は薄かった。それでもやはり、就任式はアメリカの政治的再生を宣言する儀式ではあった。バイデン大統領の就任式当日の演説は、保守とリベラルの両極に分断されたアメリカの社会と政治を架橋すべく統合の理念を説くものであり、アメリカに癒しをもたらそうとするものだった。

ただし、統合のレトリックとは裏腹に、バイデン新大統領は民主党的な、そしてリベラルな政策を就任初日から推進した。アメリカの大統領は自らの政策を実現しようとする際、議会と協力する立法手続きか、議会の協力を必要としない大統領権限による政策執行を選択する。当然に、多数の議員による審議を必要とする議会での立法よりも、大統領権限による政策執行の方が早く打ち出せるため、政権就任直後の大統領には後者を選択する誘因が働く。

 

表:大統領就任年の1月と2月の行政命令数

 

1

2

オバマ

9

7

トランプ

7

8

バイデン

25

9

 

バイデン大統領による大統領令の中でも、行政命令(executive order)の数は際立って多い[1]。表に示したように、1月に252月に9という数は、同じ時期のオバマ大統領とトランプ大統領を上回っている。バイデン大統領の行政命令の数が多い理由のひとつは、トランプ前大統領の命令を取り消すためであった。

1月末までの25の行政命令のうち、約半数にあたる12が、トランプ前大統領による命令の取り消しである。例えば、トランプ前大統領による、入国禁止措置を定めた行政命令、国勢調査から市民権をもたない人々を排除した行政命令、キーストーンXLパイプライン(米国とカナダを結ぶ石油パイプライン)建設を認めた行政命令、国境を不法に越えたと思われる家族の引き離しを容認する行政命令、トランスジェンダーの人々の軍務を禁じた行政命令などを、バイデン大統領は既に撤廃している。バイデン大統領は、これらの決定について「新しい法律を作っているのではなく、悪い政策を取り消しているだけだ」と述べているが、保守的な政策をリベラルの方向へと切り替えるものであった[2]

バイデン大統領の行政命令の数が多いもうひとつの理由は、新型コロナウイルス対策である。10の行政命令がコロナ対策のために出されており、連邦所有の建物内と空港でのマスク着用や、政府調達関係者へのマスク着用の義務づけ、あるいはコロナ対策のための調査・分析を省庁に命じる行政命令が出されている。バイデン大統領による行政命令の発出数は、2月になって落ち着いてきている。覆すべきものを覆しおわり、今後は自らの政権の政策目標の追求のために行政命令が用いられることになるだろう。

最後に、バイデン政権としての特徴がよく現れている行政命令をひとつ取り上げておきたい。就任初日の120日、バイデン大統領は行政命令13985に署名した。この日、バイデン大統領は9つの行政命令に署名しているが、最も若い番号を振られた行政命令は、「連邦政府による人種平等の促進と不当に扱われてきたコミュニティへの支援」と題された平等保護の強化を目的とするものであった[3]。この行政命令はタイトルで人種平等をまず挙げているが、中身をみると、それだけに言及しているわけではなく、あらゆる人々にとっての平等促進を目的とした命令であることがわかる[4]

この行政命令を、バイデン大統領は「機会の平等はアメリカ民主主義の基盤であり、私たちの多様性はアメリカの最もすばらしい強さのうちのひとつであるものの、アメリカン・ドリームは多くの人々の手が届かないものになっている」という言葉で始め、次に、「アメリカの法律や政策、私的あるいは公的な制度に埋め込まれた様々な不平等(entrenched disparities)が、すべての人々やコミュニティに平等な機会を提供することを妨げている」と述べている。バイデン大統領は、法律や政策あるいは制度といった人々を取り巻く仕組みこそが、機会の平等の実現を阻むものだとしている。それゆえに、「平等の促進には、意志決定プロセスにおける平等を実現するための、システマティックなアプローチが必要である」とする。

そこで、バイデン大統領は、ホワイトハウス国内政策会議に連邦行政組織が従うべき公平性の原則と平等を実現するためのアプローチの策定を命じている。行政管理予算局には、行政組織による意志決定の方法が、特定の人々の参加を阻む障壁となっていないかを評価する方法の開発を命じている。行政管理予算局には同時に、省庁が実施している政策が特定の人々にとって制度的な障壁を伴うアクセスしにくいものになっていないかを審査するように命じ、200日以内の報告も求めている。

バイデン大統領の行政命令は今後、連邦行政組織による政策立案や政策執行を、平等の促進という方向へと推し進めることになるだろう。多様性の包摂が、バイデン政権の重視する価値のひとつであることは間違いない。アメリカと日本は価値を共有するパートナーであるという表現はよく耳にするが、パートナーであるアメリカの連邦行政組織は今後、トランプ政権が重視してこなかった価値に重きを置くようになる。「価値の共有」の程度がこれからの課題になるかもしれない。


[1] 大統領令の種類については、梅川健「トランプ大統領と「大統領令」:とくに行政命令について」、東京財団政策研究所ウェブサイト、2017315日、https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2036を参照されたい。

[2] Ashlyn Still and Adrian Blanco, “A Visual Breakdown of Biden’s Barrage of Executive Actions in His First Weeks,” The Washington Post, February 5. <https://www.washingtonpost.com/politics/interactive/2021/biden-executive-orders-breakdown/>

[3] Joseph Biden, “Executive Order 13985: Advancing Racial Equity and Support for Underserved Communities Through the Federal Government,  January 20, 2021, 86 FR 7009. <https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/25/2021-01753/advancing-racial-equity-and-support-for-underserved-communities-through-the-federal-government>.

[4] 行政命令の中では、黒人、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカン、アジア系、太平洋諸島系、あるいはその他の肌の色の人々に加え、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダーといった性的マイノリティや、宗教的マイノリティ、障がい者などが例示されている。

梅川 健

  • 東京都立大学法学部教授