バイデン政権の初動と米中関係の見通し

2021年2月24日、超党派の上院議員グループと話し合うバイデン大統領とハリス副大統領(写真提供:GettyImages)

バイデン政権の初動と米中関係の見通し

 皇學館大学准教授
村上政俊

 

バイデン政権を第3期オバマ政権と評する向きがある[1]。気候変動問題を重視しケリー元国務長官を大統領特使に任命したのは、こうした文脈に位置付けられる。国際協調という旗印は、トランプ前政権の否定であると同時に、オバマ的でもある。

だが一方で表面的な脱トランプ流とは裏腹に、部分的にではあるがトランプ政権の成果が継承されてもいる。ポンペオ前国務長官は離任直前にウイグルでの人権弾圧をジェノサイドと認定したが、ブリンケン国務長官も同様の認識に立った。退場直前の前政権による駆け込み認定は後継政権に影響を与え、カナダやオランダの議会にも動きは広まっている。

ブルッキングス研究所のトーマス・ライト上級研究員は民主党の外交政策エスタブリッシュメントについて、オバマ政権のアプローチの継続を志向するrestorationistと変化を目指すreformerとに整理している[2]。バイデン外交は両者のせめぎ合いによって形作られるということになろう。バイデン政権の初動ではいったいどちらの流れが強く顔を覗かせているのだろうか。

バイデン政権は発足初日に大統領令によってパリ協定に復帰した。WHO脱退も撤回して2億ドルの拠出を約束し、脱トランプ流を強く印象付けた。国際協調への復帰は人権分野にも及ぶ。国連人権理事会については、復帰に加えて理事国への立候補をブリンケンが表明した。ブリンケンは楊潔篪政治局委員との初の電話会談で、既出のウイグルに加えてチベット、香港も持ち出して中国を非難した。

南シナ海では政権発足から間もなく、「航行の自由作戦」や空母2隻(ニミッツ、セオドア・ローズベルト)による演習が矢継ぎ早に実施された。カーター元国防長官がオバマ政権では同作戦の実施に多くの困難が伴ったと告白した[3]ことからすれば、大きな変化といえよう。

台湾についても配慮がみられる。大統領就任式には蔡英文総統とも近い駐米代表が招待され、米艦船の台湾海峡航行も引き続き実施されている。台湾へのコミットメントの中核である武器売却にいつ踏み切るかが次のポイントだろう。オバマは2期で3回、トランプは1期で11回という対照的な売却決定の実績が残っており、バイデン政権の本気度を測る試金石となろう。

以上のようにバイデン政権の初動を観察すると、対中強硬姿勢の継続がかなりの割合を占めているかのようにみえる。厳しい対中認識が議会や官僚機構といったワシントン全体で共有されていることが、強力な下支えとなっているのだ。宥和政策という文脈でのオバマ回帰を心配していた同盟国にも、一定の安心感を与えた。尖閣諸島への日米安保条約5条の適用にバイデンが言及したことは、その最たるものだ。

だがバイデン政権下での米中関係の基調を断定するのは、時期尚早だろう。まずは米中協調の位置付けだ。中国との争覇と協調を並行的に実施するのは理論上可能であっても、それに果たしてフィージビリティ(実現可能性)があるのか。バイデン政権の外交安保チームの中で理論的な切り分けが共有されていたとしても、競争と協力がそれぞれ具体化すればワシントンから発せられるシグナルが複雑となり、同盟国を困惑させることになるかもしれない。

バイデン大統領と習近平国家主席との初めての電話首脳会談(2021年2月10日, EST)では、確かにウイグル、香港、台湾について懸念が表明された。一方で2時間にわたる会談ではパンデミックや気候変動における米中協力についても話し合われ、重点が競争と協調のいずれにあるかは依然として判然としない。

中国側はバイデン政権発足を短期的には米中関係転換の好機と捉えており、王毅外交部長はトランプ関税の撤廃と気候変動での協力を持ち掛けた(2021年2月22日、藍庁論壇)。バイデン政権による競争分野と協調分野という間仕切りの設定を北京が無視し、両者を綯い交ぜ(ないまぜ)にして交渉のテーブルに載せようとする動きは今後も続こう。仮に閣僚級の米中対話といった枠組みが立ち上がり、広範なテーマが議題となったなら、理論的な間仕切りは実態面では雲散霧消するだろう。

潜在的には米中協調が台湾問題にも及ぶ可能性がある。サリバン大統領補佐官とキャンベルNSC(国家安全保障会議)インド太平洋調整官は昨年のForeign Affairs誌上の連名論文[4]で、インド太平洋における潜在的なホットスポットとして南シナ海、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島を挙げた一方で、台湾を米中関係の歴史における主張されていない最大の成功と表現した。ブリンケン国務長官も昨年のBloombergインタビューで[5]、皮肉なこととしながらも同様の認識を示した。米中関係の進展次第では、政権高官のこうした認識が顕在化することもかるかもしれない。

当面はバイデンが国防総省に命じた対中戦略の見直し(2月10日)を見守る必要がある。バイデンは外交政策において武力行使は最後の手段に過ぎないとしている[6]が、中国との競争において軍事力にどのような位置付けを与えるのか。バイデンは大統領としての最初の外交演説で中国を最も深刻な競争相手としたが、昨年の民主党綱領では中国の挑戦は一義的には軍事ではない[7]とされた。だが軍事力を根本に据えない限りは、ルールに基づく国際秩序に対する中国の挑戦を退けることはできない。いずれにしてもオースティン国防長官を支えるためペンタゴン入りしたラトナー特別補佐官が策定の中心となる。

中国との競争と協調という二つの流れが、果たしてどのようにブレンドされるのか。バイデン政権の今後の中国政策に引き続き注目する必要がある。

 

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[1] Charles M. Blow, “Third Term of the Obama Presidency”, The New York Times, November 8, 2020, https://www.nytimes.com/2020/11/08/opinion/biden-obama-presidency.html

[2] Thomas Wright, “The Point of No Return: The 2020 Election and the Crisis of American Foreign Policy”, Lowy Institute, October 2, 2020, https://www.lowyinstitute.org/publications/point-no-return-2020-election-and-crisis-american-foreign-policy

[3] Ash Carter, “Reflections on American Grand Strategy in Asia”, The Belfer Center for Science and International Affairs, Harvard University, October 2018, https://www.belfercenter.org/publication/reflections-american-grand-strategy-asia

[4] Kurt M. Campbell and Jake Sullivan, “Competition Without Catastrophe”, Foreign Affairs, Vol.98, No.5 (September/October 2019), https://www.foreignaffairs.com/articles/china/competition-with-china-without-catastrophe

[5] David Wainer and Kevin Cirilli, “Containing China Starts With Fixing Alliances, Biden Adviser Says”, Bloomberg, August 1, 2020, https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-31/containing-china-starts-with-fixing-alliances-biden-aide-says

[6] Joe Biden, “Why I Chose Lloyd Austin as Secretary of Defense”, The Atlantic, December 9, 2020, https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2020/12/secretary-defense/617330/

[7] “2020 Democratic Party Platform”, August 18, 2020, pp88, https://www.demconvention.com/wp-content/uploads/2020/08/2020-07-31-Democratic-Party-Platform-For-Distribution.pdf

村上 政俊

  • 皇學館大学准教授