2017年1月、南米エルサルバドルを訪問した蔡英文総統(写真提供:Getty Images)

トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(2)

 同志社大学法科大学院嘱託講師
村上政俊


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前回の論考---------------------------------------------------
 1.米中関係の台湾
 2.台湾旅行法(Taiwan Travel Act)と米要人の訪台
 3.軍事的な支援―(1)米海軍による台湾海峡航行
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3.軍事的な支援(続き)

(2)武器売却

トランプ政権は本年7月、台湾への武器売却を承認し連邦議会に通知した。この決定は、大阪での米中首脳会談で小康状態となったかにみえた米中関係が、やはり不安定なものであることを改めて示す格好となった。また後述する蔡英文台湾総統のニューヨーク立ち寄り直前だったことも、米国による中国牽制として注目を集めた。

内容面では、米軍も主力として採用しているM1A2戦車108両が含まれていたことに着目したい。これまでの武器売却は空軍、海軍が中心で、陸上戦力の梃入れが図られたのは、中国の台湾上陸の可能性が以前よりも高まっているという分析に基づくと考えられる。これに対して携行式防空ミサイル「スティンガー」は、中国軍上陸の前段階での迎撃を想定しての購入だろう。一方で台湾が求めていたF-16V戦闘機は、今回は持ち越された。

台湾への武器売却は、2018年12月に成立したアジア再保証推進法(Asia Reassurance Initiative Act, ARIA)[1]でも確認されたが、米台断交後のその法的根拠は、台湾関係法2条b項5号に求められる。トランプ政権下では、2017年6月、18年9月、本年4月に続き4回目の売却承認であり、オバマ政権下での3回を既に上回った。 

               表1 トランプ政権下での武器売却

17年 6月

高速対レーダーミサイル等、約14億ドル

18年 9月

戦闘機やC130輸送機の部品等、約3.3億ドル

19年 4月

戦闘機パイロットの訓練等、約5億ドル

   7月

M1A2戦車等、約22億ドル

なお台湾は潜水艦の自主建造も目指しており、2024年に進水、2025年に実戦配備するとの計画を蔡英文が本年4月にFacebookで公表している[2]。18年5月には米台の防衛関連企業による国防産業フォーラムが初めて台湾で開かれ、米ロッキード・マーティン社やレイセオン社などが参加している。 

(3)AIT警備

米国在台協会(American Institute in Taiwan, AIT)には警備のために米軍の人員が配置されているとかねてより言われていたが、今年4月、AIT報道官が2005年から陸・海・空・海兵隊の人員が駐在していることを認めた[3]。ただし依然としてその規模は明らかにはなっていない。外務職員法(Foreign Service Act, 1949年)を契機として、世界各国に所在する米国大使館がMarine Security Guardsによって警備されているという事実も、この問題を考える上では参考になるだろう。 

(4)その他の選択肢

台湾との関係強化おいて、米国は台湾への艦船の寄港というカードも持ち合わせているだろう。後述する国防授権法には、毎年実施されている演習である太平洋パートナーシップ(Pacific Partnership)の一環として、病院船の台湾への寄港の検討が盛り込まれている(同法1258条7項)。世界最大の病院船マーシー(Mercy)は昨年、スリランカ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、日本に寄港している。

2018年10月、米国の調査船Thomas G. Thompsonが高雄港に寄港している。同船はワシントン大学が運営しているが、所属はOffice of Naval Researchであってれっきとした海軍の一員だ。高雄のすぐ北には台湾海軍の左営軍港が控えている。中国側は、米海軍の艦船が台湾に寄港すれば反分裂国家法(Anti-Secession Law)に基いて武力行使に踏み切ると牽制している(2017年12月、李克新(Li Kexin) 在米中国大使館次席公使の発言[4])。

台湾が毎年実弾で実施する漢光(Han Kuang)演習への米国の参加を求める声もある。18年6月、上院で同演習への米軍の参加を国防長官に要請する法案が可決されている。 

4.アジア再保証推進法、国防授権法

先述のARIAは、上下両院を圧倒的な賛成多数で通過しており、超党派での強い支持が窺える。同法はインド太平洋を前面に押し出しており、日米印豪4カ国による安全保障対話促進も盛り込まれている(207条)。同法成立直前には高級事務レベルによるインド太平洋に関する協議がシンガポールで実施されている[5]

台湾については、台湾への関与(Commitment to Taiwan)と題する209条が設けられ、台湾への定期的な武器売却や台湾旅行法に則った米高官の訪台奨励が規定された。中でもレーガン大統領による6つの保証(Six Assurances)が確認されたことは注目に値するだろう。1982年8月に発せられた米中共同コミュニケ[6]では、台湾への武器売却を徐々に減少させるなどといった台湾側に有利ではない内容が盛り込まれたが、武器売却終了の期日を設けない等の6つの保証が同じくレーガン政権期に台湾に伝えられている。

また18年8月に成立した2019会計年度国防授権法[7]においても、1257、1258条で台湾関連の規定が設けられ、台湾関係法に基づく武器売却、台湾旅行法に基づく軍高官の往来、米病院船の台湾への寄港などが盛り込まれた。

中国については、環太平洋合同演習(RIMPAC、リムパック)からの排除が規定されている(1259条)。リムパックは2年に1度開催される世界最大規模の国際的な海軍合同演習であり、中国は14、16年と招待されていたが、国防省報道官によれば招待取り下げは、南シナ海の軍事化と直接的に関係があるという[8]。米中経済安全保障再検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission: USCC)の2017年度の年次報告書[9]では、台湾の同演習への参加が提案されている。 

5.台湾総統の訪米

本年7月、蔡英文はハイチ等カリブ海4カ国訪問の往路にニューヨークを訪問した。現地で開かれた歓迎会には、エンゲル下院外交委員長(民)ら5名の上下両院議員が出席している。また国交国の国連大使と面会して表立った外交活動を展開した。

コロンビア大学ではアンドリュー・ネイサン(Andrew Nathan)教授の司会で講演した[10]。香港での現状を引き合いに出し、「独裁体制と民主主義は共存できない(authoritarianism and democracy cannot coexist)」と述べて中国を批判した。また復路のデンバーではコリー・ガードナー(Cory Gardner)上院議員と会談した。

台湾総統の本格的な訪米を求める声が米側では上っている。本年2月、5名の共和党上院議員(ガードナー、マルコ・ルビオ(Marco Rubio)、トム・コットン(Tom Cotton)、テッド・クルーズ(Ted Cruz))が、ペロシ下院議長に対して連邦議会への招待と演説を求める書簡を発した[11]。またブッシュ(子)政権で国務省中国部長を務めたジョセフ・ボスコ(Joseph Bosco)も同様の主張を発表している[12]

米台断交後の台湾総統訪米としては、1995年、李登輝が母校コーネル大学を私的に訪問した例があるくらいだ。一方で台湾が正式な国交を持つ国が中南米などに多いことから、国交国訪問のついでに米国に立ち寄る機会が何度も設けられて来た。

蔡英文は17年1月、ホンジュラス、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドル(のちに断交)の4カ国を訪問した。往路ではヒューストンに立ち寄り、地元テキサス州選出のクルーズ上院議員と直接会談した他にマケイン上院議員と電話で会談し、帰路はサンフランシスコを経由したが、トランプ政権発足直前というタイミングでもあってか、比較的ローキーでのトランジットだった。

18年8月、パラグアイとベリーズへの訪問に併せてまずロサンゼルスに立ち寄った。台湾旅行法(TTA)が成立してから初めて米国本土に降り立ち、ロナルド・レーガン記念館でスピーチした。レセプションにはエド・ロイス(Ed Royce)下院外交委員長の姿もあった。また帰路にはヒューストンに立ち寄りアメリカ航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターを訪れている。

本年3月、大洋州の国交国であるパラオ、ナウル、マーシャル諸島の訪問の帰路にハワイに立ち寄り、ハワイ州緊急事態管理局(EMA)に立ち寄っている。またヘリテージ財団の会合にビデオ中継で参加した。 

               表2 蔡英文総統の「トランジット外交」

17年 1月

往路 ヒューストン 帰路 サンフランシスコ

18年 8月

往路 ロサンゼルス 帰路 ヒューストン

19年 3月

帰路 ハワイ

       7月

往路 ニューヨーク 帰路 デンバー

台湾旅行法の規定上は台湾総統の訪米も可能と考えられていることから、トランジットではない形式での訪問がもし実現すれば、現在の米中あるいは米台関係の枠組みを大きく揺るがすことになろう。 

6.台湾国交国の減少と米国の反応

台湾の国交国は、中国の外交攻勢によって別表の通り減少が続いている。 

               表3 蔡英文政権下で台湾が断交に追い込まれた国

16年12月

サントメ・プリンシペ(アフリカ)

17年 6月

パナマ(米州)

18年 5月

ドミニカ共和国(米州)(ドミニカ国とは別の国家)

 

ブルキナファソ(アフリカ)

      8月

エルサルバドル(米州)

中国と良好な関係だった馬英九政権下では外交休戦と称されて断交の動きが一時的に休止していたのとは対照的に、北京が快く思わない蔡英文政権が発足(16年5月)してからは圧力を加えるカードとして断交が使われている。国交国は現在17まで減少している。

北京の圧力によって台湾の国交国が減少していることに、米国は苛立ちを強めている。米国が自らの裏庭と捉える米州の国家が3つも含まれていることが大きく、ホワイトハウスはエルサルバドルに対して深刻な懸念(grave concern)を表明した[13]。18年9月、国務省はこれら3か国に駐在する大使らを呼び戻している[14]。現時点でも米州には9カ国[15]の台湾国交国が存在することから、これら諸国の動向に米国は今後とも神経を尖らせることになろう。 

7.今後の展開

本稿で指摘した通り、台湾との関係を進める上で米国側は手札をまだ豊富に持っているといえよう。それではこうした米台関係の深化はいったいどこまで進むのだろうか。シュライバー(Randall Schriver)国防次官補(インド太平洋担当)は、本年6月にヘリテージ財団で、台湾を通常の安全保障パートナーとして扱う可能性について言及しており[16]、台湾への武器売却が常態化すれば、米国の「一つの中国」政策が画している限界点とトランプ政権の動向がさらに近接することとなろう。

いずれにしても明らかなのは、台湾を核心的利益と位置付ける中国側にとって米台接近は悩みの種であり、米中関係の推移とトランプ政権の台湾政策はこれからも密接にリンクし続けるということだろう。連邦議会の動きにも注意を払いながら今後の展開を注視する必要がある。

 


[1] https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-bill/2736/text

なお同法の日本語による詳しい解説は、西住祐亮外国の立法【アメリカ】2018 年アジア安心供与イニシアチブ法」(国会図書館 調査及び立法考査局)2019年4月を参照。 

[2] https://m.facebook.com/tsaiingwen/photos/a.10151242056081065/10155745412751065/?type=3&source=48

[3] http://focustaiwan.tw/news/aipl/201904030014.aspx

[4] https://www.reuters.com/article/us-china-taiwan-usa/china-taiwan-spar-over-chinese-diplomats-invasion-threat-idUSKBN1E506A

[5] https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000293.html

[6] https://photos.state.gov/libraries/ait-taiwan/171414/ait-pages/817_e.pdf

[7] 全文はhttps://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515/textを参照

[8] https://dod.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1532246/department-of-defense-press-briefing-by-pentagon-chief-spokesperson-dana-w-whit/

[9] https://www.uscc.gov/sites/default/files/annual_reports/2017_Annual_Report_to_Congress.pdf

[10] https://english.president.gov.tw/News/5776

[11] https://www.gardner.senate.gov/imo/media/doc/Taiwan%20letter%2002.07.19.pdf

[12] Joseph Bosco, “Taiwan’s President Tsai should be invited to address Congress”, The Hill, January 1, 2019, https://thehill.com/opinion/international/425769-taiwans-president-tsai-should-be-invited-to-address-congress

[13] https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-press-secretary-el-salvador/

[14] https://sv.usembassy.gov/u-s-chiefs-of-mission-to-el-salvador-the-dominican-republic-and-panama-called-back-for-consultations/

[15] グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、パラグアイ、ベリーズ、ハイチ、セントクリストファー・ネービス、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島

[16] https://www.voanews.com/east-asia-pacific/us-moving-make-arms-sales-taiwan-more-routine

村上 政俊

  • 同志社大学法科大学院嘱託講師