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先鋭化する米中対立と香港及び米台関係のさらなる深化
2020年8月、台湾を訪れた米アザー保健福祉長官(中央)(写真提供 Getty Images)

先鋭化する米中対立と香港及び米台関係のさらなる深化

October 8, 2020

 同志社大学法科大学院嘱託講師
村上政俊

香港
(1) 連邦議会の動き
(2) 制裁、優遇措置の停止
(3) 日欧との連携
米台関係
(1) 連邦議会、行政部の動き
(2) 閣僚訪台、経済
(3) 米台関係の今後と日本

香港

米中関係における香港問題について、筆者は「香港を巡る米国の動き」(2019年10月)を執筆しているが、対立の深まりとともに香港を巡っての応酬も激化している。

(1) 連邦議会の動き

香港を巡って米国連邦議会の動きは極めて活発である。下院外交委員会は本年7月、国家安全法の施行直後に公聴会を実施し、羅冠聡(Nathan Law)元立法会議員にオンラインでの証言を求めた。なおポンペオ国務長官も訪問先のロンドンで羅と会見している。

2019年11月に成立した香港人権・民主主義法はルビオ上院議員(共和党)によって提出され、香港における基本的自由や自治の侵害を理由とした制裁を規定している。

この法案は上院を全会一致で、下院を417対1という圧倒的多数で通過し、共和民主両党の対立が深まる中にあって、超党派による支持が表明された。一方でトランプ大統領は署名時声明において、習近平国家主席、中国そして香港人に敬意を表して署名したと述べ、中国側への配慮を見せた。これは佳境に入っていた貿易交渉に対して、同法が影響を及ぼすのを懸念したためとみられる。なお催涙ガスの商用輸出を禁止する法律も同時に成立している。

本年7月には香港自治法が成立し、金融機関への制裁が可能となった。トランプ大統領は同法への署名時声明では一転して中国への特段の配慮を示さなかった。第一段階合意が成立してからは、貿易問題におけるトランプ大統領の関心が中国側による合意の履行に移っていることが背景にはあるだろう。

そもそも米国は、1997年に予定されていた英国から中国への香港返還を見据えて1992年に香港政策法を成立させており、そこで米国と香港の関係の大枠が形作られた。同法では経済や通商において香港を中国大陸とは別個の地域(separate territory)として取り扱うこととなっている。だがその条件となるのが香港における「高度の自治(high degree of autonomy)」が担保されていることであり、この前提が昨年来の情勢によって崩れつつあるというのが米国側の認識だ。

(2) 制裁、優遇措置の停止

議会において(1)で挙げたような立法措置が積み重ねられたことで、香港問題における手段が豊富となり、行政府はそれらを効果的に使って対中圧力を高めている。

大きな転機となったのが本年5月、北京での全国人民代表大会において国家安全法の制定方針が採択されたことだ。ポンペオ長官は同法案を”death knell(死を告げる鐘)”と呼び、直前には香港における高度の自治は維持されていないと声明した。制定方針の採択直後にはトランプ大統領がホワイトハウス・ローズガーデンでの記者会見で、これまで香港に与えられてきた優遇措置の停止プロセスを開始すると表明した。

本年7月、トランプ大統領は(1)の三法に基づいて大統領令第13936号を発し、香港にもはや十分な自治はないと認定した。そして8月、米財務省は同大統領令を根拠に、香港政府トップである林鄭月娥(Carrie Lam)行政長官ら11人に制裁を発動し、米国内の資産凍結といった措置が実施された。長官はクレジットカードの使用に不便が生じているという[1]。制裁対象には、夏宝龍香港マカオ事務弁公室主任も含まれた。習近平氏が浙江省トップを務めた際に、夏はその右腕となっていたことで知られている。

他方でトランプ大統領は、スパイサー元ホワイトハウス報道官のインタビューに答えて、習氏本人を制裁対象とする考えはないと述べている。なお制裁発動の直後に、香港紙蘋果日報(Apple Daily)創業者の黎智英(Jimmy Lai)氏や周庭(Agnes Chow)氏が逮捕されている。

米国務省は本年8月、香港との犯罪人引渡条約の停止を声明した。米税関・国境取締局(CBP)は、これまでの香港産ではなく中国産表示を義務付けた。

(3) 日欧との連携

米国は香港問題において同盟国との連携も深めている。本年6月、G7外相声明において国家安全法に懸念が表明された。米国に英加豪NZを加えたファイブ・アイズは本年8月の外相声明で、9月6日に予定されていた立法会(香港の議会)選挙が延期されたことに懸念を表明している。日本経済新聞香港支局にも香港警察の手が及んでおり、香港での自由の抑圧がさらに悪化すれば、日本も米国との協調が必要な場面がますます増えることとなるだろう。

米台関係

拙稿「トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(1)」及び「同(2)」で紹介してきたように、米中対立の激化に伴って米台関係は実質的な深化を遂げてきたが、その後も流れは加速している。

(1) 連邦議会、行政部の動き

米議会は台湾への後押しを続けており、本年3月、台湾同盟国際保護強化イニシアティブ法(通称TAIPEI法)が成立した。パンデミック下でWHOからの台湾排除が問題となる中で、国際機関参画への支援などが盛り込まれた。

本年6月末から約1か月の間に、オブライエン大統領補佐官、レイFBI長官、ポンペオ長官とトランプ政権高官が立て続けに中国に関して演説したが、それぞれ台湾についても言及している。

(2) 閣僚訪台、経済

米国から台湾には本年8月、アザー保健福祉長官が派遣され、逝去した李登輝元総統を弔問し蔡英文総統と会談した。これはトランプ政権下で初めての閣僚訪台であり、米国としても約6年ぶりの閣僚訪問となった。

立て続けにクラック国務次官(経済成長等担当)が台北を訪れて李登輝元総統告別式に参列した(本年9月)。直前には米側が障害とみていた米国産牛豚肉の輸入について、台湾側は全面解禁を発表しており、9月に入ってはトランプ大統領が米中デカップリングに改めて言及している。これらの動きが米台FTA(自由貿易協定)へと繋がるかが焦点となろう[2]

クラック次官と蔡総統の夕食会には、TSMCの張忠謀(Morris Chang)氏が同席している。米中対立で半導体が焦点となる中で、120億ドルを投じアリゾナ州での工場建設を決めている台湾半導体最大手の創業者に米高官が会った意味は小さくないだろう。

(3) 米台関係の今後と日本

親台派として知られたボルトン前大統領補佐官の回顧録は、当事者がトランプ政権の内幕を描いたことで注目を集めたが、離任直前にひっそりと指定解除した機密については言及がなかった。武器売却を巡ってのレーガン大統領による6つの保証(Six Assurances)だ。

スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)はヘリテージ財団のウェビナーで、機密指定を解除したと明かした上で、現在も効力があるとした。レーガン政権期に6つの保証によって、武器売却終了の期日を設けないといった台湾に有利な内容が伝えられていたことから、6つの保証をプレイアップするとはすなわち台湾への軍事上の支援を公然化することにほかならない。

それでは11月の大統領選挙の影響はどうか。トランプ氏再選となれば、台湾支援の公然化という流れは続くだろう。一方でバイデン氏当選となればどうか[3]。国防長官候補として取り沙汰されるフロノイ元国防次官[4]からは、中国指導部が状況を見誤って台湾を封鎖あるいは攻撃するおそれがあるという厳しい認識が示されており[5]、台湾へのコミットメントを維持そして拡大するという大きな方向性には変化はないだろう。

本年2月、中国軍機が事実上の停戦ラインとして機能する台湾海峡の中間線を越えて飛行した。その直後に米MC-130J特殊作戦機が同海峡を飛行したが、この飛行は台湾有事への米国介入の可能性を示しているとの分析もある[6]。同機は在日米軍嘉手納飛行場から飛び立ったとみられ、この一事をとっても台湾情勢の緊迫化は日本にとって他人事ではありえない。

李元総統の弔問に森喜朗元総理が派遣され、菅義偉新内閣では親台派の岸信夫代議士が防衛大臣に起用されるなど、日本側からも台湾重視の姿勢が示されている。日本としては米大統領選挙の行方を見据えつつ、日米台協力の可能性を含めて米台双方との意思疎通をより緊密に図る必要がある。 

 


[1] https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-18/hong-kong-s-leader-has-credit-card-trouble-after-u-s-sanctions

[2] 米台FTAを支持する論考としてKurt Tong, “Now Is the Right Time for a Trade Agreement with Taiwan”, CSIS, May 27, 2020 <https://www.csis.org/analysis/now-right-time-trade-agreement-taiwan>

[3] バイデン政権が成立した場合のアメリカ外交については、久保文明「『バイデン政権』の外交を考える」笹川平和財団, 2020.07 <https://www.spf.org/jpus-j/spf-america-monitor/spf-america-monitor-document-detail_68.html>

[4] George F. Will, “This is who Joe Biden should nominate as defense secretary”, The Washington Post, September 9, 2020 <https://www.washingtonpost.com/opinions/this-is-who-joe-biden-should-nominate-as-defense-secretary/2020/09/08/371d00ca-f207-11ea-999c-67ff7bf6a9d2_story.html>

[5] Michèle A. Flournoy, “How to Prevent a War in Asia”, Foreign Affairs, June 18, 2020 <https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-06-18/how-prevent-war-asia>

[6] ボニー・グレイザー「台湾への関与強める米国の戦略」『外交』57号(都市出版、2019年9月)p21

    • 皇學館大学准教授
    • 村上 政俊
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