米国の台湾への武器売却と第二次蔡英文政権の発足

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米国の台湾への武器売却と第二次蔡英文政権の発足

 同志社大学法科大学院嘱託講師
村上政俊

 

蔡英文台湾総統は2020年5月20日、政権2期目を正式にスタートさせ、就任演説では「これからの4年間、我々は米国、日本、欧州等の価値観を共有する国家とパートナーシップを深化させていく」と述べた[1]。トランプ、蔡両政権下で米台関係は深化しており(詳細は拙稿「トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(1)」、「同(2)」)、蔡総統は米台関係が引き続き台湾外交の基軸であることを明確にした。

同様のメッセージは、総統選挙の投開票日の翌1月12日午前、真っ先に面会した外国使節がクリステンセンAIT台北事務所所長だったことからも読み取れる。国交が存在しない米国と台湾の関係において、米国側の窓口機関となっているのがAIT(American Institute in Taiwan、在台米国協会)であり、クリステンセンは事実上の駐台大使に相当する。

筆者は台湾外交部(外務省に相当)の招聘を受けて台湾奨助金(Taiwan Fellowship)に参加し、本年1月から4月まで台湾大学で在外研究にあたった。滞在中に、国務省からAITに派遣されている米外交官との意見交換のため、台北市東部の内湖区に新築された事務所を訪問した。事務所(英語でoffice、中国語で弁事処)という語感からはかけ離れた丘の上の巨大な要塞のような事実上の大使館の構えは、米国の台湾重視がトランプ政権下での一過性のものではないことを端的に表しているといえよう。

第二次蔡政権の発足に合わせて米国は、ポンペオ国務長官が祝意を表した[2]だけでなく、総額1.8億ドルの武器売却を決定[3]した。今回の売却は、これまでのトランプ政権下でのそれと金額ベースで比較すると少額だが、蔡への「ご祝儀」という象徴的な意味合いが込められていよう。売却が決定されたのはMK-48長魚雷(heavyweight torpedo)18発だったが、台湾が自主建造を進める潜水艦のための装備ではないかとも目されている。

他方で中国は、蔡演説の2日後に全国人民代表大会で李克強首相が、台湾独立への反対や統一の促進といった従来からの強硬方針を繰り返した[4]だけで蔡総統の対話呼び掛けにゼロ回答を貫き、米国とはまさに正反対の反応を示した。 

そもそも本年1月11日の総統選挙で蔡総統が再選を決めてから、台湾海峡での米中の軍事的な緊張は高まりをみせている。2月10日、事実上の停戦ラインとして機能する台湾海峡の中間線を越えて中国軍機が飛行したが、同様の挑発行為は2019年3月以来だった。これに対して早くも2月12日には米国の空軍機が台湾海峡を飛行した。

米海軍は近年では約1か月に1回のペースで、艦船の台湾海峡航行をオープンにしているが、4月10日から11日にかけて駆逐艦「バリー(Barry)」が台湾海峡の中間線よりも中国側を航行した。台湾は中国大陸の目と鼻の先にある馬祖諸島を実効支配しており、同艦はその近海を航行したという。台湾海峡の中間線を中国が踏みにじるならば、米国としても座視しないという意思の表れとみてよいだろう。

なお同艦は第7艦隊に所属し横須賀基地を母港としているが、このことは台湾海峡の安全保障と在日米軍のプレゼンスとが極めて密接な関係にあることを表しているといえよう。 

本年11月の大統領選挙においてトランプが再選されれば、米中対立を背景とした米台関係の深化という基調は続くものと思われる。ただし台湾に売却される予定の魚雷がMK-48長魚雷のうちでもMOD6であって、豪州やオランダで導入されているMOD7という最新型よりは古いタイプであることには注目してもよいだろう。台湾を重視するトランプ政権であっても現在のところは、台湾と他の同盟国を全くの同列に扱っているわけではないことに留意する必要がある。

 


[1] https://www.president.gov.tw/Page/586

[2] https://www.state.gov/taiwans-inauguration-of-president-tsai-ing-wen/

[3] https://www.dsca.mil/major-arms-sales/taipei-economic-and-cultural-representative-office-united-states-tecro-mk-48-mod-6

[4] http://www.gov.cn/premier/2020-05/22/content_5513757.htm

村上 政俊

  • 同志社大学法科大学院嘱託講師