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トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(1)
写真提供:GettyImages

トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(1)

June 26, 2019

 同志社大学法科大学院嘱託講師
村上政俊

 1.米中関係と台湾

トランプ政権は米中関係について”results-oriented(結果志向の)”という語をしばしば用いる[1]が、言葉とは裏腹に協調の結果よりも対立の激化の方が全世界の注目を集めている。これとは対照的に、関係深化の結果が表れているのが米台関係であり、その詳細を本稿で紹介したい。

本プロジェクトのメンバーである佐橋亮東大准教授が「アメリカと中国(6)トランプ政権と台湾」で指摘する通り、こうした米台関係の進展は「一つの中国」政策を根本的に踏み越えるものでは決してない。当選直後のトランプ大統領が蔡英文台湾総統と電話で直接通話したことで「一つの中国」政策の見直しに踏み出すのではという観測もあったが、その後トーンダウンしたのがよい例だろう。

一方で中国側が、米中関係の対立激化と並行して起こっている米台関係の深化に苛立ちを深めていることは間違いなさそうだ。習近平中国国家主席は本年1月、「台湾同胞に告げる書」[2]40周年にあたり演説し、一国二制度による統一と軍事オプションの不放棄を改めて宣言した。これに対して蔡英文は、翌日直ちに一国二制度を拒否している。逃亡犯条例を巡って本年6月に香港で発生した大規模デモをとってみても、中国側が固執する一国二制度が台湾世論にとって到底受け入られないものであることは明らかだろう。

なお習の演説が、米国でアジア再保証推進法(ARIA)が成立した直後だったという点からも、米台関係の進展と中国の焦燥の連関が見て取れる。習は演説で米国を念頭に、外部勢力の干渉への反対も表明した。

また軍事的に見逃せないのが、中台軍事バランスが大きく変化する中で、中国側が台湾海峡の中間線を初めて越えたことだろう。本年3月、中国空軍J-11(殲撃)戦闘機2機が中間線を越えて約10分間飛行した。台湾が主張する中間線を中国は認めていないものの、これまでは事実上の停戦ラインとして機能してきており、台湾側が設定する防空識別圏(ADIZ)とも重なる。米国からもボルトン大統領補佐官が即座にtwitterで中国の軍事的挑発を批判しているし[3]、後述の通り米海軍は台湾海峡でのプレゼンスを高めている。

確かに米中台のいずれもがこれまでの両岸関係の基本枠組みに踏みとどまっているものの、中国が新たな動きを見せ、米国は習近平中国が最も嫌がる台湾について手を打ち続けており、中長期的な変化の可能性を見据えながらの観察が必要となろう。

2.台湾旅行法(Taiwan Travel Act)と米要人の訪台

全3条から成る同法[4]は、米台政府高官の訪問を促進する目的で定められた。2018年3月の成立直後には、ウォン(Alex N. Wong)国務次官補代理(北朝鮮担当)が訪台している。同年6月にはロイス(Marie Royce)国務次官補(教育文化担当)が、台北市内湖区に完成した米国在台協会(American Institute in Taiwan, AIT)の新庁舎落成式に出席した。AITは米国側の窓口機関であり、米台に正式な国交がない状況下では事実上の大使館としての機能を担っている。

今後の注目点は閣僚訪台があるかどうかだろう。台湾旅行法1条には“Cabinet-level national security officials ”とわざわざ明記されている。本年3月には、ルビオ(共)、メネンデス(民)ら超党派16名の上院議員が、閣僚級の派遣をトランプ大統領に求める書簡を発した。

閣僚の訪台としては、前回はマッカーシー(Gina McCarthy)環境保護庁(EPA)長官が2014年4月に、前々回はスレーター(Rodney E. Slater)運輸長官が2000年6月に訪問している。日系人のシンセキ(Eric Ken Shinseki)退役軍人長官(当時)の訪問が取り沙汰されたこともあったが、実現には至らなかった。

その他には、信教の自由担当のブラウンバック(Samuel Dale Brownback)大使が本年3月に訪台[5]。1月の任期満了で政界を引退したライアン前下院議長は、台湾関係法(Taiwan Relations Act)40周年の記念行事のため、4月に訪台している。

3.軍事的な支援

(1)米海軍による台湾海峡航行

米海軍所属の艦船による台湾海峡航行は、別表の通り最近ではほぼ毎月実施されている(下線は米海軍以外の艦船)。

18年7月

駆逐艦マスティン(Mustin)、駆逐艦ベンフォールド(Benfold)

10月

駆逐艦カーティス・ウィルバー(Curtis Wilbur)、巡洋艦アンティータイム(Antietam)

11月

駆逐艦ストックデール(Stockdale)、補給艦ペコス(Pecos)

19年1月

駆逐艦マッキャンベル(McCampbell)、補給艦ウォルター・S・ディール(Walter S. Diehl)

2月

駆逐艦ステザム(Stethem)、貨物弾薬補給艦セザール・チャベス(Cesar Chavez)

3月

駆逐艦カーティス・ウィルバー、米沿岸警備隊所属バーソルフ(Bertholf)

4月

駆逐艦ステザム、駆逐艦ウィリアム・P・ローレンス(William P. Lawrence)

(参考) 4月

フランス海軍フリゲート艦ヴァンデミエール(Vendémiaire)

6月

カナダ海軍ハリファックス級フリゲート艦レジャイナ(Regina)、補給艦アステリックス(Asterix)

それぞれの航行は、18年11月であれば直後のブエノスアイレスでの米中首脳会談との、19年1月であれば直後のワシントンでの米中閣僚級協議(ライトハイザー通商代表、劉鶴副首相)との関係でも注目を集めた。

加えて、駆逐艦ウィリアム・P・ローレンスは2016年5月、ファイアリー・クロス礁の12海里以内において航行の自由作戦に従事している。同礁は1988年、中国がベトナムから奪取。2014年からは急速かつ大規模な埋め立てが進み、現在では約3,000メートルの滑走路や大型港湾が完成し、人工島の面積は約2.7平方キロメートルに達しており、中国側は名称を永暑「礁」から「島」に変更している。同艦の直近の動きで注目を集めたのは、本年5月、日米印比による合同演習への参加だろう。この4カ国による南シナ海での演習は初めてで、日本からは護衛艦いずもが参加した。

駆逐艦マスティンは18年3月にミスチーフ礁で同作戦を行った。同礁はフィリピンからの米軍撤退後の隙を狙い中国が1995年に奪取。同じく埋め立てで約2,600メートルの滑走路を完成させている。さらには、駆逐艦カーティス・ウィルバーが16年1月、駆逐艦ステザムが17年7月、巡洋艦アンティータムが18年5月に西沙諸島の12海里以内において航行の自由作戦に従事している。

以上の米海軍の活動は全て南シナ海においてであり、南シナ海問題と台湾海峡が軍事上密接に関係していることが改めて見て取れる。そもそも台湾は南シナ海において、東沙諸島に加えて最大の面積を誇る太平島(Itu Aba Island)を実効支配しており、南シナ海問題と密接な関係にある。与党民進党系のシンクタンクが、同島を米軍に貸与すべきという提案を行ったという報道もある[6]

なおアジア再保証推進法では、航行の自由作戦の定期的な実施が求められている(213条)。さらにはフランスやカナダも海軍艦船に台湾海峡を航行させて米国に同調する姿勢を示しており、日本や豪州といった他の同盟国も追随するのではないかという見方も出ている[7]

台湾海峡での海軍力誇示は、中国への極めて有効な牽制球であると米国は考えているようだ。米海軍制服組のトップであるリチャードソン(John M. Richardson)作戦部長(海軍大将)は、訪日中の本年1月、空母の台湾海峡航行も排除されないという考えを示した。なお同部長は東京訪問中に安倍晋三総理、河野太郎外務大臣を表敬している。1996年台湾海峡危機に際して、米国が空母インディペンデンスとニミッツを派遣したことは余りに有名だろう。近年中国は空母遼寧を建造し、たびたび台湾海峡を航行させている。

「トランプ政権下での米台関係の飛躍的な進展(2)」に続く】

 


[1] 例えば2018年11月開催の米中外交安全保障対話(閣僚級)で。https://www.state.gov/u-s-china-diplomatic-and-security-dialogue-3/

[2] 1979年1月、米中国交正常化に併せて発表された。当時の最高指導者は鄧小平。

[3] https://twitter.com/ambjohnbolton/status/1112818039102324736

[4] 全文はhttps://www.congress.gov/115/bills/hr535/BILLS-115hr535enr.pdfを参照。

[5] 訪問の詳細は村上政俊「ウイグルを巡る米中対立(2)――連邦議会での動き、トランプ外交におけるウイグル問題」(東京財団政策研究所ウェブサイト)2019年3月19日を参照。

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3050

[6] Duncan DeAeth, “Taiwan should invite US to open military base on Taiping Island, says DPP think-tank”, Taiwan News, June 4, 2018

https://www.taiwannews.com.tw/en/news/3448102

[7] Idrees Ali, Phil Stewart, “Exclusive: In rare move, French warship passes through Taiwan Strait”, Reuters, April 25, 2019

https://www.reuters.com/article/us-taiwan-france-warship-china-exclusive/exclusive-in-rare-move-french-warship-passes-through-taiwan-strait-idUSKCN1S10Q7

    • 皇學館大学准教授
    • 村上 政俊
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