2020年民主党大会と政策綱領:バイデン陣営と党内左派

2020年8月20日、民主党大会にて指名受諾演説を行ったバイデン氏とハリス氏(写真提供 Getty Images)

2020年民主党大会と政策綱領:バイデン陣営と党内左派

東京都立大学法学部教授
梅川健

 

2020817日から20日にかけて、民主党大会が開催された。当初は713日から16日に実施される予定だったが新型コロナウイルスの影響によって開催日程と方法が変更された。党大会には全国から代議員が集まる。代議員とは政党が各州に割り振った党大会での投票資格をもつ代表者の名称である。大統領選挙年の2月から8月にかけて行われる、政党内の大統領候補者指名プロセスで実施される各州での予備選挙・党員集会では、州政党を代表する代議員が党大会で誰に投票するかを決めている。

党大会では、党の大統領候補者の指名と、政策綱領の策定が行われる。候補者にとっては、大規模な会場で、大聴衆を前に指名受諾演説をし、政治的熱狂を演出する場である。例年通りに実施すれば「密」な状況となるため、今年の民主党大会はウィスコンシン州ミルウォーキーに本会場を置きつつも、基本的にオンラインで実施された。大統領候補ジョー・バイデン、副大統領候補カマラ・ハリスの指名受諾演説はデラウェア州ウィルミントンからなされた。

2020年の民主党大会の見所は多くあった。バイデンの指名受諾演説が保守的なメディアのフォックス・ニュースでさえ「ホームランだった」と評するほどの出来映えだったこと、ハリスが黒人女性として、アジア系として初の副大統領候補に選出されたこと、バラク・オバマが大統領経験者は後任を公に非難しないという慣例を破り、トランプによる統治が民主主義に対する脅威だと強烈に批判したことなどは、今回の民主党大会のハイライトとして記憶されるだろう。

通常、党大会の後には大統領候補者の支持率が上昇する現象が生じる。今年はオンラインでの実施のために熱狂の演出が難しく、その効果が危ぶまれていたが、バイデン候補の支持率は党大会を前後して40%から45%に上昇した[1]。同様に、ハリスに対する支持率も35%から41%へと上昇した(他方で、ホワイトハウスを選挙利用しないという慣例を破り、支持者を集めて指名受諾演説したトランプ大統領の支持率は共和党大会の後にも上昇しなかった)。

政策綱領とは?

党大会の華である大統領候補の指名受諾演説の陰では、党の政策綱領が策定される。アメリカの政党が作る政策綱領は日本の政党の綱領とは大きく異なる。日本の政党の綱領には結党の目的や長期的な政策目標が書かれており、めったに変更されない。他方で、アメリカの政党の政策綱領は、大統領選挙年毎に党大会の場で新しいものが作られる。党大会開催前に、政策綱領案作成委員会が設置され、委員会の構成にはその時々の政党内の勢力が反映される。結果として、政策綱領は多様な勢力がそれぞれ納得するような長大な文章となる(2020年の民主党政策綱領は92頁に及び、おそらく一般的な有権者は読まない。主に読んでいるのは積極的な活動家(と研究者)に限られるとも言われる。なお、共和党は2020年版の政策綱領を作成しなかった)。

代議員たちは、委員会が提出する綱領案に党大会の場で投票する。つまり、代議員は政策綱領と大統領候補について投票するのだが、大統領候補はその政策綱領に縛られない。二元的代表制に似ているかもしれない。なお、代議員はどの候補者に投票するかについては、代表する州の予備選挙・党員集会の結果に沿うように宣誓を済ませているのに対して、政策綱領への投票は縛られておらず、誰が代議員になるかは政策綱領の策定には意外に重要かもしれない。

それでは政策綱領の意義とはなんだろうか。大統領候補の政策集として読めなくとも、現在の政党がどのような地点で内部的に合意可能なのかを示す文書ではある。研究によると、1980年から2004年までの連邦議会議員による投票行動は、政党の政策綱領と82%一致していたという[2](アメリカの政党には日本のように党議拘束はない。なお、1944年から76年までの一致率は66%で、近年上昇している)。すなわち、次の議会において、政党がどのような政策であれば一致して法案作成を進めることができるかは、政策綱領がある程度指し示しているといえる。

2020年民主党政策綱領策定までの道のり

今年の民主党の政策綱領の策定は2016年に比べて用意周到に行われた。4年前にはヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースの争いが混乱を生んだ。6月にヒラリーが代議員の数で指名を確実にするとサンダースは撤退を表明するも、ヒラリー支持を公にしたのは党大会直前の712日だった。725日からの党大会で採択された政策綱領は、あたかも両陣営の共同作業の結果であるかのように演出されたが、実際にはヒラリー陣営によって書かれており、サンダース支持者から不満が表明された[3]。民主党では党内対立が解消されていないというイメージが残った。

対して、今年サンダースが撤退を表明したのは48日、バイデン支持は413日に打ち出された。撤退表明以前から、サンダース陣営とバイデン陣営の選対本部の上級スタッフが会い、調整が行われていた。選対スタッフだけでなく、両陣営を支持していた政治家の間でも調整が進められていた。例えば、バイデン陣営のLisa Blunt Rochester下院議員は、サンダース陣営に協力していたPramila Jayapal下院議員に対して、バイデンはサンダースが2017年に提出した法案の内容(年収125千ドル以下の家庭の子供が大学に無料で通えるようにする)を自身の教育政策に取り入れるつもりだと連絡をしている[4]。また、バイデン陣営のCedric Richmond下院議員は、サンダース陣営のRo Khanna下院議員と協力し、サンダース支持の民主党議員にバイデンを支持するように働きかけていた。つまり、両陣営の選対本部の人員と、両陣営を支える政党エリートは、早い時期から協力体制を構築すべく積極的に動いていた。

この動きは実を結び、サンダースによるバイデン支持表明と同時に「バイデン・サンダース統一タスクフォース」の設立が宣言された。バイデン陣営は、サンダース陣営とその支持者たちを民主党に惹きつけておくために、早期に両陣営が合意できる政策集を模索したのである。なお、この政策集は民主党の綱領作成委員会にパブリック・コメントとして提出され、民主党政策綱領の原型となった。

78日にタスクフォースは110頁にわたる長大な政策集を発表した[5]。冒頭に気候変動が置かれているが、これは党内左派への配慮だろう。ただし、左派が好む「グリーン・ニューディール」は出てこない。あるいは、警察行政改革は書かれているが「警察予算を削減しろ(defund the police)」は出てこない。この文書は左派的なスローガンを使わず、急進的な対応策も主張していない。サンダース陣営の合意を取り付けつつも、左派的には見えないようにするというバイデン陣営の目標が達成されていたといっていいだろう。

2020年民主党政策綱領

民主党大会2日目にあたる818日に採択された政策綱領は、前述のタスクフォースの政策集から大きく離れるものではなかった。全体で92頁とタスクフォース案と同様の長さを誇っている(ただし、気候変動は冒頭ではなく中盤へと回されている)。

政策綱領からいくつか重要と思われる事項を見ていこう。まずは医療保険制度改革では、バイデンの政策が取り入れられている。予備選挙を通してサンダースは「メディケア・フォー・オール」を主張してきた。これは、患者と医療提供者の間の診療報酬支払いを、従来の民間保険会社に代わって政府が担う仕組みである[6]。民間保険が中心的なアメリカにおいて公的保険の拡大は相当に革新的な政策になる。他方、バイデンは購入可能な医療保険の選択肢の1つとして、「パブリック・オプション」と呼ばれる政府運営の保険プランを準備することで、医療保険へのアクセスを容易にすることを主張してきた。政策綱領には「メディケア・フォー・オール」ではなく、「パブリック・オプション」が書き込まれた。

気候変動政策については、2035年までに発電所からの二酸化炭素排出量をゼロにするという目標が書き込まれたものの、左派が重視した「グリーン・ニューディール」は政策綱領にも入らなかった。

警察改革については、左派のスローガンである「警察予算を削減しろ」はやはり出てこない。政策綱領は、警官によるチョークホールド(首締め)の禁止、問題行動を起こした警官についての全国的データベースの構築などを掲げた。これらの事項は、実は6月に民主党多数の下院を通過した警察改革法案の内容と同じであり、民主党内で既に合意したことのある内容が繰り返された[7]

この政策綱領の採択の過程は独特なものであった。通常、政策綱領の最終的な採択は発声投票によって行われるが、一堂に会することができないため、代議員は遠隔地から投票用紙を送付した。党大会2日目に綱領は採択されたが、投票結果は党大会終了後まで民主党全国委員会によって開示されなかった。投票結果は、賛成3562票、反対1069票、棄権87票であった[8]。反対票の数は、サンダースに投票すると宣誓している代議員の数とほぼ一致する。この投票結果は、いうまでもなく民主党内の分断を示している。

オンラインで見る党大会は、党内の協調、挙党態勢の構築がアピールされていた一方で、党内左派の不満は見えないように隠されていたのである。実のところ、7月にはサンダースを支持した代議員の間では、「メディケア・フォー・オール」が政策綱領に入らなければ反対票を投ずるという誓約書に署名するという動きが広がっていた[9]

2020年の民主党大会に向けてバイデン陣営は早くからサンダース陣営との協力を模索し、サンダース陣営もそれに応えた。協力してタスクフォースをつくり、政策綱領を作り上げた。しかしながら採択の段階では、党内左派の支持を集めることはできなかった。今後、左派的有権者からの支持をどれだけバイデンが取り付けられるかに、選挙の行く末はかかっている。

 


[1] “Views toward Trump, Biden unchanged after the conventions,” Ipsos, August 30, 2020. < https://www.ipsos.com/en-us/news-polls/abc-republican-national-convention-2020>.

[2] Jeff Stein, “We asked 8 political scientists if party platforms matter. Here’s what we learned,” Vox, July 12, 2016. < https://www.vox.com/2016/7/12/12060358/political-science-of-platforms>.

[3] Eliza Collins and Ken Thomas, “Biden, Sanders Allies Call for Climate, Policing Policies,” Wall Street Journal, July 8, 2020. < https://www.wsj.com/articles/biden-sanders-allies-call-for-climate-policing-policies-11594245597>.

[4] Eliza Collins, “Joe Biden’s Campaign Ramps Up Outreach to Liberals,” Wall Street Journal, April 17, 2020. < https://www.wsj.com/articles/joe-bidens-campaign-ramps-up-outreach-to-liberals-11587123001>.

[5] “Biden-Sanders Unity Task Force Recommendations,” July 8, 2020. < https://joebiden.com/wp-content/uploads/2020/08/UNITY-TASK-FORCE-RECOMMENDATIONS.pdf>.

[6]メディケア・フォー・オールについて詳しくは、松井孝太「民主党候補者指名争いと「メディケア・フォー・オール」に対する労働組合の期待と懸念」東京財団政策研究所、2019109 < https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3245>.

[7] Jonathan Easley, Cristina Marcos and Mike Lillis, “Five Things to Know the Democratic Platform,” The Hill, August 18, 2020. <https://thehill.com/homenews/campaign/512404-five-things-to-know-on-the-democratic-platform>.

[8] Paul Steinhauser, “Over 1000 DNC delegates voted against party platform, in sigh of Dem discord,” Fox News, August 24, 2020. <https://www.foxnews.com/politics/over-1000-democratic-delegates-voted-against-party-platform>.

[9] 20207月頃には、「メディケア・フォー・オール」が綱領に入っていなければ反対票を投じるという宣誓文書に700名ほどが署名をしていた。これは、大統領候補の投票先について選出基盤である州政党に対する宣誓とは異なり、自身の自発的な態度表明である。Alison Durkee, “More than 700 Democratic Delegates Vow to Reject Platform if It doesn’t include Medicare For All,” Forbes, July 27, 2020. < https://www.forbes.com/sites/alisondurkee/2020/07/27/hundreds-of-democratic-delegates-vow-to-reject-platform-if-it-doesnt-include-medicare-for-all/#6b474ead1bda>; 宣誓文書は以下を参照。“Petition to Vote against a Democratic National Platform That Does Not Include Medicare for All,” < https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfY5U1TnEbx2YcFC9s-xU45Qac6p0j9RVr6we-fOMWkWHYqzg/viewform?fbclid=IwAR0CXreUUGhOQTldHppvIS6IXgeH433Z7fznOaIr71LxBCaAQOY7v5O11lQ>.

 

 

梅川 健

  • 東京都立大学法学部教授