アメリカと中国(11)バイデン政権に継承される米中対立、そして日本の課題

2021年3月12日、ホワイトハウスのローズガーデンで演説するバイデン大統領(写真提供 Getty Images)

アメリカと中国(11)バイデン政権に継承される米中対立、そして日本の課題

東京大学東洋文化研究所准教授
佐橋 亮


バイデン政権も厳しい対中認識を表明
外交エリートの世界観に埋め込まれている対中不信と中国のパワーへの警戒
求められる日本の戦略的対応

バイデン政権も厳しい対中認識を表明

20211月からバイデン政権が発足したが、閣僚の指名公聴会や政府高官の電話会談後のプレスリリース、さらに3月に発表された国家安全保障戦略指針(暫定版)などで中国への強硬姿勢が目立っている。一方で、それらは議会や世論における厳しい対中認識を意識して、いわば行儀良く政権をスタートさせるための努力にみえる。他方で、民主党もオバマ政権末期からかなり中国認識を悪化させており、対中不信が党派を問わないという現実をそれらの言及は反映している。

トランプ前政権は、対中政策の「号砲」を打ち鳴らすことに専念していた。それはペンス副大統領演説(1810月)やポンペオ国務長官が2020年に相次いで行った演説にも特徴的にみられる。また関税を手段として駆使した貿易戦争も、日々マスコミを賑わせた。それに比べると、バイデン政権の対中政策は、まずは高官の発言や戦略文書で滲み出すように表明しており、今後も政策分野毎に粛々と規制を駆使していくものになるのだろう。楊潔篪・中国共産党中央政治局委員らをアラスカに呼びつけるような形でブリンケン国務長官が中国政府カウンターパートと面会すると発表したように、強硬な姿勢をみせつけるようなパフォーマンスは今後もあるだろうが、外交スタイルは官僚的な、より旧来の形に戻るだろう。

それは対中政策、また背景にある中国との競争を前提にした戦略への転換が後退するという意味ではない。バイデン政権によって従来の対中関与戦略に戻ることはない。日本でも米中対立への関心が高まっている中で、バイデン政権の政策をめぐり、今後、解釈の幅が広がってくるだろう。しかし、バイデン政権にとっても、中国は「経済力、外交力、軍事力、技術力を組み合わせて、安定的で開かれた国際システムに持続的に挑戦することができる唯一の競争相手」(上記、戦略指針)であり、先端技術を念頭においた輸出管理、投資規制、そして中国製品の政府調達や情報通信網からの排除などの規制は緩むことはなく、長期的視野から中国の成長をスピードダウンさせようとする意志に何ら変化はない。

たしかに民主党左派を含み、アメリカでは徐々に「抑制派」やそれに近い世界戦略の大幅見直し論が増えているが、少なくとも現段階において、バイデン政権は外交エリートの世界観を踏襲しており、その世界観において、アメリカのリーダーシップと既存の国際秩序を書き換えるような強制力を持ちはじめている中国への懸念はいささかも揺らいでいない。 

外交エリートの世界観に埋め込まれている対中不信と中国のパワーへの警戒

オバマ政権期からサイバー攻撃を含めて中国への技術流出は大いに懸念されるようになり(さらに元を辿れば2005年にFBI(連邦捜査局)は技術流出への捜査態勢を拡充したし、90年代から大きな懸念が存在していた)、また習近平政権が政府主導での国家プロジェクトや市場化改革の後退と受け取られる国有企業重視の姿勢を打ち出すと、アメリカには中国の信頼感というものが消失していった。アジア周辺国への威圧的な外交姿勢や軍事行動、一帯一路にも典型的にみられる国際秩序のルールや規範への挑戦も、中国の行動に些かの期待をもたせず、信頼感を下げることに貢献した。こういった落胆に加えて、中国の能力(パワー)への恐れが加わり、今のアメリカの厳しい対中認識ができあがっている。

アメリカの「パワーエリート」のなかで、そういった認識に若干の抵抗を見せているのは産業界、金融界だが、最近の政策形成では劣勢の地位に甘んじている。バイデン政権では労働組合や環境団体の発言力が向上すると目されるが、それらも中国の現状の政策に厳しい姿勢であり、「中間層のための外交」の掛け声の下でも、中国に融和的な姿勢は出てきづらい。対立が紛争や国際危機を作ってしまうコストには敏感なことくらいが、前政権との違いだろう。

誤解を恐れずに言えば、トランプ前政権の方が政権内での意見の分裂が大きく、それが中国政府に外交交渉への期待を持たせていた。すなわち、トランプ大統領の対中姿勢は再選のための交渉を重視しており、また人権感覚の欠如から、香港や台湾といった課題を避け続けた(ジョン・ボルトン大統領補佐官の回顧録にも記述がみられたが、3月に出版されたワシントン・ポスト紙コラムニスト、ジョシュ・ロギン氏の著作でも、台湾等への大統領の無関心が詳述されている)。たしかに、前政権はコロナ禍後に悪化した米市民の対中感情を利用するように、きわめて広範に対中政策の規制を広げた(連載(10)を参照)。バイデン政権内での認識に齟齬は少なく、それらを概ね踏襲した上で政策対応が進むだろう。依然として、そういった姿勢をかき乱すような要因やプレイヤーが見当たらない。気候変動をはじめとしたグローバル課題での米中協力も、全体としての対中強硬の構えを崩すほどのインパクトは持ち得ないだろう。 

求められる日本の戦略的対応

それでは、米中対立が前提となる世界の到来は、果たして日本にいかなる意味をもつのだろうか。アメリカも中国も、輸出管理や金融市場への介入などが諸刃の剣となることは十分に自覚しつつ、しかし今後も緩やかであっても相手への依存を減らすように動くだろう。

バイデン政権は大統領令を出し、まずは半導体やバッテリー、希少資源、医薬品の四分野を中心にサプライチェーン見直しを行い、徐々に拡大する方針を打ち出している。大規模補助金にも議会は前向きだ。中国も輸出管理法を施行した。規制の「域外適用」や協力要請を前提にするかのような両国の政策には不透明・不確実なところも多く、ビジネスリスクを高めている。そもそも狭義の安全保障ではなく、自国企業の利益を含めた国家利益、産業政策の観点も見え隠れする。それでも、こういった状況を他国が反転させることはかなり難しい。

日本の対応だが、まず足下を固める必要がある。とりわけ、経済安全保障に新たな対応が求められる。それは守るべき技術や資産(不動産を含む)を特定し、日本に欠けている法基盤を整備することだ。技術に関しては、企業規模を問わず、存在する先端技術を省庁を越えて把握する体制が必要であり、大学も司令塔を設けたうえで、まずは技術の把握、体制の整備から始めるべきだろう。研究公正にあたっては、オープンサイエンスを推進し、研究者を萎縮させないことに十分な配慮が与えられたうえで、同時に外国政府からの影響排除が十分に意識されるべきだ。

また、今後先進国間では従来の枠組みにとらわれず、多くのルール形成、およびそれを遵守させるための国際枠組みが公開、非公開の形で立ち上がってくるだろう。それに肝となる技術と地政学的位置付けを持つ日本が呼ばれないことはない。そこでリードしていくためにも、国内法制度を先進国水準に整え、基本的考え方を戦略として政府内で固めておく必要がある(そこには人権規範や科学技術の流出防止のための制度が含まれる。また、たとえば国益の観点からどこまで各種データを国際的に開くかという論点もある)。国家安全保障局、及び関係各省の横断的な論議をまとめた上で、この問題が産業界や科学界にも影響が大きいという社会的性質を考え、広く基本的アプローチ、考え方を公開して欲しい。

安全保障課題の顕在化によって、科学技術研究や経済活動が冷戦期を思い起こさせるように徐々に安全保障と一体化していくことは避けようがないのかも知れない。それでも、私たちの社会は科学技術によって豊かになることを求めている。広く世界が前進できるために、包摂性を確保できるように、懸念なく交流や貿易ができる範囲の確保を想定して動いていくべきだろう。

そして安全保障政策全般をみても、権威主義が隆盛を誇り、民主主義の後退がみられる現状を認識することから始めなければならない。バイデン政権の戦略指針では、偽情報はじめ民主主義への外部からの挑戦について細かく記述していたが、果たしてどれほどの日本の政策担当者や有識者がこれまで、民主主義への挑戦という課題を安全保障政策の観点から理解していたのか。

先進国の団結は、ルール形成や人権規範を広げることに加え、中国による強制外交、すなわち貿易差し止めや人の移動の遮断といった手段を駆使する経済強要行為に立ち向かうためにも必要だ。またウイグル、香港、台湾という課題を正面から見据え、国際的団結と日本独自のアプローチを融合させていく、説得的な議論も必要だ。繰り返しになるが、先進国として当然備えるべき制度を整えることがその前提となる。

新しい戦略環境を前に、古い革袋にワインを注ぐようなアプローチでは対応できない。まさに国家的な戦略を見つめ直すのは、今しかない。

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2018年夏から3年近く、12本にわたって続けてきた本連載も今回で最終回となる。これまで本連載にお付き合い頂いた読者諸賢に感謝申し上げる。

 

  
 【連載記事】

アメリカと中国(10)トランプ政権末期の中国政策を振り返る(2021/1/26)
アメリカと中国(9)新型コロナウイルス感染症後に加速する米中対立の諸相 <下>(2020/6/4)
アメリカと中国(9)新型コロナウイルス感染症後に加速する米中対立の諸相 <上>(2020/5/29)
アメリカと中国(8) 新型コロナウイルス感染症と米中関係(2020/4/23)
アメリカと中国(7)スモール・ディールに終わった貿易協議後の米中関係(2019/12/17)
アメリカと中国(6)トランプ政権と台湾(2019/6/12)
アメリカと中国(5)一枚岩ではない対中強硬論(2019/4/26)
アメリカと中国(4)官・議会主導の規制強化と大統領の役割(2019/2/13)
アメリカと中国(3)書き換えられたプレイブック(2018/12/18)
アメリカと中国(2)圧力一辺倒になりつつあるアメリカの対中姿勢(2018/10/2)
アメリカと中国(1)悪化するアメリカの対中認識(2018/8/1)

佐橋 亮

  • 東京大学東洋文化研究所准教授