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ウイグルを巡る米中対立(2)――連邦議会での動き、トランプ外交におけるウイグル問題

 同志社大学法科大学院嘱託講師

村上政俊

連邦議会の反応

前稿では、ウイグル問題に対するトランプ政権の反応と問題のそもそもの背景について論じたが、今稿ではまずアメリカ政治を考える上で欠かすことができない連邦議会の動きから始めたい。

議会における中国問題についての中心的なプラットフォームの一つは、2000年に設立された「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(Congressional-Executive Commission on China: CECC)」だろう。委員長のルビオ上院議員(共和党)と共同委員長のスミス下院議員(民主党)によって、昨年10月に公表された2018年版の年次報告書[1]での重点も、やはりウイグルだった。少数民族の収容としては第二次世界大戦後最大であろうとした上で、国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程の第7条で規定されている人道に対する罪(crime again humanity)を構成する可能性があるという、これ以上ないくらい強い調子で非難した。

昨年8月、ルビオ、メネンデス上院議員(民主党)らCECCに属する超党派の上下両院議員17人は、ポンペオ国務長官とムニューシン財務長官に書簡を発し[2]、新疆での人権侵害に関わりがある中国政府高官や団体に制裁を科すよう求めた。そこではグローバル・マグニツキー法(Global Magnitsky Act)に基づいて弾圧の中心人物である陳全国・中国共産党中央政治局委員兼新疆ウイグル自治区党委書記への制裁が求められている。マグニツキー法は2012年12月に制定されており、法律名は獄中で不審な死を遂げたロシアの反体制派弁護士セルゲイ・マグニツキーに由来し、人権侵害に関与した人物へのビザ発給禁止や米国内の資産凍結等を課すという内容だ。発端となったロシア以外にも、例えばニカラグアに適用されている。

さらには、深刻な人権侵害や汚職に関与した人物の資産凍結を目的とした行政命令13818号(2017年12月発令)[3]に基づいて海康威視(Hikvision)と大華(Dahua)技術への制裁を求めた。両社はともに浙江省杭州市を拠点としており、世界シェアがそれぞれ第1位と第2位の監視カメラメーカーだ。12億ドル規模の政府との契約で利益を得ているという。なお先に挙げた大統領令に基づいては、女性人権活動家の曹順利(Cao Shunli)弁護士が死亡した案件に関与したとされる高岩(Gao Yan)が制裁対象となっている。北京市朝陽区の公安トップだった人物だ。

米中経済安全保障再検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission: USCC)の年次報告書(昨年11月公表)[4]でもウイグル問題が取り上げられた。この委員会は2000年10月、スペンス国防授権法を根拠として成立し、米中貿易経済関係が米国の安全保障にもたらす含意について監視調査している。

他の動きとしては、米国国務省で新疆特別調整官(Special Coordinator for Xinjiang)の新設を求める声がある。類似のポストとしては、チベット問題特別調整官(Special Coordinator for Tibetan Issues)があるが、現在は空席である。

国際社会を批判の輪に巻き込もうという姿勢も感じられる。国家分裂罪で有罪判決を受けて投獄されているウイグル族経済学者のイリハム・トフティ(Ilham Tohti)氏をノーベル平和賞に推薦したり、2022年北京冬季五輪の開催を見直すよう国際オリンピック委員会(IOC)に要請する方針を示したりという動きだ。

そしてこの原稿を執筆中に国務省が公表したのが、1977年以来毎年発表されている国別人権報告書の2018年版[5]だ。中国についてはウイグルが真っ先に言及されており、前年版に比べてウイグル問題の比重が格段に高まっていることが窺える。収容されている人数については、これまでの約100万人を遥かに上回る200万人以上の可能性があるとした。ポンペオは記者会見[6]で、中国は人権侵害という点で群を抜いている(in a league of its own)と批判した。 

米中関係におけるウイグル問題のかつての位置付け

ウイグル問題が大きくクローズアップされるようになったのは、昨年からだといってよいだろう。新疆における苛烈なまでの人権侵害の実態が、実際に収容されていた人達からも生々しい形で伝わってきたことが大きいだろう。

だがウイグルに対する米国や国際社会の関心は、これまで必ずしも高いとはいえない状況が続いていた。同じく中国の民族問題としては、チベットに対する関心の方が遥かに高かったといえるだろう。チベットには世界的な影響力を有するダライ・ラマというアイコンがいることも大きな違いだ。

加えて見逃すことができないのが、ウイグル問題は米中関係全体の中では、ある意味でのバーターの材料として使われていたという点だ。特に顕著だったのが、今世紀の初頭、すなわち9.11以降にテロとの戦いがアメリカの軍事外交において極めて大きなウェイトを占めていた頃だろう。

テロとの戦いに対して国際社会からの広範な支持を得たいと考えていたブッシュ政権にとって、中国との協力は重要な部分を占めていた。一方で北京にとっては、新疆での東トルキスタン独立運動は悩みの種だ。ウイグルがイスラム世界と連携しているのではないかという疑いの目を常に向けているのだ。また新疆と国境を接しているアフガニスタンでの戦争は、決して他人事ではなかった。

米中両国の以上のような思惑から、中国がテロとの戦いに協力的な態度を示す代わりに、米国は新疆でのテロ取締を名目としたウイグル抑圧に対して大々的な批判はしないという暗黙の了解が成り立っていた時期があったといえよう。これまでウイグル問題についての声が米国においてなかなか高まりを見せなかった原因は、米中関係の中でのこうした貸し借りにありそうだ。

トランプ外交におけるウイグル問題

状況が激変して、米国内におけるウイグル問題についての中国への遠慮はなくなったといえよう。それでは米中関係における他のイシューとの間ではどう位置付けられるだろうか。

ブラウンバック大使は本年3月、台湾で開催された信教の自由に関する会合に出席し、ウイグル問題で中国を批判した。同席した台湾の蔡英文総統とも言葉を交わしている。米台高官の相互訪問を促す台湾旅行法が成立してから米高官の訪台は相次いでいるが、信教の自由を担当する大使(Ambassador-at-Large for International Religious Freedom)の訪問には特別の意味合いがあるだろう。

ウイグル、信教の自由そして台湾という北京からみれば敏感な問題を同時にテーブルに載せたところに、米中関係におけるイシューを相互にリンクさせることで中国への牽制に厚みを持たせようというトランプ政権の意図が感じられる。ブラウンバックは下院議員、上院議員、カンザス州知事を歴任した経験豊富な共和党の政治家であり、綿密に計算された上での訪台だったと考えられる。

 一方で、国務省の国別人権報告書の序文で触れられている政権の方針にも注目する必要がある。米国の利益が促進されるならば、その人権侵害の履歴に拘わらず、他国の政府に関与するとしているのだ。これは北朝鮮についても当てはまっているのかもしれない。現にポンペオは中国を厳しく批判した記者会見の場で、北朝鮮については一切言及しなかったし、前年版の「甚だしい人権侵害」という北朝鮮についての表現も姿を消した。これはトランプ政権が国益と相反する人権外交を展開することはないということであり、人権を外交カードの一つと捉えていることを示唆しているともいえよう。トランプ政権にそもそも人権外交はあるのかという問いに対する一つの答えとなるかもしれない。

 

[1] https://www.cecc.gov/sites/chinacommission.house.gov/files/Annual%20Report%202018.pdf

[2] https://www.cecc.gov/media-center/press-releases/chairs-lead-bipartisan-letter-urging-administration-to-sanction-chinese

[3] https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-blocking-property-persons-involved-serious-human-rights-abuse-corruption/

[4] https://www.uscc.gov/sites/default/files/annual_reports/2018%20Annual%20Report%20to%20Congress.pdf

[5] https://www.state.gov/j/drl/rls/hrrpt/humanrightsreport/index.htm#wrapper

[6] https://www.state.gov/secretary/remarks/2019/03/290320.htm

 

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村上 政俊

  • 同志社大学法科大学院嘱託講師