2019年7月13日、シカゴで行われた移民関税執行局に対するデモ行進 (写真提供:GettyImages)

トランプ政権の移民政策:目を引く政策と着実な変化

首都大学東京法学部教授
梅川健

はじめに

トランプ大統領にとって、移民政策は中心的課題である。2017年就任直後の特定国からの入国禁止令、2018年の「不寛容(non-tolerance)」政策、2019年の「一斉摘発」などは、日本でも報道されている。他方で、トランプ政権はこれらの政策の背後で、目立たない形ではあるものの着実な政策変更を移民政策にもたらしている。トランプ政権の移民政策の特徴は、入口を狭め、出口に追いやるというものである。本稿では2018年以降の移民政策について概観する。 

2018年、「不寛容(zero-tolerance)」政策

201846日、司法長官ジェフ・セッションズは南部国境を管轄する連邦検察官に対して、すべての違法な入国者を起訴するよう指示した[1]。違法に国境を越えた者に対して例外なく起訴するという意味で、「不寛容」というわけである。この政策は、違法に国境を越える家族に別離をもたらすことになった。起訴を待つ親は留置されるものの、子どもは留置場には移送されず、別の政府機関が運用するシェルターに保護されるためである。親と子は別々の法的プロセスにのせられ、両者の再会は難しいものとなった。「不寛容」政策は、親子で南部国境を超えようとする家族に対するトランプ政権からの警告メッセージであった。

「不寛容」政策は長続きしなかった。親から引き離された子どものシェルターの状況が報道されると、政策への批判の声は政権が無視できないほどに高まった。617日に、メラニア・トランプ大統領夫人までも「不寛容」政策は受け入れられないと意見表明すると[2]620日、トランプ大統領は大統領令13841号によって、家族を別々にではなく、同じ場所に留置するよう命じた[3]。この大統領令が出されるまで、約2500名の子どもが親から引き離されたとされる。

20197月、移民関税執行局による一斉摘発

2019714日、不法移民の家族約2000人を対象に移民関税執行局(U.S. Immigration and Customs Enforcement: ICEとも略される)による一斉摘発が始まった。移民関税執行局は国土安全保障省の一部局であり、不法移民の摘発、強制送還などの業務を担っている。近年の強制送還数は図の通りであり、2017会計年度には約30万人が送還されている。年間30万人という数からすると、2000人の送還は数字の上ではインパクトは小さいが、アメリカでは大きく報じられた。送還の対象に特徴があったためである。ただし、大々的に報じたいメディアと、大々的に報じられたいトランプ政権との共鳴も生じていたとも考えられる。

なお、本稿の趣旨からは離れるが、オバマ政権による強制送還者数がジョージ・W・ブッシュ政権よりも多い傾向にあったという点も興味深い。

 

図:強制送還者数(会計年度毎)

(出典:Yearbook of Immigration Statistics 2008Yearbook of Immigration Statistics 2017より作成。)

トランプ政権は、2018年の「不寛容」政策が失敗した後にも、国境を違法に越えようとする家族に対する抑止の方法を模索していた。トランプ政権の移民政策アドバイザーであるスティーブン・ミラーは、国土安全保障省に対して、家族まとめての強制送還というプランを強く求めていた[4]。ここでの家族とは、近年中南米からやってきた家族であり、亡命申請中の家族も含んでいた[5]。国土安全保障省のスタッフによれば、この計画はアメリカが子連れの家族にさえ「タフである」ことを見せつけることが目的であった[6]

国土安全保障省では長官のキスルテン・ニールセンと移民関税執行局長代理ロナルド・ヴィティエッロがこのプランに反対し、20194月に職を追われた。一斉摘発の指揮は、ヴィティエッロ後任のマーク・モーガンが執ることになった。モーガンは、テレビでの対移民強硬派の発言がトランプ大統領に気に入られ、登用されたという[7]

しかしながら、トランプ政権による一斉摘発には困難が予想されている。不法移民取り締まりに協力的ではない「聖域都市」の存在と、市民社会からの反対のためである。連邦政府の機関である移民関税執行局は、不法移民と目される家族の逮捕に関して、州・地方政府の警察組織の協力を必要とするが、聖域都市の中には、真っ向から協力を拒むところもある。例えば、シカゴ市長のローリ・ライトフッドはシカゴ市警に対して、移民関税執行局に保持するデータベースへのアクセスを認めず、捜査にも協力しないよう命じている[8]

「聖域都市」の「聖域」とは、そもそも教会が亡命者を庇護するために、教会内を「聖域」と宣言したことに由来しているが[9]、移民関税執行局の一斉摘発に対しても、不法移民に「聖域」を提供する教会がでてきている[10]。移民関税執行局による摘発が今後どの程度進むか、注意深く見守る必要がある。 

着実な移民政策の変化

上述のような目立つ政策の背後で、トランプ政権は難民申請、亡命申請、強制送還手続きを変えることで、移民政策を着実に変更している。まず、難民申請についてトランプ政権はその受入数を削減している。2013から2015会計年度にかけての受入数は7万人、2016年度は85千人、2017年度は11万人だった(トランプが大統領就任後、5万人に削減)が、2018年度には45千人、2019年度には3万人と、現在の難民受入プログラムが始まって以来最低水準となっている[11]

次に、亡命申請についても制限を設けた。2019715日、司法省と国土安全保障省は南部国境を越えて入国した者による亡命申請を、その者が先に第三国で保護の申請をしていなければ認めないとする新しい規則を発表した[12]

最後に、トランプ政権は強制送還手続きを積極的に運用している。国土安全保障省はグリーン・カード申請手続きを変更し、申請書に不備がある場合に申請書をそのまま却下できるとした。申請が却下された場合、申請者は強制送還手続きにのることになる[13]

また、トランプ政権は、グリーン・カード申請者が、アメリカ国内でフードスタンプやメディケイドを利用している場合、公的な負担になるとして申請を却下するようになった。この場合も、申請者は強制送還手続きにのる[14]

あるいは、国土安全保障省の市民権・移民局(U.S. Citizenship and Immigration Service: USCISと略される)は、強制送還手続きの開始となる出廷通告書(Notice to Appear)の発行数を増やしている。この出廷通告書には不備も多く、日付が書かれていないものや間違っているものも散見されるという。しかし、そのような場合であっても出廷しなかったものとして強制送還手続きにのってしまう[15]。トランプ政権によるこれらの規則変更は、いずれも法律が大統領に与えた行政裁量の範囲内での変更という形をとっており、議会の協力がなくとも実現可能なものである。

トランプ政権はメディアの注目を集める政策だけでなく、目立たない形での政策変更を移民政策に加えており、注意が必要である。移民政策は、「誰がアメリカ人なのか」に対する政府からの回答であり、トランプ政権が国の形を変えようとしていることは明らかである。

 

 


[1] Department of Justice, “Attorney General Announces Zero-Tolerance Policy for Criminal Illegal Entry.” April 6, 2018. <https://www.justice.gov/opa/pr/attorney-general-announces-zero-tolerance-policy-criminal-illegal-entry>.

[2] Li Zhou, “Melania Trump “hates” family separations and puts the onus on “both sides” to fix it,” Vox, June 18, 2018. <https://www.vox.com/policy-and-politics/2018/6/18/17474536/melania-trump-statement-family-separations>.

[3] Donald Trump, “Executive order 13841: Affording Congress an Opportunity To Address Family Separation,” Federal Register, June 25, 2018, Vol. 83, No. 122. < https://www.federalregister.gov/documents/2018/06/25/2018-13696/affording-congress-an-opportunity-to-address-family-separation >.

[4] Nick Miroff and Maria Sacchetti, “Trump vows mass immigration arrests, removals of ‘millions of illegal aliens’ starting next week,” The Washington Post, June 17, 2019. < https://www.washingtonpost.com/immigration/trump-vows-mass-immigration-arrests-removals-of-millions-of-illegal-aliens-starting-next-week/2019/06/17/4e366f5e-916d-11e9-aadb-74e6b2b46f6a_story.html>.

[5] Caitlin Dickerson, Nick Corasaniti and Edgar Sandoval, “ICE Launches Raids Targeting Migrant Families,” The New York Times, July 14, 2019. < https://www.nytimes.com/2019/07/14/us/ice-immigration-raids.html>.

[6] Nick Miroff and Josh Dawsey, “Before Trump’s purge at DHS, top officials challenged plan for mass family arrests,” The Washington Post, May 13, 2019.

[7] Miroff and Sacchetti, “Trump vows mass immigration arrests, removals of ‘millions of illegal aliens’ starting next week,” The Washington Post, June 17, 2019. < https://www.washingtonpost.com/immigration/trump-vows-mass-immigration-arrests-removals-of-millions-of-illegal-aliens-starting-next-week/2019/06/17/4e366f5e-916d-11e9-aadb-74e6b2b46f6a_story.html>.

[8] Lori Lightfoot, “Why Chicago police will not assist ICE in its raids,” The Washington Post, July 14, 2019.

[9] 安岡正晴「トランプ政権と聖域都市 : 「不法移民」をめぐる連邦政府と州、地方政府の攻防」『神戸大学大学院国際文化学研究科紀要』48号(2017)<http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_81009893>

[10] Sophia Tareen, “Churches Jump into action with threat of immigration sweeps,” AP News, July 15, 2019. <https://www.apnews.com/e5d8464b18fc4c3e870d6e0a4bbf7490>.

[11] Sarah Pierce, “Immigration-related Policy Changes in the First Two Years of the Trump Administration,” Migration Policy Institute, 2019. <https://www.migrationpolicy.org/sites/default/files/publications/ImmigrationChangesTrumpAdministration-FinalWEB.pdf>.

[12] Nick Miroff, Arlis R. Hernandez and Kevin Seiff, “Trump administration moves to restrict asylum access, aiming to curb Central American migration,” The Washington Post, July 16. 2019. < https://www.washingtonpost.com/immigration/trump-administration-moves-to-restrict-asylum-access-aiming-to-curb-central-american-migration/2019/07/15/f3360576-a704-11e9-9214-246e594de5d5_story.html>.

[13] USCIS, “Issuance of Certain RFEs and NOIDs; Revisions to Adjudicator’s Field Manual (AFM) Chapter 10.5 (a), Chapter 10.5 (b), July 13, 2018. <https://www.uscis.gov/sites/default/files/USCIS/Laws/Memoranda/AFM_10_Standards_for_RFEs_and_NOIDs_FINAL2.pdf>.

[14] Peniel Ibe, “Trump's attacks on the legal immigration system explained,” American Friends Service Committee, July 8, 2019. <https://www.afsc.org/blogs/news-and-commentary/trumps-attacks-legal-immigration-system-explained>.

[15] Sarah Pierce, “Immigration-related Policy Changes in the First Two Years of the Trump Administration,” Migration Policy Institute, May 2019. < https://www.migrationpolicy.org/research/immigration-policy-changes-two-years-trump-administration>.


 

梅川 健

  • 首都大学東京法学部教授