2019年5月末の米空軍士官学校卒業式では中華民国の国旗である青天白日満地紅旗が掲げられた(写真左。ホワイトハウスのインスタグラムより転載)

アメリカと中国(6)トランプ政権と台湾

東京大学東洋文化研究所准教授

佐橋 亮

 

2016年11月のトランプ氏の当選以来、米国と台湾の関係、また台湾海峡をめぐる国際関係に多くの関心が寄せられるようになった。

この2年半を振り返るとき、実態として起きている出来事は未だ、台湾海峡の構造に根本的な変更を引きおこすほどのものではない。米台関係の関係強化が表面上進んでいるが、米国政府は従来の「一つの中国」政策の枠の中で、最大限の関係強化を図りつつ、両岸関係の管理という視点を依然として重視しているようにみえる。

他方で、台湾には米中関係の競争が激化する中での取引材料となっているとの恐れは依然として根強く、また米中対立に巻き込まれれば経済社会的に致命的損害を受けかねないという恐怖もある。中国も米国の出方に過剰に敏感になっているところがある。

過去10年あまりにおいて両岸の軍事バランスは大きく変質し、台湾における政治は複雑さを高め、そして中国の習近平政権は台湾問題での現状の継続に必ずしも満足しないなかで、米中台関係の構造的変質は表面化しつつあった。トランプ政権により拍車がかかっているともいえる。

果たして、米国政府の対台湾政策はどこまで変質しているのだろうか。北京の動きに受動的に対応しているのか、またはより積極的に既存の政策を見直しているのか。台湾は米中競争をめぐる米国の戦略の中で、いかなる位置を占めているのか。

本論は中国、台湾の動きを別稿にゆずり、米国の動きからアプローチする。これまでの筆者の連載と異なり、特定テーマに関して時系列に事実関係を整理していく。 

政権発足前後における混迷

201612月、蔡英文氏から祝意を示す電話がかけられたとき、トランプ氏はその受話器を上げた。この背景に米議員や政策関係者の存在があったことも報道されているが、トランプ氏が「一つの中国」政策について理解を示さない発言を行ったことも重要である。果たして、この型破りの人物は40年続いてきた米中台関係の基本構造をいとも簡単に壊してしまうのかと世界的な関心を集めることになった。

結果から見れば、2月に米中首脳による電話会談が行われ、それを受けてホワイトハウスは「トランプ大統領は習近平国家主席の求めに応じ、米国政府の従前の『一つの中国』政策を尊重することに合意した」と発表した。これは72年、78年の米中共同コミュニケにある米国政府の立場、すなわち米国は[中国は一つであり、台湾は中国の一部という]中国人の立場を認識した(acknowledge)ことを、再度「尊重」(honor)したということだ。

この内容は、米国が米中台の法的な基本構造に変更を行う意志を持たないことを示したのであり、中国にとって大きな安心材料になった。4月には習近平氏がフロリダを訪問し、米中首脳会談が開かれ、米中関係の安定に向けた制度化の努力がされることになった。

とはいえ、中国の観点から見れば、安心を得ることはなかなか難しかった。3月には台湾の黄曙光・海軍司令が国防総省を訪問しており、翌月には国務長官に指名されたティラーソン氏が議会公聴会で「六つの保障」[1]に言及して、中国から見れば「一つの中国」政策の内容で少し踏み込みを見せた。(しかしティラーソン国務長官は就任すると、米国の「一つの中国」政策が次の50年もここままで継続できるのかと疑問を呈し、巷では第四のコミュニケを模索するのではないかと噂された。六つの保証への言及は外部助言者によるものとみられる。)また6月のシャングリラ・ダイアローグにおいて、マティス氏が米国防長官として初めて台湾に言及してみせた。同月には台湾への新たな武器売却も認められている。 

政策・法律における台湾問題への言及増加

2017年末から18年前半にかけて、米国の対中政策は急速に強硬なものとなる。それに併せるように、台湾に関わる言及や、新たな法律の成立、さらに親台湾とみられる政権高官の任用が相次ぐことになる。

政権の動きは静かな変化と言えるものだ。国家安全保障戦略(NSS)は、「一つの中国」政策のなかで台湾との強い関係を維持すると述べた後に、台湾関係法にあえて言及しているとも読める。

181月にランディ・シュライバー氏が国防総省アジア太平洋担当次官補に、4月にはジョン・ボルトン氏が国家安全保障担当大統領補佐官に就任したが、共に親台派として知られていた。シュライバー氏は就任後もインド太平洋における戦略的パートナーとして台湾に言及するなど踏み込んだ発言をみせる。しかし彼も「一つの中国」政策の範囲を意識した発言に終始し、武器売却増加はトランプ政権の方向である対外有償軍事援助(FMS)の増加と一致すると述べるなど、政治的な制約を意識している。

トランプ大統領個人にとって重要なことは鴻海の対米投資だったのだろう。6月には鴻海の新工場起工式にトランプ大統領が出席している。政権としては5月にサンダース報道官が外国航空会社への表記変更の要請を巡り、極めて厳しい言葉を遣い中国政府を批判している。厳しい対中強硬演説として知られるペンス副大統領演説(10月)も台湾への中国の露骨な圧力を批判していた。(なお、六つの保証への言及はみられない。)

ほかにも、5月の米インド太平洋軍司令官交代式に台湾から参謀総長が出席し、夏には中南米訪問のため経由した蔡英文氏が政府機関のNASAを訪問している。武器売却では9月に新たな売却が承認されたことに加え、秋に改修されたF-16Vの引き渡しが開始される。

むしろ議会による立法活動が目立っている。3月には台湾旅行法が成立している。安全保障分野を含む米台の政府交流を閣僚レベルから実務レベルまで増やすべきと議会が方向性を示した(これらは行政府の権限に属する)。なお成立直後にウォン国務次官補代理、6月に米国在台協会(AIT)の新オフィスが開所するとロイス国務次官補が出席している。開所式にはより高いレベルの訪台がメディアで取り沙汰されたが、結果的には教育・文化担当の局長級訪問となった。

8月に成立した2019会計年度国防授権法は、対米外国投資委員会(CFIUS)や輸出管理の強化、中国製通信施設の政府調達からの排除などの内容を含むが、台湾との軍事交流の増加を求め、台湾関係法と六つの保証を台湾政策の柱と主張している。

12月にアジア再保証推進法ARIA)が成立する。同法は台湾関係法と六つの保証に基づくコミットメントを確認したうえで、「現状を変更しようとする動きに抵抗し、台湾海峡両岸が受け入れられる平和的解決を支持する」との表現を行う。続けて、「大統領は、中華人民共和国からの現在、およびあり得る将来の脅威に対処できるような、防衛に要する品の恒常的な移転を行うべきである」と定めた。なお同月末にホワイトハウスは声明をだし、同法の台湾への言及を含む多くの内容は行政府に何ら影響を持たないとした。しかし、12日に習近平氏が米国を牽制するように台湾政策の新方針を発表し、蔡英文氏が反発をみせるなど、同法の余波は大きいものがあった。 

より大胆になる台湾関与

米中関係には18年夏より鞘当てともいえる現象が生まれていた。187月に米の2艦船が台湾海峡を通過すると、以後頻繁に海峡通過が行われることになる。台湾関係法40周年を間近に控えた193月、人民解放軍所属のJ-11戦闘機が台湾海峡中間線を突破した。これは異例のことだった。

同月、蔡英文氏は大洋州訪問のためハワイに立ち寄り米軍人とも接触し、ワシントンでの台湾関係法40周年行事にビデオ出演してみせた。これらは米台関係を取り巻く環境が良好であることを印象づけた。議会での立法活動は続いており、5月には台湾保障法案が米連邦下院を満場一致で通過している。

6月のシャングリラ・ダイアローグで、シャナハン国防長官代行が披露した国防総省・インド太平洋戦略レポートは台湾にも言及している。台湾に関する具体的記述としては新味が薄いが、中国が非平和的な解決を放棄せず、軍事的圧力をかけていること、外交面でも中国が圧力キャンペーンをかけていることを指摘した上で、台湾関係法(六つの保証への言及は無し)、武器売却について従前の方針を再確認している。ペンス副大統領、およびシュライバー国防次官補による演説が抜粋され掲載されているが、両引用とも台湾の民主主義を強調するものとなっている。また総論箇所において、安全保障パートナー「国」として、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴルを列挙したことも目を引く。政治的配慮を余り感じさせないものと言えるだろう。

なお武器売却では、本稿執筆時点でM1A2エイブラムス戦車108両を含む、台湾の新たな要求をトランプ政権が承認する可能性があるとも報道されており、これが実現すれば従来とはレベルの違う売却となる。

また米台の交流はかなり堂々としたものになりつつあり、5月にはボルトン補佐官と李大維・国家安全保障会議秘書長の面会も実現している。同月末の米空軍士官学校卒業式では中華民国の国旗である青天白日満地紅旗が掲げられており、トランプ大統領の後ろに映り込んでいる。(ホワイトハウスのインスタグラムで現在も公開されている。)64日に米海兵隊主催シンポジウムでも同旗が陳列され、参加した台湾将官と米軍高官との贈り物交換の写真が公開されている。(“US releases photo of Taiwanese major general at Indo-Pacific military talks” South China Morning Post, 10 June, 2019.  

おわりに

米国の台湾政策に、多くの変化が見られる。多くの戦略文書等に台湾が明確に書き込まれ、発言されることは過去40年の歴史の中でも珍しく、また台湾旅行法成立に伴い両者の政権高官の往来も増加傾向にある。その背景には、親台湾派の政権高官の任用だけでなく、中国に対する競争を意識した連邦議会の動きが大きい。本来、米国外交における連邦議会の役割はより限定的だが、台湾関係法以来、米国議会がこの問題に寄せる関心は高く、それが対中政策の強硬化とあわさることで大きな動きを作っている。

他方で、米国の台湾政策は本質を変えるほどの変化には至っていない。貿易交渉など中国との外交交渉は問題を孕みつつも継続しており、「一つの中国」政策は維持されている。米国政府の時に挑発的な発言も、中国の台湾への圧力を批判する受動的な側面が強い。

たしかに、政権外には台湾への積極的関与を主張する勢力がおり、彼らは台湾の地政学的な重要性を訴えるだけでなく、中国の政治体制にも厳しい視線を注いでいる。また逆の側には、台湾への関与を明確に弱めるべきと主張する者たちもいる。前者にはトランプ政権に近いものもいるが、しかし政権の主流派はこのどちらでもない。

しかしトランプ政権期に、「一つの中国」政策の範囲の限度を試すように、米国の台湾への関与が強まっていることは確かである。とくに交流における大胆さには驚かされるほどだ。武器売却や、米軍の台湾海峡での動きなどにも、注視が必要だろう。

来年1月に迫る台湾総統選に向けた各候補の動きは活発化しており、また最近の香港情勢も台湾政治に大きな影響を与えている。これらの相互作用の上に、台湾海峡の情勢が安定的に推移するかは、未だ予断を許さない。

 

[1] 「六つの保証」とは、1982年に米中両政府が上海コミュニケを結ぶ直前に、台湾の求めで米国政府が与えた約束を指す。以下の六つからなる。
(米国は)台湾への武器売却を終結させる日程を定めない/台湾への武器売却について中国と協議することに合意しない/台北と北京の間で仲介者としての役割を演じない/台湾関係法を改定することに合意しない/台湾の主権に関する立場を変更しない/台湾が中国と交渉をするような圧力を行使しない
Alan Romberg, Rein In at the Brink of the Precipice: American Policy toward Taiwan and U.S.-PRC Relations, Washington DC: Henry L. Stimson Center, 2003, pp.134-5.

 

【連載記事】

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佐橋 亮

  • 東京大学東洋文化研究所准教授