ライトハイザー米通商代表、中国・劉鶴副首相、ムニューシン米財務長官(2019年3月29日、北京)(写真提供 Kyodonews)

アメリカと中国(5)一枚岩ではない対中強硬論

東京大学東洋文化研究所准教授

佐橋 亮

 

本連載で繰り返し解説してきたように、この1年あまり、ワシントンにおいて中国をみる視線は一変した。ある著名な元政府高官は、九割にのぼる専門家が中国に対する従前のアプローチを否定している、と筆者に表現してみせたが、それもあながち誇張とは言えない。1970年代の米中接近後、アメリカの対中政策の基調にあった関与政策の土台は消失し、貿易赤字に加え、中国のパワーがアメリカを追い越すカウントダウンが始まっているとの恐れが、過去40年で最悪といわれる米中の緊張を生んでいる。

しかし政府の対中強硬政策に明確な司令塔はいないとみられる。貿易交渉ではトランプ大統領と通商代表部がリードするが、財務省、司法省、商務省もそれぞれが政策手段を駆使し、国防総省・米軍もインド太平洋戦略を描く。連邦議会の強硬派はウイグル問題はじめ一部の論題でさらに先を行く。中国には強硬に出て良いとの雰囲気がワシントンの街を覆い、それが各アクターを突き動かしている。

貿易交渉の先行きは不透明だが、米中関係が中長期的に安定を欠くであろうことは大方の予想の一致するところだ。米政府による対中規制を織り込んだ企業活動は徐々に増えるだろう。また中国から米国に入国する研究者や学生、米企業幹部の中国訪問が現在のように減少していけば、それもグローバリゼーションに影響を及ぼしていく。

とはいえ、強硬一辺倒にもみえたアメリカの対中強硬論には、その出口とアプローチを巡って少しずつ裂け目が見え始めている。もちろん、関与政策も、またはブッシュ政権期に唱えられた「責任ある利害関係者」論(中国は国際秩序において積極的役割を果たすとの期待)も否定されている。だが、対中強硬論に潜在していた温度差は次第に明確になってきた。これらの戦略観の違いがどのようにトランプ政権の政策に影響するかは未知数だが、この小論では余り知られていない、その違いを論じてみたい。

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ワシントンで若手中堅を代表する戦略家でもあるハル・ブランズとザック・クーパーは、対中戦略に4つの類型−宥和、集合的バランシング、包括的圧力、体制変革−がみられると整理している。これを手がかりにしてみよう。(Hal Brands and Zack Cooper, “After the Responsible Stakeholder, What? Debating America’s China Strategy,” Texas National Security Review, February, 2019.)

「宥和(accommodation)」は、アメリカの卓越したパワーが減退することを前提に、中国と二カ国間協力を通じて協力を深めていくべきであり、中国がさらに強大化する前に取引をすべきと考える。このような考えは、筆者の見立てでは『米中戦争前夜』を発表したグラハム・アリソン(ハーバード大学教授)など、著名な研究者に散見されるものだが、現在の政策論議では圧倒的少数派である。[1]

「集合的バランシング(collective balancing)[2]」は、包括的圧力と並び、現在の主流派を構成している。この戦略は、中国を現状の国際秩序に満足せず、修正しようという動機を持つが、同時にリスクを回避しようとする存在と把握する。それを踏まえ、地域諸国で連合を形成し、中国の行動を軟化(mellow)させることを目指す。つまり、中国の行動を変えることが依然として可能とみる。

「包括的圧力(comprehensive pressure)」は、そのような楽観を排する。すなわち、中国は修正主義であるだけでなく、リスクをいとわない。中国の成長が鈍化しない限り米国の地位は危うくなる一方であり、地域諸国は中国にからめ捕られていく。それゆえ中国が地域、そして世界の秩序を覆す前に、中国を弱体化(weaken)させるしかない。

集合的バランシングと包括的圧力は、ともに中国を国際秩序への挑戦者と見なしているが、対応策が全く異なる。たとえば1月29日に上院軍事委員会で行われたイーライ・ラトナー[3]による証言は、包括的圧力に近いニュアンスを持っていた。ラトナーは、米中は軍事・経済・技術・イデオロギーすべての面で地政学的に中長期的な競争に入っているが、米国は競争に負けつつあり、非リベラルな中国の影響圏がアジアを越えて広がっていると注意を喚起し、米国はそのような中国を防がなければ(prevent)ならないと提唱する。具体的には、軍事戦略の正面に中国を据えるべきというだけに留まらず、関税を越えた経済手段の行使、ウイグル人権政策法案の成立、中国市民への情報アクセスなど浸透手段の充実さえも挙げている。

ここで必要な理解は、ラトナーの次元まで踏み込む対中強硬派だけではないということだ。ラトナー証言は喝采を浴び、対中強硬論の典型として話題に上ったが、少し強硬に過ぎると眉をひそめる声も筆者はワシントンの方々で聴いた。彼らは関与政策への回帰や、宥和的な考えを持っているわけでは決してない。しかし、包括的圧力のような戦略観が想定する中国弱体化、切り離しの方向性をもつ政策は同盟国との連携を困難にし、米国に利益をもたらさないと考えているようだった。[4]

アメリカ進歩センター(CAP)のメラニー・ハートとケリー・マグサメンは、今月に対中政策の提言を発表しているが、そのアプローチは、米国の開放性を食い物にして成長する中国の動きを制約(limit)しつつ、援助政策などでは中国のパワーを適切な方向に仕向けることで協調し、そして米国自身が健全な経済政策と防衛戦略を立てることで競争力を高めていくべき、というものだった。(Melanie Hart and Kelly Magsamen, “Limit, Leverage, and Compete: A New Strategy on China” Center for American Progress, April, 2019.)

中国との競争を認めつつ、弱体化を否定し、米中協力の可能性を分野によって認めている点で、ラトナー氏の考えとは明確に線が引かれている。他にも、代表的な専門家から、同盟国との協調のためにバランスのとれた政策展開が必要という趣旨の提言はある。(Susan Shirk and Oliver Schell, “Course Correction: toward an effective and sustainable China policy,” Asia Society, February, 2019)なおラトナー氏は民主党政権の元高官であり、CAPも民主党系の組織だが、共和党関係者からも様々な対中戦略論を聞く。包括的圧力、集合的バランシングに近い考えは党派を問わず存在している、と理解した方が良い。

包括的圧力の考えは米国の覇権維持を絶対的な命題として捉え、集合的バランシングは国際社会のなかでルールと連合形成で中国を規律していくことを目指すといった点にアプローチの違いは根ざしている。

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さて、ブランズ&クーパーの対中戦略の第四類型は「体制変革」だ。この類型は極論にみえるが、最近近い考えが散見されるようになっているため注目を要する。

体制変革アプローチは、将来も中国共産党の支配が安定し、対外的影響力が伸長するのであれば、今のうちに、あらゆる手段を通じて体制を転覆するしかないと考える。米中の全面対決を強いるこのアプローチは「リアリズムではなくパニック」に根ざした戦略にもみえるが、「今やらなければ二度とできなくなる(now-or-never thinking)」という発想は米国で繰り返し登場してきたとブランズ&クーパーは述べる。

4月に設立大会が開かれた「目前に迫る危機委員会:中国(Committee on the Present Danger: China)」は、体制変革の理念型に近いといえる。モデルになっているのは、冷戦期に対ソ・デタント政策を批判した同名の委員会だ。彼らの公式ウェブサイトには綱領が掲げられている。そこでは、中国共産党はグローバルな覇権確立を目指しており、超大国として米国に対峙するのは自明であること、西側の民主主義に干渉していること、そして共産党支配が続く限り中国と共存する希望はなく、米国と「自由世界」を守る手を打たなければならないことが提唱されている。

創設メンバーには、スティーブ・バノン元首席戦略官に加え、米国政府の元情報関係者、シンクタンク関係者(Project 2049事務局長、AEIアジア部長)、キリスト教系NGO代表、コーク系リバタリアン団体などが含まれている。

また、最近の対中強硬論者には、台湾の地政学的重要性を全面的に認め、台湾政策を根本的に見直すべきと主張するものもいる。トランプ政権の中国・台湾政策は、現時点まで従来の「一つの中国」政策の範疇を超えておらず、中国政府の両岸政策が強硬化していることへの反発と、武器売却の推進という文脈で理解できる。しかし、大きな政策転換を志向する声が、少なくとも政府外にあり、それらのものは体制変革に近い戦略観をもっているようだ。

「目前に迫る危機委員会:中国」の関係者にせよ、台湾強硬派にせよ、彼らはトランプ政権の考えを代弁するわけではなく、まだ少数派だ。しかし、彼らは決して政権から遠い存在ではないところに、極論と片付けられない理由がある。

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現実の政策は、これらの類型や証言・提言とは異なり、政策形成過程の中で多角的な性格を持つものとして仕上がってくる。トランプ政権の政策展開をみるには、鍵となる政府高官や議会、省庁の動きをつぶさに観察しなければならない。しかし、政策の背景には戦略的思考が流れているものであり、今後の展開を推し量る上で、ブランズ&クーパーの4類型に基づいて戦略観を整理することは多くのヒントを与えてくれる。

たしかに、関与政策はすでに退場した。かつての「関与とヘッジ」という枠組みは、もはや米国の対中戦略を読み解く概念にはならない。しかし、対中強硬論と一括りにできないほど温度差があることも認めた方がよい。体制変革派はまだ少数だが明確に存在しており、集合的バランシングと包括的圧力の考え方が主流のなかでせめぎあっている。

またトランプ大統領やワシントンを超えた全米世論は、依然として経済的な視点から中国をみており、実のところ対中強硬論の土台も盤石とは言えない。そのため、ビジネス上の利益、同盟国の反応、大統領選の展開など複合的な要因により、人気を博す戦略観が左右に振れること、それが政策展開にも影響してくることを、私たちは想定しておくべきだろう。(Richard Bush and Ryan Haas, “The China debate is here to stay”, Brookings Institution, 4th of March, 2019.)

 


[1]  リアリストが米ソのデタントを認めたことに通じる。なお米中接近を演出し、長年関与派の重鎮であったヘンリー・キッシンジャー氏は、米中は「部分的協調」を求めるべきと語るなど、共存の道を探ることを時に提案している。Mark Lander, “Path to Confrontation,” The New York Times, 25th of November, 2018. 現在は圧倒的少数論だとしても、米国の知的コミュニティに存在する宥和論は決して軽視されるべきではない。米国の世界からの撤退、(対外行動・軍事予算の)抑制を重視する立場も、宥和の考えに理論的には共鳴する。

[2] バランシングとは国際政治学の用語であり、増大する他のパワーに対処するため、自国の軍拡に加え同盟を形成することで安全保障を得ようとすることを指す。

[3] ラトナー氏は、オバマ政権後期にバイデン副大統領の国家安全保障担当副補佐官を務め、現在は新アメリカ安全保障センターの上級副理事長。証言は以下からダウンロード可能。(https://www.cnas.org/publications/congressional-testimony/blunting-chinas-illiberal-order-the-vital-role-of-congress-in-u-s-strategic-competition-with-china)

[4] 包括的圧力に近い考えを持つ戦略家は、同盟国やパートナー国への配慮が過ぎればそれは戦略ではないと主張する。

 

【連載記事】

アメリカと中国(6)トランプ政権と台湾(2019/6/12)

アメリカと中国(4)官・議会主導の規制強化と大統領の役割(2019/4/26)

アメリカと中国(3)書き換えられたプレイブック(2018/12/18)

アメリカと中国(2)圧力一辺倒になりつつあるアメリカの対中姿勢(2018/10/2)

アメリカと中国(1)悪化するアメリカの対中認識(2018/8/1)

佐橋 亮

  • 東京大学東洋文化研究所准教授